第672話 審査中に新たな来訪者。久しぶりオリヒメさん。




 こうして大面接は2日間に及び、順調に消化していった。


 やはり前回より実力の高い者が多い。

 中には現Bランクギルド所属という人材もいたほどだ。

 しかし、俺は現在の所属ギルドや肩書きにはあまり興味はない。

 Bランク所属だろうが実力や職業ジョブが足りなければ落とす。

 それが俺の〈ダン活〉愛だ。


 だが、それだと問題もあった。

【闇錬金術師】など、一部の特殊な育成をする必要がある職業ジョブを目指している子たちだ。


 特に上級職込みで育成のスケジュールを練らなければならない子なんて自力で育成なんて不可能だ。この世界、生産職の上級職って居ないみたいだし、というかそもそも五段階目ツリーや六段階目ツリーの情報が無いだろうから。

 ああ教えたい。そして正しいルートに導いてあげたい。


 でも、正直ギルドに要るかと言えば、う~ん難しい所である。

 だが、せっかくだし、正しくない育成をするのは勿体ない。【闇錬金術師】ってそもそもこの学園では他に1人しかいないらしいし。

 だけど〈上級転職チケット〉がネックなんだよな~。【闇の魔女】、デバフは中々強いし、『闇錬金』でしか作れない装備やアイテムも、いや、これは順当に生産職で育成すれば問題ないか。このままだと生産職の【闇の魔女】になっちゃうんだよな~。むしろ育成方法を伝授したいまである。


 他にも入れたい子も多いな~。つい目移りしてしまう。


 面接が終わり、プロフィールの資料を見ながら俺は悩んでいた。


「ゼフィルス君悩んでるね~」


「ミサトも相談に乗ってくれよ」


「たははは~、ゼフィルス君はギルドマスターなんだから採用は全部ゼフィルス君が決めることだよ~。私は私の仕事、ちゃんとしたしね」


「おう、大面接の開催、ありがとうなミサト。お疲れ様」


「イエーイ」


 ミサトは今回もよくやってくれた。おかげで人材が豊作だー。

 労いを込めてお礼の言葉を贈るとやりきったぜーとばかりにピースしてきた。


 というわけでミサトにこれ以上負担を掛けるべきではない。

 色々面接やスカウトなど、駆け回ってくれたしな。

 おかげでずっと欲しかった【姫城主】と【深窓の令嬢】は仲間に出来る。

 ミサトには感謝しかない。


「ま、外部で育てれば良いんじゃ無い? 投資的な意味で」


「う~ん、それ囲ってるみたいでなんかな~」


 それでも相談に乗ってくれるミサト。ありがたいぜ。

 しかし、その提案、それっていいの? なんだか外聞が悪くない?

 キープはしたくないんだが。相手にも悪いし。本当に採用するかもわからないし。


「錬金ちゃんはそのくらいの扱いでも構わないと思うけれど。本人も喜ぶだろうし(ぼそ)」


「ん? すまん、よく聞き取れなかったんだが」


「ん~ん、なんでもな~い」


 まあ、見方を変えれば投資と捉えることも出来る。

〈上級転職チケット〉を投資か……。今はまだ無理だが、上級ダンジョンに進めば〈上級転職チケット〉のドロップは増えるし、ギルドだけじゃ使い切れなくなるだろうからありっちゃありだな。


「方向性は決まったようだね?」


「とりあえずな。そうなると、とりあえず4人は確定で入れたいな。後の4枠はポジションで決めるかな」


〈エデン〉のメンバーは、ポジション的にだいぶ偏っている。〈アークアルカディア〉なんかとんでもない事になってるな。

 ゲーム〈ダン活〉時代、操作できるのは親ギルドだけ、さらに大体が1パーティしか操作出来ないという事もあってギルドのポジションのバランスは重要性が薄かった。要はタンクは2人、ヒーラーも2人居れば問題無いから後はアタッカーね。という極端なギルドでも許された訳だ。


 下部組織ギルドなんて完全にオート探索だったから、ポジションなんて考えなくても良いまであって、完全に補欠、戦力外だけど脱退させたくないキャラのたまり場みたいになっていた。


 オート探索って凄くって、その偏ったパーティでどうやってボス倒したぁ!? というメンバーで素材を取ってきてしまうのでポジションを考えなくてもよかったんだ。もちろん失敗もある程度するけどな。


 しかし、ここはリアル。それではダメだ。下部組織ギルドにまでポジションのバランスが求められている。

 そして〈アークアルカディア〉の今のメンバーを見てみよう。


 セレスタン、アタッカー〈サブ・避けタンク・サポーター〉

 サチ、アタッカー

 エミ、魔法アタッカー〈サブ・ヒーラー〉

 ユウカ、遠距離アタッカー〈サブ・斥候〉

 ニーコ、サポーター

 アルル、生産

 カイリ、斥候


 まあ、見事に偏ってるな。そもそも戦闘職が4人しかいないし。全員メインはアタッカーだ。

 純粋なタンクがいないのでヘイト管理に不安があるし、回復が使えるエミも純粋なヒーラーではないのでパーティが崩れると立て直しが苦しい。


 つまりは純粋なタンクとヒーラーが欠如しているのだ。

 今は親ギルドである〈エデン〉メンバーと合同でダンジョンに行けるので問題無いだけだ。

 あれ? それって問題無いのでは?

 ……この辺もゲームの時と違うんだよなぁ。


 さて〈エデン〉のメンバーはというとどうか。


 ゼフィルス、オールマイティ

 ハンナ、生産〈サブ・魔法オールマイティ〉

 シエラ、タンク

 ラナ、ヒーラー〈サブ・バッファー、魔法アタッカー〉

 エステル、アタッカー

 カルア、アタッカー〈サブ・斥候〉

 リカ、タンク&アタッカー

 シェリア、魔法アタッカー

 ルル、デバッファー&アタッカー〈サブ・タンク〉

 シズ、アタッカー&サポーター〈サブ・斥候〉

 パメラ、アタッカー&避けタンク〈サブ・斥候〉

 リーナ、アタッカー&サポーター

 メルト、アタッカー〈サブ・魔法オールマイティ〉

 ミサト、ヒーラー〈サブ・魔法タンク〉

 アイギス、アタッカー

 ノエル、バッファー〈サブ・オールマイティ〉

 ラクリッテ、タンク&デバッファー

 レグラム、アタッカー

 タバサ、ヒーラー〈サブ・アタッカー、バッファー〉

 シャロン、タンク


 得意なメインだけを羅列すると、リカ、パメラをタンクにカウントしたとして、

 アタッカー9人、タンク5人、ヒーラー3人、オールマイティ1人、その他2人。

 と、こうなるな。リカもパメラもアタッカーにカウントするならタンクは3人しかいない。


 要はタンクとヒーラーが圧倒的に足りてないんだ。

〈エデン〉がBランクになれば上限30人の集団になる。下部組織ギルドは15人なので最大45人規模だ。大体8パーティくらい組むことになる。にもかかわらず現在のこのタンクとヒーラーの数よ。やべぇ。


 ここで8人採用すると現在〈エデン〉と〈アークアルカディア〉で35人、大体6パーティとなる。つまり最低でも後メインタンク3人、メインヒーラー3人は欲しいわけだ。


 中級ダンジョンではまだアタッカーのごり押しも出来たが、上級ダンジョンではマジでそうも言っていられない。戦闘時間が長引くため戦闘の安定化が重要だからだ。


 そんなギルド背景があり、今回はヒーラーとタンクをメインに採用するつもりだ。

 あとデバッファーも心許こころもとないのでサブで欲しいのだが、これは出来ればで構わない。

 それを加味して見ると、〈1年51組〉の学生も上級生も、うーむ悩ましい所。カテゴリー持ちってヒーラーが少ないんだよなぁ


 と、ラウンジで悩んでいるとノックの音が響いた。

 誰か来たらしい。


「は~い」


 アシスタントのミサトが対応する。


「あ、レグラム君。どうしたの? というかオリヒメちゃん、久しぶり~、夏祭り以来だね」


 そこまで聞こえた時点で俺も顔を向ける。

 ミサトに案内されてやってきたのは一組の男女だった。


「忙しいところに邪魔をしてすまないゼフィルス」


「こんにちはゼフィルスさん。お久しぶりです、というにはそれほど経っていませんけれども」


「レグラム、オリヒメさん、いらっしゃい」


 やってきたのはレグラム、そしてなんと驚き、夏休みでレグラムから紹介された婚約者のオリヒメさんだった。夏休みの時は桃色の浴衣にアップの髪でとても大人びた印象だったが、今は普通の学生服、ホワイトブロンドの髪も降ろして腰まであるストレートにしていた。

 この美男美女、凄く映える。


 しかし、レグラムには俺が今日ここで面接官をしていると言ってはあったが、オリヒメさんを連れてどうしたのだろうか? ここはデートに向かないと思うが。ということで聞いてみる。


「何か用があったと見受けるが……」


 特にオリヒメさんを連れてきた辺りが。

 俺の視線がオリヒメさんに向いたのに苦笑し、レグラムが言う。


「今日はゼフィルスに頼みがあってな。どうしてもゼフィルスに頼りたい」


「ほう」


 レグラムがここまで言うのだ。本当に重要なものなのだろう。

 自然と視線がオリヒメさんに向かうと、彼女も一礼して言う。以前のお茶目な雰囲気は鳴りを潜め、とても真剣な様子だった。


「ゼフィルスさんにお願いがあります。実は私、〈転職制度〉を利用したく思っています。私が就きたい職業ジョブは【人魚姫】。どうかゼフィルスさんにご教授願えないでしょうか?」


 それは、ヒーラー系の〈姫職〉。

 歌と音楽で味方を回復する、高位職、高の上に位置する優良職【人魚姫】。

 その発現条件クリアの協力願いだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る