第673話 〈ダン活〉風に言えば人魚はアイドルの一種。




 オリヒメさんのプロフィールを見てみよう。


〈ダンジョン支援専攻・回復課〉に所属する一年生で、現在の職業ジョブは【巫女】。


 タバサ先輩が就いていた下級職だ。

 ヒーラーであり、口寄せなどの召喚術を使うことの出来る優良職である。

 高位職、高の中ではあるがヒーラーなら十分すぎる性能を秘めているな。

 しかし、ヒーラーとしてさらに上を目指すのであれば高位職、高の上に位置する「男爵」カテゴリーの〈姫職〉、【人魚姫】になるのは間違っていない。だが、


「レグラム。現在すでに高位職に就いているのに別の高位職になるって〈転職制度〉的にありなのか?」


「調べたところ、専攻を転課するのであれば高位職から別の高位職になり〈転職制度〉を受けるのも有りらしい」


「はい。ちゃんと調べましたよ。そして私は、レグラム様と同じ〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉に転課したく思っていますの」


 なんと!

 それはちょっと驚いたぜ。いやまあ、確かに思い出すと高位職に〈転職〉すれば受けられるという制度だったから出来るのか。まあ転課するという条件は初耳だが。


 ここで〈ダンジョン支援専攻・回復課〉と〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉の違いを明示しておこうと思う。

〈戦闘課〉の方はお馴染みだな。ダンジョンの攻略をメインにし、パーティでの役回りからモンスターやボスとの戦闘方法、ドロップや特産についてなど色々なことを教えてくれる。


 それに対し〈回復課〉は〈ダンジョン支援専攻〉に分類される。〈支援専攻〉は主に地上、ダンジョン外での支援、サポートを行なう専攻である。

 例えば【宿主やどぬし】や【整体師】などの職業ジョブ、これは〈支援専攻〉だな。

 地上で疲労の回復までしてくれるので〈回復課〉に所属している者も居る。RPGお馴染みの宿屋に泊まれば全回復というアレだ。


 他には【医者】や【神官】などの医療系だな。運び込まれた戦闘不能者の復活からテイムモンスターの復活その他もろもろ行なってくれる。変り種では1回のダンジョン攻略中に〈呪い〉など一部の状態異常に掛からなくなる魔法を付与してくれる【厄払士】、なんて職業ジョブもある。


 また、〈救護委員会〉に所属し、戦闘不能になった者を運び出したり、応急処置したりする【ライフセイバー】や、ダンジョンを巡回し怪我人が居たら治療回復してくれるダンジョン回復屋の【メディカルキャラバン】なんて職業ジョブもあるぞ。後者は上級職だが。


 そしてオリヒメさんの【巫女】は〈戦闘課〉、〈回復課〉、どちらでも活躍できる優秀な職業ジョブである。どっちに所属するもその人次第だが、【人魚姫】はどちらかといえば〈戦闘課〉だ。【歌姫】のヒーラー版、と言ったほうがイメージしやすいだろうか?


 ちなみに【人魚姫】って職業ジョブなの? と思うかもしれないが、〈ダン活〉風に言わせてもらえれば【人魚姫】はアイドルの一種だ。だから立派な職業ジョブである。

 きっと開発陣の誰かが歌って踊れる人魚の姫が大好きだったに違いない、とまことしやかに囁かれていたな。おっと話が逸れた。


【人魚姫】はヒーラーをメインとして、割とオールマイティに何でも出来る職業ジョブで、バッファーとデバッファーとしても優秀だ。是非欲しい。


「だが……いいのか?」


 なんとも抽象的な聞き方になってしまった。だって仕方ない。俺的にはオリヒメさんは今でも何の問題もないんだもん。【巫女】って結構強職業ジョブだぞ?

 しかし、レグラムの弱った表情とは裏腹にオリヒメさんは満面の笑みで俺の言葉に頷いた。


「はい! 実は私、ずっと〈エデン〉の皆さまが羨ましかったのです」


「というと?」


「だってレグラム様ったら楽しそうにみなさんとのダンジョン攻略を語るんですもの。私羨ましくて、それにクラス対抗戦ではクラス一体になってあんなに楽しそうに……。ですから私も決めたのです! 転課してレグラム様と同じクラス、同じギルドになると! そのためにはSランクギルドのメンバーにふさわしいほどの実力を身につけようと!」


 お、おう。

 オリヒメさんの決意は固いらしいな。そこまでしてレグラムと一緒にいたいとは、レグラム愛されてるな。少し羨ましいぞ。本人は頭抱えそうにしているが。

 ちなみに〈転職制度〉を受けると〈新学年〉に配属されるため、一緒のクラスになれるのは来年からだな。


 しかしヒーラーが不足している〈エデン〉に回復の〈姫職〉が来てくれる、これはありがたい。レグラムの紹介だし、以前会ったことがあり知り合いというのも大きい。


 それに高の中である【巫女】を捨ててまで、高の上である【人魚姫】に就くという、妥協を許さない上昇志向のある姿勢が俺は好きだ。


「ゼフィルスさん、どうか私を〈エデン〉の末席に加えてはいただけないでしょうか?」


 そう言って軽く礼を取るオリヒメさんに、はいオーケーです! と喉まで出かかった、しかしそれをグッと呑み込む。それよりも先に確認しなくてはならない人がいるんだ。


「俺はありがたいが、レグラムはいいのか?」


 レグラムは先ほどから気が進まなそうな顔をしているのだ。

 オリヒメさんが〈エデン〉に入るのは反対なのか?


「いや、反対ではない。反対ではないが……〈エデン〉の女性陣とオリヒメを会わせてもいいものかどうか……」


 レグラムの視線がミサトに向いた。あ、察し。

 オリヒメさんは夏祭りの時すごかったからな。特に色恋沙汰方向に。

 レグラムとオリヒメさんのことを根掘り葉掘り聞かれるのは目に見えている。

 そしてオリヒメさんは進んで広めに行く性格だ。

 そのことを思うと気が重いのだろう。


「良いじゃないですの、私とレグラム様の仲を聞きたければ懇切丁寧に教えて広めてあげれば」


「いや、広めていいものではないぞ。頼むから少しは抑えてくれ」


「これはレグラム様に悪い虫を寄せ付けないために必要なことなのです」


 あのレグラムもオリヒメさんの前では形無しだな。

 ミサトがニヤニヤしているぞ。


「よし、それなら問題ないな(?)。オリヒメさん、早速【人魚姫】を発現させようじゃないか」


「さらっと言ったけど、やっぱりゼフィルス君はそれも知ってるんだね」


「はっはっは、秘密だぞ?」


「あいさー」


「ということでようこそ〈エデン〉へオリヒメさん、俺はオリヒメさんを歓迎する!」


「もちろん私も歓迎するよ~」


「ありがとうございます。まだまだ至らぬ点も多いですが、〈エデン〉のため、レグラム様のため、誠心誠意頑張らせていただきます」


「ぐぬ」


 ヒーラー枠が一つ埋まったな。

 レグラムがぐぬぅしているが、自分への愛のためと言われれば悪い気はしないのだろう。葛藤が見える。諦めてほしい。


 あと、オリヒメさんの面接とかしなくていいのか? と言われるかもしれないが問題は無い。

 だってレグラムの紹介だしな。レグラムだってただ婚約者からのわがままにギルドを振り回すはずがない。しっかり実力があるからこそオリヒメさんを推薦するのだと俺は分かっている。

 それに〈姫職〉というのも大きい。純ヒーラーの〈姫職〉はラナの【聖女】を抜かせば【人魚姫】だけだからな。ここで逃す手はないんだぜ!


 早速その日のうちにオリヒメさんには発現条件をクリアしてもらい、〈転職制度〉の条件も満たしてもらった。明日か明後日、一斉〈転職〉があるからその時に【人魚姫】に就いてほしい。


 これで残りは3枠。


 出来ればヒーラーをもう少し入れたいところだ。


 さてどうしようかなぁ。

 そこで思い出したことがあった。そういえば〈テンプルセイバー〉から受け取った物の中に〈天魔のぬいぐるみ〉があったことを。




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