第657話 激突、【先陣の姫武将】の切り崩し先陣切り!
【クルセイダー】男子はおそらくヒーラーを守るために遠距離攻撃を潰しにきたのだろう。〈白の玉座〉はこっちの手にあるのだ。警戒して警戒しすぎる事は無い。それに騎士は遠距離攻撃が苦手なので初手の対応策としては間違ってはいない。
いや、間違っているのかな? よくわかんなくなってきた。
ということで置物の【クルセイダー】はスルーして、その後ろを狙う。やっぱり間違いだったかもな。
「リカ、先陣を切れ!」
「任された!」
―――【先陣の姫武将】。
リカが新しく就いた上級職だ。
その名の通り、【先陣の姫武将】は先陣を切ることで能力の上がる
リカのパッシブスキル『先陣を切る武将』が発動し、全ステータスが1.2倍に上昇する。
集団戦において先陣というのは非常に大事なポジションだ。
先陣が崩されればパーティ全体が崩れる可能性があるため、ここの人選は非常に重要となる。
だからこそ基本はタンクが選ばれる。
だが、もし崩れないアタッカーだったらどうか? 相手の先陣を切り崩せるだけの武将ならどうか? 相手の先陣を切り崩し、自分は崩れない人材であればそれだけ勝利が近くなる。
【先陣の姫武将】はまさにそれに特化した
先頭へ出るのはリカ。
相手の先陣は大盾に大剣を装備した騎士。普通大剣は片手で装備できない。
それを片手で装備していることから相手の
「【テンプルナイト】ですね」
アイギスが俺の横を並走しながら呟いた。
本来の先陣は【クルセイダー】の彼だが、俺たちは完全スルーしているので次に登場するのが本当の先陣だ。物理に強く、さらに攻防のバランスが良い【テンプルナイト】を前に出してきたか。
その後ろには【闇落ち騎士】と【聖騎士】が控え、さらに後ろにレナンドル先輩が控えているのが確認できる。
【テンプルナイト】が止めたら一気に
しかし、【テンプルナイト】で【先陣の姫武将】を抑えられるかな?
「覚悟! 切り崩せ――『二刀斬・
初手、リカの直線範囲攻撃の『二刀斬・炎紅刀華』。
四段階目ツリーにて範囲攻撃が可能になったリカが、〈火属性〉を纏った巨大な太刀を顕現させて上空から叩きつけたのだ。
どう見ても刃渡りだけで10メートルはありそうな巨大な二本の太刀が叩っ斬るとばかりに降る光景は、受ける側からすればとんでもない光景に映るだろうな。
この攻撃はまさに相手の集団を切り崩す攻撃。
リカはタンクもアタッカーも出来るが、範囲攻撃が加わったことによって敵のタンクだけではなく、その後ろまで攻撃することが可能となっていた。
そう、リカの狙いは【テンプルナイト】ではなくその後方にいるアタッカーたちだ。
「『テンプルガード』! フン!!」
しかし、それを【テンプルナイト】の彼は冷静に馬上から大盾を上に構えることで巨大な不可視の盾を張り、受ける。場数の差か、リカの攻撃に少しの動揺も見られない。
リカの攻撃は物理近中距離系。【クルセイダー】の彼によって吸引される遠距離攻撃ではないが、その代わりにこうして一部が止められてしまうと太刀全体が止められてしまう。
後方も巻き込むリカの『二刀斬・炎紅刀華』は残念ながら止められてしまった。
しかし、これでいい。
リカは攻撃を放った直後からさらに距離を詰め、刀が届く距離にまで接近していた。
「この! 『大風剣』!」
盾を上に構えていた状態の【テンプルナイト】の彼はそれに気が付いて大剣で迎撃する。
だがそれは悪手だ。
「『切り払い』!」
「くっ!」
リカの払う系防御スキル、これによってあっさりと大剣は流されてしまう。
だが、【テンプルナイト】の彼は盾を構える時間稼ぎがしたかっただけのようなので目的は達成したと言える。
馬を操り、大盾をリカに構え防御の構えを取る。〈馬〉にも馬鎧が着せてあり、一見隙なんて無い様に見えた。
リカが刀を振りかぶる動作をして接近すると対応するように【テンプルナイト】の彼も防御スキルを発動した。だが、それはリカの思い通りの展開だ。
「『人馬堅固』!」
「『一刀斬・
相手が防御スキルを使った瞬間、リカのスキルが炸裂。
これは防御スキル崩し。防御破壊。
「――ぐあ!?」
相手が防御スキルを発動中に『一刀斬・
アクションゲームによくある防御破壊である。
近距離でしか発動は出来ず、攻撃もワンテンポ遅いスキルだが、防御スキルを破壊できるというのは大きく有用だ。
リカは攻撃をするという動作で相手から防御スキルを引き出したのだ。
全ては狙い通り、リカの防御破壊が完璧に決まった。
しかもこれが成功すると軽くノックバックするというのも重要だ。
軽くなので、本当に一歩下がる程度の軽い時間しかないこの瞬間、しかし俺たち〈ダン活〉プレイヤーからすれば活かさないはずが無い。
「『抜刀術・閃光』!」
「!!」
リカから放たれた、目に見えないほどの速い斬撃が【テンプルナイト】の彼を斬る。
ノックバック中に少なくないダメージを受けるとダウンする。
【テンプルナイト】の彼は、ノックバックされた隙を突かれ、リカに斬られてダウンしてしまうのだった。
その表情は信じられないとでも言うような驚愕に染まっている。
見事な攻撃の流れだった。
リカにはこの瞬間に何をすべきかを伝授してあった。
防御破壊の『一刀斬・
一度刀を抜いてからスキルを発動して斬るでは遅い。相手の軽いノックバック期間が終わってしまい相手に対抗させる時間を与えてしまう。
故にここで選択するのは抜刀系。
『抜刀術・閃光』は抜刀した速度で相手を斬る攻撃スキルだ。
そのスピードはとんでもなく速い。見てから対処するではまず間に合わない。
その代わり抜刀なので一度鞘に刀を戻さなくてはならないために手間がかかるのと、威力としては少し物足りない形となっている。速さ特化の攻撃スキルだ。
しかし、それでいい。このスキルは攻撃スキルであるが攻撃用ではない。相手の小さなノックバックを逃さないダウン用スキルだ。
むしろ『一刀斬・
リカには『一刀斬・
防御破壊からのダウンコンボだ。
まさに相手の先陣を切り崩す最高のコンボである。
「な!」
「ここで決める! 『二刀斬・
リカのコンボは止まらんぞ?
タンクのダウンを取ったのだ。
むしろここからが本番だろ。
リカは〈氷属性〉の扇形範囲攻撃を発動する。
二刀の刀を重ねるようにして合わせると、顕現するのは巨大な氷の太刀だ。
それを横薙ぎに振るう。
ヒーラーには届かないが、レナンドル先輩には届く大きな太刀だ。ダウンしている【テンプルナイト】の彼ごと巻き込む強力な範囲攻撃。
――集団を、切り崩す。
「『ホーリーシ――がはっ!?」
真っ先に命中したのは下級職【聖騎士】の男子。
防御スキルを発動しようとしたらしいが、リカの行動が速過ぎて対処が間に合わなかった。リカの攻撃は予め決めてあった行動だ。考える時間を省き、最初からこれを発動したら次はこれ、とプロセスを決めていたためにロス無しでコンボに移れるのだ。
【テンプルナイト】の彼が叩き潰されたショックを受けていてはまず間に合わないだろう。
「ぐおおおお」
続いてダウンしていた【テンプルナイト】の彼が巻き込まれ、その次はレナンドル先輩。
しかしさすがはギルドマスター。
「『槍流し』! はああああああああ!」
槍系を使った防御スキルで横薙ぎに迫る大太刀を真上に流してしまった。
「行け!」
「『ブラッディスラッシャア』!」
「そっちだけ遠距離攻撃が使えるってのもずるいんだよな。――『ディフェンス』!」
攻撃を逸らしたレナンドル先輩の指示で【闇落ち騎士】が血染めの飛ぶ斬撃を俺たちに放ってくるが、俺が防御スキルで弾く。
「回復せよ!」
「『ホーリーヒーリング』!」
「『エリアヒール』!」
レナンドル先輩の指示が飛び、〈テンプルセイバー〉のヒーラーが吹き飛んだ【テンプルナイト】と【聖騎士】を回復させる。
やはり最初はヒーラーから屠らないとな。
リカが見事に先陣を切り崩した今がチャンス。ヒーラーを狙うぞ!
「前に出るぞ!」
「俺が前に出る!」
俺の叫びとレナンドル先輩の声が重なった。
リカと俺が前に出ると、レナンドル先輩が自ら前に出てきた。
煌びやかな白の馬鎧を着た〈馬〉に跨るレナンドル先輩、その槍がまだ距離が離れているにも関わらず光る。スキルアクション。これは――!
「!! リカ、全力防御だ!」
そのスキルアクション、俺は見覚えがあった。
もちろんゲーム〈ダン活〉でだ。忘れるはずも無い。
それは【一騎当千】の
「『
数十、数百の突きの嵐が俺とリカを襲った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます