第655話 意外すぎる戦法。ゼフィルスは待ちの姿勢。




「思ったより堅実だな」


「そうですね」


 現在中盤戦、最後の巨城が落ちてから10分が経過していた。

 10分である。何かを仕掛けるとすれば十分すぎる時間だ。


 しかし、〈テンプルセイバー〉は何も仕掛けてこなかった。

 それどころか堅実すぎるマス取りでしっかり小城有利を取ってきている。

 意外すぎる戦法だ。


「アイギスが所属していたころは中盤戦は対人戦でガンガン行こうぜなスタイルだったんだろう?」


「はい。こうして小城マスを取りに行くのは、ちょっと記憶にありません」


 聞くと現在俺とツーマンセルを組んでいるアイギスが困ったようにこちらを向いた。


 序盤戦が終わって中盤戦はマス取りの時間だ。俺たちは〈中央東巨城〉を落とした後、再びツーマンセルを組んで小城の確保に向かっていた。今回の相棒はパメラと交代してアイギスだ。

 そして俺たちの担当は南側。いつでも〈テンプルセイバー〉の行動が見られる箇所だった。


 俺の隣を〈馬〉のダンディ君に乗って走るアイギスは、本当に今までの〈テンプルセイバー〉の動きと違いすぎて困惑しているように見える。


「まあ、さもありなん、か。〈白の玉座〉が無くなったからな。戦術を大きく変えなくちゃいけなかったんだろうな」


 俺でも主軸が居なくなったら戦法を変える。〈テンプルセイバー〉の戦法はおかしくはない。むしろすごく真っ当と言えるものだった。

 真っ当すぎて意外だとはこれいかに?


「それでも戦闘を仕掛けてくると思っていたのですが」


「ヒーラーを3人も加えていればな」


 しかし、俺から言わせてもらえれば〈15人戦〉でヒーラー3人は過剰だと思う。

 ラナやミサトみたいな高位職で、他のポジションを兼任できるヒーラーならともかく、純ヒーラーを3人も入れたらバランスが悪いだろう。

 戦闘メンバーを圧縮してしまう。ポイントにも響く。普通ならば。


 しかし〈テンプルセイバー〉はそれを驚異の12人騎士というゲーム〈ダン活〉では不可能だった戦法で補っていた。

 現在のポイントは〈『白9640P』対『赤6160P』〉〈ポイント差:3,480P〉。


 徐々に差が縮まってきている。

 小城マスの確保で負けているのだ。

 正直、小城マス確保で負けるのは最近経験が無いため驚いていたりする。


 騎士が多いと足が速くて羨ましいな!

 やっべぇ、ドリームだわぁ。

 ゲーム〈ダン活〉時代はあり得なかったドリーム戦法だわぁ。


 こっちはリーナを小城マス確保に参加させず、初動が終わった時点で本拠地に戻しているので実質14人、7チームに分けての取得。相手も同じ条件であれば足の速いほうがポイント数が上になるのは道理だ。


 これでも〈エデン〉はリーナの指示で効率よくマスを確保しているんだけどな。

 それでも縮まらない、逆に少しずつではあるがマスの差が広がっていく。さすがは元Aランクギルドだ。序盤にエステルたちが1人を退場させておいてこのポイント差。

 騎士オンリーギルドがどれだけ強いのかが分かるぜ。


「向こうも成長している、ということでしょうか?」


「だな。正直、良い戦法だと思うぞ俺は。騎士ギルドの本領を発揮していると言って良い」


 俺がそう答えるとアイギスは複雑そうな表情で〈テンプルセイバー〉を見る。

 うむ、〈白の玉座〉が無くなり、ランクは落ち、頼っていたハズのタバサ先輩まで抜けるとあってやっと気がついたのか、とでも思っていそうだ。


 しかし、すぐに切り替えたのか再度俺に問うてくる。


「ゼフィルスさん。私たちはどう動きますか?」


 相手が動かない。

 俺たちは最初、これまでの〈テンプルセイバー〉の戦績から対人戦を仕掛けてくるものと思っていた。それが〈テンプルセイバー〉の十八番であり、それ以外の戦法をしていなかったからだ。


 だからこそ、俺たちはいつでも相手の手を潰せる位置に付いていたわけだが、どうやら今回だけは違うやりかたらしい。

〈テンプルセイバー〉は後が無いのだ。そりゃあ違うやり方にもなるだろう。


 ちなみにこれまでの〈テンプルセイバー〉の記録は〈調査課3年生〉のユミキ先輩経由で入手していた。さすがに初の上位ギルドが相手だからな、データ収集も頼んだのだが、あの人凄いな。たった数日で分厚い資料をポンと用意してしまったんだ。まあQPはそれなりに掛かったが必要経費だろう。


 ということで、〈テンプルセイバー〉のやり方が変わったのであれば俺たちも今後の動きを決めなければならない。


「『ゼフィルスさん、聞こえますか?』」


「お、ちょうど良かった。リーナから通信だ。――聞こえてるぞ」


 アイギスに断りを入れてリーナとの話に集中する。


「『〈テンプルセイバー〉ですが、こちらからは怪しい動きが観測できなくて、何度か少数が合流してやり取りはしていたようなのですが、ゼフィルスさんの方はいかがですの?』」


「こっちもだ。団体で集まる、もしくは攻勢を仕掛ける素振りは無いな。堅実に小城有利を取ってきている。アイギスもこんな戦法を取ってくるなんて初めてだって言ってるぞ」


「『攻勢を仕掛けてくると思っていたのですが、予想が外れましたわね』」


 リーナも同意見のようだ。


「巨城が4つ先取されているこの状況では小城有利を取っておきたいだろうな。俺ならどこかのタイミングで巨城を狙うな。ちょい残しだ」


 以前〈アークアルカディア〉がEランク試験の時に披露した巨城ちょい残し戦法。

 あれをしてくると一気に嫌らしくなる。

 防衛に援軍を派遣して阻止しなければならない。


「『ですわね。ではそこを叩きましょう』」


「巨城を狙ってくるとすれば、注意するべきは〈中央東巨城〉〈北西巨城〉〈南東巨城〉の3つだな。作戦通りの配置で行こう。それまでは俺たちもマス取りだな」


「『はい。こちらで攻勢の動きを掴んだら通信を入れますわ。では』」


「頼む」


 リーナとの通信を終える。やっぱ相互通信できるっていいわぁ。

『ギルドコネクト』、ゲームの時は目立たなかったがリアルではすごい恩恵に化けたなこのスキル! 


 アイギスが聞きたそうな顔をしていたので今の話を共有する。


「では巨城を削りに来たところで対人を仕掛けるのですね?」


「もしくはインターセプトだな。俺なら〈北東巨城〉以外の3つを狙う」


「? なぜ〈北東巨城〉は狙われないのですか?」


「位置が悪いからだな」


 対人以外で狙われるとすれば巨城。現在〈テンプルセイバー〉はポイントで負けているのだから絶対どこかのタイミングで取りに来る。

 俺ならタイムアップの2分前を狙うが、それまでに簡単に落とせるよう巨城をちょい残しまで削っておく。今回の状況ではこれがベストだろう。

 残り2分というのはデッドヒート、相手の動きも抑えたい、巨城も落としたいという全員が奮起する場面だ。時間を掛けて巨城を落としている暇なんて無い。


 だが、〈北東巨城〉だけはちょい残しに不向きだ。

 あそこは観客席が障害物として建っているせいで一本道。

 つまり道が封鎖されやすい。立ち塞がられたら終わりだ。取るならタイムアップ間近だな。


 そうアイギスに伝えた。


「なるほど。では私たちは?」


「ああ。近いのは〈中央東巨城〉か〈南東巨城〉。この周囲のマスを取りつつ相手が来たら対応。仲間と即合流して敵をインターセプトしつつ討ち取る!」


「はい!」


 これで作戦は決まった。今頃リーナが西でマス取りしている誰かに〈中央西巨城〉のちょい残しを依頼していることだろう。

 相手は小城有利を確保しつつ巨城を削りたいハズだ。

 巨城に時間を掛ければその分小城を獲得する時間は減る。

 さて、どう攻めてくるかな?


 そして、それからさらに10分後。

〈テンプルセイバー〉が動く。狙いは〈南東巨城〉。俺たちの近くにある巨城だ。

 さあ、対人戦の始まりだ。




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