第654話 〈テンプルセイバー〉、予想外の有利?
全ての巨城が落ちて中盤。
ポイント〈『白8900P』対『赤5260P』〉〈ポイント差:3,640P〉。
〈巨城保有:白4城・赤2城〉
〈残り時間47分33秒〉〈残り人数:白15人・赤14人〉
序盤、巨城を最も多く取ったのは、やはり〈エデン〉だった。
巨城はそれぞれ白の〈エデン〉チームが〈北西巨城〉〈北東巨城〉〈南東巨城〉〈中央東巨城〉を獲得し、赤の〈テンプルセイバー〉が〈南西巨城〉と〈中央西巨城〉を確保した形だ。
この〈12つ星〉フィールドは各所で対人戦が起こりやすく、すでに対人戦が起こりにくい序盤で戦闘が発生、赤チームから1名退場者が出ていた。
なお、〈決闘戦〉に敗者復活ルールは無い。
〈城取り〉の中盤戦では小城マスの取り合いとなる。
マスを取り、ポイントで有利を勝ち取りつつ。必殺の間合いを計る中盤戦。
ここで有利を取ったのは〈テンプルセイバー〉だった。
〈テンプルセイバー〉のメンバーはほとんどが騎士で統一されている。というよりヒーラー以外全員が騎士だ。
故に〈馬〉に騎乗する事が可能。【騎士】系の
騎乗スキルは非常に強い。
装備のアクセサリー枠を2つ使う事で騎乗することが出来る能力。乗る物によって効果は違えど、〈馬〉は移動速度を大きく底上げしてくれる能力を持っている。
攻防が優秀な騎士にさらに速さまで加わるのだ。さすがカテゴリー
そして〈テンプルセイバー〉はこの『騎乗』スキルを十全に使用し、騎士全員が〈馬〉に騎乗する事でスピードが重要なギルドバトルでマス取りを有利に運ぶことが可能となっていた。
つまりは小城マス確保では〈エデン〉よりも〈テンプルセイバー〉の方が速く、やや有利となっている。
しかし〈テンプルセイバー〉側は、自身のことなのにもかかわらずこの結果に驚きを隠せなかった。
「まさか、小城有利を取れるとは」
「どうしますかレナンドル」
思わず唸るレナンドルにツーマンセルを組んでいた女騎士のルーシェが問うた。
それは、〈エデン〉へ対人戦を挑むのか、それともこのまま小城マスを取り続けるのか問うものだった。
実を言うと〈テンプルセイバー〉にはこうして小城マスを確保していき、小城有利に展開を運ぶことにあまり経験が無かった。いや、皆無と言っていい。
〈テンプルセイバー〉の
つまり〈テンプルセイバー〉はこれまで、序盤戦が終わったら小城マス有利など考えずに対人戦を仕掛ける、もしくは仕掛けられることしかしていなかったのだ。多少のポイントの有利不利なんて対人戦でどうとでもなるというのが〈テンプルセイバー〉の考え方だった。
また、対人戦は保護期間がネックになる。保護期間は相手のマスか空白マスを取った時に発生するものなので、敢えてマスを取らずに突き進むのが〈テンプルセイバー〉のやり方だった。そうすると相手は徐々に保護期間を張れるマスが減少していき、最後は対人戦を余儀なくされてしまう。
つまり小城を取らないほうが対人戦がやりやすいのである。小城ポイントを犠牲にして対人戦を取っていた形だ。
ちなみに対人は別に隣接に自陣マスが無くても仕掛けることが可能だ。
しかしだ。前回、前々回の反省を活かし、これまでの突撃戦法を改めた〈テンプルセイバー〉は、初めて騎士全てのメンバーが『騎乗』しているという真の価値に気がついていた。
〈テンプルセイバー〉だって脳筋では無い(多分)
ちゃんと〈エデン〉の情報も多少は入手している。
それによれば、〈エデン〉は過去、一度も小城マス有利を明け渡したことが無い事で有名だったのだ。あくまで下級生の間では、となるが、あのベテランのDランク試験官ギルド〈花の閃華〉ですら小城有利は取れなかったというのだから相当な腕前のハズだ。
その〈エデン〉を相手にし、小城マス有利を取っているこの状況。
わざわざ寄り道をして小城マス有利を明け渡して良いものか、ギルドマスターに指示を仰いだ形になる。
「……続行だ。このまま小城マスの有利を確保し続けよう。巨城は残念ながら4つを向こうに取られたが、小城マスが有利なら巨城を狙うことで勝利を掴める可能性が高い」
「良い判断かと思いますよ」
レナンドルが判断したのは対人戦ではなく、小城マスの有利を掴む戦法だ。
小城マス有利は〈城取り〉に取って非常に重要なファクター。
巨城の数が偶数なために小城のポイントで勝負が付くことが多いのだ。
〈キングアブソリュート〉や〈千剣フラカル〉など、小城マスを重要視しているギルドは多い。
人数は〈テンプルセイバー〉が不利ではあるが、それを補って余りあるスピードが彼らにはあった。このまま小城のマス取りを続ける形に舵を取ることにした。
しかし問題もある。
今まで〈テンプルセイバー〉は対人をメインに戦い、小城マスと巨城、所謂ポイントの駆け引きをほとんどしてこなかったのだ。
だからこそ、小城マス有利の後、どうすれば勝利に繋がるかの道筋がよく描けない。
だからこそレナンドルはたらりと流れる汗を拭ってルーシェに問う。
「これからどうすれば良いと思う?」
「はい?」
ルーシェは聞き間違いかと思わず聞き返してしまう。
レナンドルギルドマスターはタバサとの摩擦の原因を作った一人。
メンバーに相談事をしない傾向が強かった。それがこの一戦、絶対に負けられない戦いの中で変わりつつあったのだ。
「すまない。この戦法はあまり経験が無い。ここからどうすれば勝てるのか相談したいのだ」
「…………」
ルーシェは目をパチパチさせた。まさかレナンドルからそんな言葉が出てくるとは予想外だったのだ。
「ルーシェ?」
「いえ、はい。聞いています」
「ああ。巨城はどこを狙い、どの時間に落とすのが有効か。タイミングはいつが良いのか。正直なところ俺には判断が難しい、ルーシェの意見を聞きたい」
「…………」
弱音とも取れる発言。
しかし、それ以上に相談して貰えたことにルーシェは不思議な感覚を覚えていた。
なんとか応えてあげたいとルーシェは思考を巡らせる。
もちろん小城を取る手は休めない。
「まずはこうして小城を取得し続けるで良いかと。相手は対人も強い〈エデン〉です。1年生とは思えないほどの強豪ギルドで、上級職も複数人、クラス対抗戦で確認されています。さらに先ほどからこちらの出方を窺う様子が見られます。今攻めるのは得策ではありません」
「同意見だ。ではいつもやっている本拠地攻撃はどうする? 狙えるか?」
本拠地を落とせば相手の確保している巨城を全て手に入れる事が可能。
この〈城取り〉で逆転の一手として非常に重要なファクターだ。
しかし、それはお互いよく分かっている。だからこそ本拠地攻めは警戒され、万が一にも落とされないために気を張り巡らせ、攻略の難易度は最も高くなる部分だ。
「様子を見て情報を集めてからがいいと思います。今はとても狙えません。しかし〈エデン〉のメンバーが出払った隙を突けるのであれば本拠地は狙えると思います」
「つまり出払うための何か囮を用意するということか」
ルーシェの言葉にレナンドルはマスを取りながら考えを巡らせる。
「囮はどうする?」
「まずは巨城を落としてみましょう。2つ以上を落とし、小城マス有利を取っていればポイントは逆転できます」
「巨城獲得のために足を止めればその間に小城マスの有利も取られかねんが?」
「そうとも限りません、小城有利をこちらが保持している限り相手も巨城を落とさなければならないのです。相手も時間が掛かりますよ」
「なるほど……。タイミングは?」
「残り時間が20分を切ったころでいかがでしょうか? それまでは小城マスを取り続けることを推奨します」
「よし分かった。ルーシェよ。助かったぞ。ありがとう」
「! いえ、どういたしまして」
「もう少し話を詰めた後、皆にもこの作戦を伝えよう」
レナンドルたちも静かに行動を起こす。
最終的な狙いは〈エデン〉の本拠地。
白の巨城を2つ落として逆転し、相手が再逆転のためにどこかの巨城を確保しようと動いたところで本拠地へ攻め込む作戦を練る。
ベターではあるが、有効なカウンターの作戦だった。
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