第650話 作戦通達、リーナの四段階目ツリーの威力よ。




 この〈12つ星〉フィールドにある巨城は全部で六城。

 本拠地は白が北東の中間地点にあり、対称的に赤が南西に位置する。


 巨城は中央から見て二城が北西寄り、二城が南東寄りにあって、本拠地とあわせてバッテンみたいな位置で配置されている。

 最後の二城は白の本拠地の真北に〈北東巨城〉、赤の本拠地の真南に〈南西巨城〉があるが、それぞれ観客席が障害物となっており、取得するには回り込まなければならない作りとなっている。


 フィールドの中心地にはZ型に似た観客席があり、お互いの拠点の最短距離を封じている。Z型観客席の付近には〈中央西巨城〉と〈中央東巨城〉があり、本拠地から一番近い位置にはあるが、ここを優先して取得すると他の巨城が持っていかれるという難しい作りになっている。


 では初動ではどこを狙えば良いのか、北西にある〈北西巨城〉と南東にある〈南東巨城〉、一番遠い位置にある二つが狙い目だ。


 一見、お互いの本拠地から一番遠く見えるが、中央にある巨城と一番近い真北の巨城は相手からかなり遠く、取られにくい。自分の本拠地に寄っているからだ。なら、これは後回しにするべきだろう。

 すると一番遠くにある〈北西巨城〉と〈南東巨城〉を先取するのが優先されるわけだな。


 ということでいつも通り、初動は足の速い2人にまず先行してもらい、残りのメンバーがマスに沿って追いかけ、巨城を落とす作戦だ。

 だが、ただ最短距離のマスを突っ走って落とすのは二流のすることだ。

 一流は初動で取る足跡にも気を配らなければならない。


「リーナ、地図を頼む」


「はい! 『人間観察』! 『観測の目』!」


 現在、戦闘開始前の時間を有効活用するため、白の本拠地で作戦通達中。

 リーナに〈竜の箱庭〉へスキルを使用してもらう。

 本来ならギルドバトルで試合開始前のスキル使用はルール違反だが、今回の〈決闘戦〉ではローカルルールが使用されていてOKとされている。


〈テンプルセイバー〉は馬に騎乗して戦うことで有名なギルド、向こうではスタートダッシュをより早く切るためにスキルを使ってあらかじめ騎乗しているに違いない。


 リーナが〈竜の箱庭〉にスキルを使うと立体になった〈12つ星〉フィールドが現れた。

 とはいえこれだけだとまだ未踏破のマスが霧で見えない状態だ。地図としての用途をまるで果たせていない状態。しかし、


 そこにリーナの四段階目ツリーが炸裂する。


「『フルマッピング』ですわ!」


 はい、ドン。

 マッピング完了。


 マッピング率100%になって〈竜の箱庭〉の霧が霧散して消えてしまう。


 これがリーナの上級スキルの第一弾。『フルマッピング』だ。

 効果は名前の通り、地図アイテムにその階層のマッピングを完成・・させるスキルである。

 マジ上級だわ。オートマッピング? それ下級スキル。上級スキルは一瞬で行ったこともない場所でも地図が完成してしまうって寸法よ。マジどういうことだよ〈上級姫職〉が強い!


「ほわ~!」


 ほら見ろリーナを。今までむちゃくちゃ苦労してマッピングしていたのにスキル一つで完成させちまって、目がキラッキラだぞ。ほわって言ったぞ? リーナがほわって言ったぞ?(2回)


「こ、これはとんでもないスキルですわ! これが上級職!」


 はい。これが〈上級姫職〉です。

 とんでもないスキルですよ。むっちゃMP使うけど。

 早速〈上級姫職〉の本領発揮しちゃったな。

 これをクラス対抗戦で使われていたらマジやばかったぜ。


 ちなみにダンジョンでこれを使った場合、次の階層の入口はさすがに分からない。しかしモンスターの位置は分かるようになるし、ある程度次の階層入口の目星や隠し部屋の当たりもつけられるために非常に強力なスキルである。

 まあ、全部俺が覚えているのでダンジョンでは使わなくても問題ないんだけどな。MPむっちゃ食うし。


「よし、では次だ。リーナ」


「は、はい! 行きますわ――『ギルドチェーンブックマーク』!」


「注目、コレを見ながら説明していくな」


 リーナのスキル『ギルドチェーンブックマーク』は地図にメモを載せる能力だ。

 メモ? 何それ強いの? と思うだろう? むっちゃ強いんだわ、情報共有って超大事。


 リーナがスキルを発動した直後から地図にメモの付いたピンマークが複数現れる、それにリーナが指先を使ってサラサラといくつかのことを書き込んでいくと、そのピンマークを〈北西巨城〉のマークに乗せた。すると、フィールドの地図にピンマークが立って動かなくなった。


 特定のマスにメモを書くことが出来る能力、俺はそのメモを見せながら説明した。


「さて、これから元Aランクギルドとの〈城取り〉だが、今後は今まで以上に洗練された動きが求められてくる。これを見てほしい」


「これは、マスを取る場所に表示されている? だけじゃないわね、取得する時間が指定されている?」


「シエラの言うとおりだな。ただ巨城に最短距離で突き進むのは簡単だがそれでは二流どまりだ。俺たちはSランクを目指すギルド。マスを取る場所、その時間、秒単位のスケジュールが要求される」


 どこのマスを最初に取っておけば有利なのか?

 それだけではなく、誰が取るのか、巨城を取得する時間まで最初に決めておく。最上の役割分担だ。


「そして最も重要なのが、この巨城のタイムだ」


 そう言って俺は一つの〈北西巨城〉を指差した。そこにはリーナのメモが貼り付けてある。


「〈残り56分00秒〉って書いてあるわね」


「そうだ。そしてこれは、〈ジャストタイムアタック〉の指定時間だ」


「「「!!」」」


 俺の言葉にメンバー全員が驚いたような反応をする。


「〈ジャストタイムアタック〉の時間を試合が始まる前から指定しているの!?」


「そのとおりだ。〈ジャストタイムアタック〉は巨城先取に一番大事な技術。それを試合が始まってから指定するのは時間のロスだ。試合が始まる前から巨城を落とす時間を決めておけばそれだけタイムが短縮できる」


「…………言いたいことはわかるけど」


 シエラが手を顎の下に当てて真剣に〈竜の箱庭〉を見る。

 今回の〈城取り〉は1時間行なわれる。

 つまり開始4分ジャストで巨城を落とすと決めているということだ。「4分まで」とか「4分を目処に」とかじゃない。試合開始から4分ピッタリに落とす。これが〈ジャストタイムアタック〉の真骨頂だ。指定時間を決めておくことでロスタイム無く巨城を手に入れ、さらには手に入れた後、早急に次の行動に移ることが可能だ。スケジュールでそう決まっているからだ。


 とはいえ今回は初級編。

 4分ジャストという割とぬるい時間指定だ。


 これが強敵なプレイヤーになってくると、指定時間が早いほうが巨城を先取することになるために、最初の指定時間の選択が勝敗を分けたりする。

 例えば〈残り56分00秒〉で落とすつもりだったが相手は〈残り56分01秒〉で落としにきた。1秒差で先取できなかった、ということが結構あったのだ。

 だからこそ秒数を縮め、次は〈残り56分04秒〉で落とすとか、いいや〈残り56分08秒〉指定だ、とかどんどん指定時間を縮めていき、最終的に速攻到着即落としするためのギリギリの時間を追求することになる。プレイヤーの腕の見せ所だ。


 巨城を相手に持っていかれることなくどれだけの速さで落とせるのか?

 これこそが〈城取り〉の最終的な考え方になる。


 そしてそれを補助するスキルで最も強力なのが、この『ギルドチェーンブックマーク』、そしてリーナの新スキル『投影コネクト』のコンボである。

『投影コネクト』は特殊なスキルで、その能力はリーナが『ギルドチェーンブックマーク』に書いた内容が、実際の場所の上にも投影され、パーティメンバーにもメモのピンが見えるようになる、というものだ。


 つまりリーナが〈竜の箱庭〉にある〈北西巨城〉の上にメモを書くと、実際の〈北西巨城〉の上にもメモが立ち、外にいるパーティメンバーはメモを見られるようになる、という能力だ。しかもリアルタイムで。


〈北西巨城〉の上に「残り56分00秒」、〈中央西巨城〉の上に「次の目標ココ、残り53分30秒」みたいな形でメモが浮かんでいるように見えるのである。

 何その情報伝達ヤバイ。


 ゲームでは上位に行くほど広くなるマップに、目印ピンを立てて他のパーティを誘導するくらしにしか役に立たなかった『投影コネクト』がヤバイくらい化けた件。

 もしかしたら、と思ってリーナに使ってもらったら『ギルドコネクト』よりヤバくてパナかった。

 何しろリアルだと指示だしが超ネックだったからな。これでさらにギルドバトルを有利に進められるぞ!




「さて、話は変わってメンバー内訳の再確認だ。今回初動でまず落とすのは2箇所。〈北西巨城〉と〈南東巨城〉。そのうち白の本拠地から見て遠いのが〈北西巨城〉だ。こちらは相手の本拠地の方が若干近いために足の速いメンバーで向かう必要がある。メンバーはエステルとカルアだ」


「承りました」


「ん」


「続いてもう一箇所、〈南東巨城〉だが、こちらは相手の本拠地がやや遠い位置にある。白の有利ではあるが、相手からしたら一番欲しい巨城だ。油断はできない。そのため先行するのは俺、パメラ、そして――アイギスだ」


「よろしくデース!」


「はい、頑張ります!」


 そう、この〈南東巨城〉は3人で行く。その理由はまた後でお見せしよう。


 また、この2箇所の巨城は初動でとても欲しいところ、それは相手も同じだ。

 近い巨城は先取しやすく有利だ。しかし遠い巨城は手に入れられるか分からないうえに不利。相手は必死に取りにくるだろう。不測の事態に備え、俺がいたほうが指示がしやすい。


「続いて、カルア、エステルに続くメンバーはラナ、シエラ、シズ、メルト、リーナ」


「「任せて(よ)(ください)!」


「全力を尽くそう」


「はい!」


「俺とパメラ、アイギスについてくるメンバーはリカ、ルル、シェリア、ノエル、ラクリッテだ」


たまわった」


「「「分かりました(なのです)!」」」


 メンバー分けを告げると、警戒すべき〈中央西巨城〉と〈中央東巨城〉の2つの対策を話していき、みんなの認識を再確認していく。


「よし、確認事項は以上だ。後は前に渡しておいたマニュアルどおり、巨城が2つ取れた場合、1つしか取れなかった場合、1つも取れなかった場合で行動が異なるからな。質問や疑問なんかがある者はいるか?」


 これはあくまで最終確認。

 メンバーには、予めギルドバトルではどのように動くのかはずっと教えているため動きには問題ないだろう。質問も出なかった。

〈エデン〉で初参加となるアイギス、ノエル、ラクリッテが結構緊張しているようだが、他のメンバーに宥められている様子だ。


 さて、準備は万端。このフィールドの情報も、初動の作戦も全てみんなに連絡済みだ。

 抜かりは無い。


 それから数分後に残り1分のカウントダウンが開始され、それがゼロになったとき、ギルドバトルを開始するブザーが鳴り響いた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る