第643話 メンバー集合、第二回上級転職者、発表!




 まず、〈テンプルセイバー〉との対戦メンバーにアイギスを選んだ。

 目には目を、騎士には騎士で対抗する。


 では次のメンバーだ。


「続いてだが、さっきも言ったが相手は上級職が10人もいる。だから、こちらも上級職を増やそうと思う」


「上級職を!?」


 部屋のざわめきが加速した。リカが思わずという感じに声を上げたのが印象的だったが、その気持ちも分からんでもない。

 何しろ〈エデン〉に加入した順番から言えば、カルアの次はリカだからな。順番通りならば次の上級職はリカになる可能性が高い。


 もちろん上級職を増やそうというのはどこからかスカウトするのではなく、現存メンバーに〈上級転職チケット〉を使おうという意味だ。


「ニーコには本当にお世話になったな。おかげで〈上級転職チケット〉だが、なんと新たに4枚手に入った!」


「「「おお~!」」」


 俺がそう言って〈上級転職チケット〉を手に掲げる。

 もちろんこれはクラス対抗戦の前に使いきった後、新たに集めなおした枚数だ。

 俺の持っている〈上級転職チケット〉を抜いて、あれから4枚が手に入ったのだ。ニーコには世話になっている。


「いやはや、本当にすごいことだよ。これほどまでに〈上級転職チケット〉が短時間で手に入るなんてさ。でもぼくはとても疲れたよ?」


「ニーコ、ご苦労様だった。休んだらまた行くとしよう」


「え?」


 リカがニーコを労い、そしてまた〈ダイ王〉に誘うとニーコは半笑いで固まっていた。

 うむ、確かリカはニーコや他のレベルの低いメンバーを連れて〈ダイ王〉周回をしていたはずだからな。その過程で召喚盤がドロップするなど、ニーコのおかげで〈金箱〉を大量に獲得したんだ。あれで〈上級転職チケット〉を2枚もドロップしたらしいからな。


「知ってのとおり、みんなのおかげでこうして〈上級転職チケット〉が着々と集まってきている。夏休み明けから3週間もしないうちにもう7枚目だ。これからもどんどん貯まっていくだろう」


 夏休み明けに3枚。そしてその後に4枚が手に入ったので、9月になってからの短期間に7枚を入手した計算だ。


 まずはメンバーに貴重な〈上級転職チケット〉が手に入りやすいものだと認識させる。

 これを怠ると不満が爆発する可能性があるので絶対にやらなくてはならない。

 何しろ手に入りやすいとはいえ今は4枚しかないからな。奪い合いに発展しても困るだけだ。だからこそ、こうして大きな相手を目の前にするからだ、という理由をつけて使う。

 その方がメンバーも納得が行くだろう。


「そしてこれを使うメンバーだが、実はすでに決めている。まずは――リカだ」


「!! はい!」


 アタッカー&タンクのリカ。

〈エデン〉のタンク不足からタンクのポジションを多くこなしてきてくれた、〈エデン〉の縁の下の力持ち。

 実力は申し分なく、〈姫職〉でもあり、さらに姉たちに影響されたのか面倒見が良いため、メンバーの誰からも異論なく決まる。


 緊張からか、少し硬い動きになったリカが、ゆっくりと壇上まで来たため、俺はリカに一枚を進呈した。


「これからも頼んだぞ、リカ」


「うむ。私の刀に誓って、〈エデン〉の力になることをここに宣言しよう」


 そうかっこいいことを言ってリカが片膝をつき、恭しく〈上級転職チケット〉を受け取った。

 おかしいな、こんな儀式めいたものはうちのギルドにはなかったはずだが……?


「「「おお~!!」」」


「リカさんおめでとう~」


「ん、リカ、おめ」


「とても頼りになるわ」


 とはいえみんなが盛り上がっているのだから問題ないな! 今度からこの〈上級転職チケット〉の進呈式は儀式めいた感じに変えようか? おっとその前にリカに言うことがあったな。


「後で俺と〈測定室〉に行こうな」


「うむ。楽しみにしている」


 上級職に〈上級転職ランクアップ〉するのもここで約束すると、リカは頬を上気させたまま席に戻っていった。


「さて、次のメンバーだが、2枚目の対象者は、リーナだ」


 そう宣言するとまたも部屋が大きくざわめいた。今度は順番通りであればシェリア、ルル、セレスタンの誰かだと思っていただけに少し意外な方向だったためだ。

 みんなの視線がリーナに向き、リーナも慌てて立ち上がる。


「!! わ、わたくしでよろしいんですの!?」


「もちろんだ。みんなもクラス対抗戦でリーナの獅子奮迅の活躍を見たと思う。リーナが指揮に回ってくれるならこれほど心強いことはないだろう」


「そうね! あの時のリーナはほんとすごかったから!」


 俺の言葉に真っ先に肯定で返したのはラナだった。

 ラナだからな、もちろん本心からの言葉だろう。

 それがきっかけでリーナを推す言葉がどんどん聞こえてきた。


「リーナなら安心ね」


「とても心強いです!」


「リーナの指揮は〈エデン〉で一番だもの、当然ね!」


「リーナの指揮があれば〈テンプルセイバー〉とて敵ではありません」


 密かに俺よりリーナの方が指揮が上だと言われてちょっとショックを受ける俺氏。

 いや、良いんだ。リーナの方が色々と向いているしな。俺は現場で活躍するんだぜ!


「ではリーナ、チケットを受け取ってくれ」


「は、はい!! あの、ゼフィルスさん、ありがとうございます」


 リカとは違い片膝をつくこともなく両手でチケットを受け取り胸に抱いたリーナが礼をして言うと、またまた祝いの言葉のシャワーがリーナに向けて降り注ぐ。


「リーナ良かったわね」


「次の指揮も頼みます」


「はい! 任せてくださいですわ! ゼフィルスさんのため、〈エデン〉のため、そしてみなさんのため、このヘカテリーナ、頑張らせていただきますわ!」


「「「おお~」」」


 リーナの高らかな宣言に大盛り上がりだ。


 パチパチパチと拍手の雨の中リーナも席に戻っていった。

 これで〈上級転職チケット〉は残り2枚だな。


「さて、次の1枚だが――ニーコだ」


「ええ!? ぼくかい!?」


 ニーコは心底驚いたように目を見開いていた。完全に予想外、といった反応だった。

 それもそうだろう。だってニーコはまだレベルカンストに届いていないし。

 下部組織ギルドメンバーのためギルドバトルには参加不可でもある。とはいえこれは親ギルドに昇格させてあげれば参加可能なので、これについては問題は無い。


 問題なのはそもそもギルドバトルのために上級職を、という話の部分だ。ニーコは支援職。ギルドバトルには不向きな職業ジョブだ。まずそれを訂正しておこう。


「とはいえニーコを今回の〈決闘戦〉に参加させるという意味じゃない。ニーコを〈上級転職ランクアップ〉させるのは、巡り巡って〈エデン〉がお宝を入手できる機会が増えるからだ。みんなも知ってのとおり〈上級転職チケット〉をこれだけ集められたのはニーコの功績が大きい。そんなニーコが上級職になれば更なるお宝が期待できるだろう」


「ぼくの休暇はどこに!?」


 おかしいな。ニーコが〈上級転職チケット〉が送られることになったというのに抗議しているように見える。しかし上級職になれるのだ。喜ばないのはおかしい。きっと気のせいだろう。


「これから俺たちのパーティでニーコを連れて中級上位ダンジョンを周回する予定だ。そしたらすぐにレベルもカンストするだろう。そしたら〈上級転職ランクアップ〉だな!」


 そう言って壇上に上がってこないニーコの元へ向かってチケットを手渡すと、周りから溢れんばかりの拍手と祝いの言葉が届いた。


「ニコちゃんおめでとうー!」


「〈アークアルカディア〉組の中で初めての上級転職者だよ~」


「おめでとうニコちゃん、私たちもすぐに追いつくから、そしたらまたダンジョンへ行こう」


「ニーコはんおめでとうやー!」


「ニーコ君、これからも頼りにしているね!」


 サチ、エミ、ユウカ、アルル、カイリの〈アークアルカディア〉組のお祝いの拍手が3割り増しですごい。

 言われて気付いた。そういえば〈アークアルカディア〉から初の上級職が出るのか。


「はは、ははは、ありがとう、みんな……」


 それに引き換えニーコは少し笑顔が乾いている気がするが、きっと気のせいだろう。


 俺は壇上に戻り、最後の1枚を掲げる。


「最後のチケットだが――」


 そこで一度言葉を止めると、周りがシーンと静かになった。

 今回最後の1枚だ。誰になるのか、全員が次の言葉に集中しているのを感じる。


 俺はそんなプレッシャーの中、気負わずに1人の名前を宣言した。


「最後の1人は、――シズだ」


「私ですか?」


「「「あ~」」」


 俺の言葉の後、シズがきょとんと自分を指さし、そしていたるところから力が抜けたような「あ~」が聞こえた、がっかりの「あ~」だ。みんなすまない。


「シズを選んだ理由は、単純に職業ジョブがギルドバトルと非常に相性が良いからだ。みんなもそれはうすうす感じていると思う」


 俺が理由を説明すると、みんなも思い出したのか頷く人が多い。

 そう、シズの【戦場メイド】はギルドバトルで大きく力を発揮する職業ジョブだ。

 単純な攻撃スキルも強力だが、注目すべきはそのサポート力。

『索敵』から始まり、ハイドも使える隠密系、罠の設置と解除にも長け、相手を状態異常にさせて妨害も出来る、しかもDEX値が計950を超えていて強力なアタッカーとしても活躍可能とあっては、文句の付け所もない。


 ギルドバトルにおいてシズ以上に現場で活躍してくれる頼れる存在もなかなかいない。

 だからこそ、早めに上級職にしておきたいのだ。


「シェリアは、どうだ? 異論は無いか?」


「私は構いません。私の場合は急いでいませんから」


 順番的にリカの次はシェリアたちだったため聞いてみたが、返ってきたのは余裕の反応だった。まあ、【精霊術師】だからな。近いうち上級職にする予定だし。本人もそれほど急いでいないとのことなのでよかったよ。


「ルルはどうだ?」


「にゅ? あい! シズお姉ちゃんでいいと思うのです!」


 ルルは本当に癒される。


「セレスタンは?」


「僕も異存はありません」


 セレスタンも余裕の態度で一礼する。動揺も無いようだ。

 まあセレスタンは〈エデン〉第一という感じだからな。俺がギルドバトルのために必要だと決めたのならセレスタンはそれをサポートするだけ、とでも考えていそうだ。


 というわけで、第二回目の〈上級転職ランクアップ〉メンバーは、

 ――リカ、リーナ、ニーコ、シズの4人に決まった。


 これで〈テンプルセイバー〉と対戦するメンバーはニーコを除いて9人だ。


 その後の進行で、残りの6人は、

 シェリア、ルル、パメラ、メルト、ノエル、ラクリッテに決まった。


 今回セレスタンはサポート役。

 ミサトは騎士が相手だと相性が悪いので見送りとなった。上級騎士は結界破壊の突撃スキルを覚えてくるからな。回復だけなら俺、メルト、ラナ、ノエルもいるため何とかなる。

 レグラムは単純にレベル不足だ。


 これで〈エデン〉からの15人の出場者は決まったな。


 レグラムたちはダンジョンでレベル上げと、また〈上級転職チケット〉稼ぎに赴くそうだ。


 さて、では俺は、第二回〈上級転職ランクアップ〉講座を開くとしよう。




 ―――――――――――

 後書き失礼します。お知らせ。


〈ダン活〉小説第02巻、6月10日明日発売です!

 よろしくお願いいたします!




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