第620話 まずは学園長の相談事から。お誘いかな?




 メイドさんがお茶を入れてくださったので一口。

 うむ、相変わらずセレスタンに勝る美味。これ『ティー作製LV10』だったりするのだろうか? 素晴らしい味だ。


 そうして一息入れ、カップを置くと、それを見計らっていたのか目の前のユーリ先輩がまず口を開いた。


「今日は僕も用があってね、学園長が君を呼んだと小耳に挟んだので便乗させてもらったんだ。とはいえ急だったし、もしこの後用があるならまたの機会にするけど」


 フットワーク軽いな王子。

 またの機会とは言っているが、学園長室まで来て俺に会いたがっているのだ、何か大事な要件があるのだろう。学園長にも聞かせたい話という意味で。

 これは俺が話したかった気軽なダンジョンの話はまたの機会になりそうだ。


 あと、思ったより時間が掛かりそうだ、ラナ、すまん。

 なんだかラナの兄への不満ゲージが上がった気がしたが、きっと気のせいだろう。


「大事な用なんだろ? 構わないさ」


「助かるよ。僕の分は後で話そう」


 了承すると笑顔で感謝するユーリ先輩が次に視線を学園長に向ける。


「うむ。実は学園からゼフィルス君に一つ頼みがあっての」


 学園長、今日は奥の席からの対話なので、若干体の向きをそっちに向け、顔は学園長の方へと向ける。いつも学園長の座る場所にはユーリ先輩が座っているので仕方ないな。

 さて、呼び出された理由は何だろう? 俺的にはクラス対抗戦で見せた上級職の話かと睨んでいるが?


「二学期からの臨時講師の話じゃ」


 全然違った。


「まずは一学期の臨時講師の任、誠にご苦労じゃった」


「いえいえ、好きでしたことですから」


 だってこの世界、育成が全然なってないんだもん。

 信じられるか? この学園、学園なのにステータス振りを教える授業が無いんだぜ? 教えろよ! 学び舎だろ!?


〈ダン活〉には必須と言われた〈公式裏技戦術ボス周回〉も知らなかったみたいなので、それでは上級ダンジョンなんて難易度高すぎるだろうて。


 せめてステータスだけでもしっかり振れるよう教えてあげなければとても仲間に迎え入れられない。怖い。

 魔法使いがINT極振りとか、INT以外振っていないとか、逆になぜかSTRにビルド振ってるとか、無理だから、うん。職業ジョブによって正しいステータスの振り方があるんだよ!? 教えようぜ!?


 そう言う意味で、一学期は俺が講師となって1年生を中心にしっかりとした筋道を教えることにしたのだ。回数が増えていくと上級生、最上級生どころか外からお偉いさんが来たり、なぜか教員の方が参加していたりしたのだが。うむ、まあ向上心を持つのは良いことだな!


 おかげでこの学園でのステータスの認識はだいぶ良くなったと思う。クラス対抗戦で何人も「おお、こいつは!」と思う人材に出会えたしな。俺の作戦は上手くいったと言えよう。


 俺がしみじみ回想に浸っていると、学園長の話は続く。


「本来ならすでに任期を満了し、学生生活に戻ってもらうはず、じゃったのだが。予想以上に反響が大きくなっての」


 そう、俺の授業は一学期までの約束だ。

 だって低レベルな1年生にステータスの振り方を教えるのが目的だったし、二学期ともなるとすでにレベルはかなり育ってきている、今から育成方向を転換しても遅すぎるのだ。


 ということで俺は夏休み突入と同時に臨時講師を満了した。のだが? なんだか学園長のセリフが怪しい。


「端的に言えばゼフィルス君の授業に是非参加したいという学生が急増しておるのじゃ。いや、前から急増はしていたのだが、今度始まる〈転職制度〉の告知、そしてクラス対抗戦からまた爆発的に声が高まってきての」


「ああ~」


 察し。

〈ダン活〉では〈転職〉するとLV0からやり直しとなる。

 今までの努力やレベル上げがパーになることから誰もやろうとはしなかったのだが、俺が高位職の発現条件を密かにリークし、育成論を教えたことで徐々に風潮が変わってきていた。


 そして決め手は、おそらくあのクラス対抗戦だろう。

 今年のクラス対抗戦、実は2年生よりも1年生の方が盛り上がったようなのだ。


 今までは1年生は〈エデン〉だけが注目されてきたが、〈エデン〉以外でも、しっかりステータスを振れば〈エデン〉メンバー並み、とはいかないが、かなり強くなれると広まったのだ。決勝戦でぶつかった強い人たちには感謝だな。


 そんな背景も有り、〈転職制度〉を目前とした今、俺の授業の需要が爆発的に高まってきているのだろうと察した。ということは学園長の話とは。


「うむ。すでに察しがついておるようじゃが、ゼフィルス君に頼みたいことというのはほかでもない、是非二学期も臨時講師を頼めないかということなのじゃ」


 やはりか。

 俺は少し考える。

 いや、考える振りをしてすでに答えは決まっていた。


 この〈転職制度〉は上級生のための制度だ。対象の大部分は1年生ではない。

 中位職や低位職の多い上級生に向けた制度である。


 一学期の臨時講師の対象は、1年生がメインだった。

 LVが低いのが1年生だったからだな。

 しかし、〈転職制度〉を利用すれば上級生もLVがリセットされ、一から育成をしなおすことが出来るようになる。せっかく〈転職〉でレベルリセットされたのにステータスの振り方を知らないなんてとんでもない! それじゃあ〈エデン〉の新しいメンバーを募集するときに困る!


 うむ。というわけで講師を続けるのはやぶさかでは無い。俺も教えるの好きだしな。


 しかし、ここで二つ返事で頷くのもな。

 ここは学園長に恩を売っておく場面だろう。


「では貸しでどうでしょうか? もちろん給金とは別で」


「うむ、構わん」


 学園長への貸しは迷宮学園・本校への貸し、もし何かアイテムが欲しいとき、ゲット出来ないとなれば学園長を頼る事が出来る。これは大きい。

 ゲーム〈ダン活〉時代もこんな貸しは存在しなかったので、ちょっと興奮気味。


 テーブルを挟んだ対面に座っているユーリ先輩もクスクス笑いながら学園長に向けて言う。


「はは、これは大きな貸しになるね」


「うむ、しかし残念だが我が学園の教員でもまだそこまで理解は深くないからの。ゼフィルス君、是非とも頼む」


「もちろんです学園長! 任せてください!」


 そりゃあそうだ、俺は〈ダン活〉のデータベースと呼ばれた男。

 1021職、全ての育成方法が頭に入っている。俺が一学期に教えた内容なんてほんの一欠片だ。代わりのできる教師なんているはずもない。


 学園長があっさり頷いてくれたことでそういうことに決まった。


 今週末から上級生への講師が始まることに決まる。

 いやあ、どんな〈転職〉先を持つ子がいるのか、今から楽しみだな!

 エデンも早くギルドランクを上げて、受け入れメンバーの枠を確保しなければ!


 そう、俺は新しい人材発掘に思いをつのらせたのだった。




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