第576話 リーナの想定外。筋肉部隊の決着。
少し時は巻き戻り。
第二要塞で〈竜の箱庭〉を展開していたリーナは〈1組〉の侵攻に一早く気がついていた。
「南から進軍有りですわ! 『ギルドコネクト』! すぐにラムダさんへ伝言をお願いしますわ!」
リーナはすぐに『ギルドコネクト』を発動し、主力のラムダの側に居るクラスメイトに通信を行なった。
『ギルドコネクト』の効果はギルドメンバー、もしくはパーティメンバーに通信するスキルである。
リーナのクラスメイト〈51組〉のメンバーはこの〈拠点落とし〉ではパーティ扱いだ。ラムダ本人に通信を届けることはできないが、クラスメイトであれば通信を届けることが可能となる。さらに『ギルドコネクト』がLV10になったことで相互通信が開放されていた。
「『こちら主力です。感度良好』」
「南西から侵入有りですわ、おそらく〈1組〉、数は16人。ラムダさんに突撃準備を指示してくださいですわ」
「『主力、了解しました!』」
通信係をお願いしたリーナのクラスメイトはすぐに仕事をしてくれたようで、ラムダの主力部隊が第三要塞を経由して2マス南のマスへ進行する。(図J-10)
南からの進軍に対し死角で有り、〈1組〉がどこの要塞に向かってもカバーが出来る理想的な位置取りだ。
〈竜の箱庭〉を使い、相手の出方を確認し、伏兵を配置する。
この〈拠点落とし〉でリーナが何度も行なってきた戦法だった。
その間にリーナは、続いて各要塞の隊長に〈1組〉が動いたことを通信で届け、指示を通達する。
ゼフィルスなら絶対に要塞攻略に乗り出すと思っていたリーナの予想は当たった。
しかし、ゼフィルスがどんな作戦で要塞を攻略しようとしてくるのかまでは分かっていなかった。
だが、そのための要塞だ。いくらゼフィルスでもすぐに陥落させるなんてことは出来ないだろう。それにまだもう一つの作戦も進行中で、〈1組〉への手札は時間が経てば経つほど増えてきている。
準備はこれまでたくさんしてきた。
要塞建築のため、ドワーフの皆には『建築』スキルで前もって建材をパーツに加工してもらい、現場での作業時間短縮と容量節約に大きく協力してもらった。
〈
それだけに留まらず、〈5組〉にも協力してもらい〈
さらに〈51組〉の「伯爵」の子たちには全力で要塞を守ってもらっている。
おかげでゼフィルスが、というより〈エデン〉が得意とする〈ジャストタイムアタック〉を受けても2回は耐えられる耐久性を持っている。
要塞はそう短時間で落とすことはできないだろう。
重要なのはこの1戦での勝利。
〈1組〉メンバーに大打撃を与え連合を警戒させ、ゼフィルスを、いや〈1組〉を拠点に引っ込ませることができればリーナの思惑はほぼ成功だった。
〈竜の箱庭〉のマップは完成するし、勝利の条件も整う。
しかし、そのタイミングを計っていたリーナは、ゼフィルスの戦法に目を見開くことになる。
「『ほ、報告! ちょ、超遠距離攻撃を確認! 威力の減退は見せず、第四要塞に突き刺さりました! ラムダさんからリーナ様へ伝言、「このままでは第四要塞陥落、至急部隊を分け援軍に進むべし」とのこと』」
〈竜の箱庭〉は人、モンスター、障害物、建築物、様々な物を確認する事が出来るが、〈スキル〉や〈魔法〉までは映し込んでくれない。
だからこそ、ゼフィルスの部隊が中途半端な位置に止まり、第四要塞に6人の部隊を差し向けたとき、その後の行動が読み切れなかった。
さらに次の一手はリーナも知らない、上級職の攻撃、非常識な超遠距離からの攻撃だった。
リーナにとっても未知の攻撃だ。ゼフィルスが何か企んでいるとは思ってはいたが、予想を超える、否、予想もできない攻撃だった。これでは今まで準備していたものが泡と消えかねない。
これにより第四要塞は大混乱している様子が〈竜の箱庭〉には写っていた。
早急に第四要塞を救い、ゼフィルスたちの部隊を止めなくてはならなかった。
「主力部隊、ラムダさんの案を採用いたしますわ! ラムダさんは第四要塞を救い、遠距離攻撃を防いでください! また、ゼフィルスさんの部隊は精強です、絶対に無理をせず、時間稼ぎに集中してください!」
リーナもすぐに決断する。
主力の部隊を分ける。
第四要塞への援軍と、ゼフィルスが待っている部隊への侵攻に。
連合の保持する大戦力、ラムダは援軍だ。
それにラムダのスキルであれば遠距離攻撃も防げる可能性が高い。要は防御スキルで受け止めれば良いのだ。その場合ラムダがどうなるかも分からないため、絶対にヒーラーも連れて行くことを指示。
激戦に第四要塞の陥落がちらつくため、建築班のドワーフ部隊を第四要塞の裏側から回り込ませて要塞を修復させるように指示。
リーナは忙しく立ち回る。
◇ ◇ ◇
一方、第四要塞。
筋肉合体を解いたアランが高らかに宣言する。
「どうやら要塞と筋肉の力比べは、筋肉の勝利のようだな!!」
「む、むちゃくちゃしてぇ!! みんな後が無いわ! 魔法攻撃を連発するのよ! 時間を稼いで!」
リャアナが叫んで指示を飛ばす。すでにリーナから援軍が向かっているという指示は貰っていて、時間稼ぎに集中しようとしていた。
「うっ、なんて完成された筋肉! ――『メガフレア』!」
「要塞から離れなさい! ――『アイスランス』!」
「ぬ、ずいぶん温い攻撃を放つ! 我が筋肉にこんなものが効くか!! ふんっ!! ふんっ!!」
「魔法を拳で打っ飛ばした!?」
撃たれた魔法は確かに二段階目ツリーと、ちょっと温い攻撃だったが、パンチで迎撃出来る類いのものではない。普通はない。しかし、筋肉はただのパンチでそれらを防いで見せた。
驚愕に目をむく魔法を放った者たち。
しかも受けたダメージも継続回復ですぐに回復してしまう。
あれだけの攻撃をその身に食らいながらほとんどダメージらしきダメージを食らっていない筋肉集団。不死身の筋肉が怖い。
遠距離攻撃も脅威だった。
あれにより連携が完全に崩されている。いやその前から崩れていた気がしなくも無いが、あれが決定的だったのだ。おかげで〈バリスタ〉が四つも破壊され、1人が退場してしまっている。
リャアナは最悪の展開が頭を過ぎった。
その時、待ちに待った待望の言葉が届く。
「――待たせたなリャアナ! 〈1組〉本隊は別働隊が抑えている。そして援軍は、今到着した!」
「!! あ、ああ!!」
声に驚いてリャアナが要塞から身を乗り出し、そして喜色の声を上げる。
そこに居たのはリャアナたち連合の希望。
全身白銀の鎧と大盾、そして豪華な片手剣を持つ男、〈5組〉リーダーのラムダが率いる10人の援軍だった。
「ラムダ!」
「悪い、遅くなった! ――シッ! 『ストライクセイバー』!」
「ぬ!! ふん!」
「!! ふむ、予想以上に硬いな!」
「なんという強力な一撃! 筋肉が押し負けただと!?」
まずは一当て。
援軍を連れてきたラムダが加速してアランに飛び込み、強力な一撃を放った。
それは四段階目ツリー、上級職高位職、高の中【カリバーンパラディン】のスキルによる一撃だ。
聖属性攻撃も加わっていたためかアランはノックバックを受け、筋肉が打ち負けてしまう。しかし、物理攻撃だったためにダメージはさほどでもなかった。そしてすぐに回復してしまう。
「ラムダ! 相手は〈マッチョーズ〉のギルドマスター、【筋肉戦士】よ! 物理はほとんど効かないわ! そして継続回復が付いてる!」
「分かっている。しかし、まずはここから退いてもらわなければな――『ジャッジソードチェーン』!」
「ぬぅ!? 強敵!!」
ラムダの強化された剣による目にもとまらぬ連続攻撃にアランが反撃しつつも押されてしまう。ラムダのスキル『ジャッジソードチェーン』は〈光属性〉と魔法力の斬撃を放つ、魔防力の低いアランでは分が悪く、リーチの差もあって押されてしまう。
「筋肉よ! 倒れてしまえ! 『カースバインド』!」
「お前の相手は俺たちだ! 『フレアバースト』!」
「ぬ、新手か!!」
「援軍が到着してくれたぞ! 反撃だお前ら!」
続いて援軍に来た連合によって、第四要塞側の士気が上がった。今まで筋肉の迫力に押されていたが、徐々に押し返し始めたのだ。他の〈マッチョーズ〉たちも押し戻され、形勢は一気に連合側が有利になった。
これにはアランも渋い顔をする。
「これは少々マズいか!?」
「俺を前にしてよそ見とは、そこだ! 『
「ぐおおぉぉぉ!!」
こういう時スキルの無い【筋肉戦士】では反撃が難しい。防御スキルでもあれば仕切り直せたかも知れないが、無いものは無いのだ。アランとラムダでは魔法力を剣に纏わせて戦うラムダに軍配が上がるようだ。さすがにアランも上級職には分が悪い。しかし、
すでに普通の
「硬いだけでは無い。回復している?」
「何かバフが掛かっているみたいなの! バフが全然途切れないのよ!」
ラムダの疑問に要塞の上にいるリャアナが大声で答えた。
「いくら【筋肉戦士】とはいえ手こずっていたのはそう言う理由か。この硬さで回復までされては――」
「おしゃべりをしているとは、舐められたものだ!」
「ふっ!」
剣を振るいながらリャアナと情報のやり取りをするラムダをアランが筋肉の拳でぶん殴る。
これは惜しくも大盾に阻まれたが、距離を稼ぐことには成功する。
「アランさん、撤退しましょう。さすがにこの状況は不利です。それに、これはゼフィルス様の予想した展開の一つです。我々も作戦通り動きましょう」
「セレスタン」
今まで陰からサポートをしていたセレスタンがこの隙にアランへ指示を出した。
その指示にアランも頷き、バックステップでラムダから距離を取りながら声を上げる。
「筋肉たちよ、集まれ!」
「「「「応っ!!」」」」
さすがに良く訓練されている筋肉の動きは速く、すぐに散り散りになった筋肉たちが集まってきた。
そのまま〈筋肉ビルドローラー〉で撤退しようとするが、そうはさせんとラムダの部隊が魔法攻撃を放つ。
「合体させるな! 魔法で崩すんだ!」
「くっ、なんという圧力! HPが半分を切るだと!?」
「俺の筋肉が、苦しんでいる!」
魔法の嵐の中、さすがに継続回復を上回るダメージに筋肉たちも苦しむ。
そこへ、さらなる追い打ちを掛けるように、【カリバーンパラディン】のラムダが剣を光らせて迫った。
「まったく冗談みたいな強さだ【筋肉戦士】は。だが、次で決めさせてもらおう!」
そう宣言したラムダの体が黄金色に耀き出す。何かドデカいことをする気のようだ。
「ぬ、来るか!!」
「もう! それ早く使いなさいよ!」
狙いは、筋肉たち全員のようだ。セレスタンはすでに周囲で相手を数人沈め退路を確保しているところなため範囲外にいる。
ラムダはその耀いたままの体で盾を手放し、剣を両手で握ると、剣がその行為に応えるように大きく輝きを増していく。
「言っておくが、これは防げない。【筋肉戦士】の低いRESと防具が無いのは致命的だ。加えてダメージもある程度負っている今の君たちでは、直撃すれば一撃だろう」
「俺たちの筋肉が負けるだと!」
「許せん! 鍛え方が違うということを教えてやる!」
「待てお前たち!」
ラムダの挑発とも取れる言葉に筋肉のプライドが刺激されたのか、2人の筋肉がアランの制止をはねのけラムダに突っ込んだ。
しかし、これがアランたちを救うことになる。狙いが筋肉5人から筋肉2人に変わったのだ。
ラムダの剣は耀きを増し、ゆっくりと力を込めるように振りかぶる。
「ユニークスキル発動! ――『エクスカリバー』!!」
「「―――――」」
ズドンッ―――!!
強烈な筋肉の突撃と、剣から放たれた光の奔流がぶつかった!
誰もが戦闘行為をやめるほどそのぶつかりに注目し。
光の奔流が収まったとき。
そこに筋肉2人の姿は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます