第560話 初動が大事! 素早く道を確保し斥候を潰せ!
試合開始から〈1組〉は迅速にことを進め始めた。いつものやつだ。初動が大事!
何しろゼフィルスがいるのだ、他のクラスに後れを取るなんてあり得ないと言わんばかりに、全員が役割ごとに分かれてスピーディに動き出す。
ゼフィルスは試合開始直後、自分たちがいる拠点の周囲に他のクラスの拠点が無い事を確認すると、防衛ラインの構築を指示して、早々に攻撃部隊を連れて外へと飛び出した。
だが、今回の作戦は今までと違う。
今までは最低でも六人を一チームとして行動し、最高でも二手に分かれるくらいしか戦力分散をしなかった。あまり戦力を分散しすぎると各個撃破されるからだ。
しかし、この決勝戦では、そのほとんどをスリーマンセルに戦力を縮小し、部隊を細かく分け、それぞれ散らばらせていった。
これはかなり思い切った作戦で、もし他のクラスと鉢合わせたとき、人数的ピンチに陥りやすく、また相手の拠点へ攻撃するには戦力が乏しすぎてアタックできないため利点は少ない。
ではなぜこのように戦力を小分けにし分散したのか、それはこのフィールドの特性と、対〈竜の箱庭〉戦法のためである。
その目的は、――斥候潰しだ。
決勝戦フィールド〈五つ山隔て山〉はかなり特殊で、山々が立ち並び、平地が少ないフィールドだ。
平地が少ないということはつまり道も少ないのだ。
山々は切り立った崖のようになっていてここを上って進行するのは難しい。進行するには何かしらのスキルが必要だった(筋肉ならあるいはクライミングできるかもしれないが、それは置いておく)。
故に斥候はまず道を通ることになる。その道で待ち伏せし、斥候を狩るのがこの作戦の目的だった。
少ないとはいえそこそこ道はあるため、まずはその道を押さえる。
これはフィールドの道が狭く少なく、さらには大部隊のいない最初だからこそ出来ることだ。斥候が活躍するのは最初しかない故。
相手より早く拠点の位置を把握し、敵の位置を把握し、戦力を把握し、攻める機会を把握する。それが斥候の役目であり、斥候はクラスの目である。それを早々に潰すのだ。
斥候が通りそうな道が最初から分かっているのだから配置する場所を選ぶのは
故に〈1組〉は最初に重要な道を塞ぐように部隊を送り込んだのだった。誰かに取られる前に。
警戒すべきなのはスリーマンセルがやられるくらい大きな部隊との遭遇だが、しかしそれを送り込むにも安全かを確かめてからになる。つまり斥候の後だ。斥候を潰せばしばらくは問題ない。
その斥候を出来る限り潰すために、〈1組〉はできる限り急いで部隊を送り込んだ。ここで重要なのは相手の本隊が動く前に斥候を潰すこと。
スピードに絶対の自信がある〈1組〉は試合開始直後、まだどこのクラスもフィールドに出てこないこのタイミングで、いち早くフィールドに斥候潰しの部隊を配置しにいったのだ。成功すれば、多くの斥候を討ち取ることが出来るだろう。
さらにはこの作戦は〈竜の箱庭〉封じも見ている。
〈竜の箱庭〉の最大の特性はフィールドの俯瞰だが、しかしそれは仲間が
リーナはおそらく、最初に〈竜の箱庭〉完成のため斥候をバラ撒くと思われる。
各個撃破で戦力を削る大きなチャンスと共に、俯瞰できるエリアを広がらせない、一石何鳥も見込んだ作戦だった。
これもスピードが勝負だ。リーナに〈竜の箱庭〉を完成されないようにする、これが今後に大きく響くだろう。
ゼフィルスはフィールドを調べるなんてことは全てカルアに任せ、この〈五つ山隔て山〉の道の要所に斥候封じの部隊を置こうと画策した。ここで重要なのが配置するエリアを絞ることである。さすがのゼフィルスといえど、フィールド全ての道を抑えることは出来ない。どこかに絞る必要があった。すると必然的に拠点の位置も決まってくる。
そしてゼフィルスはフィールドの南半分に部隊を配置することにした。
このフィールドは中央と四隅に巨大な山のあるフィールドで、他に様々な山が立ち並ぶ、ビル群と言ってもいい風景の場所だが、その山々の配置にはとある特性があった。
北側と南側で山の形が違うのである。
さらに配置も異なっており、北側はそれなりに隙間が多く、斜めの道が基本のつくりとなっているが、南側は道が狭く、一本道が基本、山の数も北の倍近くも生えている。
故に南側の方が隠れるにうってつけで、逆に道は狭まり移動が難しくなっている。伏兵も仕掛けやすい。
ゼフィルスが拠点の場所に南西を迷わず選択したのもこれが理由で、南側は道を支配しやすいと分かっていたからだ。
その中でも最も遠方の南東付近に配置されたのがリカ、パメラ、ミサトのメンバー。
場所は南東山の真北を指定されており、北側と南側の合流地点であると同時に、拠点が配置されるにうってつけの場所がいくつも点在している重要な要所である。
敵を発見し、さらに足で相手に追いつけるパメラをメインに、リカとミサトはサポートを、という配置だった。(図AB-22、AB-23、AC-22、AC-23付近)
斥候を走らせるとすれば、この南北を結び三方から合流する地点は非常に通りやすく、また道が狭いため斥候を追い詰めやすい。
斥候を潰すには良い位置取りだった。
「しかし、そうは上手くはいかないか……」
リカがポツリとこぼす。
「まさか、斥候を守る部隊が一緒に動いているとはね」
「見つかってしまったデスね、リカどうするデス?」
ミサトとパメラもあちゃーと言った表情だ。
それもそのはずで、早速近くを通りかかった斥候と思わしき人物、これが『索敵』系スキルを使用し、それにパメラの『気配察知』が反応したことで敵が近いと分かった。
それだけならパメラも『索敵』スキルを使って逆探知して斥候を狩れば良いだけだったのだが、ここに斥候を守る部隊が居たこと、そしてやる気満々で近づいてきたことで少し狂いが生じてしまう。
「四人で行動とは珍しいな。私たちも人のことは言えないが」
「斥候を守る部隊なんて足が遅くなるだけなのにね。逃げるにしても斥候だけの方が逃げやすいのに」
「東から来マス、相手の数は4人デース。完全にやる気満々デスね。近づいてきてるデース」
「どうするリカちゃん、やっちゃう? それとも逃げる?」
「……ゼフィルスにはこの要所を出来るだけ押さえるよう言われている。ならば、まずは一当てしてから判断しよう。数が多かったので逃げ帰りましたでは笑い話だからな」
「おお~、さすがリカ、かっくいいデース!」
そういうことになった。
山の陰に隠れていた3人が戦闘態勢に移り、陰から身をさらす。
「出てきたか」
「
「全員、油断しない、相手は決勝に残るほどのクラスよ!」
向こうは魔法風の男子、大剣を持った近接風の男子、斥候っぽい軽装の女子、二刀流と思わしき女子がいた。
リカたちは知らないが、彼女たちは〈9組〉のメンバーである。
「どうしてここに隠れていたのかなんて、聞くまでもないわよね」
「ほう。その物言い、まさかうちのクラス以外でこの場所を狙いに来るとは予想外だったよ」
斥候の女子の言葉に、リカが腑に落ちたとばかりに返す。
つまり相手もこの要所を手に入れに来たのだ。
向こうのクラスにもゼフィルスと同じ事を考える者がいるのだと知ってリカたちはさらに気を引き締めた。
「ふん、おしゃべりはここまでよ。あなたたちの目的も同じみたいだしね、ここで終わらせてあげるわ」
「その意気や良し。こちらも簡単には引かないよ。覚悟を――」
「こっちのセリフよ! 先制攻撃よ!」
「『フリズドバースト』!!」
魔法風の男子が〈三ツリ〉魔法を放つ、――しかし。
「甘い! 秘技――『二刀払い』!」
「魔法が弾かれただとぉぉぉ!?」
リカが割り込んで払った魔法攻撃は明後日の方向へと飛んでいった。
魔法風男子がそんな馬鹿なと驚愕する。
「行っくデースよー!」
「援護は任せてね~。『プロテクバリア』!」
そこにいつも通りの声色でパメラが躍りかかって行き、ミサトが援護する。
こうして決勝戦〈拠点落とし〉の最初の対人戦が始まった。
――そしてこの戦闘の火種が、後々大きな炎となっていく。
―――――――――――
イメージ図の添付先↓
https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16816927861370797013
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます