第561話 要所に集合する者たち。囲まれる〈1組〉。
「来るわよ!」
「うぉぉぉぉ! 『回転薙ぎ』!」
パメラが飛び出すと、斥候女子が叫び大剣男子が前に出て横薙ぎのスキルで迎撃せんとする。
しかし、回避アタッカーとして〈エデン〉でガンガン修業を積んでいたパメラは、これを余裕で飛び越えて回避した。さらに反撃までこなす。
「とう、デース! 『毒手裏剣』デース!」
「何!? ぐああ!?」
大剣を振り切ったポーズで隙だらけな大剣男子が毒の手裏剣三発の直撃を受けて〈毒〉状態となる。それを確認すると二刀女子が前に出た。
「下がって、大剣じゃあのスピードは無理よ! ――『双剣斬り切り舞い』!」
「パメラばかり良い所は渡せないな。――『横文字二線』!」
そこにパメラを追ってきていたリカが追いつき、二刀女子が踊るように強力な連続攻撃を繰り出そうとしたところに割って入った。
リカの攻撃スキルがパリング現象を引き起こし、二刀女子のスキルが相殺され、スキルが強制的に終了させられる。
「――な! このスキルが止められた!? この人たち強――」
「今デース! 『お命頂戴』デース!」
「うっ、きゃあぁぁぁ!」
いつの間にか二対一にさせられていた二刀女子が隙だらけなところへパメラからの一閃が直撃する。
この『お命頂戴』は対人では威力がアップするキラー系スキル。
今の一撃だけで二刀女子のHPは半分近く削られた。斥候女子が焦った声を出す。
「何それ!? ちょっと、援護して、魔法いっぱい使って!」
「お、おう! 『メガフリズド』! 『アイスジャベ――!」
斥候女子に指示された魔法男子が魔法を発動させ始めるが、さすがにそれは見過ごせないと【セージ】のミサトが妨害する。
「ふっふん! だめだめやらせないよ? 『プリズン』!」
「が、ああ!? なんだこりゃ!? 魔法の檻だとぉ!?」
「そこで見ていてねぇ~」
ミサトの
『プリズン』は相手を〈拘束〉状態にする結界の檻だ。閉じ込められている間は〈麻痺〉状態と同じ扱いとなり、魔法もスキルも使えない。
人数差はあるが優勢な滑り出しにリカは呟く。
「レベル差もあるが、優勢だな」
「な、なんなのよあなたたち!」
「私たちは、〈1組〉だ」
さっきまでの余裕はどこへやら、リカの返答に斥候女子が引きつった表情を浮かべた。
◇ ◇ ◇
そんな〈1組〉と〈9組〉のぶつかりを小山の上から俯瞰している男がいた。
(図AE-23付近)
「まさかもうここに張り付いている人たちがいるとは予想外中の予想外。いや、〈1組〉なら当然の結果だったかな。これは僕のミスか。まずいな一度メンバーを下がらせないと」
様子を見に来ていた〈9組〉のリーダー、キールである。
斥候女子たちをあの場所へ行くよう指示した張本人だ。
しかし、なんということか、〈1組〉がさらにその上を行っていたというだけの話だ。
今取り合っている要所は〈9組〉の拠点からかなり近く、拠点選びの時に見た限り〈1組〉の拠点は近くには無いはずだった。しかし、実際に〈1組〉はここにいる。つまりはこの要所を最初から狙い、開始早々まっすぐこの場所に向かってきたということだ。
予想を超える手腕にキールは動く。
「撤退、『アイスアロー』の矢を――いや待て」
共に来ていた【大狩人】のクラスメイトにキールは撤退用に決めておいたスキルを放てと指示を出そうとして、中断する。キールが待てと言うと上へ構えたその腕がピタリと止まった。よく訓練されている。ちなみにこの山にキールが登れたのは彼の運搬系スキルのおかげだ。とはいえ、二人で上れるのはせいぜい小山で、巨大な山を登るのは厳しいが、それでも十分有用だった。キールは彼とツーマンセルで動いている。
中断を口にしたキールの視線は中央山に向いていた。その手には単眼鏡のアイテム。それを右目に構えて遠くを見つめていた。その視線には二つの部隊が見える。
「あれは、はは。まさかもう〈3組〉が来るのかい? しかも北東山のほうからは〈10組〉まで来ているじゃないか。なるほど、これは良い展開だ。ここでメンバーを戻しては〈9組〉の立場がなくなってしまうか。ここは無理をしてでも踏ん張るところ、まだ始まったばかりだというのに、いきなりか。――よし、決めた。増援を出そう」
戦況を確認し、さっきとは打って変わったキールは指示を出し、それを受けた寡黙な狩人が弓の向きを変え、自分たちの拠点がある方向へと矢を放つ。
それは、〈9組〉拠点に貼り付けてある「増援を送れ」と書かれた紙に直撃した。
◇ ◇ ◇
現在戦闘が行なわれている要所、そこでその接近にいち早く気が付いたのは『索敵LV10』と『気配察知LV5』を持つパメラだった。
「む! これはいかんデース!」
「へっ!? 何っ!?」
斥候女子と斬りあっていたパメラは優勢だったのにも関わらず突然身を引いたことで斥候女子が困惑した声を出す。
それに構わず、パメラは大剣男子と二刀女子と斬りあっていたリカの元へ合流した。
「ぞ、増援よ!」
「距離を取れ!」
二刀女子と大剣男子が、パメラが来たことで慌てて距離を取り様子を窺う。
〈1組〉所属だとリカが宣言してから、彼らの警戒度ががらりと変わっていた。
これはちょうどいいとばかりにパメラがリカの側に接近し、小さな声で話しかける。
「リカ、大変デス!」
「どうしたんだパメラ、今いいところだったのだぞ?」
「いいところだったのだぞ? ではないデース、新たな敵影デース! 北側に4人、中央山の方から5人が迫っているデース!」
「何っ?」
合計9人が迫っている。それが同じクラスなのかは定かでは無いが、今の自分たちの三倍の人数が迫っているという報告は、これ以上の戦闘継続を躊躇するには十分だった。
元々リカたちの部隊の役目は斥候潰し、より戦力のある相手を無理に倒す必要はない。
今戦っている4人をこれだけ優勢な状況にしながら戦果無く逃がすのは残念極まりないが、9人の増員はさすがに手に余る人数だった。
しかし、情報無く引くのも躊躇われる。
「ミサト、聞いていたな?」
「うに~、ちょい厳しいね~」
いつの間にか近くにいたミサトも今の話を聞いて難しい顔をする。
「うむ、しかしこのまま引くのもな、私たちは情報収集班でもある。まずはどんな部隊なのか確認してみようと思うのだが、ミサトが厳しければ先に撤退してもいい」
「ううん、大丈夫。私も自分の身くらい自分で守れるよ」
「では私がサポートするデース! 北、見えたデースよ! 中央山から来る5人は――、あ、まずいデス! 一度南に抜けてから回り込んでくる気デース。このままだと退路がなくなるデース!」(北部隊 図AC-19。中央山部隊 図X-21を進行中)
「それはまずいな」
「どっちへ逃げる?」
「南西に絞って退路を作るのはどうデース?」
「……よし、それでいこう」
この要所は北、南西、東の道が合流する地点だ。
しかし現在、東には今戦っていた4人がいる他、北からと南西から敵影が接近していることで退路がピンチになりつつあったリカたち、囲まれる前に脱出という事で情報収集は諦め、結局パメラの案で南西を突破して行こうということに決まった。南西には〈1組〉の部隊もいるため、合流を狙う手もあるとの判断だった。
◇ ◇ ◇
その頃、〈9組〉の4人は大きく安堵のため息を吐いていた。
北から攻めてきた人物たちが良く知る、となりのクラスである〈10組〉だったからだ。
しかも、他のクラスが生き残っているときはお互いに手を出さない不可侵を結んでいる間柄だ。つまりは味方だった。
さらにこの状況、リーダーキールなら最南東にある〈9組〉の拠点から援軍を呼ぶだろう。
斥候女子を含む4人はボロボロになりながらも、なんとか自分が真っ先に退場する事態にならないことに安堵した。
◇ ◇ ◇
要所の南西から〈3組〉が迫ってきていた。
その先頭を進むのは、意外な人物。
リーダーを務める「狐人」のハク、〈百炎のハク〉本人だった。
他に4人のメンバーを引き連れ、迂回しながらも人の多い気配のする方へと向かっていた。
「マップはどうやぁ?」
「順調ですよ、北東側は大体分かりました」
「そりゃよかったわぁ。そんでなぁ、そろそろ大所帯とぶつかりそうやねん、みんな準備してなぁ」
「へへ、がってんです!」
大きく迂回したりクネクネ走り回ったりしていた理由のひとつがマッピングだった。
〈3組〉の拠点は北東の端にあるためまずは東側をグルッと回って地形情報を手に入れつつ、敵の部隊とかち合ったら、情報を持ち帰るのが任務だった。なお、倒してしまっても可。
しかし、その任務に〈3組〉最強であるハクがいるのはどういうことなのか、二つ名持ちのハクに掛かれば大抵の戦闘では負けないからである。つまり部隊が生き延びやすいからだ。
というのは建前で、ハクは戦闘が好きだからだ。むしろチャンスなら積極的に倒しに行くスタイル、それがハクである。斥候部隊の護衛にもなるし一石二鳥と本人は思っていた。
「接敵や! 小手調べ行くぇ――『火炎の渦』!」
挨拶代わりにハクがぶっ放したのは三段階目ツリー、火属性の魔法攻撃の1つ、炎の渦で敵を焼き倒す『火炎の渦』。
それがリカたちにぶっ放されると、ミサトがすかさず反射魔法で跳ね返す。
「魔法攻撃なら私が防ぐね――『リフレクション』!」
「おお? 回避や」
透明な壁が現れたかと思うとそれに直撃した『火炎の渦』がハクたちに向かって跳ね返った。
まさか跳ね返されるとは思っていなかったハクだが、しかしさすがは〈3組〉のリーダー、すぐに回避して事なきを得る。
他のメンバーも全員無事だった。いや、一人少し肩が接触してHPが削れていたが些細なことだろう。〈3組〉の進行がそこでピタリと止まった。
「おお、出会いがしらの攻撃を跳ね返すなんて、良い腕してますなぁ」
「たははは~、すごいでしょ~?」
ハクの驚きと称賛を、ミサトが笑いながら受け止めた。
こんなのまだまだ序の口である。
まず挨拶代わりにぶっ放してきたのは置いておき、ミサトがひとまず聞いておく。
「私たち、今別の人たちと戦っていたんだよね。邪魔しないでほしいんだけど」
「はっは。ええやないか、そのお祭り、うちらも混ぜてぇなぁ」
遠慮なく、堂々と、一歩踏み出して乱闘に参加宣言するハク。
それを見てミサトは一歩も引かず、むしろ前に出た。
「うーん、遠慮させてもらおうかな。なんだかあなたも強そうだし」
「遠慮なんかいらへん。さあお祭りを始めようやないかぁ――『炎の舞』!」
「私たちを甘く見ないでほしいんだよ! 『スピリットバリア』!」
完全に獲物を見る目のハクがいきなり踊る炎を生み出し仕掛けるが、すぐにミサトが魔法バリアを展開して防ぎきる。
炎の余波がそこら中に散らばっていった。
―――――――――――
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