第545話 同盟破棄。すでに勝利の席は埋まっている。




 場所は変わり、〈24組〉の拠点、その1マス手前。

 そこには全力でここまで走って全身を汗だくにしたリーダー、スタークスが荒い息を吐きながら到着していた。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、うぅ、くそ……」


 なかなか落ち着かない息、これからの〈24組〉の行く末、スタークスの精神は完全に不安定になっていた。

 すでに〈1組〉を打倒するという考えは無い。

 どう生き残り、2位へと転がり込むかばかりを考えていた。


「ぜぇ、くそう、ぜぇ、あいつらさえ、ぜぇ、逃げなければ! ゴウまで失ったんだぞ!」


 怒りの矛先は自分たちを置いていった〈45組〉。

 スタークスは考える。数で押せば〈1組〉だってただではすまなかったはずなのに、〈45組〉が先に離脱したせいで〈24組〉は壊滅したのだ。

 いや、そもそも〈2組〉に追撃戦を仕掛けるなんて〈45組〉が先走りさえしなければこんなことにはならなかったのにと、今までの自分の選択を全て棚に上げて〈45組〉を内心で非難する。


 しかし、そこへ、知った声がスタークスへと掛けられた。


「戻っていたのか。その様子じゃこっぴどくやられたようだな」


「――お前は!!」


 振り返るスタークスの前には〈45組〉リーダーギンが立っていた。

 その光景にスタークスの沸点が許容量を超える。


「遅いんだよっ!! 何今更のこのこきやがってんだ!! お前が指揮してなかったせいで〈45組〉のメンバーは僕の命令も聞かずに〈2組〉を襲いに行くし、〈1組〉と遭遇した時は僕たちをおいて逃げた! 僕たちは巻き添えを食らって壊滅的被害を被ったんだぞ!! 大体な――っ!?」


 スタークスの怒りは留まらない、かと思われた。しかし、ギンの後ろから続々とやってくる存在たちを目にしたところでその言葉が不意に終わる。


 そこへやってきたのは〈45組〉だけではない。〈99組〉と〈116組〉の大人数も連れた、大部隊が居たのだ。


「お、おいギン。こいつらは?」


 怒りを忘れたスタークスが思わず聞く。


「〈99組〉と〈116組〉だ。協力してくれることになった」


 端的にギンが述べると、その言葉を飲み込んだスタークスが目を見開き、改めて彼らを見渡し、そして怪しく笑い出す。


「は、ははは、あはははははは!! なんだよギン、それならそうと言えよな! よくやった! ははは! なるほど、〈99組〉と〈116組〉がいたか! これだけの人数だ! まだ俺たちは終わっていなかった! まだ再起できる。あの〈1組〉だってこれだけの数を相手にすればな――!! 今度こそ〈1組〉に勝てるぞ!! ははははは―――!!」


 スタークスは笑う。

〈24組〉もまだ10人以上残っている。〈45組〉〈99組〉〈116組〉の人数は70人を超えていた。合計80人以上の集団だ。これならば十分に再起が果たせる。

〈1組〉を下し、勝ち抜ける可能性は十分にある。

 スタークスの頭の中ではすでに勝利への道筋がえがかれつつあった。


 地獄から天国、まさにその瞬間。

 ――そこへ、ギンから予想外の言葉が告げられた。


「何か、勘違いしてないか?」


「―――ははは、ははははは、は?」


 スタークスの高笑いが疑問に変わる。

 それはギンが、さらには後ろに控える者たちの視線が、どうにも友好的とは思えなかったがためだった。


「ははは? なんだ、ギン、お前、何する気だよ?」


 スタークスの頭は悪いわけではない。すぐにこれの意味することを察してギンに問いかけた。

 そしてギンの答えは、とても明確なものだった。


「我ら〈45組〉は、ここに〈24組〉と交わしていた同盟を破棄させてもらう。理由は言わなくても分かるな? 今の〈24組〉の戦力では同盟相手になり得ないからだ」


 ――同盟破棄。

 同盟とは別にルール化されているわけじゃ無い。同盟は双方同意の上で締結し、そして破棄することも可能となっている。ただ破棄する場合は一応独自のルールが有り、理由無く一方的なものは認められないなどの暗黙の了解がある。

 今回の場合、片方のクラスの戦力が瓦解し、戦力の均衡が崩れた。同盟とはお互い協力関係を築くことを意味し、一方が助けるだけの関係では無い。

 利害関係が一致していれば同盟もありだが、それが崩れた場合は同盟破棄もありうるのだ。


 色々細かな部分は省略するが、この場合、同盟破棄はありとなる。

〈24組〉はこの決定に文句がある場合争うしかない。しかし、争える戦力なんてありはしない。一方的に踏み潰されて終わるだろう。


 また、ここは〈24組〉の拠点前だ。

 こんなところで同盟破棄なんてすればこの後どうなるかなんて火を見るより明らかだった。スタークスの額に青筋が浮かぶ。


「なんだとふざけんな!! 誰のおかげで〈2組〉に勝てたと思ってる!! それにこのあと〈1組〉との戦闘! さらに〈15組〉やほかのクラスとの戦闘まで控えてんだぞ! お前らだけで勝ちぬけるほど甘くない! 俺の職業ジョブがなければ勝ち目なんてあるわけ――――!?」


 激昂したスタークスの物言いが、途中で切れた。

 いや、物理的に切られた。


 ギンの持つ槍スキル『斬槍剣ざんそうけん』によって、スタークスの肩から斜めに斬られたためだ。


 同盟破棄直後に切られたことに信じられないと目を見開くスタークス。

 普通ならば、同盟破棄からの攻撃なんて暗黙のルールに抵触ていしょくする行為だ。


 しかし、スタークスの〈45組〉の扱いは同盟のそれではなく、自分の命令を強制させる行ないが目立った。

〈45組〉は〈24組〉の指示に従い〈2組〉の攻撃部隊を挟撃したのに、その後の〈45組〉の行動は大きく制限しようとした。まるで自分の指示以外では動くなとでもいうような扱いだ。

 スタークスは自分の作戦、防衛専念に〈45組〉を協力、いや強制参加させていた。


 さすがにこれは同盟関係ではないだろう。

 同盟という扱いをされていないのだから自分たちも同盟という扱いをしない、というのがリーダーギンの言い分だった。自分たちが結んだのは同盟では無かったのだ、とギンは行動によって示したのだ。


「スタークス、もう少しお前が〈45組〉に歩み寄っていれば違う結果があったかもしれないな」


「ふざ――け――」


「受け入れろスタークス――『貫通波岩かんつうはがん』!!」


 ズドンッと一突き。

 三段階目ツリーの岩をも貫通する強力な突きを受けたスタークスは、元々が支援職ということもあり、簡単にHPバーをゼロにして退場していった。


「悪いがスタークス、流れが変わった。〈2組〉もおらず、〈15組〉と〈58組〉も壊滅的被害を出したとなると、すでに勝利の席を取り合うのは〈1組〉〈24組〉〈45組〉の三つに絞られる。ならばわざわざ〈1組〉を打倒することもない」


 スタークスにトドメの一撃を放ったギンは、そう言ったあと槍を高く掲げる。


「〈24組〉を落とせぇぇ!!」


「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 ギンの宣言に目の前の〈24組〉拠点へ殺到する三クラスの合同連合軍70名。


 これには拠点に残っていた10名の戦力ではとても太刀打ちできず、一人ひとりと討ち取られていく。

 そして最終的に〈45組〉が拠点を落とす形となり、〈24組〉の7位が決まったのだった。




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