第544話 途中経過、残り時間3時間30分現在。




 ナイスガッツだ。と言わざるを得ない。

 いやぁ。【武僧】の男子。すごい熱い男だった。


『ここは俺に任せて逃げろ!』

 そんなセリフをリアルで言われたらもう熱い展開だよ! もう熱くて熱くて怒りも忘れて気合入れて倒してしまった。

 MPを気にせず〈四ツリ〉連打してしまったよ。少し、大人気なかったかもしれない。

〈MPハイポーション〉をグビッと飲み、ミサトにHPを回復してもらう。


「いやあ。今の戦闘は大変満足だった。〈天下一大星〉の失点なんて忘れてもいいくらいだ」


「「「ほ、本当か!?」」」


 俺の後ろで肩身狭そうにしていた〈天下一大星〉の残り3人が声を揃えた。

 こいつら、土産を持って帰ると息巻いていたくせに、〈2組〉拠点付近に多くの人がいたことで様子を見る作戦に切り替えやがったのだ。追撃隊の存在は教えておいたはずだが。


 おかげで〈2組〉の拠点は〈24組〉に落とされてしまった。

 まあ、情状酌量の余地はある。追撃隊は二クラス30人規模の集団だった。いくら上級職のエステルがいるとしても5人で割り込むのは難しいだろう。

 だが俺なら、〈24組〉〈45組〉と〈2組〉が争っている隙に漁夫の利で拠点を狙ったけどな。

 後方には俺やリカ、ミサトがいるのだから、撤退も視野に入れれば一当てもしなかったというのは情けない。様子見を提案したのは〈天下一大星〉の3人らしいので、失点である。


 せっかく約束通り〈天下一大星〉に活躍の機会を用意したのに、勿体ない。


 しかし、〈天下一大星〉の意見に賛同したのはエステルとパメラも同じであるため、今回のことは水に流すこととなったのだった。

 なんか、失点を取り戻そうと、頑張ったみたいだからな〈天下一大星〉。

 相手は15人もいたのに一歩も退かずに突撃したのはとても評価が高い。まるで決死ともいえる気迫は相手を浮き足立たせ、敵壊滅に大きく貢献した。


 こうして許しを得た〈天下一大星〉が再びやる気に溢れているところを見ていると。

 そこへスィーっと〈蒼き歯車〉で滑ってきたエステルが聞いてきた。


「お疲れ様ですゼフィルス殿。報告です、こちらは逃げられてしまいました。申し訳ありません」


「逃げられたデース」


 パメラの足やエステルの〈戦車〉なら逃げる相手に追いつけるハズだった。しかし、逃げる相手が予想以上にこずるく、〈爆弾〉系アイテムや煙幕などをばら撒きまくって激しく抵抗。逃げられてしまったのだそうだ。


 俺はエステルたちを慰める。


「14人も討ち取ったのだから上々の戦果さ。むしろ1人しか逃げられなかったのだから大したものだよ」


「そういうものでしょうか?」


「それに最後の殿しんがりはとても良か――いや強かったからな。あれを討ち取れたんだ。〈24組〉にはあれと同じかそれ以上の学生は多分いないだろう。大きな戦果だと胸を張っていいぞ」


「はいデス!」


「確かに、殿を務めた方はとても強く勇敢でしたね」


 俺の言葉にパメラとエステルが頷く。

 身を犠牲にしてまで逃がすとか、俺も一度やってみたいぜ。

 エステルも何か共感できることがあったみたいだ。


「ということで全員、一旦休憩だ。準備が整ったらすぐに出るから、ちょっぱやで回復してくれ。あと、被害状況、誰か分かるか?」


 続けざまの戦闘でみんなのMPもかなり減っているはずだ。

 ここで一度休憩を取ろうと思う。俺も何度か〈MPハイポーション〉をあおる。

 あと、ハンマー少女アディとの戦闘の時にみんなと一時離れていたので、被害状況の報告を募った。


 するとエステルがすぐに報告してくれる。


「はい。では私が。今のところ攻撃担当で退場しているのはサターンだけですね。〈2組〉リーダーにより一発で退場していきました」


「ぶはぁ!!」


 思わず笑いが噴出ふきだした。

 ヤバイ。

 改めて言われると腹の内から込みあがってくる衝動に威厳が保てない。

 あれだけおごってたサターン負けてるとか、ちょ、笑いが――。


「ゼフィルス殿?」


「おっほん、ごっほん! ふう……。危なかった。だ、大丈夫だ」


 なんとか咳払いで誤魔化す。負けられないとか言っていたような気がするが……、サターン……。

 まあ、このブロックを勝ち抜けばまた復活できるので、まだ大丈夫だ。多分。

 後で頑張れと応援しておいてあげよう。

 なぜか憤慨するサターンが見えた気がしたが、きっと気のせいだろう。


「他は危うく退場寸前まで追い込まれた人もいましたが、退場していなければ回復できますし問題ありません」


 話の途中でチラリと〈天下一大星〉の方を見るエステルに誰が危なかったのかを察する。まあそうだな、退場しなかったのだから問題無い。


「オーケー。じゃ、途中経過を見るか。今どんな感じかな?」


 時間を見ると、俺たちが〈1組〉拠点を飛び出してからすでに30分が経過したところだ。

 そろそろいろんなところが行動を起こしているだろう。どれどれ?




 途中経過――〈残り時間:3時間30分00秒〉

〈1年1組〉『残り人数:26人』『ポイント:99点』2位

〈1年2組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』陥落

〈1年15組〉『残り人数:5人』『ポイント:0点』

〈1年24組〉『残り人数:11人』『ポイント:367点』1位

〈1年45組〉『残り人数:24人』『ポイント:31点』3位

〈1年58組〉『残り人数:5人』『ポイント:0点』

〈1年99組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』

〈1年116組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』



 …………あれ? これすでにクライマックス入ってね?


 高位職クラスの人数が軒並み激減してんだけど?


〈学生手帳〉を覗き込んだ俺とエステルは顔を見合わせる。


 なんともいえない空気が漂っていると、そこに音もなく飛び込んできた者がいた。


「ゼフィルス」


「うお!? ってカルアか! いいところに来た!」


 そういえばカルアには30分が経過した時点で一度合流せよって伝えておいたんだった。

 戻ってきたらしい。


「ん。報告がある。たくさん」


「おう。聞かせてくれ」


 カルアは俺たち〈1組〉の目だ。

 色々探らせていたのが幸いし、ここで詳しい情報が聞けるのはマジで助かるぜ。


 こうして俺たちは現在このブロックで起きている戦況を聞く。




「そんな感じ」


「……なるほど」


 …………えっと?

 とりあえず戦況はわかったが、何これやっぱりとんでもないことになってるな。色々とみんな動きすぎだ!

 というか〈1組〉の拠点襲われてんじゃん! 幸い拠点にたどり着く前に撃退したみたいだが。今度から攻め込まれたらすぐに連絡してほしいとカルアに言っておかないとな。


 しかし、おかげで守りが薄っぺらいクラスが複数できている。是非襲ってくださいと言わんばかりだ。

 これは、攻めるしかあるまい。


 カルアの報告を咀嚼し、いくつかのプランを頭の中で描いていく。

 とりあえずすることは、だ。


「カルア、セレスタンに指示を持って行ってくれ、〈58組〉と〈15組〉の拠点を落とせと」


〈15組〉と〈58組〉とのバトルはまだ終わっていないということだな。


 そして俺たちも、動くとしよう。


〈45組〉は大戦力をもって〈24組〉へと向かったらしい。


 おかげで〈99組〉と〈116組〉が手薄とのことだ。


 そろそろ2位からは脱却しておこうか。

 ここから派手に逆転してやるぜ!



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