第523話 〈召喚盤〉の設置? 俺が決めてあげよう。




「さて、生徒諸君! 力の限り挑むがいい! ただし、ルールはしっかり守ること。これは成績にも関係する。無茶な行動は学生の特権だが、あまり度が過ぎるようでは減点もありうることを忘れないように――」


 ラダベナ先生のありがたいお言葉がアリーナに響く。


 現在、これからクラス対抗戦、〈拠点落とし〉を行なう8クラス、総勢240人がアリーナ中央付近でクラスごとに並び、最後の言葉をいただいていた。


 みんな姿勢よく話を聞いている。おかげで身が引き締まったようだ。

 多分理由はラダベナ先生が言っていた減点という言葉が原因だろうが。


 このクラス対抗戦は10月に行なわれるクラス替えを見越した実力の証明、期末試験の延長のような立ち位置となっている。

 そのためかみんな気合の入れ具合が違うな。俺もワクワクしてる。


 その後、〈拠点落とし〉についてのルールを軽くおさらいし、話は終わる。


「――以上だ。生徒諸君らの健闘を期待するよ。位置につきな、10分後に第一ブロックの試合を始める。時間までに拠点についていない奴は強制退場だよ」


 強制退場とは恐ろしい。


 しかしそうか。リアルだとフライングがありうるのか。ゲームだとそういうズルはシステム的に出来なかったからな。が、リアルでもちゃんと対策されているようだ。 


 その言葉を最後に学生たちの足下に転移陣が光った。

 退場させる転移陣と同じ文様だが、これは俺たちをクラス別に拠点へ送るための転移陣だ。見ればラダベナ先生の隣でムカイ先生がタブレットを操作している。


 俺たちはすぐにそれぞれの拠点へと送られるだろう。

 移動に転移を使うとは贅沢だけど、これは拠点の位置を予測されないために必要なことなんだろうな。じゃないと試合開始直前に拠点の位置を選んだ意味が無い。

 その辺徹底してる。



 さて、俺たちの拠点があるのは北西の山脈の向こう側。アリーナの端と山脈に囲まれた地帯にある。山脈を背にして配置することで相手の進路を限定し、拠点を守りやすくする地形に置かれている。


 一瞬、視界が光に包まれた後、俺たちは〈1組〉拠点の前に立っていた。


「わ! これが私たちの拠点ね!」


「本拠地と見た目は変わらないのね」


「ま、そういうシステムだからな。しかし、内部はちょっと違うぞ」


 ラナとシエラの感想に俺は頷いて答える。

〈拠点落とし〉は本拠地を拠点と言い換えているだけで見た目はさほど変わらない。見た目は大きな城と言ったところ。

 だが、一部本拠地にはない重要な要素がある。


「このコンソールを見てくれ」


 30人が余裕で入るくらい大きな拠点の中に入ると、中は広場になっていた。

 そして、その中央には黒曜石のような石で出来た、ファンタジー遺跡の内部にありそうな石版コンソールが鎮座していた。俺はまっすぐそれに近寄るとみんなに聞こえるように言う。


「コンソール? 聞きなれない言葉ね」


「まあそうだろうな。これが例の〈召喚盤〉でモンスターを召喚させる装置だ」


「これが?」


 シエラが興味深そうに見る。いやシエラだけじゃない、クラスメイト全員が興味深そうに観察していた。


「〈召喚盤〉をはめ込む窪みが3箇所あるわね」


「ここにまず〈召喚盤〉をはめ込むぞ。そうすれば防衛モンスターを配置できるようになる。最大10体まで召喚可能だ」


「その代わりコストがあって、あまり強いモンスターは召喚できないのよね」


「シエラの言うとおりだな。今回のコストのストックは100まで。一度設置した〈召喚盤〉は試合が終わるまで変えられない。一つの〈召喚盤〉からは何体でもモンスターが召喚可能だ。弱いモンスターなら低コストで召喚できるため10体フルで召喚可能だが、やられやすい。やられると20分間、その分のストックが上限から下がり、回復しない。また倒されたモンスターのコスト分の点が倒したクラスに入る」


 例えば〈ゴブリンLV10〉ならコスト1としよう。俺たちは最大の100のストックを持ち、コスト1のモンスターを召喚するとストックは99となる。

 コストが低いので10体フルで召喚できる。その代わり弱いのですぐにやられる。

 やられたら20分間ストックは減った90のままだ。モンスターも、ストックはあるが上限に引っかかるのでその間は召喚出来ない。そして20分後、回復しストックは100に戻り、モンスターの再召喚が可能になる、と言った感じだな。


 強いモンスターだと、例えば〈猫ダン〉の〈チャミセンLV56〉ならコストは20だ。

 最大で5体までしか出せない上にやられると20点が相手に入り、さらに防衛戦力がガクンと落ち、ストックが足りず20分間他のモンスターすら召喚出来なくなってしまう。

 これは拠点を落とされるピンチにもなりうるな。よく考えてバランス良く配置することが求められる。


 モンスターは基本回復を受け入れず、召喚から戻すことも出来ないため傷ついたら傷ついたままだ。つまり、いつかはやられてしまう。例外はモンスター自身が回復する何かを持っていることくらいだな。これは【召喚術師】系が召喚したモンスターという訳でも無いため職業ジョブによる回復は普通できないんだ。


 これを許容するか否か、三つの〈召喚盤〉をどう組み合わせやりくりするかが重要だな。

 これが原因で勝敗を分ける可能性も高い。


「相手に点を入れるのを嫌って防衛戦力を薄くするか、逆に防衛戦力を厚めにして拠点を落とされ難くするのか、考えものね」


 シエラが相づちを入れてくれることでみんなに〈召喚盤〉の認識を再度思い出してもらう。


「逆にコストの低いモンスターばかりを入れて、やられたら即補充することで20分耐え抜き、召喚無限ループさせる戦法もあるな。拠点を落とされなくちゃモンスターが消えないーってやつ」


 モンスターが無限湧きのように出てくる〈即湧き〉という戦法だ。

 モンスターをずっと倒していられるので拠点を攻撃されづらく、時間稼ぎに良い戦法だ。

 俺も一度、〈即湧き〉で相手が点稼ぎに夢中になっている間に相手拠点をカウンターで叩き潰したことがある。

 とはいえこれは諸刃の剣だけどな。


 すべてはやり方次第だ。


「ゼフィルスよ。何か考えがあるのだろう?」


「ふふ、こと〈召喚盤〉に関して、いえ、防衛に関しては全てあなたに一任していますからね」


 サターンとジーロンの言うとおり、俺はこの〈召喚盤〉の選択を含めた防衛に関する作戦を全て任されていた。

 みんな〈拠点落とし〉初心者だからな。俺に一任した方がいい結果になるに決まってると言われた。

 ただ、クラスメイトたちが何の反論も無く受け入れたのは少し寂しかったけどな。

 何かもっと議論とかないのか!? もっと語ろうぜ!?

 いや、さすがにそこまで求めるのは酷か。みんな〈拠点落とし〉初めてだもんな。


 おっと、そうだった。〈召喚盤〉の話だったな。

 俺は一つ頷いて〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から3種類の〈召喚盤〉を取り出した。


「もちろん用意してきたぞ。これが俺がオススメする召喚モンスターたちだ」


 俺が〈召喚盤〉をくぼみにセットすると、コンソールがブオンッと起動音を出し、一部の石版が動き出してホログラムを表示した。


 そこには3種類のモンスターたちの等身大立体映像が映っていた。


「な、なぁぁぁぁぁ!! ゼフィルス、これはなんだ!」


「ふ!? こんなもの、用意してしまっていいのですか!?」


 サターンとジーロンが叫ぶ。周りを見れば、知っていたシエラ、ラナ、エステル、カルア、セレスタン以外全員がざわざわしていた。


 俺が用意した〈召喚盤〉その内容は。

〈ウルフLV15〉コスト2。

〈リーダーウルフLV25〉コスト7。


 そして、


 ―――〈ジェネラルブルオークLV70〉コスト70。


 こんな感じだった。

 みんな〈ジェネラル〉に釘付けだ。





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