第519話 上級職の練習完了。準備は整い明日へ挑む。




〈強者の鬼山ダンジョン〉20層フィールドボス、〈ツインズブルオーク〉との戦闘は有利に進んだ。


 さすがに初のツインズボスだ。

 みんな少し戸惑いの色もあったが、ボスの経験はそこらの学生より豊富すぎるほどある。

 次第にツインズボスの対処法にもすぐに慣れ、さらに俺がいくつかの攻略法を見せ指示を出すことにより完全に有利な状況で事を運ぶことが出来た。


「ブルオオオ!!」


「ブオオオ!」


「おっと、今度は背中合わせか。シエラ、〈後ブル〉を頼む! エステルとカルアは〈前ブル〉だ、スイッチ!」


「了解よ」


「はい! ――『ドライブターン』!」


「らじゃ。――『フォースソニック』!」


〈ツインズブルオーク〉のHPバーがレッドゾーンに突入し、〈後ブル〉が〈前ブル〉の背中に立ってお互いの背後をかばう陣形を組む。

 こうなると前後左右に死角が無くなり、背後に回って攻撃するなどの安全な攻撃が行なえなくなる。方円の陣だ。攻撃力も五割増しになる。


「シエラは接近戦を! エステル、カルアはヒットアンドアウェイだ! 攻撃力が上がってるから当たらないよう気をつけろ! ラナ、とどめ行くぞ!」


「まっかせなさい! 『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』!」


「俺も行くぜ! 『ライトニングバースト』!」


 この陣形の対処法は簡単で、下手に動きづらくなる分、遠距離からのチクチク攻撃に弱くなるのだ。

 唯一の対抗手段を持つ〈後ブル〉もシエラが押さえれば問題ない。

〈前ブル〉はカルアとエステルに引きつけてもらい、俺とラナが遠距離から魔法を叩きこんでいき、最後のHPを削り取る。


「これで止めよ! 『大聖光の四宝剣』!」


「ラストアタックはいただきだぜ、『サンダーボルト』!」


「「ブルアアアァァァァァ――――!!」」


 止めと放ったラナの四つの光の剣と俺の雷の巨矢が直撃し、〈ツインズブルオーク〉のHPがゼロとなり、膨大なエフェクトの海が発生する。

 そうして初のツインズボスは同時にエフェクトの海へ沈んで消えたのだった。


「やったわね!」


「おう! ばっちしだったぜ!」


 やってきたラナとハイタッチを交わす。


「シエラとエステル、カルアもお疲れ様! どうだったここのボスは?」


 そのまま三人の下へ歩いて行くと労いの言葉を掛けた。


「ゼフィルスお疲れ様。特殊なボスだったわね。あんなボスがいるのね」


「ゼフィルス殿の指示が無ければ危なく手痛い反撃を受けていた場面がいくつもありました」


「ん、手強かった。でも余裕」


「もうカルアったら。余裕だったのはゼフィルスの指示のおかげでしょ?」


 シエラ、エステル、カルアが〈ツインズ〉の感想を言い、ラナがピッと指を立てる。


〈ツインズ〉はその行動から、今までの単体のボスとはまったく違うタイプのボスだ。

 連携もさることながら反撃によるヘイト無視、ダウンを取ってもそれがチャンスとは限らないフォローもしてくる。

 俺は全て熟知しているから余裕だったが、エステルやラナの言うとおり、知らなければ大きく崩されていただろう場面はちらほらあったのだ。

 所謂初見殺しというやつだな。俺に初見殺しは効かん! だって初見じゃないし。


「これからはああいったクセのあるボスが出てくるようになるのね」


「だな。とはいえ対処法を知っていれば上級職なら余裕だけどな。そうだ、みんな新装備の使い心地はどうだ?」


「……そういえば、今日の目的は新装備の慣れがメインだったわね」


 俺の言葉に今思い出したとばかりにシエラが目をぱちくりする。

 その通り、ボスとの戦闘も、上級職と新装備の練習の一環いっかんでしかない。

 とはいえ、初の中級上位ボスが今までと違いすぎて意識からこぼれ落ちてしまっていたようだ。


「俺の見た限りじゃ、みんな明日のクラス対抗戦は大丈夫そうな仕上がりだが」


「そうね。集中できていたからかしら。前よりスムーズに動かせている気がするわ」


「私も同感です。まだまだ練習は必要かと思いますが、クラス対抗戦には支障ないくらいには整えられたかと思います」


 下級職のときと運用が大きく変わったのはシエラとエステルだ。

 空中に四つの小盾を展開する〈操盾〉。

 足に円盤型の車輪を付けて単身走行する〈戦車〉。


 慣れるには相応な時間が必要になるはずだが、職業ジョブの恩恵も手伝い、二人は中級上位ダンジョンのボスが相手でも引けを取らないくらいには使いこなすことが出来ていた。

 これなら明日のクラス対抗戦でも問題無いだろう。


「私は〈白の玉座〉の使い心地がまだ分からないわ。ぶっつけ本番になるとは思うけど、大丈夫かしら?」


 ラナがやや不安そうにして俺を見上げて聴いてくる。


 新装備、〈白の玉座〉は、非常に強力な固定回復砲台だが、その場から動けないためダンジョンでの運用はあまりオススメできない。能力も活かせないしな。

 その真価を発揮するのはやはりアリーナ。

 何度か練習はしてみたが、アリーナで何十人も対象とする回復はまだやったことが無く、これはぶっつけ本番となるだろう。それと〈白の玉座〉に隠された真の能力の運用も。


 しかし、それはともかく不安そうなラナを励ますのが先決だ。


「大丈夫だ。回復役はラナだけじゃないし気楽にいけばいいさ。それにラナは対象を狙う必要がほとんど無い【大聖女】。超遠距離でも大丈夫だ」


 ラナの【大聖女】は祈りを捧げることで対象を回復させる。

 回復系の魔法使いのように狙って魔法を撃つなんてしなくて良いので命中率が段違いに高いのだ。ゲーム時代は誤射なんてものは無いにひとしかったが、リアルだとこれがあり得るからな。対象を狙い撃ちしなくても祈っただけで回復させることが出来る【大聖女】は、やはり〈ダン活〉最強のヒーラーにふさわしい。


「ん、私は、大丈夫」


「カルアはあまり変わってないからな。俺もだけど」


 カルアと俺の装備はほとんど変わっていないため単純にパワーアップしただけだ。

 まあ、俺は今後〈竜〉という名の装備を得る予定なので大きく変わるだろうが、カルアの【スターエージェント】は高の中ということもあり、そんなに劇的には変わらない。

 そのため運用は容易たやすいみたいだ。


 結論として、明日のクラス対抗戦の準備は、一先ず完了したということでいいだろう。


「明日が楽しみだな」


「そうね! もう少し練習したかったけど、明日に備えてもう帰った方がいいかしら」


「はい。ラナ様、素晴らしい判断だと思います。明日に疲れを残さないのも重要でしょう」


「賛成ね。それにもう日が暮れそうだもの。ドロップを集め終わったら今日はもう帰りましょう」


「ん、集めてきた」


「カルア早いな!?」


 こうして初の中級上位ダンジョンの攻略はとりあえず終了し、俺たちはショートカット転移陣を起動して帰還する。

 20層のフィールドボスの宝箱は、みんな興味なさげにしていたことでお察しだが、〈木箱〉だった。

 まあ、道中の宝箱が非常に良い物が出まくったため問題無し。


 今回のダンジョン攻略の中で非常に良かったのはやはり〈ジェネラルブルオークの召喚盤〉だろう。くくくっ、ワクワクするな!

 それに他のクラスがどんな〈召喚盤〉を用意してくるかも興味が尽きない!


 明日からのクラス対抗戦。


 この世界に来て初の〈拠点落とし〉だ!

 明日がとても楽しみだぜ!




 第十章 -完-


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