第518話 二体で一つのボス。〈ツインズ〉現る。




 俺たち一行は今日の終着地点たる20層の奥地、21層への入口がある広場までやってきていた。


「さて、とうとう着いたな。20層フィールドボス!」


「また〈ブルオーク〉系なのね。でも二体?」


 そこに待ち構えていたのはシエラの言うとおり、二体の〈ブルオーク〉。

 片方は両手に大剣を持つ二剣使い。アーマーを身体に着込み、先ほどの〈ジェネラル〉を感じさせる武将のたたずまいだ。近距離型をメインにするタイプだな。

 もう片方は腕にクロスボウを装着し、背中に長い槍を二本背負っている。こいつは遠距離と中距離を担当するタイプ。

 そしてHPバーは、なんと一つしかなかった。


 そう。この〈ブルオーク〉たちは二体で一つのボスという特殊なタイプのボスだ。


「名称を〈ツインズブルオーク〉。二体で一つのボスだ。HPを共有しているからどちらに攻撃してもダメージが入るが、共有しているのはHPだけじゃなくヘイトも共有しているのが厄介なところだ」


「ヘイトを共有? それって一体のヘイトを稼いだら二体ともターゲットにされるということ?」


「ご明察だ。さすがだなシエラ。あれは両方がボスなのではなく、両方でボスなんだ。片方だけヘイトを稼いで分散させる今までの方法が使えないほか、狙われるときは必ず二体を受け持つ必要がある」


「なるほどね。さすが中級上位のボス。一筋縄ではいかなそうだわ」


「いけるか、シエラ?」


「この操盾そうじゅんに死角は無いわ。任せて」


「よっし。頼んだ!」


「前に出るわ! ――『四聖操盾しせいそうじゅん』!」


 シエラが掛け声と共に前へ出る。

 左右の腰と腿の後ろに装着されていた四つの小盾に光が灯り、空中に浮き上がってシエラの前後左右に展開する。


 それを見て、隣にいたエステルがいつ飛び出してもいいように槍を構えた。

 足元の〈蒼き歯車〉がエステルの挙動に反応し、すぐに飛び出せると言わんばかりにタメをつくっていた。


「二体でボスとは……、私は後衛のボスを狙えばよろしいのでしょうか?」


「そうだな。だが反撃に気をつけろ。後衛は狙ってくる相手にヘイト関係なく反撃をする場合がある」


 ターゲットはもちろんシエラだが、前衛タイプの〈ブルオーク〉通称〈前ブル〉も、それを援護する後衛タイプの〈ブルオーク〉通称〈後ブル〉も、攻撃されるとたまにタゲ関係なく反撃してくる場合がある。


 しかし、後衛の〈後ブル〉を野放しにしておくと好き放題動かれるためやっかいだ。そのためエステルとカルアを突入させ行動を封じる狙いだな。


 中級上位のボスはさすがにやっかいだぜ。


「ブルオォォォ!」


「ブアァァァ!!」


 接近するシエラに〈ツインズ〉が叫び、臨戦態勢を取る。


 まず後衛タイプの〈ブルオーク〉、〈後ブル〉が両手に装備したクロスボウでシエラを狙いスキルを使って攻撃する。

 エフェクトを纏いながら接近する矢を、しかしシエラは小盾を前に出すことで防いだ。

 カンカンッと矢が弾かれる音だけが響く。


「私に矢弾やだまの類は効かないわ。――『シールドフォース』!」


 なんかかっこいいキメ台詞! それと共にヘイトを稼ぐシエラ。

 き、キマってるぜ!


「今――行きます! ――『オーバードライブ』!」


「ん! ――『爆速』!」


 シエラがヘイトを稼いだ瞬間、スピードの速いエステルとカルアが爆走する。

 目指すは〈後ブル〉。行動を防ぐ狙いもあるが、攻撃しやすいのはまさしく後衛のほうだ。素早さが早いメンバーでかく乱する!


「援護するわね! 『獅子の大加護』! 『守護の大加護』! 『迅速の大加護』!」


「俺も行く! ――『属性剣・雷』! 『ソニックソード』!」


 ラナがバフを掛けて味方を援護し、俺も前に出る。


 俺が狙うのは前衛タイプの〈ブルオーク〉、〈前ブル〉だ!


「ブルオオオ!!」


〈前ブル〉が怒りと共に右手の剣で突きを放つ。スキルエフェクトを確認。あれは『鬼剣きけん突き』! 貫通力があり、鎧系相手にダメージ上昇効果を持つスキルだ。


「――『鉄壁』!」


 しかしシエラは自分の〈白牙しろきばのカイトシールド〉で攻撃を受け止める。

 スキル『貫通耐性LV5』『衝撃吸収LV7』を持つシエラの大盾は〈前ブル〉の一撃を簡単に押さえ込む。


「ブオオオオ!!」


 それならばと両手の大剣を振り回す『鬼乱舞』を繰り出す〈前ブル〉、しかも攻撃の合間に〈後ブル〉からのエフェクト付きの矢がシエラを襲った。一体のボスから二種類のスキルによる同時攻撃。

 だが、我らが最強盾は伊達ではない。


 シエラは一定時間動けなくなる代わりに硬い防御を繰り出す『鉄壁』で、乱舞を完全に受けきった。しかも浮かせていた小盾は自由に動くために遠距離の矢は全て弾かれてしまう。

 今まで自由を封じられるデメリットがあった『鉄壁』をしながらの自由に動く盾防御だ。さすが上級職! デメリットを大幅に緩和していた。


 そのため二種類のスキル同時攻撃は、シエラに完全に防がれて終わってしまう。


「次はこちらの番です! 『ドライブターン』! からの――『戦槍せんそう乱舞』!」


「斬る。――『フォースソニック』! 『鱗剝ぎ』!」


「ブルオオォォォ!」


 そこへエステルとカルアが素早く〈後ブル〉に襲いか掛かった。

 接近する二つの影に、クロスボウとスキルを使用したばかりの〈後ブル〉の反応が遅れ、いい攻撃が入る。しかし、〈後ブル〉はすぐに体勢を立て直すと、背中の二本の槍を両手に持って反撃に出る。器用に片方の槍をエステルへ、片方の槍をカルアに向けて、叩いては突く、叩いては突くを繰り返す『鬼叩き突き』をくりだした。


「む、鋭いです――『ドライブ全開』!」


「ん――『回避ダッシュ』!」


 しかし、素早く動くエステルとカルアを捕らえることは難しく、攻撃は不発に終わる。


「本当にターゲットを完全に無視して攻撃してくるのですね。知っていなければ手ひどい攻撃を受けたかもしれません」


「ん。強敵」


 シエラを相手にしつつ、攻撃してきた他のメンバーにも反撃を行なう。それが〈ツインズ〉の厄介なところだ。

 しかし、〈後ブル〉の対応はこれで正解だ。反撃が怖いからと仕掛けなければ〈後ブル〉を自由にしてしまう。ターゲットを無視する敵を好き放題にさせるのは悪手。

 故に、あえて反撃させて〈前ブル〉から目を離させた。俺の本命は〈前ブル〉だ。


「ここだぁ! ――『勇者の剣ブレイブスラァァァァッシュ』!!」


「ブルアアァァッ!?」


 シエラの堅い守りを打ち砕こうと奮闘していた〈前ブル〉、俺はそこへ側面からユニークスキルを使って襲い掛かった。

 〈前ブル〉は猪突猛進で接近されても反撃に出ることは少ない。

 もちろん周囲範囲攻撃などでなぎ払ってくる場合もあるが、シエラへ攻撃を集中させていたタイミングに上手くあわせることができたため反撃は無し。

 俺は〈前ブル〉がたたらを踏んで怯んだこの隙にどんどん攻撃の手を加えていく。


「おぉりゃー! 『聖剣』! 『ライトニングバニッシュ』! 『ライトニングスラッシュ』! 『ハヤブサストライク』!」


「ブルアアァァァッ!?」


 流れるように攻撃、いい感じに隙を突けた。

 こりゃ大ダメージが入ったな。


 慌てたようにして〈前ブル〉が大剣を両手を広げて持ち、まるでヘリのプロペラのように回転する『ジャイアント鬼剣デンジャラス』を繰り出す。周囲範囲攻撃だ。触ったら超デンジャラス!

 しかし、それが来ることはすでに見通していた俺である。

 すぐにバックステップし範囲外に出ると、〈天空の剣〉の切っ先を〈前ブル〉へと向ける。


「その攻撃は周囲に満遍なく攻撃でき、しかも範囲が割と広いから近接、中距離系は近づくことができない良スキルだ。だが、遠距離攻撃も持っている相手からすると、それは最大の隙だな。――倒れろ、『サンダーボルト』!」


〈天空の剣〉の切っ先から、巨大な雷の矢が放たれる。

 俺の四段階目ツリー、単体攻撃型の雷属性魔法『サンダーボルト』。単体へ絶大なダメージをプレゼントする優秀な魔法だ。


「ブ、ブルアアァァァァッ!?」


 完全に直撃を受け、大ダメージの連続にとうとうクリティカルダウンする〈前ブル〉。

 ダウン! 本来ならこれは大きなチャンスである。しかしこいつ相手だとそれが微妙に当てはまらない。

 飛び出そうとするエステルとカルアを俺は押し留めた。


「エステル、カルア、待機!」


「ブルアアアア!!」


 瞬間、〈後ブル〉がわき目も振らずに全力ダッシュで〈前ブル〉の元までやってきた。


「な! ボスがダウンのフォローをするのですか!」


 エステルが驚きの声を上げるのもわかる。

 せっかくダウンした〈前ブル〉だが、〈後ブル〉がフォローに駆けつけたのだ。

 倒れた〈前ブル〉の前に立ちはだかり吠える〈後ブル〉。


「今攻撃してたら危なかった」


「ゼフィルス殿に感謝ですね」


 もしいつも通り総攻撃をしていたら全力ダッシュしてきた〈後ブル〉によって手痛い反撃を受けていただろう。故に俺は待機を命じていた。

 しかし、理由はそれだけじゃない。


「まだ攻撃するなよ!」


 俺はさらに指示を出す。

 それにはみんな動揺したようだった、今の〈後ブル〉なら〈前ブル〉を庇っている為攻撃のチャンスなのではないかと思ったのだろう。それも正解なのだが実はこのタイミングで攻撃しないと面白いことが起こるのだ。

 俺はそれを見逃さない。


「ブルオオ!」


「ブオオオ……」


 なんと攻撃の手が来ないと知るや、〈後ブル〉が〈前ブル〉に手を貸し出したのだ。

〈前ブル〉がその手を握り、ダウンから復帰する――――させるわけがない!


「このタイミングだ! 『ライトニングスラッシュ』!!」


 ズドンッ! ダウンから即復帰させるために〈後ブル〉が手を貸した、その最大の隙を、俺は容赦なく雷の剣で後ろからぶった切った。すると、たたらを踏んだ〈後ブル〉が―――。


「ブルオオォォ!?」


「ブオオオォォォ!?」


 まるで水から引き上げようと手を差し伸べたところに後ろから蹴りを食らわされて一緒にドボンしたがごとく。

〈前ブル〉と〈後ブル〉は仲良く絡まってダウンしたのだった。


「今だ大チャンス! 総攻撃だぁぁー!!」


 これが〈ツインズブルオーク〉のダウン方法よ!



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