第516話 〈金箱〉の中身は! 切り札が一個増えたぞ!




「「〈金箱〉!」」


 ドロップした金色に光る宝箱を見てフィールド内に二つの声が響いた。


 もちろんラナと――俺だ。

 ハンナが居れば三つの声が響いていたであろう。


中級上位チュウジョウ〈金箱〉一番乗りぃぃっ!!」


「ちょっとゼフィルス待ちなさい!」


 俺は〈ジェネラル〉にトドメを刺したために宝箱に一番近い位置に居た。むしろ目の前に居た。ちょっとしゃがめば手が届く距離である。

 思わず一番槍を決めた武士のように叫んでしまったら、遠距離攻撃のため少し離れていたラナから抗議の声が上がった。


 慌ててこっちに来るラナ。優しい俺はそれを少し待ってやるのだ。

 衝動に駆られてパカリと明けたら後々大変な事になるからだ。


 とりあえず、〈幸猫様〉にお祈りをしておこう。

 いつも〈金箱〉をありがとうございます!


「ゼフィルスに付いて行くと大体良いのが出るのよね。なんでかしら?」


 シエラが首を傾げながら〈金箱〉を見つめて言う。

 それはね、お供え物とお祈りと感謝、ついでにお願いをいつも捧げているからなのだよ。

『幸運』スキルにただ頼っているだけじゃ〈金箱〉は得られないんだぜぇ?(迷言)


「ゼフィルス殿の普段の行ないのたまものでしょう」


「……そうね。なぜか納得するわ」


 そうだろうそうだろう。エステルは核心を突いてきたな。


「追いついたわ!」


「ん。見る」


 気がつくと全員宝箱の前に集まっていた。


「さて、〈金箱〉は一つだけだ。誰が開けるか?」


 ジッと、ラナと視線が合わさる。


 さっきはカルアが〈銀箱〉を開けたのだ。

 ならば次に順番が回ってくるのは俺かラナとなる。

 中級上位ダンジョン初の〈金箱〉だ。ここで退く訳にはいかない!


 俺から仕掛ける!


「早口言葉で勝負だ!」


「受けて立つわ!」


「何か始まったわ……」


「平和な勝負ですね」


「ん」


 シエラが相変わらずジト目を向けてきている気がする。

 俺の口が滑らかに回る。


「〈丘陵きゅうりょう恐竜きょうりゅうダンジョン〉〈丘陵の恐竜ダンジョン〉〈丘陵の恐竜ダンジョン〉! ふっ……」


 言い切ってやったぜ。思わずグッと握り拳を作る。


「く、やるわねゼフィルス……」


 俺の早口言葉にラナが若干怯んだ。次はラナの番だ。


「行くわ。すぅ――〈きゅりょの恐竜ダンジョン〉〈きょりゅうのきょりゅうダンジョン〉〈きゅうりのきょうだいジョン〉! ――どう!」


「言えてなかったぞ」


「うぅ……。仕方ない、わね。今回は譲って上げるわ。その代わり、次は私に〈金箱〉を開けさせてよね!」


「おう」


 自分でも言えていなかったと分かっていたのだろう、ラナが潔く引き下がる。


 こうして早口言葉勝負は即で終了し。俺が宝箱を開ける事になった。


「さて、中身は何かな?」


「中級上位ダンジョンの〈金箱〉だもの、なんかいつも以上にドキドキするわね」


 俺の隣にしゃがみ込んだラナが若干興奮しながら宝箱を見つめる。


 何しろこの世界では中級上位ダンジョンの〈金箱〉と言えばもう最高位に近い代物だ。

 これより上はレアボス〈金箱〉くらいしかない。

 中身は間違いなく強力な何かが入っていると分かっているのだ。

 その興奮は並ではないだろう。


 その証拠にあのシエラやエステルからの注目度もいつもより上な気がする。

 カルアはいつもの調子だ。


「じゃ、開けるぞ? 良い物をどうかお願いします〈幸猫様〉!」


 再びお祈りとお願いを捧げながらパカリと〈金箱〉を開ける。

 中に入っていたのは。


「これは――〈召喚盤〉!?」


「これはまた、とんでもない物を引き当てましたね」


 宝箱の中を覗き見たラナとエステルがそれを見て驚きと感想の声を上げる。

〈金箱〉の中に入っていたのは円盤形で幾何学模様が画かれた石版だった。

 大きさは30cm弱、結構大きい。


 ラナの言うとおり、これは〈召喚盤〉と言って、モンスターを召喚するために必要なアイテムだ。

 ちなみにカルアやシェリアも召喚系が使えるが、こちらはアイテムには頼らない形で召喚するが、その代わり召喚するものは固定のタイプ。

 この〈召喚盤〉は、〈召喚盤〉の種類によって召喚することの出来るモンスターを変える事が出来るのだ。

【召喚術師】系や【考古学者】系なんかが主に使うアイテムだな。他の使い方もあるが。



 これは職業ジョブで密接に使われる関係上、普通に〈木箱〉や〈銀箱〉でもドロップする。そのためラナたちもこれを見たのは初めてではない。だが〈金箱〉産は初めて出たな。

〈木箱〉では大体上層モンスター。〈銀箱〉では下層モンスターを召喚することが出来る

 では〈金箱〉では? 何が召喚できるかというと――。


「これは〈ジェネラルブルオークの召喚盤〉だな。今戦ったボスを召喚できるぞ。まあ、HPとかはかなり弱体化しているが」


「ボスを召喚出来るだけで十分凄いわよ」


 そう、〈金箱〉の〈召喚盤〉からはボスを召喚することが出来るのだ。

 かなりのレアで、これだけでも大金を出してまで欲しがる【召喚術師】は後を絶たない。

 しかもこれは中級上位ダンジョン〈ランク8〉クラスのボスの〈召喚盤〉だ。

 こりゃとんでもない価値が付くな。ラナやエステル、シエラたちが驚くのも分かる。


「しかし、このタイミングでこれがドロップするか……」


 おいおいおい。切り札が一つ増えてしまったぞ。

 マジかよ。

 使っていいのかこれ? いやドロップしたからには使うぞ俺は!


「ゼフィルス殿、やはりこれは」


「ああ、まさかこのタイミングで出るとはな。いいサプライズが出来そうだぜ。――シエラ、いいか?」


 エステルの言わんとすることに俺はもちろん頷く。

 しかし、これはギルドの共通財産という扱いだ、一応シエラに確認を取る。


「ふう、そうね。セレスタンには私が言っておくわね」


「よっしゃ! これは面白くなってきたぜ!」


 シエラの許可が下りる。シエラも使う事に否は無いようだ。



 このアイテム、〈召喚盤〉はモンスターを召喚出来る。

 しかし、召喚出来るのは別に【召喚術師】系の職業ジョブだけではない。


 この学園には一つ、職業ジョブに頼らずモンスターを召喚することができる施設、システムがあるのだ。

 そこでなら、俺たちも職業ジョブに囚われず好きにモンスターを召喚し、使用することが出来る。


「明日からクラス対抗戦、〈拠点落とし〉が始まる。防衛モンスターに〈ランク8〉のボスがいたらみんな驚くぞ~」


 その名はアリーナ。

〈召喚盤〉を使い防衛モンスターを召喚し、拠点を守る。

 俺はそこにコイツを使おうと画策するのだった。




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