第515話 中級上位Fボス〈ジェネラル〉戦。裁きの一撃。
「ブルルルルル、ウオォォォォォッ!」
「わ、すっごい声!」
「んん、ちょっと怖い」
シエラを先頭に下層の入口のあるエリアに近づくと、それまで微動だにしなかった〈ジェネラル〉が唸り、そして吠えた。
それはまるで物理的な衝撃があるように感じるほど力強い叫び。
ラナがビックリして声を上げ、カルアの耳が若干震えている。
―――戦闘開始!
「『
まずはシエラが四つの小盾を展開する。
左右の腰と腿の後ろに装備されていた盾がポゥっと光り、シエラの前後左右に浮かび展開する。
さらにシエラはその四つの小盾をまず攻撃に使った。『
「行くわ―――『インパクトバッシュ』!」
使ったのは初めて試運転したとき〈ソードブルオーク〉をメッタメタにした四連続攻撃だ。
これは〈ジェネラル〉の行動封じを目的として俺がシエラに頼んだ戦法である。
〈ジェネラル〉は最初の叫びの後〈仲間呼びの角笛〉を使用し、お供を呼び寄せるのだが、ゲーム時代これには対処法があった。
〈仲間呼びの角笛〉はアイテムなので、ゲームでは【盗賊】系の
現在その二系統はメンバーにいないが、もしかしたらリアル恩恵で他の武器を使っても破壊したり盗んだり、あるいは吹き飛ばしたりできるかもしれない。
もしそれができれば、〈ジェネラル〉は単体となるため非常に弱体化する。
まあできなければ普通に倒すだけなのでやってみるだけなら損は無いとして、シエラにはまずヘイトを稼ぐより遠距離から盾で〈仲間呼びの角笛〉を狙ってみてくれと指示していた。
案の定、〈ジェネラル〉は腰のベルトから〈仲間呼びの角笛〉を取り出し口にくわえ、お供を呼ぶ姿勢に入った。そこにシエラの四つの小盾が来襲する。狙いは〈仲間呼びの角笛〉だ。
しかし、その目論見は信じられない行動で潰されることとなった。
一度口まで持っていった〈仲間呼びの角笛〉の使用をキャンセルし、〈ジェネラル〉が接近する『インパクトバッシュ』の付与された小盾を鉈大剣でなぎ払ったのだ。
「ブルァァァ!!」
「あ!」
「小盾が弾かれただと!」
マジかよ。ゲームでは一度使うモーションをしたらキャンセルなんてせずにこっちはやりたい放題できたのに! やっぱやめた、とかアリか!?
くっ、さすがリアル。モンスターの行動もリアル風ってわけか、そっちは考えてなかったぜ!
そして安全を確認した〈ジェネラル〉は悠々と〈仲間呼びの角笛〉を再びくわえ使用する。
「ブォォォ――――ン」
〈仲間呼びの角笛〉から重い音が響く。
「お供を呼ぶことを許してしまったか、残念。じゃあ仕方ない、予定通り行くぞ! お供は俺とカルアが受け持つ」
「ん、任せる」
「分かったわ。ダメで元々だったものね。――小盾よ戻ってきなさい。ヘイトを稼ぐわ――『シールドフォース』! 『オーラポイント』!」
「バフを掛けるわね! ――『守護の大加護』! 『獅子の大加護』!」
「ラナ様、ありがとうございます。では、行ってきます」
俺が指示を出すとカルアは短剣を両手に持って構え、シエラが挑発系スキルを使用する。
ラナがパワーアップした大加護を使い、エステルが〈ジェネラル〉へ向かう。
「ブルオオ!」
「プビィ!」
「プビィ!」
「お供が来たぞカルア。面子は〈アーチャーブルオーク〉一体に〈アーマードブルオーク〉が二体の計三体! 〈アーマー〉は硬い、カルアは〈アーチャー〉を頼む」
「ん!」
「――『アピール』!」
〈仲間呼びの角笛〉で呼ばれたお供は三体だった。
早速〈ジェネラル〉がバフを掛けてパワーアップしてしまう。
カルアが後衛の〈アーチャー〉をちぎっては投げている間に俺は〈アーマー〉の相手だな。
挑発する『アピール』を使い〈ジェネラル〉ごとヘイトを稼ぐ。しかし〈ジェネラル〉はシエラの方がヘイトが高いので俺に向かわず、お供三体だけが俺に向く。
「〈アーマー〉はタンク系、攻撃力はそんな高くないから足止めなら余裕なんだよなぁ」
〈アーマードブルオーク〉は身体にプレートアーマーを着込み、左手に金属性の大盾と右手に手斧を装備している。防御型なので倒すのは面倒だが、足止めするならむしろ向いた相手だ。俺も盾を構えて前に出て〈アーマー〉を引きつける。
これでお供とボスの分断にひとまず成功。
ボスの担当はシエラが浮遊する盾を操りながら〈ジェネラル〉の攻撃を受け流し、エステルが突撃や乱舞で削っていき、ラナが回復アンド遠距離からの魔法攻撃でダメージを稼ぐという、理想的な戦術を繰り出していた。
「ブルアアァァ!!」
「くっ!」
「エステル!」
「大丈夫です、少し下がります」
エステルが〈ジェネラル〉の防御スキルに弾かれたようだ。
例の弾かれたら慣性に任せて後ろにスィーっと下がる戦法でエステルが敵の攻撃範囲から離脱する。
防御スキルに弾かれたら反撃やカウンターを警戒するところだが、アタッカーが独自で対処可能なのでシエラは安心して盾に専念できる。
「ガアァァァ!!」
〈ジェネラル〉は強く、自在盾が何度も弾かれる。
しかし、何度弾かれ吹き飛ばされてもすぐに戻ってくる自在盾は、マジ最高のスキルと言えるだろう。
シエラ本体がガードしないのでフィードバックするダメージも少ない。
〈ジェネラル〉からすれば悪夢みたいなスキルである。
「ガアァァァ!」
「! スキルが来るわ、エステル離れて!」
「はい!」
〈ジェネラル〉が鉈大剣をジャイアントスイングする『ジェネラルハリケーン』も、すぐに離脱できるエステルに届かず、シエラも自身は距離を取り、遠距離から自在盾で〈ジェネラル〉の相手をしていたため届かず終わってしまう。本来のタンクなら絶対巻き込まれていただろう範囲攻撃が自分に届かなかったことにシエラが少しだけジト目になる。
「これ、強すぎるんだけど……」
ぼそっとシエラの呟いた声が聞こえてしまった。
まあ、あれだ。〈ダン活〉の盾職最強の名は伊達ではないってやつだな。
エステルの【戦車姫】も伊達ではない。
「スキルの発動後を狙います! 『ドライブ全開』! 『
「グオオ!?」
あれほどの大技の使用後だ。隙ができるのは当然で、タイミングを狙い『ドライブ全開』を使用したエステルが急接近して回転させたランスを叩き込む。
〈ジェネラル〉は弾くこともできずに大ダメージを受けた様子だ。
そしてこちらのお供組もかなりの余裕がある。
「ん。〈アーチャー〉は、接近されると、無力――『デルタストリーム』!」
「プギィ―――!?」
カルアのスピードにまったく付いていけなかった〈アーチャー〉は、カルアにちぎっては投げられて光に還った。
さて、残りは〈アーマードブルオーク〉が二体となったわけだが、ここで不利を悟った〈ジェネラル〉がスキルを放った。
「グオオォォォ!!」
「「!!」」
「おっと、『援護ブルオーク』を使ったか」
俺にタゲを向けていたはずの〈アーマー〉二体が急に背を向けて〈ジェネラル〉の元へ向かってしまう。
これは〈バトルウルフ〉も使っていた『合流』スキルのようなもので、ヘイト関係なく〈ブルオーク〉を近くに呼び寄せて戦わせるスキルだ。要は肉盾だな。
「プビィィ!!」
「プゥゥビィイ!!」
盾を構えた〈アーマー〉が〈ジェネラル〉をかばうように前へ出る。
「やっかいね」
シエラが思わずといったように口にした。
「あ、また〈仲間呼びの角笛〉を使いますよ」
「これは防げないな。カルア、各個撃破、頼めるか?」
「いける」
後ろに下がった〈ジェネラル〉がまた〈仲間呼びの角笛〉を使う。〈アーマー〉に守られているためこれを邪魔するのはちょっと間に合わない。
今度は〈ソルジャーブルオーク〉が二体来たみたいだ。
一体はカルア、もう一体は俺が受け持つ。
面倒なのでタンクはせず、サクッと斬り倒し、ボスへと合流する。
「状況はどうだ?」
「肉盾の〈アーマー〉が少し厄介ね。『かばう』系のスキルを使うから〈ジェネラル〉に攻撃が届かないの。今はエステルとラナ殿下が〈アーマー〉を集中攻撃してくれているわ」
「――『ロングスラスト』! ――『トリプルシュート』!」
「――『聖光の耀剣』! ――『聖光の宝樹』!」
「プビィィィ!!」
シエラの報告に見れば、HPと防御力が高い〈アーマー〉がエステルとラナの攻撃でほとんどHPを失っていた。あ、二体とも光に還った。
「チャンスよ。ゼフィルス!」
「美味しいところを持っていくようで悪いが、決めさせてもらうぜ!」
シエラの声に押されて俺はダッシュで〈ジェネラル〉に向かう。
それに迎え撃とうとする〈ジェネラル〉だったが、そこへ高速で接近した影が遮った。
「グ、オオオォォォ!!」
「させない。『
おそらく『爆速』か何かで急接近したのだろうカルアが、続いてスキルを発動しながら短剣で二閃する。まるでクロスするように二つの斬撃のエフェクトが〈ジェネラル〉に刻まれると、そこから追撃で62の見えない斬撃が次々と〈ジェネラル〉を襲った。
「グオオオ!?」
二閃しただけで64の斬撃を与えるスキル『64フォース』。
かっけぇな!
俺も続くぜ!
カルアが素早くすり抜けたのを確認し、大きくダメージを受けて一瞬硬直した〈ジェネラル〉の隙を逃さず、俺は〈天空の剣〉に電撃を纏わせて一気に攻撃を仕掛けた。
「消滅の雷剣――。さらば―――『ライトニングバニッシュ』!」
一閃。
目で追えないほど素早く振りぬいた剣に斬られた〈ジェネラル〉に一瞬の硬直後、雷と眩しいほどの光が降り注いだ。
それはまるで天罰。
勇者の敵、すなわち世界の敵を滅する天の一撃だった。
STRとINTの数値が近いほど威力が上がるというピーキーなスキルだが、俺のSTRとINTはほぼ同じくらいなので効果は非常に高い。
元々エステルやシエラたちに大きく削られ、さらにカルアにも大きなダメージを食らわされた〈ジェネラル〉のHPはそのままゼロとなり、膨大なエフェクトを撒き散らしながら光に還ったのだった。
そして光の後には金色に耀く〈金箱〉が残されていた。
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