第496話 ラナのランクアップとエステルの上級ルート!




「――大聖女よ」


 ラナは迷わず【大聖女】を選択した。

【大聖女】と描かれたホログラムがズームし、ラナの体がエフェクトに包まれる。

 否、〈白の玉座〉が光っているのだ。【大聖女】に就いたときの演出の一つである。


「ひゃぁ!」


 ラナが可愛い声を上げた。

 まるで玉座が新たな主の誕生を祝うかのように光を放ち、太陽の意匠が輝きだす。

 ゆるやかなライトグリーンの風がラナを包み込み、髪をふわりと揺らしていた。


 たったの数秒の光景、だが俺たちにはもっと長い時間のように感じる、強く印象に残る幻想的光景。


 ああ、【大聖女】の〈上級転職ランクアップ〉シーン、何度見てもいいものだ。しかも今回はリアルの光景である。素晴らしい、なんか、なんかすごく感動だ!


 ライトグリーンの風がラナを包み込むと、次第に薄れるようにして消えていき、〈白の玉座〉の発光現象も次第に止まっていく。


「ラナ様、お綺麗でした」


 まずそう言ったのはエステルだった。

 チラッと見ると、目に涙まで浮かべ頬は紅潮している。

 おおう。すごく感動してらっしゃる。

 もしかしてリアルの光景に感動している俺よりエステルの方が強く感動してないか?


「ラナ殿下、【大聖女】への〈上級転職ランクアップ〉、おめでとうございます。その姿、しっかり拝見させていただきました」


 続いて目を伏せ、畏まりながら告げたのはシエラだ。

 え? どういうことだ?


 これは後で聞いたことなのだが、この世界では【英雄王】と【大聖女】は職業ジョブの中でも最高峰、トップと認識されていたそうだ。そんなことだから新たな【英雄王】、新たな【大聖女】の誕生の場に居合わせることは貴族としてとても名誉なことなのだそうだ。

 しかも、【英雄王】は大体の発現条件が解明されているのだが、【大聖女】は、【聖女】の時点で発現条件が不明なものが多く、歴代でも【大聖女】に就けた王族は数少ないらしい。


 そうだったのか……、エステルがものすごく感動し、シエラが畏まるのも分かるな。


 とりあえず俺たちも祝いの言葉を贈った。


「ラナ、【大聖女】への〈上級転職ランクアップ〉おめでとう」


「ラナ様、おめでとうございます!」


「ラナ、おめでとう~」


「ラナ殿下、【大聖女】への〈上級転職ランクアップ〉、誠におめでとうございます。心から祝福を贈らせていただきます」


 上から俺、ハンナ、カルア、セレスタンがラナに祝いの言葉を贈る。

 ラナは玉座に座ったまま照れている様子だ。手が落ち着かずに髪をイジっている。


「その、みんなありがとうね。私、これからも頑張るわ」


 ラナが決意を述べる。

 なんだか照れたラナは普段とのギャップもあって、とてもいいなと感じた。




「次は――エステル、いこうか」


「――はいっ」


 次はエステルの番だ。エステルの名を呼ぶと、真剣な表情で前へと出るエステル。

 代わりにラナが〈白の玉座〉から下りてエステルと入れ替わるようにして後ろへと戻った。セレスタンが静かに〈白の玉座〉を回収し、脇へと下がる。


「エステル、頑張ってね」


「ありがとうございますラナ様」


 別にそんなに頑張ることはないぞ?

 いや、試練的な意味だろうか?

 とにかく俺はエステルの隣へ向かい、〈上級転職ランクアップ〉の補佐をする。



 ――【姫騎士】。

「騎士爵」の下級職では唯一の〈姫職〉に当たる【姫騎士】だが、ここから〈上級姫職〉へは四つの選択肢ルートが存在する。

 これらの〈上級姫職〉は完全に方向性が異なるので、【姫騎士】の段階から上級職を意識してビルドを振っていかなければならない。【姫騎士】で失敗する人が多い理由だな。



 まず一つは――【竜騎姫】。

 アイギスが現在目標にしている職業ジョブだ。

 主に〈竜〉系に騎乗して戦い、機動力に大きく優れ、また攻撃力、防御力も非常に高い能力を持つ職業ジョブだ。〈竜〉系のスキルも一部使えるために、騎乗する〈竜〉によって様々なポテンシャルを発揮する。



 二つ目は――【天守護の騎士姫】。

 これは名前のとおりタンク系【騎士】だ。一部〈乗り物〉系も装備可能。

 騎士と言えばタンク。その要望に応え、優れたタンクを務めることが出来る防御の騎士。

 また装甲の厚い特定の〈馬車〉を装備することで、通称〈装甲列車〉とも呼ばれた戦闘スタイルはギルドバトルで猛威を振るっていた。



 三つ目は――【聖乗の姫騎士】。

 かなり汎用性の高い〈上級姫職〉で、【竜騎姫】のように何か特定の乗物に縛られることなく、ほぼ全ての乗物を乗りこなすことが出来る【ナイト】系の最上級職。

 騎乗できるモンスターが非常に多いので、かなり広範囲な対応が可能となる職業ジョブである。敵やダンジョンに合わせてスタイルを変えられるため、どんなところにも付いていくことが可能な強さと、女性のモンスター乗りとして、ゲームではかなり人気のあった職業ジョブだ。



 そして最後の四つ目――【戦車姫】。

 完全に騎士という枠組みから外れてしまったんじゃないか? と思わせる職業ジョブ名だが、まさに枠組みから外れた性能を持っている。

 突出しているのはその非常に強力な攻撃力。成長すると槍砲スラストほうという遠距離攻撃が出来るようになり、今まで轢くことでしかモンスターにダメージを与えられなかったのが、遠距離から広範囲の強力な攻撃が可能になる。さらに機動力、防御力も高く、その評価は「騎士爵」の〈上級姫職〉の中では【竜騎姫】を抜いてトップに立っていた。

 俺が勧めた、俺が最強だと思っている、【騎士】系の〈上級姫職〉。エステルが今目指している職業ジョブが――【戦車姫】だ。




【戦車姫】、その発現条件がこちら。

 ―――――――――――

①〈【姫騎士】の職業ジョブLV75まで育成している〉。

②〈『オーバードライブLV10』、『乗物操縦LV5』以上、『○○槍の心得LV5』以上、を持つ〉。

③〈〈戦車〉系装備をしながら〈上級転職ランクアップ〉。

④〈〈天槍てんそうの宝玉〉の使用〉。

⑤〈『テイム』系スキルを所持していない〉。

 ―――――――――――

 以上だ。


 これを例の〈上級転職ランクアップ〉の条件に当てはめると、

①〈【○○】の職業ジョブLV○○まで育成している〉。

②〈特定のスキルか魔法をLV○○まで育てる〉。

③〈○○系統の装備した状態で〈上級転職ランクアップ〉〉。

④〈〈○○〉アイテムの使用〉。

⑤〈特殊条件〉。


 となる。

 最後の⑤〈特殊条件〉が厄介で、『騎乗』スキルを取らないといけないのに『テイム』スキル持ってはダメという罠。

 これのせいで【戦車姫】の発見がかなり遅れたんだ。


『乗物操縦』スキルがあれば無機物の〈乗り物〉は操作可能だが、〈乗り物〉もモンスターも、乗る装備には『騎乗』スキルが必要だったせいだな。

 ただモンスターを操作するには『騎獣モンスターリンク』というスキルが必要なので、無機物とモンスターでスキルが分けられていたんだよな。この意味に気がつくのが遅れたのだ。

 まさか『テイム』系スキル、つまり『騎獣モンスターテイム』を所持してはいけないとは。

 本当にまさかまさかだったよ。


 しかし、知っていれば問題はない。これでほぼ条件は満たせたわけだ。

 俺は〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から最後のキーとなるアイテム、ワールドカップトロフィーの球の部分が槍になっている〈天槍の宝玉〉を取り出し、エステルへ渡す。


「エステルに必要なのはこれだ。これを使って〈竜の像〉に触れてほしい。やっと【戦車姫】に〈上級転職ランクアップ〉する時が来たぞ!」




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