第492話 シエラの【盾姫】の〈上級姫職〉ルート。




 なんやかんやあって俺が対抗戦のリーダーに決まり、男子たちとちょっとした約束を交わした。

 一応報酬も支払ってくれるというのでセレスタンに話を通しておこう。


 しかし、〈転職〉制度がいよいよ実施か。

 提案してから約3ヶ月くらいだろうか? すぐに動いてくれてありがたい限りだ。

 これで上級生の高位職が増えるな。

 聞いた話では俺の提案どおり、転職した上級生は学園で授業の延長を行なえるようだ。


 2年生ならもう一年、3年生ならもう二年、学園の滞在が可能になるそうだ。

 ただし、『高位職に就いた人』『研究所で高位職発現条件の情報について協力すること』など、いくつかの条件や義務が加わるらしい。


 それでもとても素晴らしい案件なので〈転職〉制度を受ける学生は多いらしいとの見込みだ。

 アイギスも受けるだろうな。


 また、学生の定員が一時的に増えるため、夏休みに入ったころから新しい校舎や寮の建設が始まっていたりする。


 学園長がとても頑張っているようだ。

 2学期は新しいことが目白押しだな。




 学業も大事だがギルドも大事だ。


 サターンたちには「とりあえず勉強しておくように」と指示した後、待っていてもらったギルドメンバーたちと共に、この夏休みですっかり馴染んでしまったギルド部屋へ行く。


 そこで集まったメンバーと軽くミーティングをして各自解散し、俺たち上級転職組は昨日途中で切り上げた〈上級転職ランクアップ〉の続きをする。


「おっしゃ、今日はいよいよ全員の〈上級転職ランクアップ〉だ!」


「テンション高いねゼフィルス君。シエラさんより楽しみにしているんじゃないかな?」


 ハンナの言うとおり、俺のテンションは上げ上げだ。

 先延ばしにしていた上級職にやっとなることができるのだからそれも当然といえよう。

 上級職になるのはシエラだけどな。その後俺たちの番になるので問題ない。


「みんな、準備はいいか? まず〈測定室〉へ行くぞ!」


「ええ。分かったわ」


「はーい」


 全員で向かうのは職員室の近くにある〈測定室〉だ。

 現在はまだ〈転職〉禁止令が出されている最中なので先生の許可がいる。以前アイギスもここで〈転職〉を受けたのだ。


 学園長には事前に許可を取ってあるし、フィリス先生にもここを使っていいと、約束を取り付けてあった。


「失礼します〈戦闘課1年1組〉ゼフィルスです」


 職員室に入るときは自分の課と学年を告げるのがルールだ。

 俺に続き、シエラ、ラナ、エステル、ハンナ、カルアの順で中に入ると、フィリス先生がすぐにやってきてくれた。


「はーい。さっき言っていた〈測定室〉の件よね。これ、〈測定室〉の鍵、終わったら私に返却してね」


「分かりました。フィリス先生お世話になります」


 代表して俺が〈測定室〉の鍵を預かって、隣の〈測定室〉へと向かう。


「なんだか緊張してきたわ」


「〈測定室〉は独特の緊張感があるといいます。特に〈転職〉についてはまだまだ忌避感が根強く残っていますからね」


 珍しくラナが緊張し、エステルが〈測定室〉に視線を向けながら述べた。

 なるほど、この世界の住人だとまだまだ〈転職〉はプレッシャーがすごいらしい。ゲームとは違い、やり直しは効かず、自分の人生が掛かっているからだろう。


 中に入室すると、久しぶりに見る30cmほどの〈竜の像〉が鎮座していた。


 誰かがごくりと喉を鳴らす音が聞こえたような気がした。


「じゃ、〈上級転職チケット〉を渡すぜ。くれぐれも今決めないでくれよ」


 まずはシエラからだ。俺はシエラに〈上級転職チケット〉を手渡す。


「……分かったわ」


 シエラも緊張を隠しきれないのか、いつもより硬い動きで〈上級転職チケット〉を受け取った。

 最初はシエラたちにどんな上級職業ジョブが発現しているのか確認する。


 入学式のジョブ測定の時もそうだったが、〈竜の像〉は触ると、その者がどんな職業ジョブ発現条件をクリアしているのか一覧表で示してくれる。


 俺たちはその中から自分が就きたい職業ジョブを選ぶことで、その職業ジョブに就けるわけだ。

 しかし、就かないこともできる。


 一覧表を見て、自分が就きたい職業ジョブ、希望する職業ジョブがない場合はキャンセルすることが出来るのだ。

 これはもちろん〈上級転職チケット〉を使ったときも同様である。

 しかも使ったとはいえ、職業ジョブに就かずにキャンセルすると、〈上級転職チケット〉を失わないのがいいところなのだ。

 ゲーム時代、確認のために〈上級転職チケット〉が消えていたら抗議殺到だっただろうからな。


 これで、どんな上級職の発現条件を満たしているのか、確認することが出来る。

 誤って選んでしまうとアウトなので気をつけろ。


 ということで、トップバッターはシエラからだ。


「いくわね」


〈上級転職チケット〉を胸に抱きしめながら、片方の手を〈竜の像〉の頭へと置く。

 すると〈竜の像〉の目が光りだし、瞬間、一覧表が現れた。


 ―――――――――――

〈上級転職一覧〉

低位職=星無し 中位職=☆ 高位職=★

                    【シールドマスター】★

【ディフェンダー】 【ガーディアン】☆ 【ハイガーディアン】★

【不変盾士】    【不動堅盾士】☆

          【大堅硬盾士】☆  


                    【国守護の盾姫】★

 ―――――――――――


「あ……」


 それを見たシエラから、思わず声が漏れた。


 現れた一覧表に書かれていたのは【盾職】系統の一覧だった。

【シールドマスター】から【大堅硬盾士】まではノーカテゴリー。

【盾姫】からの通常ルートとされているのが【国守護の盾姫】である。


「この【国守護の盾姫】、曾祖母様が就いた職業ジョブだわ……」


 思わずといった様子で指を差そうとしたところで、俺はシエラの手を掴んだ。


「おっとシエラ待った。それすると決まっちまうからちょっと待ってくれ」


「ゼフィルス?」


 俺とシエラの目があう。


「シエラのひいおばあさんが就いたその職業ジョブも、〈上級姫職〉でかなり強いんだが、実はもっと強い〈上級姫職〉があるんだ。出来ればそっちを選んでほしい」


 俺は不敵な笑みでそう告げる。

 それを聞いたシエラがジト目になったが、チラッと捕まった手を見て、目を瞑り、真剣な表情でこちらをまた見つめ返してきた。

 シエラがどんな心境だったのかは分からないが、一覧表に向かいそうだった手から力が抜ける。


「……どうしてあなたが曾祖母様すら就いていなかった職業ジョブを知っているのかとか、言いたいことはいくらでもあるのだけれど……、その職業ジョブはそんなに強いの?」


「もちろんだ!」


 力強く断言する。


「俺が知っている中でも盾職として最強だ。【国守護の盾姫】に就きたいかもしれないが、絶対にもうひとつの方がいい。シエラ、最強の盾職に就く気はないか?」


【盾姫】からの上級職ルートにある〈上級姫職〉は2種類。

 通常ルートに分類される【国守護の盾姫】。

 そして、もう一つ。

 ゲーム〈ダン活〉では盾職最強と呼ばれた最高峰の盾職、【操聖そうせいの盾姫】。


 俺はシエラに、―――【操聖そうせいの盾姫】に就いてほしいのだ。


 発現条件を見て確信する。残りの発現条件のピースは〈宝玉〉だけだ。



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