第486話 〈上級転職チケット〉の使い道を発表!!





「では発表する。上級ダンジョン攻略の第1陣メンバーだ」


 俺が宣言するとギルド部屋に緊張が走った。


 現在上級ダンジョンを攻略目的で挑んでいるのは〈キングアブソリュート〉のみ。

 もし本当に〈エデン〉が上級ダンジョンを攻略できたなら、それはこの世界ではとんでもない偉業だ。

 しかもその攻略メンバーに選ばれたとなればこの上ない名誉となる事は間違いない。


 みんなが緊張しているのが非常によく分かった。


 そんな中、俺は自分も手に汗かいていることを悟られないようきわめて真剣味を出しながら発表する。


「メンバーはまずメインアタッカー担当に、――『エステル』」


 そう発表した瞬間、緊張が最高潮に昇り、全員の注目がエステルに向いた。

 注目されたエステルは、いつものほんわかした柔らかい表情をキリッと引き締めている。


「エステルは上級職になるにあたり、乗物系の能力が非常にパワーアップする。ダンジョンを攻略する上で非常に有効な力になるだろう。また攻撃力も〈エデン〉の中でダントツの高さであり、非常に硬いと予想される上級ダンジョンのボス相手でも強力な有効打を与えられるだろうと期待している」


 俺がエステルを選んだ理由を告げると、エステルが席から立ち上がりみんなに向かって一礼する。


「選抜されましたこと誇りに思います。選ばれた名誉に恥じないよう、精一杯頑張らせていただきます」


 さすがは幼い頃からラナ王女の付き人をしていたエステルだ。

 その動作に迷いは無く、非常に堂々とした発言だった。


「カッコイイわねエステル! おめでとう!」


 意外なことに一番に祝福したのはラナだった。

 一点の曇りなく祝うその姿に自然と笑みがこぼれる。


 どこからともなくパチパチと拍手が鳴り響きエステルをみんなで祝った。


「おめでとうエステル。よかったですね」


「エステルおめでとう。攻撃役は任せるわ、お願いね」


「エステルなら安心ですね。頑張って」


 上からシズ、シエラ、シェリアの順にエステルを祝いの言葉と拍手を贈り、エステルもいつもの柔らかい笑顔でそれに応えた。



 一通り落ち着いたところでエステルも席に着き、次の発表へと移る。


「では次の発表だ。メインタンク担当は――『シエラ』」


「「「おおー」」」


 これにはほとんど全員が分かっていたのだろう。

 驚きの声というより歓声に近い声が部屋に広がる。


「シエラはなんと言っても安定感がある。物理、魔法両方を相手に高い耐性を持ち、どんな攻撃をされようともそれを防いでくれるし、安定したヘイト稼ぎで敵のタゲ取りも非常に上手い。上級ダンジョンという、様々な高位の攻撃を繰り出してくるだろう敵もシエラなら防ぎきり、パーティを守ってくれるだろう」


「任されたわ。――私も選ばれたからには全力を尽くすわね」


 シエラも立ち上がり、胸に手を置いて決意を宣言する。

 エステルと同じように様々な祝いの声を貰い。笑顔でそれに応えていた。


 それも落ち着くと次に移る。


「3人目はメインヒーラー担当だ。これは――『ラナ』、任せた」


「任せて、誰も戦闘不能になんてさせないんだから!」


 その言葉を待っていたとばかりに立ち上がりピッと指を立てるラナ。

 その声は自信で溢れていた。さすがラナだ。まったく物怖じしていない。

 ヒーラーは狙われると脆い。物怖じしないのはラナの長所だな。


「おう、ヒーラーは任せたぜ。――ラナは、みんなも知っているとおり回復、バフ、そして魔法攻撃に魔法防御と様々な支援回復ができる他、回復力が桁違いに高い。非常に攻撃力が高いだろうと予想されている上級ダンジョンでも、しっかり回復してくれるだろうと期待している」


「期待には応えなくちゃいけないわね。私に任せなさい!」


 ラナが胸を張る。

 頼もしいな~。


 ヒーラーはやはり【聖女】がダントツで強い。

 このポジションだけはラナで確定だった。


 従者を始めとするメンバーから盛大な拍手と祝いの言葉を貰い、ラナは満面の笑顔でそれに応える。

 ラナってギルドメンバーにほんと好かれているよな~。


 落ち着いてきたので4人目の発表、というか俺だ。


「さて次だが、4人目は俺が入る。オールポジションで全員のフォローが出来るだろう。上級ダンジョンでは役に立つはずだ」


「ゼフィルスは絶対入ってもらわなくちゃ、困るわよ」


「頼むわね、ゼフィルス」


 ラナとシエラの返事に手を挙げて応える。

 拍手は、今までで一番まばらかもしれない。

 みんな分かっていたことだしな。でもちょっと寂しい。


「さて、じゃあ最後の5人目の発表に移ろうか」


 最後の1人だ。

〈上級転職チケット〉は6枚あるが、ボスに参加できるのは5人まで。

 そのため次がボス攻略に参加できる最後のメンバーとなる。


 先ほど1人目の発表の時よりも、さらに緊張した空気が部屋全体を包んだ。


「では発表する。最後の担当は斥候とサブアタッカーで、――『カルア』だ」


 瞬間、耳に痛いほどの静けさがギルド部屋を包んだ。

 そして誰かが吐いたため息を皮切りに、時が再び動き出す。


「は~。最後はカルアか。残念だが仕方あるまい。カルア、頑張るのだぞ」


「カルアなら大丈夫デース! 〈エデン〉イチのスピードを見せてやるのデース!」


「カルアお姉ちゃん、頑張ってなのです!」


 上からリカ、パメラ、ルルがカルアを応援する。

 しかし、当のカルアは事の重大さをよく分かっていないのかきょとんとした顔だ。

 まさか寝ていたのではないだろうな?

 さすがにそれはないと思いたい。


 とりあえず、カルアを選んだ目的も発表しておく。


「カルアの担当は先ほども言ったように斥候とサブアタッカーだ。今〈キングアブソリュート〉がしているように人海戦術でダンジョンをつまびらかにして攻略する手もあるが、どうしても遅くなる。俺の方針は少数精鋭で早期攻略だ。カルアは罠を発見、破壊することもできるし、そのスピードはおそらく上級ダンジョンのモンスターでも追いつけない。カルアにはパーティが危険な場所に近づかないよう手助けをしてほしい」


「ん。了解」


 カルアが起きていることを確認してちゃんと説明すると、カルアはしっかり頷いた。これで大丈夫なはずだ。大丈夫だよな?


 カルアにも盛大な拍手が贈られ、これで上級ダンジョン攻略メンバーが決まった。


 しかし、みんなの関心は6枚の内、最後の1枚の〈上級転職チケット〉の使い道のようだ。

 少しそわそわしているように見える。


 そうだな。これの使い道もちゃんと考えている。


 ついでにそのことも発表する。


「さて、みんな気になっている最後の1枚の使い道だが、これは『ハンナ』に使おうと思う」


「…………ふえ?」


 この発表に、まったく予想していなかったのだろう。

 ハンナから気の抜けたような声が漏れた。




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