第487話 上級ダンジョンは戦闘職と生産職の二人三脚!




〈上級転職チケット〉6枚目の使用方法、それを聞いて部屋が大きくざわついた。

 まったく無関係だと思っていただろうハンナは未だ理解が追いつかないといった表情だ。いや、少しずつ表情筋が引きつってきているのでだんだん意味が分かってきたのだろう。


「ゼフィルス、ハンナは生産職だけれど、理由があるのよね?」


 シエラのその言葉に少しずつざわめきが収まる。

 そこには様々な意味が籠もっていた。


 まずこの世界では生産職に〈上級転職チケット〉を使うことは、ほぼ無い。

 生産職の上級職が主に活躍するのは上級ダンジョンの素材を使うときだ。


 到達層のほとんどが中級上位ダンジョンまでのこの世界では活躍しようがないとも言える。

 生産職が活躍するには、たくさんの上級ダンジョンで活躍する戦闘職という前提が必要不可欠だからだ。


 それに、多少クオリティは落ちるが下級職でも上級下位ダンジョンまでの素材なら扱えないこともないのだ。失敗する確率は上がるし性能も落ちるが。


 しかもこの世界では上級ダンジョンがほとんど手が出されていないことも加わり、生産職が上級職になる意味をよくわかっていないところがあった。

 そのため、シエラは一応として俺に質問を投げかけていた。


「ハンナ、ごめんなさいね。気を悪くしたかしら」


「いいえシエラさん、大丈夫です。頭を上げてください! 私もビックリしているくらいなんです。シエラさんの疑問も尤もです。ゼフィルス君はちょっとおかしなことを口走っています」


「ひどいなハンナ?」


 動揺が心から漏れてるぞハンナ? そして珍しく俺をディスりやがった。

 でもハンナだから許す。


「まあ、シエラが心配なのも分かる、が、その前に上級ダンジョンを安全に攻略するためにもハンナの助けがいるというのは分かるだろう? MPポーションを始めとする様々なサポートの関連の話だ」


「それは……、分からなくはないけど」


「よし、その辺を説明しておこうか」


 言っていることは分からなくはないが、それが上級職へどう繋がっていくのかについて実感はできていないといったみんなに俺は説明していく。


「まず大前提として言っておきたいんだが、上級ダンジョンの素材は上級職の生産職が扱うのが基本だ」


 ハンナの職業ジョブは【錬金術師】。

 大量生産によるアイテムの供給面で大きく活躍する職業ジョブだ。

 上級ダンジョンだって採集はできる。

 それをハンナに渡せばクオリティの高い上級アイテムを作ることができるし、より攻略メンバーは安全に進むことができるようになる。


 俺から言わせれば中級ダンジョンの装備アイテムのみで上級ダンジョンに挑むことが間違っているのだと言いたい。

 上級ダンジョンに行くのなら、上級職で挑むのは当たり前、装備も上級ダンジョンで活動できるものに換装するのも当然、そしてアイテムも上級の物を使うことが当たり前なのだ。


 そう熱く語っていった。


「確かに上級ダンジョンで攻略するのは戦闘職だ。しかし、それを支えるのは生産職である。 つまり、戦闘職だけでは上級ダンジョンの攻略は難しいんだ。生産職と二人三脚で挑んでこそ攻略が進むのだと、俺はここに断言する。――ハンナの上級職への〈上級転職ランクアップ〉は、必要不可欠。上級ダンジョンを攻略するための大きなピース、それこそが上級生産職だ!!」


 俺が熱くそう言って締めるとギルド部屋がシンっと静まり返った。

 む、ちょっと熱く語りすぎてしまったか?


 しかし、それは俺の杞憂だったようだ。

 一つ息を吐いたシエラが俺に柔らかな表情を見せて言う。


「……なるほどね。あなたに付いてきて良かったわ」


「お、おう」


 いきなりそんなことを言われて少し戸惑う。

 その言葉に隣のハンナも同意するように笑顔でうんうんと頷いていた。


「うふふ、ゼフィルス君だもんね。私は最初から信じていたよ」


 おいハンナ、さっき俺がおかしなことを言ってるって言ってなかったか?

 まあ、あの時は混乱していたようだし一度許すと言ったから言わないけど。


 空気が和むといたるところから弛緩した空気が流れだす。


「ま、さすがは俺たちのリーダーだな」


「ですわ。ああ、今の熱く語るゼフィルスさん。素晴らしくかっこよかったですわ」


「たはは~、上級ダンジョン、ゼフィルス君が言うと本当に楽勝に聞こえるから逆に怖いよね~」


 上からメルト、リーナ、ミサトが感心したという反応をする。


 なんだかよく分からないが、俺はみんなの心を動かしたみたいだった。

 多分、この世界の住人ならではの機微があったのだろう。

 とりあえず良し、納得してもらえたなら締めに入ろう。


 俺はパンパンと拍手を二度打ってもう一度こちらに注目させる。


「みんな納得してもらえたようで良かったよ。異論が無いようなので今日はここまでにしよう。また、これからも〈上級転職チケット〉回収チームを結成して定期的に取りに向かうから、また手に入り次第、みんなには順番に上級職へ転職してもらうつもりだからよろしく頼むな」


 ニーコがなにやら「きゃー勇者君の鬼ー」と抗議していたがそれには気がつかず今日はここで解散の宣言をする。


「あと上級職になる5人は残ってくれ、詳しいスケジュールを調整したい」


「何のスケジュールなのか聞きたいけど、聞きたくない気がするわね」


 シエラのそんな答えをやり過ごし。

 他のメンバーは解散、先ほど発表した上級職に〈上級転職ランクアップ〉する、俺、ラナ、エステル、シエラ、カルア、ハンナの6人がギルドに残った。


「で、スケジュールって何かしらゼフィルス?」


 ラナが身を乗り出して聞いてくる。

 ふふふ、そう慌てるな。


「もちろん発現条件のクリアに決まっている。――目指すは上級職の高位職・・・だ!」




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