第480話 この夏休みを、俺は絶対に忘れない。




 なんだか青春の香りが強い楽しかった夏祭りも、気がつけばあっと言う間に過ぎていった。


 男だらけの食べ歩きもいつの間にか女子3人が合流して、元の予定からすれば少し食べ足りないものとなったが、それを補って余りある体験ができた、楽しかったので逆に良かった。


 あの後は甘い物を中心に食べ歩き、気がつけば俺は次の待ち合わせ時間になっていたため名残惜しくも解散することになった。

 しかし、男はともかく女子はあの細い体のどこにあれだけのデザートが消えていくのかがなぞだった。きっと触れてはいけないことなのだろう。



 次はラクリッテ、サチ、エミ、ユウカと合流、出店を回ったり、ノエルの歌唱ライブなんかを見て楽しんだ。

 みんなテンション高めで、浴衣が可愛くて、楽しかったなぁ。



 夕方になってヘトヘトになったハンナと合流して出店を巡り、夕食を食べながらハンナが今日どれほど忙しかったのか、やりがいがあったのかに耳を傾け、最後はやっぱりデザート大盛りで締めた。明らかに夕食よりデザートの量が多いのはきっと気のせいではない。

 ハンナいわく、


「デザートは女の子の生きる活力なんだよゼフィルス君」


 とのことだ。


 今日一日で何度も実感した言葉だな。

 女の子は生きるのに甘い物が必要らしい。

 出店で甘い物を出すところが多かったのはそういうことなのかもしれない。

 おかげで今日は甘い物で腹いっぱいである。しばらくは食べなくてもいいかな。


 しかし、パフェを美味しそうにパクリと食べるハンナを見ていると、なんとなくほっこりするのだからやっぱり甘い物は偉大だ。


「う~、疲れた体が生き返るようだよ~、おいしぃ~」


 甘い物を食べているだけでハンナがどんどん元気になっていく。

 女性の神秘だぜ。

 でも驚きよりほっこりが勝つのはなんでだろうなぁ。


 さて、夜の夏祭りである。

 中には夜が本番だと主張する人もいるくらい夏祭りの夜は素晴らしいものだ。


 元は校舎だったデカいやぐらが赤と白のイルミネーションを光らせ屋上では太鼓がドンドンと大きく鳴らされている。

 ノエルの参加している音楽部隊がBGMを流していて、夏祭りの気合いを感じさせる。ほんと、これぞ夏祭りっていう雰囲気がもの凄い出ていた。



 それからも時間いっぱいまでハンナと楽しんだ。

 時間が迫り、ハンナは明日の仕込みもあるので途中で解散し、俺は最後の待ち合わせのために、朝と同じ出入り口付近まで向かった。


「あ、ゼフィルスさん」


「アイギス先輩、お待たせ。遅くなったか?」


「いいえ、私が少し早く来ただけですよ。それほど待っていません」


 夜の夏祭り、ここで最後に一緒に回るのはアイギス先輩だった。

 夜のスケジュールはなぜか1名様と決められていて、何やら誰に決めるかで色々あったらしいが詳しいことは知らない。なんだか怖かったし。


「良かった。じゃ、一緒に回ろうか」


「はい。今日はよろしくお願いします」


「それにしてもアイギス先輩は浴衣がよく似合うなぁ」


「えあ、そ、そうでしょうか? ありがとうございます」


 アイギス先輩の浴衣は夜にも負けない赤。髪はかなり気合いが入っていて、アップに纏め、かんざしやら花やら高級そうなカチューシャなどが付けられていた。

 さすが上級生。何がさすがなのか分からないが、お姉さんっぽい強さを感じた。


 しかし、褒めると出た照れたような仕草のギャップにグッとくるぞお姉さん。

 アイギス先輩が強い!


「……じゃあ、行こうか。アイギス先輩はどこに行きたいとか希望ある?」


「あ、では練習場の方へ行きたいです。夜のイルミネーションが凄いと評判なんですよ」


「おし、了解。行きますか~」


 こうしてアイギス先輩と夜の夏祭りに繰り出した。


「そういえばアイギス先輩とこうして2人で話したり行動したりって初めてじゃないか?」


「そうですね。いつも誰かがゼフィルスさんと一緒に居ますから」


「あ、そうだな。じゃあ今日はいっぱい話そうか」


「はい!」


 なんだかその言葉を待っていましたと言わんばかりにアイギス先輩は力強く頷いた。

 お、おう。そんなに俺と話してみたかったのか。

 それならということで、積極的に話しかけていった。コミュニケーション大事。


 アイギス先輩は最初は少し緊張で固かったが、イルミネーションのあれやこれやと話題を振ると、次第に口調も打ち解けていった。

 出店を回りながらもあまり買う事はせず、アイギス先輩とは色々な話題で話すことを中心にして夏祭りを楽しんでいった。

 アイギス先輩との距離が縮まった気がする。


 そうしてしばらくするとアイギス先輩からこんな提案を受けた。


「あ、あの、ゼフィルスさん、その――、私のことはアイギスと、呼んでいただけますでしょうか? 別にいやなら先輩と付けてもいいのですが、仲良くなったので、せっかくですし他人行儀な呼び方を取ってもいいのではないかと思うのです」


 後半はなんだか早口でそう捲し立てるアイギス先輩。何やら決意したような表情が夜の暗闇の中、ほんの少し赤くなっているように見えた。


「あ、ああ。俺は別にいやってことはないぞ? その方が仲が深まっていいと思うし。――アイギス、これでいいかな?」


「あ、は、はい! ありがとうございますゼフィルスさん!」


「はは、なんでお礼? こっちこそお礼を言いたいくらいだ。仲良くなってくれてありがとうアイギスせ――、じゃなかった、アイギス」


「は、はい!」


 そんな感じにアイギスと仲良くなった。

 夜の夏祭りも、昼の忙しさに比べのんびりと過ごすことが出来、アイギスとの一緒の時間は居心地が良かった。

 こうして閉幕時間までアイギスと一緒に過ごし、貴族舎の寮へ一緒に帰ったのだった。



 翌日、夏祭り2日目もギルドのメンバーと仲良く夏祭りを過ごし、あっと言う間に8月31日も過ぎていく。楽しい時間があまりにも早く進みすぎてちょっと辛い。でも楽しい!


 そうして9月1日、日曜日。

 もう夏休みも最終日だ。

 明日から学園の授業が始まる。


 もう夏休み最後の日かぁ。長かったような、短かったような。

 でもあっと言う間だったなぁ。もっと遊んでいたかった。

 夏休み最後特有の感傷を味わいつつ夏休みを振り返る。


 でもこれだけは言えるな。

 初めての〈ダン活〉の夏休みは、とても楽しかった。




 第九章 -完-



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