第476話 夏祭りの始まり! いつもとは違う浴衣の魅力。
8月30日、今日から二日間は学園恒例の夏祭り期間だ。
最後の最後に英気を養い、夏休み明けの学園生活の活力にしてほしいという計らいだ。
今回、夏祭りの会場に選ばれたのは〈戦闘課1年〉の校舎、つまり俺たちがいつも通っていた校舎だ。そこは今、大きく改造がなされ、夏祭りの会場へと変貌している。中央に立つのは赤と白のストライプに彩られた、盆踊りの中心地に建つ
しかもだこの櫓、装飾が豊かに彩られ、いや、なんかちょっとしたアートというか、美術品かよってレベルで装飾されている。
いやぁ、【クラフトマン】方、マジ凄い。
これを作るために
スキルって凄いぜ。
これを夏祭りが終わればすぐ元通りにしてしまうのだからとんでもないぜ……。
また、校庭には出店が所狭しに並んでいるが、その数はとても、とても多い。
さすがはマンモス校、これ全部学生の出店らしい。
朝10時には全校放送があり、夏祭りを開始したことが告げられると、俺もすぐに向かったのだが、すでにそこは学生でいっぱいだった。
装備もこの日のために浴衣似の物や
ちなみに俺は白と青系の浴衣である。ちょっと着崩し気味にして動きやすい感じにしている。
そんな校舎の前で待ち合わせをするために突っ立っていると、ようやく待ち人が来なさった。
「お待たせゼフィルス!」
「おお、ラナ、その姿、すごく似合ってる。綺麗だ……」
「わ……。綺麗とか、ゼフィルスに初めて言われたかも……」
現れたのは白を基調とし、ピンクの花など色々と模様があしらわれた浴衣を着て、髪を後ろで纏めたラナだった。
なんだか今日のラナは、いつもの雰囲気とすごく違う。出会い頭に少し浴衣を強調するポーズがかなりグッときた。さらに銀髪で細身のラナは浴衣が凄まじく似合っている。なんというか、とてもお淑やかに見えて色気があるのだ。普段とのギャップがすごくすごい。
予想以上のラナの姿に思わず本音が漏れると、ラナは少し顔を赤くして視線を彷徨わせた。
「そ、その、ゼフィルスも、かっこいいわよ?」
「……お、おう。ありがとう」
……おかしい。
本当に今日のラナは、どうしたというのか。
なんだかとても気恥ずかしいのだが、これはいったい……。
なんともいえない雰囲気が場に流れる。
「――ッ!」
そんな雰囲気に最初にギブアップしたのはラナだった。
くるっと後ろに振り返ると、持っていたうちわで顔の下半分を隠し、何やらどこかに向けて手でこいこいしだす。
俺もその視線を追うと、お祭りの看板の影に見知った3人の従者の姿が……。
少し隠れながらこちらの様子を見ていたのだった。
「何やってんだよエステルたち」
俺がそう言うと看板の影から出てきてこっちへ来る。
そして自然に会話しだした。
「良かったですねラナ様、気合いを入れた甲斐がありました」
「とはいえ褒め言葉の一つもなければ、ゼフィルス殿を撃ち抜いていたかもしれませんが」
「シズは時々おっかないことを言うデース」
「スルーか」
見つかった従者の3人、エステル、シズ、パメラが完全に今のをなかったように話し出す。
まあいいけど。なんとなく今日のラナと2人きりは気まずい。
あ、あと3人も浴衣姿だ。
エステルはいつものしっかりとした騎士装備ではなく、桃色の浴衣姿。
胸は、何かで押さえているようだ。いつもの迫力が無い。
しかし、これはこれでエステルの慎ましさが表れている感じがして良い。
そして髪型はポニーテールになっていた。
エステルのポニテ姿とか非常にレアじゃなかろうか?
シズは、相変わらずのメイド風装備だ。
しかし今回の物は少し浴衣に似せている、紺の浴衣に白のエプロン、スカートは短めで、和風メイドってやつだろうか?
シズはスタイルもいいので、似合うな……。いつもの装備とは変わってコスプレっぽい感じが強くて良い。
パメラは完全にバリバリ純和風の浴衣だ。色は赤に近いオレンジでうちわと花火の絵が描いてある。
帯に刀を差しているのがパメラらしい活発さを表しているな。
ただ、足元も下駄だし浴衣は動きにくそうなので、刀の出番があったとしても振れなさそうだけど。
あと、パメラは髪をアップに纏めていて、それも和風感が強くてかなり決まっている。
それぞれをそう褒めると、エステルは照れたように髪をイジりだし、シズは淡々とお礼を告げ、パメラはその場で「ヤフーデース」と言ってクルリと一周回った。
3人のおかげで先ほどの雰囲気も吹き飛んだ。
一通り挨拶が済むと、ラナが話しかけてくる。
「ふう……。でも浴衣装備が間に合って良かったわねゼフィルス」
「だな。一時はまずったかと思ったが」
ラナの言うとおり、俺は浴衣を作るのが少し、いやかなりギリギリになってしまった。
俺がうっかりしていたのだが、やはりこの時期は浴衣装備の注文が集中するらしい。
ゲームの時は普通にギリギリに注文しても一瞬で仕上げてくれるので、同じ感覚でいたらマリー先輩からお叱りをいただいてしまったのだ。
ここはリアル。こういうこともある。うっかりだった。
しかし、さすがマリー先輩だ、なんとかしてくれた。後で改めてマリー先輩にお礼をしようと思う。
ラナは俺の浴衣を下から上まで改めてじっくり見て、一つ頷いてから校庭の方を指差した。
「じゃあ、行きましょう。まずはハンナの出店からね」
「おう。ハンナたち頑張ってるかなぁ」
「ハンナの腕前なら行列が出来ていてもおかしくはないわ」
「いや、まだ夏祭りは始まったばかりだし、そうそう行列なんて起きないだろう」
そう思っていたのだが、このセリフがフラグになったのかな?
ハンナの出店に到着すると、店は大忙しだった。
「はーい注文入りました。焼きそば5つ、焼きおにぎり10個、あと豚汁とカレー5つずつでーす」
「はいよー。大口注文ありがとーな! 焼きそば、もうすぐできるでぇ」
「焼きおにぎり、持って来ましたー!」
「ハンナさんありがとうございます。――ではルル、こぼさないよう気をつけて持って行ってくださいね」
「まっかせるのです!」
ここは出店、屋台のような姿だがB級グルメ会場のような広い出店だ。
出店の名前はなぜか『エデン』と書かれている。そこはメニューが書かれてるんじゃないんだ。
ちなみにメニューは別で立てかけてあった。
そこにお揃いのハッピみたいな衣装にエプロンをしたメンバーたちがいる。
ぴょこぴょことルルとハンナがお盆を手に駆け回り、出店の脇から注文品を並べている。
アルルとカイリは焼きそばを鉄板で焼いている様子だな。頭に鉢巻きが結構似合っている、合宿と同じ格好で焼いていた。
シェリアは寸胴鍋からスープ系を担当しているみたいだ。
受付はマリアのようで、全員が忙しそうに駆け回っていた。
だがそれも当然だ、何しろ夏祭りが始まってまだ30分も経っていないのに、すでにここの出店は行列が出来ている。しかも長い。
まだ始まったばかりだというのに、もう噂が広まったのか? お昼になったらどうなっちゃうんだろう。
しかも〈
あ、ちゃんと
端的に言って、ハンナたちの出店は大成功のようだった。
「これは……、ちょっと声が掛けられないな」
「そうね。試作品をいただいたとき、凄く美味しかったもの。こうなるのも当然ね」
ラナが笑顔で頷いていた。まるで自分のことのように嬉しそうな笑顔だ。
釣られて俺の顔も綻ぶ。
少し挨拶程度と思ったが、ま、仕方ない。
俺たちが来たことにハンナが気がついたようだが、軽く手を振ってからその場を離れることにした。
ハンナも笑顔で振り返していたし、出店は問題無さそうだな。
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