第458話 圧倒的ビーフと醜いポークとチキンの争い。




〈食ダン〉に来て楽しい時間は瞬く間に過ぎていき、あっという間に合宿も最終日だ。


 この二日間はもう素材を集めに集め、ボスを狩りに狩った。

 この日のために溜め込んでいたMPハイポーションの在庫が心配になる勢いで狩りまくった。

 おかげで〈アークアルカディア〉の面々はとても充実した練習になったんじゃないかと思う。かなりの成長が見られるしな。


 しかし、そんな楽しい狩りのひと時も今日で仕上げだ。


 今日はレアボス祭りの開催日である。

 ということで、俺たちは早速レアボス周回に突撃していた。


「ブモォォォォ!!」


「プビィィィィ!!」


「コケッコォォォォ!!」


「ユニーク来るぞ! 巻き込まれるなよ! 特にボスミノには近づくな!」


「「あいよー」」


 俺の警戒のセリフに仲の良い軽快な返事が来る。サチとエミのものだ。


 同時にエクストラダンジョン〈食材と畜産ダンジョン〉のレアボス、〈ボスミノタウロス〉〈ボスオーク〉〈ボスコカトリス〉から赤いエフェクト溢れる。

 ユニークスキル『圧倒的1位と、2位3位争い』が発動する。


 それは肉の争い。


 今までこちらに敵意を送っていたポークとチキンの視線がなぜかビーフに向く。

 圧倒的ビーフと、ポーク、チキンの下剋上戦争の幕開けである。


 そしてビーフへ飛び込むポークとチキン。

 しかし、その力は歴然。

 ビーフが手に装備するのは肉切り包丁二刀流。

 右手の〈お肉チョッパー〉と左手の〈お肉ブッチャー〉が赤のエフェクトを走らせながら嵐のように振るわれる。


「プビィィィィ!!」


「コケッコォォォォ!!」


 当然のようにぶった切られ吹っ飛ばされるポークとチキン、しかしなぜかダメージはゼロ。不思議。

 赤いエフェクトを纏いながらこちらへ吹っ飛ばされてくる大質量ポークを回避してやり過ごす。


 吹き飛ばされてもめげないポーク。

 再びビーフに挑む。しかし、突進を回避され、さらにはケツをぶった切られた。

 これには溜まらず「プビィィプビィィ」鳴きながらケツを抑えたポークがボス部屋中を走り暴れまわる。


 これは轢かれると大ダメージを負うので冷静に距離をとるべし。


 チキンはその間にジャンピングボディプレスを繰り出すが、ビーフは両手の装備を手放しチキンの足をガチリと掴むと、そのままジャイアントスイングを繰り出した。


「コッケェェェ」と叫ぶしかできないチキン。

 そして無慈悲にも投げられた先にいたのは、我が〈エデン〉のカウンターの名手、リカだった。

 捻りが加えられ弾丸のように赤いエフェクトを放ちながら迫るチキンに、刃が光る。


「飛んで火に入る、というやつだな。ゆくぞ! ユニークスキル『双・燕桜』!」


「コケェェェ!?」


 2つの刃が光ったかと思ったら再びチキンは空を舞っていた。放物線を描きながらもきりもみ回転しながら落っこちる。その先に待ち構えていたのは。


 ―――圧倒的ビーフ1位


「ブモォォォォ!!」


 まるで「また返ってきたのか!」、とでも言うように〈お肉チョッパー〉と〈お肉ブッチャー〉を持って振りかぶるビーフ。その構えはバッターの構えによく似ていた。


 それで何をする気なの!?


 危うしチキン!


 そして振られる肉切り包丁。


 ―――直撃。


「コケェェェェ!!」


 再びリカの元へ吹き飛ばされるチキン。

 まさかのかえがえしだった。

 砲弾と化したチキンがリカに迫るが、リカはこれを冷静に避けた。


 ドゴンッ! なにやら大きな質量が壁に激突したかのような音がボス部屋に響いた。

 何が起こったのかは、ちょっと目を逸らしたのでわからない。


 直後、ボスたちから赤いエフェクトが消える。ユニークが切れたらしいな。


「うむ。ようやく攻撃解禁のようだ。まずはあの死にかけを倒すとするよ」


 俺の近くにいたニーコが無慈悲なことを言ってハンドガンを発射。

 ドドッドドッ。という軽めの銃声と共に、「コケッコケッ」という鳴き声も聞こえてくる。

 ……うむ。


「おお。ぼくは初めてレアボスを倒したよ」


 ニーコの声と共に現場へ視線を向けるとチキン代表の〈ボスコカトリス〉がエフェクトに還るところだった。


 リカの『双・燕桜』でかなり危険域まで減っていたからな。あそこからカキーンと壁打ちされ、動けないところを撃たれるとは。南無。


「エミちゃんバフ頂戴!」


「あいよー。『魔本・パワーブースト』! 『魔本・スピードブースト』! サチっちガンバ!」


「いっくよー! 『魔剣・波斬』! からの~『魔剣・フィフスストライク』!」


「プビィィ……」


 仲良し三人娘のうちの2人、サチとエミがポーク代表こと〈ボスオーク〉を倒したようだ。


 最後に残ったのはビーフ代表、〈ボスミノタウロス〉。やはりビーフは強い、か。


 まあ、それもすぐに無くなるけどな。お残しは許しませんってやつだ。


「『属性剣:火』! リカ、タンクを頼む。俺はアタッカーで行くぜ」


「うむ。任された」


 ビーフと言えど焼けばお肉だ!(意味不明)

 我がギルドのお供えものになるがいい!(格言)


「ブモォォォォ!?」


「はぁ―――! 『勇者の剣ブレイブスラァァァァァッシュ』!!」


 最後まで残ったビーフも、俺の『勇者の剣ブレイブスラッシュ』の直撃を受け、膨大なエフェクトに沈むのだった。


 残ったのは金色に光る宝箱。その数は3つ!

 ニーコの【コレクター】のユニークスキル『レアドロップコレクション』がガッツリ発動したな!


「ふおおぉぉぉぉ!! し、しゅごい! 〈金箱〉がこんなに!」


 まずそれに飛びついたのは研究者のニーコだった。

〈金箱〉は滅多にお目にかかれない。故に一般人が研究出来る機会は少ない。本来なら。

 ニーコが【コレクター】に就いた最大の理由だな。


 しかし、リカが待ったを掛ける。


「ニーコ君、まだ開けてはならないぞ。せめて全員が集まるまで自重するのだ」


「なぬ! 研究対象がこの中に眠り、今か今かと目覚めの時を待っているというのにこれ以上待たせるというのかね?」


「なに、大した時間は掛からない。〈エデン〉のみんなは〈金箱〉が大好きだからな」


 リカがそう言った直後、ボス部屋の扉が勢いよく開かれた。


「〈金箱〉が出たんだって! しかも3つも!」


「ハンナは耳が早すぎる!」


 監視カメラでも見ていたのだろうか?

 扉を開けた直後からこちらの状況を把握していたハンナがやって来た。


「拡散完了だよ!」


「みんな集まれる人はすぐ来るって!」


 まあ広めたのはサチとエミなんだけどな。手には〈学生手帳〉が握られている。

 さすが〈アークアルカディア〉のムードメーカー。

 ミサトとはまた違ったコミュニケーションお化けだ。どんな拡散能力だろうか? 初動が早すぎるぞ。


 おかげでレアボス待機していたメンバーたちにすぐに連絡が行き、すぐに続々と集まって来る。

 やっぱり〈金箱〉はみんなで開けないとな。


「今回レアボス1発目の〈金箱〉だからな。ニーコ、1個開けていいぞ」


「その言葉を待っていたよ!」


 パカリ。

 もう一瞬だった。〈幸猫様〉への祈りも準備も雰囲気も無しに一気に開けるニーコ。

 さ、さすが研究者だぜ。


「これは、肉切り包丁だね。ふむ、〈お肉チョッパー〉。あの〈ボスミノタウロス〉が持っていた装備品か。ふむふむ。包丁なのに両手装備。実戦装備かな? 攻撃力は63。スキルは3つ、『食材アイテムドロップ率上昇LV5』『お肉チョッパーLV10』『鳥キラーLV5』が付いているね。しかしこれは実戦武器のようだが、なぜ包丁なのだろう? 包丁と言えば料理用であり戦闘にはあまり適した形ではない。それに――ブツブツ」


 目をキラキラさせて〈解るクン〉で早速鑑定するニーコ。動きが早い。いつもの気だるげな印象が吹き飛んでいる。しかもすぐに考察にのめりこんでしまい俺たちは置いてきぼりだ。

 さすがは研究者。


 とりあえず、ニーコの方はもう独占みたいな感じになってしまったので次行ってみよう。


 残り2つの〈金箱〉はレアボスが初めてだったというサチとエミに決まった。

 仲良し三人娘の最後の1人、ユウカが少し寂しそうだったので最前列で見学させてあげる。

 3人とも手を合わせお祈りのポーズを取った。


「「「〈幸猫様〉~大好き!」」」


「あ、それはずるいぞ!?」


 なんてお祈りだ! くっ、さすがは明るいムードメーカー三人娘。

 3人よればなんとやらと言うようにとんでもないお祈りをするものだ!

 これが女子高生のノリなのか? 


 何か良いドロップが出る予感がする!


 サチの方からは料理用アイテムで主に茹でる煮込む系に特化した鍋5点セットだった。

 鍋で作る料理系に大きな補正が掛かり、料理バフの効果を高めてくれる非常に高価なアイテムだ。もちろん大当たりの分類だが〈エデン〉には【調理師】はいないんだよなぁ。これは、どう扱うか迷うな。とりあえずハンナに渡しておこう。


 エミの方は料理系のレシピだった。なぜかニーコが持っていた『レシピ解読』を持つアイテム〈かいどクン〉によれば、これは〈カレーレシピ全集〉だった。

 これはとんでもないレシピだな。以前ゲットした〈カレーのテツジン〉と合わせれば、どんなカレーも作ることが出来るようになるという最強レシピの1つだぞ。もちろん素材の関係で作れない物は山ほどあるが。

 しかしこれは大当たりであることは間違いない!


「いやあ今後の夢が広がるなぁ」


「ぐぅぅ~」


 カレー好きのカルアの腹が大きく鳴って俺の呟きに同意した。


「カレー、素材、頑張る! 取る!」


「よしカルア、まずはこの〈食ダン〉の素材を制覇してみるか!」


「ん! 行く!」


「行かせるわけないでしょ。もう時間も無いわ。またにしなさい」


 カレー素材集めの旅に出ようとしたらシエラに止められた。


「無念」


「また今度だな。まだ見ぬカレーが俺たちを待ってるぞ」


「ん。楽しみ」


 俺たちは今後のカレーの旅に思いを馳せるのだった。




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