第444話 マリアと一緒に生産部屋を見学しよう!




「ゼフィルスさん! 今日は生産部屋を拝見したいのですがよろしいでしょうか!」


 今日の朝はマリアのそんな一言から始まった。


 生産部屋。

 それは〈エデン〉と〈アークアルカディア〉の生産活動の部屋。


 今のところメンバー、サブメンバー合わせ、生産職は2名在籍している。

【錬金術師】のハンナと、【炎雷鋼ドワーフ】のアルルだ。

 担当はハンナが『錬金』、アルルが『鍛冶』となるが、そういえばあまり活動している様子を見に行ったことはないなと思い浮かび、マリアを案内するついでに、俺も見学してみようと思い至った。


「了解だ。まず〈エデン〉の錬金工房からかな。――ハンナー居るかー?」


 俺は早速〈エデン〉のギルド部屋、その4つある小部屋の1つをノックした。

 ここは生産部屋、もとい『ハンナの錬金工房』。俺たちがいつの間にか錬金工房と呼んでいた部屋だ。

 ハンナがスラリポマラソンなどでちょっとはっちゃけていたりするのでノックが基本だ。

 ドアには「ノックプリーズ・ハンナの錬金工房」と書かれた可愛らしいデザインのインテリアドア看板が掛けられている。


 ハンナは最近素材集めも兼ねてルルたちとダンジョンに潜っていたが、素材も集まったので今日は生産に集中すると言っていた。

 多分ここにいるだろう。と思っていたのだが、ノックをしても声をかけても返事がない。中に人の気配もしないことからどうやらハンナは留守らしい。


「ありゃ、いないな。どこいったんだ? ん~、ハンナの活動範囲って意外に広いからなぁ……」


 前に俺たちがダンジョンに集中している隙に学園の救済クエストをクリアしていたこともあったハンナだ。そのフットワークは羽のように軽い。

 あれがきっかけで今ではいたるところで声を掛けられ、色々と誘われたり、助けを求められていたりするらしい。


 三大組織ギルドの一つ、〈生徒会〉からも今熱心に誘われているって言っていたからな。

 学園が運営する三大組織ギルド、〈救護委員会〉〈秩序風紀委員会〉〈生徒会〉は他のギルドと掛け持ちが可能なのでもしかしたらハンナは〈生徒会〉と掛け持ちをするかもしれない。

 まあ、これはハンナが決めることだろう。俺は相談は受けるが最後はハンナの意志に任せる所存だ。


 さて、ここにいないのなら仕方ない。もう1人の方を先に行くか。


「仕方ない、先にアルルの方へ行くか」


「はい! お願いします!」


 相変わらずのテンション高めでマリアがメガネをくいっと上げる。

 なんかそのメガネを上げる動作、カッコイイな! 俺も知的なゼフィルスを演出するときやろうかなと、ちょっと本気で考える。


 マリアと雑談しつつ、俺たちはアルルの生産部屋があるEランクギルド、〈アークアルカディア〉のギルド部屋へ向かった。


「失礼するぞー」


「あ! ゼフィルス君だ! どうしたのどうしたの! 今日はどうしたの!?」


〈アークアルカディア〉のギルド部屋に入ると仲良し三人娘が表情を輝かせて出迎えてくれた。


「いらっしゃい、ゼフィルス君~歓迎するよ~」


「ひょっとしてダンジョンのお誘いかな? だとしたら嬉しいが」


「いや、今日は別件だ。ダンジョンはまた今度行こうな」


 どうやらギルドに集まって雑談していたらしい。


 三人娘に挨拶をして中を覗くと、部屋にはノエルとラクリッテもいた。手を振って挨拶してきたので俺も手を振り返す。

 この2人は結構頻繁に〈アークアルカディア〉の部屋に来ているらしい。

 まあ、元々〈アークアルカディア〉のメンバーで三人娘とも仲良しだからな。


 とそこで、彼女たちが俺の後ろにいるマリアのことを見ていることに気がついた。

 そういえば、彼女たちは初対面だったか? 5人は昨日、1日ダンジョンに行っていたからな。俺は少し横に避けてから5人にマリアを紹介する。


「そうだ、紹介しよう。〈助っ人〉で経理補佐やアイテム管理なんかを担当してくれるマリアンヌだ。すごく優秀だぞ」


「そんな、優秀だなんて、光栄です。改めてご挨拶を、マリアンヌと申します。今後〈エデン〉と〈アークアルカディア〉の経理等の担当をいたしますのでよろしくおねがいいたします」


「あなたが〈助っ人〉に来てくれた人でしたか。では私も改めて、ノエルです。【歌姫】に就いています、よろしくね」


「わわ、うちはラクリッテって言います! えと、【ラクシル】です、よ、よろしくです!」


「ちなみにそっちの2人は〈エデン〉組ね。私たち3人は〈アークアルカディア〉所属だよ。知ってると思うけど私はサチね。【魔剣士】だよ、よろしくね!」


「右に同じく私は【魔本士】のエミ! よろしく!」


「私は【魔弓士】のユウカだ。これから世話になる」


「こちらこそです。よろしければ私の事はマリアとお呼びください」


 マリアの紹介が終わる。しかし、話の雰囲気からみんな知り合いだったぽい?


「みんな知り合いだったのか?」


「だってゼフィルス先生の同期だもん。みんな顔も名前も知ってるよ~」


「とうとうマリアさんも加わるか~。順調に加入者増やしてるよね~」


「みんな真面目に努力してきた結果だろうな。他の子たちが来る日も近いかもしれない」


 俺の質問にサチ、エミ、ユウカが答えてくれる。

 ああ、そうかと納得。

 この子たちは全員、俺が講義をしている〈育成論〉の第一期生、50人のメンバーの子たちだったっけ。あの女子たちはすごく仲がいいからな。普通に友達だったっぽい。


 なるほど。それなら問題も無さそうだ。

 マリアも知り合いが多いみたいだし動きやすいだろう。


「そういえばアルルに用があったんだが、今不在か?」


 ここに来た理由を思い出してみんなに聞いてみる。


「アルルちゃんなら鍛冶してるよ~」


「奥の部屋にいるから行ってら~」


「今日は大きな生産をすると息巻いていた。ハンナちゃんもさっき中に入っていったから何か集中してチャレンジしているかもしれない」


 アルルの事を聞くと仲良し3人娘が答えてくれた。

 ハンナはここにいたのか。探す手間が省けたな。

 しかし、ユウカが言っている大きな生産というのが気になる。

 何を作ってんだ?


 邪魔するのは本意では無いが、今回は見学のみなので、そっと覗かせてもらうとしよう。


 アルルが生産に使っているという小部屋の前に立ち、軽くノックをする。

 うむむ、中からカァンカァンという音が断続的に聞こえてくるな。防音のはずなのに聞こえるということはそれなりに大きい音を鳴らしているということ、ノックの音には気付きもしないみたいだ。


 少し悪い気もしたが、ソッと扉を開いていく。


 マリアも後ろから屈むようにして覗き込んでいた。

 するとそこで見た光景は。


「エイヤー! ええで! ええで! たぎってきたわー! ハンナはん! あんた最高やー!」


「てーい! てーい! ふう、これ結構疲れるね、てーい!」


「ふふふ、疲れると言っている割には全然まだまだ行けそうやん。やっぱハンナはんハンマーの才能があるで、エイヤー!」


 アルルがエイヤーと言うたび、ハンナがてーいと言うたびにカァンカァンと鈍い金属音が鳴り響く。

 そこで見た光景は、ハンナが大きなハンマーを振り下ろし、アルルもハンマーを振り下ろし、赤く熱された金属塊を『相槌あいづち』している光景だった。




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