第443話 夏休み突入。〈助っ人〉加入大歓迎!




「筋肉! 筋肉!」


 デカデカと無駄にカッコイイ行書体で『筋肉頑張れ!』と書かれ、そして小さく『勉強も頑張れ』と書かれたたすきを着けた筋肉たちの集団が道を兎跳びで駆けていく。


「くっ、見ているだけで暑くなった気がする」


 そんな夏休みの光景に目をそらしながら、俺は今日もギルド部屋に向かっていた。




 夏休み期間に突入して10日が過ぎた。


 この間、予定通り帰省組を見送り、俺たちはダンジョンに潜ってLV上げをしたり素材を確保したりと勤しんでいた。


 やっぱり1日フルで使えると全然違うな。

 おかげで全体的に平均LVを伸ばすことに成功している。

 攻略階層もかなり伸びてきており、ノエル、ラクリッテ、そして仲良し三人娘はついに中級下位チュカの攻略を始めることになった。


 リーナ、メルト、ミサトは俺とアイギス先輩とパーティを組み、ガンガン中級下位チュカを攻略し、とうとう中級中位チュウチュウへ進出した。アイギス先輩もだいぶレベルが上がったな。


 俺もこのメンバーの中ではタンク役のポジションを務めたため、タンクとしてのプレイヤースキルがかなり上昇してきた感じがする。成長を感じるぞ!


 これまではタンクの腕に難ありで『カリスマ』もろくに使いこなせていなかったが、最近はじゃんじゃん使っても大丈夫な感じだ。

 腕が上がるって、なんか達成感と充実感が凄い感じるんだぜ。

 そろそろ『カリスマ』もLV5に上げてもいいかもしれない。あれLV5にすると能力がむっちゃ上がって手に負えなくなるからLV4で止めていたのだが、今の俺なら使いこなせるだろう。そのくらい腕が上がったと実感している。


 ルル、シェリア、リカ、カルア、ハンナは中級下位チュカで〈上級転職チケット〉ゲット周回アンド素材集めをしていた。ハンナは中級下位チュカまでならヒーラー役がこなせるので頼んだ形だ。

 しかしその戦果は〈上級転職チケット〉ゼロ枚! ゼロ枚である……。嘘だろ?

 思わず「へ?」ってなった。装備が高く売れるためメンバーの子たちは別に気にしていないが俺は思った。これ「妖怪・後一個足りない」が仕事してやがる!


 負けない、負けないぞ! ニーコをLV40まで上げるのだ!

 妖怪なんか、ぶっ倒せ!


 長期帰省組が帰ってきたら〈上級転職ランクアップ〉を絶対やる。

 学園に〈竜の像〉の使用の許可を取り付けなければな。あれまだ禁止令が続いているし。

 しかし、上級への転職であれば禁止令は適用されないはずだ。許可は簡単に取れるだろう。


 そうしてダンジョンメインで活動しながら今日、やっと待ちに待った待望の〈助っ人〉が〈エデン〉にやってきてくれた。


「ゼフィルス様、お待たせいたしました。この方がアイテム管理を主に担当する〈助っ人〉の方です」


「は、初めまして勇……じゃなくてゼフィルスさん。私〈ダンジョン営業専攻〉の〈商業課1年1組〉に所属しますマリアンヌと申します。【マーチャント】の職業ジョブに付いております。本日は〈助っ人〉制度をご利用いただきありがとうございます! お任せください! 精一杯! 誠心誠意を籠めて! 力の限り! 務めさせていただきます!」


「す、凄いやる気だな」


「ありがとうございます!」


 セレスタンに連れられてきたのは、凄くやる気に溢れてる女子学生だった。

 キラキラと輝かしい青の瞳、メガネを掛けているがまったくその光が損なわれていない。

 髪も瞳と同色でフワッとした柔らかな質感で背中まで伸びている。

 雰囲気的にはやる気のある委員長といった感じなのだが、なぜか応援団にも似た迫力あるやる気の雰囲気も感じる不思議な子だった。


 身長は結構あって、シェリアと同じくらいか、体格、スタイルも似ている。なんともきちっとした佇まいだった。

 青の刺繍が入った学生服にエプロン風のワンピースのような物を被っており、商人というよりどちらかというと看板娘と言った方がしっくりくる見た目だ。


 この子が〈助っ人〉で経理補佐やアイテム管理などを担当してくれる。本来なら3人の〈助っ人〉を募集していたのだが、やはり時期が悪く、マリアンヌさんしかいい人が見つからなかったのである。

 セレスタンによる厳しい審査を勝ち抜いてきた子であり、夏休みという本来なら休みを満喫したい時期に来てくれた子でもある。大事にしよう。


「俺を知っているようだけど改めて自己紹介させてもらうな。俺はギルド〈エデン〉のギルドマスターをしているゼフィルスだ。マリアンヌさんが来てくれて本当に助かった。よろしく頼む」


「は、はい! あ、あと私の事はどうかマリアとお呼びください、できれば呼び捨てで! そっちの方がやる気が出ます!」


「まだやる気が上がるの!? えっと、じゃあマリア。よろしく頼むな?」


「は、はわ! ――お任せください!!」


 呼び捨てで改めて頼むとマリアは少したじろいだ後、カチャリとメガネを上げてそう声を張った。

 メガネの奥の目がキラキラからギラギラに変わっている気がするが、気のせいか?



 早速マリアはセレスタンから業務の引き継ぎをするようだ。

 セレスタン、夏休みになって俺たちの狩りがむっちゃ増えた、しかしシエラとシズがいないから業務が大変な事になっていたからな。

 正直、すまんかったと思うがこれで少しは楽になるだろう。


 ちなみに残りの〈助っ人〉2人はまだ集まらないそうだ。

 いや、応募は来てはいるがセレスタンの厳正な審査を通り抜けられない様子で、もしかしたら夏休みが終わるまで集まらない事もありうるとセレスタンに言われた。


「短期アルバイト感覚で来られてもどうも……。できれば清廉潔白で真面目で長期的に使える人材がよろしいのですが、なかなか集まりません」


 セレスタンが珍しく愚痴をこぼしていた。

 やはり今の夏休みの時期が悪かったかな。


 しかし、マリアみたいなやる気溢れる子だけでも来てくれて良かったと思うことにしよう。

 マリアのやる気は本当に素晴らしく、セレスタンの分かりやすく纏められたマニュアルのような物をすぐに読み込み、一発で覚えきって初日からバリバリ働いていた。


 すげぇ。【マーチャント】に物覚えの良くなるスキルは無かったはずなので、これは純粋なマリアの実力だろう。


【マーチャント】は何かを売り買いする時、補正が付き、商品価値が上昇して高く売れたり安く買えたりするスキルを持つ。ゲームの時はまとめ買いとかすっごく便利だった。MPポーションとか。

 売るときも金額増し増しになるので、時間が無くて満足に周回が出来ないプレイヤーがよく使っていた職業ジョブだったな。


 しかし、経理に役立つ能力だなぁとしか考えていなかったが、こういう戦闘と皆無なプレイヤースキルみたいなものも有るのかと改めて思った。


 そりゃ【バトラー】のセレスタンがスキル関係ないところで活躍しているのだから、こういうプレイヤースキルもあるよな。

 うむむ、今後は職業ジョブだけでは無く、その人の能力も見定めなくては。

 その辺自信がないのでセレスタンとか分かる人にぶん投げるとしよう。


 とにかく俺が言いたいのはだ。


「良い子が来てくれて良かったなぁ」


 まさにこの一言に尽きた。




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