第442話 夏休みの帰省メンバー。スケジュールを練る。




「さて、夏休みだが、スケジュールを作成してある。とりあえず、ここに書かれていることを行なう予定だ。こんなことがやりたい、どこどこのダンジョンに行きたい。装備の素材集めがしたいなんて意見があればどんどん言ってくれ」


 宴会、もとい打ち上げもだいぶ終わりに近づいたところで俺はみんなに〈エデン〉〈アークアルカディア〉の夏休みでやる予定のスケジュールを渡した。

 カレンダー的なものではなく、ただ箇条書きにして並べたものだ。

 スケジュールと言うよりやることリストと言った方が近いかもしれない。

 全員集合するのは8月25日とし、27日にみんなで〈海ダン〉に行く予定、日時が固定で決まっているが、その他は臨機応変だ。


 そのペーパーを眺めていたリカがまず口を開いた。


「結構やることが多いのだな」


「ああ。噂に聞いたんだが、夏休みではギルドがこうしてやることリストを作るのが通例だそうだ。こうやって決めておかないとすぐにダレてしまう人が出るらしい」


「なるほど。身を引き締めるためにも必要な処置、ということか」


 リカが納得したという感じで頷く。

 夏休みはだらける期間と言っても過言では無い。

 自主的に動かないなら、ギルドでやるべき事を決めて参加させた方が色々な意味で有意義のようだ。


 ただ、毎年のように目標をやり過ぎに設定してしまい、もっと楽なギルドへとメンバーが抜けて弱体化してしまうギルドも少なくないとか。逆にぬるすぎてもっと精強なギルドに行ってしまうメンバーもいるらしい。


 みんな、この夏休みの期間に他のライバルに差を付けたいのは察するが、せっかくの夏休みを潰す勢いで無理な目標を掲げるのは良くないということだな。逆も然り。

 せっかくの夏休みだ。休みたい人もいれば有意義に過ごしたい人も居る。


 こういうのがギルドの運営という面で善し悪しに関わってくるということか。

 俺も気をつけておかなければ。ダンジョンやりたすぎてハイになると大変な事になるかもしれない。少し抑えよう。そしてみんなと相談して決めよう。そのほうがいい気がする。


 今回提示したスケジュールも、それなりに目標は高いが、俺なりに結構抑えている。

 後は自主的にやりたいという人はダンジョン行こう、という感じだな。

 ちなみに俺は毎日ダンジョンに行く予定だ。レアドロップを求めて!


「あと帰省する人、いつから帰省して、どのくらいに戻ってくる予定なのか聞いておきたいんだが。あ、ちなみに俺とハンナは居残り組な」


「村と往復で20日も掛かるからね」


 ハンナの言うとおりだ。

 移動だけで20日? 震えが止まらん。


 片道10日でもヤバかったのだ。今度こそあの暇に殺されかねない。

 まあ、俺には村に帰る理由は無いので最初から帰省する予定は皆無なんだけどな。


 ハンナは親がいるし、大丈夫なのかと聞いたら「帰省にかかる費用はね、自己負担なんだよ。だから学園で3年過ごすまで逆に帰ってくるなって言われてるの」と返ってきた。

 意外に切実な理由だった。入学と卒業の時の交通費は学園が出してくれるが、帰省に掛かる費用は自己負担なのだ。

 今のハンナの稼ぎなら余裕で払えるが、タクシー20日間と考えるとお高い。お高すぎる。確かに考えてしまうよな。

 そしてハンナは親から言われたとおり3年間帰省しないことに決めたらしい。


「私は【盾姫】に就いた報告も兼ねて一度帰省はするけれど、多分二週間程度で戻ると思うわ」


「おお、それはありがたいな。正直シエラが居ないとダンジョンの攻略が進まん」


「そう」


 優秀なタンクがいないとボス戦ができない。シエラが長期帰省したらどうしようかと思っていたが、そんなに掛からないようで安心した。

 そう態度に出したら、なんかシエラが少し赤くなっている? 気のせいか?


「私とカルアは帰省しない予定だ。姉たちもギルドの責任ある立場にいて帰省しないようだし、私も帰らなくても問題無いだろう」


「ん。学園に居てくれって言われた」


 続いてリカとカルアからの報告だ。

 リカはともかくカルアは……、うん。まあ仕方ないな。

 向こうでは色々とやらかしていたらしいし。


「ルルは帰らないのです! ここでぬいぐるみさんを愛でるのです!」


「ルルが帰らないのなら私も帰りません」


「それでいいのか2人とも?」


 ルルとシェリアは完全に趣味的な理由だった。良いのだろうか? 特にシェリア。


「リーナ、メルト、ミサトはどうだ?」


「わたくしは領地が遠すぎまして、帰るに帰れないのですわ。とんぼ返りしても夏休みが終わってしまいますの」


「俺はまだLVが低い。この夏休みで修練に望む所存だ」


「たはは、私も同じ理由かな。みんなに早く追いつかなくっちゃだしね」


 そういえばリーナは南の公爵家出身と聞いたことがある。大陸のかなり南側に領地があるのだとか。多分、俺たちのギルドどころかこの学園で一番家が遠いんじゃないか?


 真面目なメルトは彼らしい判断だった。この夏休みでカンストメンバーに追いつく所存らしい。ミサトも同じなようだ。

 それを聞いたリーナも「わたくしも頑張りますわ」と便乗する。

 そうだな。〈アークアルカディア〉のレベル上げも大事だが、〈エデン〉メンバーの育成も大事だ。一緒に頑張ろう。


 続いて新〈エデン〉メンバーはどうだろうか?


「あんな事を言われて、帰省するなんて言えないですよ」


「そ、そうです! うちも頑張ってレベル上げるのです!」


「帰省予定でしたけど、取りやめることにしましたよ~。せっかく〈エデン〉に加入出来ましたしね」


 そう答えるのはアイギス先輩とラクリッテ、そしてノエルだ。

 頑張るのは大変ありがたいのだが、本当に帰省しなくても大丈夫だろうか?

 そう聞くが、3人とも大丈夫の一点張りだった。なら、これ以上俺が言うこともないだろう。


「レグラムはどうするんだ?」


「すまんが、俺は一度帰らねばならん。少し掛かるかもしれん」


「了解した。8月25日までには戻ってこれるか?」


「……正直言って分からん。だが、なるべく間に合うようには急ぐ所存だ」


 レグラムは長期帰省組のようだ。

 言い方的に、ちょっと心配だな。


「無理はしないようにな」


「任せるがいい」


 うむ、レグラムの口癖はなんとなく安心感がある。

 大丈夫だろう。


 それから〈アークアルカディア〉メンバーにも振っていき、


「私たちも残るよ!」


「ゼフィルス君とサマー!」


「ここで帰るなんてあり得ないよ」


 仲良し三人娘、サチ、エミ、ユウカは居残り組に。


「くう、帰りたくない~」


「まあ頑張りたまえカイリ君。そのうち良い事あるさ」


「ドンマイやカイリはん。カイリはんのことは忘れんで」


「やめて! それ忘れちゃうやつだから!」


 奥の方ではカイリ、ニーコ、アルルが盛り上がっていた。

 どうやら〈アークアルカディア〉で帰省するのはカイリだけのようだな。

 なんか悲壮感が漂っている感じがするのは気のせいか?


 メモを取っていると、従者組と相談していたラナが手を挙げた。

 やっと結論が出たらしい。さっきからラナと言い争いをしている声が響いてきていたが、どうなったのだろう?


「うう~。ゼフィルス、私、帰りたくないわ」


「ラナ様。ゼフィルス殿に懇願しても事態は変わりません。帰省しますよ」


「は、薄情者よー。エステルはいつからそんなに厳しくなっちゃったのよ。前はあんなに―」


「そ、それは。こほん。それはそれです。私は護衛、時には厳しくするものです」


「うう~」


 珍しくラナのテンションが大きく下がっていた。声に覇気が無い。

 エステル。少し前までラナを甘えさせまくっていたが今日はいつになく厳しめだ。

 それだけ今回の帰省は大事なことなのだろう。


「ラナ、頑張って来いよ」


「は、薄情者~」


 俺が激励を送るとラナはへなへなとテーブルに突っ伏した。

 少し可哀想に思ったが、頑張れとしか言えない。間違って可愛いと言いかけたのは内緒だ。


 結局セレスタン以外の従者組とラナは帰省するらしい。しかも長期間。

 うーむ、エステルの〈馬車〉やラナのヒーラー、シズの斥候にパメラの避けタンクが抜けるのは地味にキツいな。

 これは低レベル者を育てろって事かね?


 ちなみにセレスタンは俺の従者であるので、俺が残るならセレスタンも残るそうだ。

 良いのかそれで? いや、セレスタンが抜けたらギルドの運営が大変になる。

 ありがたいんだけどな。


 さて纏めると、帰省するのは、


 短期帰省組

 シエラ、カイリ


 長期帰省組

 ラナ、エステル、シズ、パメラ、レグラム


 以上だな。

 合計7名。意外に少なかった。しかし俺としては助かる。


 それを元に再びスケジュールを練るのだった。


 ――夏休み、突入。


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