第436話 大きく負けている状況から、逆転を狙え。




〈ダン活〉のギルドバトルはわりと運が絡む。


 巨城を落とすとき先取した方が総取りになるため、先ほどみたいに両チームが攻撃していると最後の1発を撃ち込むのはどちらのチームになるのか分からないためだ。

 狙うことができないなら運を天に任せることになる。


 だからこそ〈ダン活〉は面白い。

 熟練になればなるほど実力でねじ伏せることも可能になるが、戦術と戦略と運がほどよく絡むとゲームというのはより面白みが増す。

 端的に言うと燃えるのだ。

 実力は明らかに赤チームの方が大きいのに、運で白チームが勝つこともある。とても目が離せない。


 しかもその運を実力でねじ伏せる事が可能で有るという点が非常にポイントが高い。

 人は運が無くて負けるとなると運を超えようとするのだ。そして運という天と神にしか見えないものを制した時、人は凄まじい充実感を得るのである。


 それが絶妙に配置されているのが〈ダン活〉であり、俺を始めとする多くの〈ダン活〉ファンたちを底なし沼に引きずり込んだ。

〈ダン活〉マジ面白い。マジ名作である。


 まあ、何が言いたいのかというとだ。

〈ダン活〉は負けていても面白いということだな。


 スクリーンを見ると、現在のポイントは、


 〈『白4280P』対『赤2250P』〉〈残り時間26分31秒〉


 白チーム〈アークアルカディア〉が〈北巨城〉〈西巨城〉の2つを落とし大きくリード。

 赤チーム〈エデン〉は〈東巨城〉のみ落とし、負けていた。


 俺とパメラが西へ向かった直後から〈アークアルカディア〉は総出で〈西巨城〉に向かった。

 人数的には2対8だな。

 それでどうなったのか。まあ〈西巨城〉、持って行かれたよね。

 さすがに2対8は厳しい!


 先に〈西巨城〉に取り付いたのは俺たちだったが、ギルドバトルでは時に人数差がレベル差を上回る。

 差し込みを狙ってみたのだが、相手も巨城のHPが2割を切った辺りから圧力がマシマシになり、結果惨敗。


 俺が、惨敗! これだから〈ダン活〉はやめられない。


 ここから逆転を狙うとか、超ワクワクする!

 こっちから仕掛ける対人不可だから厳しいけど!

 やり方は無くはない。


「さて、これから作戦を説明するな。走りながら聞いてくれ」


 現在俺たちは一度天王山中央で集まり、5人1組で周辺の小城マスを取りながら走っているところだ。

 普通なら中盤戦は人数を割って小城Pを収集するのが基本になるが、どうせ人数で負けているのだ。小城Pをいくらゲットしたところで〈アークアルカディア〉の小城Pには勝てない。

 なら、戦力分散せず一度5人全員で集まり、じっくり作戦会議でもした方が有意義である。という主張だな。


〈アークアルカディア〉の方は基本にのっとり、現在は3組に分かれて小城Pを集めている。

 俺たちが中央付近にいるため、〈アークアルカディア〉は巨城周りと本拠地周りというフィールドの端の方を重点的に回っているようだ。


 つまり作戦が聞こえることはない。


 俺は2分を掛けてじっくりメンバーに作戦を伝えていく。


「――という感じだ。この作戦で勝てる可能性はある。別に〈アークアルカディア〉の昇格試験だから負けても良いんだが、それはそれで〈エデン〉の矜持に関わる」


「そうだな。いくら負けてもいい、下部組織ギルドに花を持たせても良いと言っても威厳を損なう可能性は無視できない、か」


「私は賛成かな。〈エデン〉がこのまま負けちゃうのは色々な所に影響でそうだし。それにこの状況から逆転勝ちするのってかなり難しいじゃん。勝てれば〈エデン〉の屈強さをアピールできるよ」


 俺が端的に言って負けるのいやだ的なわがままを婉曲えんきょくに伝えると、リカが真面目に考え始めた。うん、悪いな。

 しかし、ミサトはむしろ勝たないとダメ的な意見を主張した。

 確かにこの状態から勝てれば〈エデン〉のアピールにもなる。でもなんのアピールだろう? 就活か?


「私はゼフィルスさんにまっかせるデース!」


「〈アークアルカディア〉の子たちには悪いけれど、勝った方が良いと思うわ」


 パメラはどっちでもいい派か。

 しかしシエラはミサトと同じで〈エデン〉が勝つことを強く主張している様子だ。


 よし、少し大人げないかなと思ったが、そう言うことなら話は決まったな。


「じゃあ、やるぞ! この天王山を押さえることを意識しつつ、注意するのはマス道をひっくり返されないこと。道が途切れたらやり直しになる。残り時間が少なければ敗北もあり得る、気をつけてくれ。では、作戦開始!」


「行ってくるわ」


「承知した」


「こっちはやっておくねー!」


 俺の宣言と共にシエラ、リカ、ミサトが3人1組になって〈北巨城〉へ向かっていった。

 それを手を振って見送る。

 もう何度もギルドバトルをした経験者だ。しっかり作戦遂行してくれるだろう。

 く~、楽しくなってきたぜ。


「パメラ、俺たちは西だ。天王山周りから西寄りに進むぞ」


「おーデス!」


 こうして俺たち〈エデン〉は動き出す。


 まずはシエラたちに頼んだ〈北巨城〉。

 道を繋ぎ、〈北巨城〉までのマスを引き、そして〈北巨城〉を攻撃し始める。

 巨城はひっくり返せば2000Pが手に入るが、相手のPが下がることはない。

 故にポイントが縮まるだけで逆転はできない。

 それにひっくり返したとして、またひっくり返されれば意味が無い。

〈アークアルカディア〉からすれば、残り時間が20分近くもある今のタイミングで〈北巨城〉をひっくり返す意味が分からないだろう。


 しかし、シエラたちは巨城の攻略を始めたと思ったらすぐにやめ、その場を離れて〈東巨城〉へ向かい始めた。

 これには〈アークアルカディア〉もよく分からないようで、西中心の小城を取りつつ先ほどの俺たちと同じように集まり始めた。

 作戦会議の様子だ。うむ、良い判断だ。

 相手が仕掛けてきた、でも何をしているのかよく分からない時は情報交換。


 ゲームではそんな事をする必要は無かったが、リアルでは情報交換がとても重要になる。

 しかし、情報交換するには集まらなければいけない。


 と、そこへ俺とパメラが若干北寄りから〈西巨城〉へ接近する。

 対人戦を嫌っている〈アークアルカディア〉8人が一斉に白本拠地付近に南下し始めた。

 ちょっとだけ追うふりをする。


 実はこの行動、別にこれといって意味は無い。足跡マスを踏まれないためのちょっとした小細工だ。

 まあ、狙いはあるのでちょこちょこマスを踏みつつ西にも足跡を点在するように踏みつけ、西、東、北、中央付近の道作りに励む。

 こうなるとオセロでいう白と黒がバラバラの状態になり、マスをひっくり返しにくくなる。後々、これが生きてくるといいなぁ。

 足跡踏み踏み~。


 そんな事をしつつ逆転への準備を進めていると時間は過ぎていき、残り時間は10分を切って終盤戦に突入した。




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