第420話 レアボス戦序盤、〈バトルウルフ(第四形態)〉




 最初にレアボス〈バトルウルフ(第四形態)〉とバトルするのはAチームに決まった。

 つまり、俺、カルア、リカ、ルル、シェリアのメンバーである。


 レアボスは基本的に単体だ。

 統率系のスキルを持っていたはずの〈バトルウルフ〉だがレアボスの時はお供を連れず、単体での出現となる。

 お供を連れてきていないので、では弱いのかというとそうでもない。

 むしろパワーアップしている。

 お供を連れていないので範囲攻撃、全体攻撃をバンバン使ってくるのだ。


〈バトルウルフ〉も(第四形態)ともなると見た目も能力もかなり上がってきており、見た目は全長5メートル、黒くダークな体毛に覆われ眼は怪しく赤く光り、そして頭が二つに増えている。

 二つの口からそれぞれ闇属性のブレスと氷属性のブレスをまき散らし、これまでに少なかった範囲攻撃をかなり放ってくるので気が抜けない。

 後衛は気をつけていないとすぐ範囲攻撃の餌食になるため注意が必要だ。


 ユニークスキルはそのブレスが2つ混ざり合い部屋全体に降り注ぐ『バトルウルフ流・闇氷柱豪雨ダークネスアイスピアレイン』、全体攻撃だ。上からの攻撃はリアルだと防いだり回避するのが難しい。

 これは要警戒だな。


 この中で装甲が脆弱なのがカルアとシェリアだ。特にカルアは回避に特化しているためいざ防御するといった時に不安があるが、新しい防具も装備している。なんとかなるだろう。


 シェリアも魔防力とHPはそれなりに育てている。

 即戦闘不能になる事は無い。

 後は回復次第だな。

 後衛のシェリアには〈ハイポーション〉を多く渡しておく。


「今回、回復が追いつかなくなる可能性がある。その時は配ってある〈ハイポーション〉を使って各自で回復して欲しい。俺は全体回復系を持っていないからな。それとリカ、『エリアヒーリング』を使ったら〈バトルウルフ〉を抑えてくれ」


「了解した」


 俺の『エリアヒーリング』はエリア魔法。

 発動したエリアの中に居れば人数問わず回復し続けるが、そのエリア魔法の範囲内にボスがいる場合、エリア魔法地帯は放棄せざるを得ない。

 敵を回復してしまうということはないが、エリア魔法の範囲内に留まることを優先しすぎるあまり敵の攻撃範囲に留まり続けるとへたをすればダウンを取られ戦闘不能に追い詰められる事もありうるからだ。


 エリア魔法に敵が入ってきたら、大人しく距離を取って対応すべしだ。

 だが、その前に入らせないことが大事だな。リカにはタンクとして頑張ってもらいたい。


「じゃあ、〈笛〉を吹こうか。今回は――」


「はい! ルルが吹きたいのです!」


「よし、じゃあ今回はルルに任せよう」


「やったのです!」


「はう。癒やされます。ルル、吹き方は分かりますか? よければお姉ちゃんが教えてあげますよ」


「前にオカリナを吹いたことがあるので大丈夫なのです! 見ているのですよ!」


「はい! ルルの可愛さ、しっかりまなこに焼け付けます!」


 ルルに〈笛〉を渡したらシェリアが過剰なほど甘やかし始めた。いつもの光景だ。

 ルルは以前レアモンスターを呼び寄せる〈オカリナ〉を吹いて以降、〈笛〉を吹くのにハマっているんだ。


「―――♪ ―――♪」


 ルルが吹くと〈笛〉からエフェクトが溢れ、発動したことを教えてくれる。

 エフェクトを放ちながら演奏するルル。

 シェリアがうっとりした顔つきでそれを見つめているが、その顔はちょっと危ない気がする。気のせいか?

 リカとエステルが微妙な顔をしているぞ。


「レアボスツモれば良いな」


「何を言っているのですか。ルルが吹いているのですよ? レアボスだって我慢しきれず演奏を聴きに駆けつけます」


「……そうだな」


 レアボスがツモる確率は70%。

 思わずポロッとこぼれた願望を、シェリアが凄い勢いで拾い上げた。

 シェリアがルルを好きすぎて困るな。

 別に困ってないけど。


 ルルの演奏が終わっていよいよボス部屋に入ると、そこに居たのは……、いやどこにもボスは居なかった。


「お、レアボスツモった」


「ですから言ったでしょう。ルルに掛かればレアボスを釣り上げるなんて造作もありません」


 シェリアがまったく疑いも無くうんうんと頷くが、その自信はどこから……。

 これでもしレアボスがツモってなかったらシェリアはどんな反応をするのだろうか?

 見てみたい気もする。


 と、そうこうしているうちにボス部屋の奥が光り始める。

 レアボスポップのエフェクトだ。

 シェリアを後方に残し、まずリカを先頭に俺、ルル、カルアが前へと出て陣形を作り終わると、エフェクトの中から黒く巨大な狼が姿を現した。


「グウウオォォォォォンッ!!」


〈猛獣の集会ダンジョン〉のレアボス〈バトルウルフ(第四形態)〉だ。

 ゲームの時の見た目通りだ。


 頭が二つ、赤くギラギラとした眼光が四つ俺たちに向けられる。

 バトル開始。


「慌てずいつも通りいこう。リカ、ヘイトを頼む」


「任された。〈エデン〉が【姫侍】リカ、いざ、参る! 『名乗り』!」 


 まずはリカの挑発スキルでタゲを取る。

 強大な敵を前にしてもやることは変わらない。


 二つの頭、四つの目がリカに向いた。


「グオオォォォン!」


「む、速いな。『上段受け』!」


 一気に真っ直ぐ迫ってきた〈バトルウルフ〉、両頭が連続で噛みついてくる『十噛みつき』を使ってくるが、リカは冷静に『上段受け』で防御、相殺する。

〈バトルウルフ(第三形態)〉の時とは明らかに違うスピードだが、最初からレアボスは速いと経験上分かっているリカは崩されること無く最初の一撃に対応して見せた。


 ここでスキルのタイミングが合わず初撃で崩されてもおかしくはない。もし崩された時用にサブタンクの俺が後ろに控えていたが、出番は無かったようだ。

 さすが、リカの防御スキルはピカイチだぜ。


「グオン! グオ、グオン!」


「ふ、『受け払い』! は! 『切り払い』! 『上段受け』!」


 最初の迫り来る〈バトルウルフ〉の巨体にひるまなかったリカに、足を止めての攻撃が通るはずも無く、リカは順調に相殺でヘイトを稼ぎ始めた。

 全てを相殺するのは難しいが7割方相殺出来ているな。しかし、残り3割は防御しているにも関わらずダメージがガリガリと入っていく。さすがに強いな。


 しかし、ヘイトは稼げた。


 次は俺たちアタッカーの番だ。リカに回復を送り、全体に指示を出す。


「『オーラヒール』! ――ルル、前の〈バトルウルフ(第一形態)〉のバトルは覚えているか? 今回はとにかく速度低下のデバフを優先して掛けまくれ」


「あい! 『キュートアイ』!」


「カルア、俺たちも行くぞ! 俺は左から、カルアは右からだ! はあぁ! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「ん、行く。『鱗剝ぎ』!」


「グォォン!」


 まずはデバフで〈バトルウルフ〉の防御力と素早さをいでいく。

 ルルがリカの後ろでキュピーンと『キュートアイ』を発動。

 側面に回りこんだ俺とカルアがデバフ攻撃を決めていく。


 よし、うまくデバフアイコンが付いたな。


「ふむ、やりやすくなったぞ! ここだ、秘技『二刀払い』!」


「グオオン!!」


 速度低下で相手の攻撃が見やすくなったリカがノックバック強めの防御スキル『二刀払い』をジャストで決め、〈バトルウルフ〉がノックバックした。

 この瞬間は逃せない。


「は! 『ツバメ返し』!」


 ノックバック中に大ダメージを受けるとダウンする。

 リカの『ツバメ返し』はノックバックの追撃時に与ダメージがアップするカウンタースキルだ。

【姫侍】の攻撃力とボスの防御力次第ではこれだけでダウンまで取れる可能性のあるコンボだが、さすがに中級上位チュウジョウのボス並相手では火力が足りない。いや、相手がタフすぎるな。


 しかし、〈エデン〉では敵がノックバックしたらダウンのチャンス、転じて総攻撃のチャンスというのが身体に染みついている。

 リカがノックバックを取った瞬間から、俺たちはすでに攻撃スキルの準備が完了していた。追撃だ!


「『ソニックソード』!」


「『チャームポイントソード』!」


「ん、とどめ。『急所一刺し』!」


「グウウオオォォンッ!?」


 俺、ルルと攻撃を決め、最後にカルアがノックバック中に使うとダウン確率大の『急所一刺し』を使って見事〈バトルウルフ〉はダウンした。


「総攻撃だーー!!」


「光の大精霊様、敵をその光りで滅してくださいませ。『大精霊降臨』! 『ルクス』!」


 先ほどから『精霊召喚』や『エレメントブースト』、『古式精霊術』で準備をしていたシェリアが俺の総攻撃の声と同時に光の大精霊を降臨させた。


 白く光るローブと羽衣を着た女性が、光の輪のような物を持ってシェリアの正面に現れる。あれが光の大精霊『ルクス』だ。主に光魔法で敵を攻撃したり、味方に少しバフを掛けてくれたりする。


〈バトルウルフ〉は、見ての通り真っ黒い狼だ。最初白い狼だったのが少しずつ闇へと引きずりこまれている感じがすごい、その見た目を裏付けるように闇の属性を持っている。

 つまり弱点は光属性だな。聖属性も結構効くのだが、光の方が効く。

 そのため、今回はシェリアに『ルクス』の降臨をお願いしていた。


 俺たち前衛が囲って総攻撃を仕掛ける中、『ルクス』はその光の輪を正面に向けたかと思うと、そこから光魔法を放ちダウン中の〈バトルウルフ〉を攻撃しだした。弱点属性の攻撃なので、俺たちの中で一番ダメージが高い。

 見た目はまんまビームだな。

〈バトルウルフ〉のHPがビームが直撃する度にガクンガクン削れていく。強い。


「ウウォォォォォン!!」


「ダウンは終わりだ! 全員、リカの後ろに退避! リカは前に出ろ!」


「任された!」


 ダウンしたら大ダメージを与えるチャンスだが、同時にヘイト管理があやふやになって混乱することもしばしばだ。それが原因で全滅することもある。

 故にダウン回復直後は防御陣を形成し、相手のヘイトがどこへ向かっているのか見極めることが大事だな。

 セオリーどおり、冷静に対処する。これも、さすが〈エデン〉のメンバーだ。みんな強大な敵を相手にいつも通りの行動ができているな。



 今回ダウンを奪ったのはカルア、ダメージを一番稼いでいたのはシェリアだ。

 ヘイトがタンクを超えた場合、2人のどちらかが狙われることになる。

 2人をリカの後方に入れ、リカが前に出て再びヘイトを稼がんとした。


「『影武者』!」


「グオオォン!!」


〈バトルウルフ〉のタゲは――、リカだ。

 さすが、防御スキルの相殺でヘイトをたくさん稼げる【姫侍】はヘイト稼ぎでも一流だぜ。


 よし、出だしは思っていたよりも順調だ。

 しかし、まだ相手は範囲攻撃も全体攻撃も、何もしてきていない、ここからが本番だな。


 そして、カルア、ルル、俺が攻撃の態勢に移行しようとした時、〈バトルウルフ〉の二つの口から赤色のエフェクトが溢れ出した。

 あれは、ユニークスキルのエフェクト、全体攻撃が来る!




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