第421話 ルル、奥義使っていいよ。さて、準備は整った。




〈バトルウルフ(第四形態)〉の二つの口から赤色に光るエフェクトが溢れる、ユニークスキルの兆候だと瞬時に見抜いた。

 すぐに全員に指示を出す。


「ルル以外は全員防御姿勢! 『エリアヒーリング』! シェリアとカルアはそのエリア内に退避! ルルはボスの魔法力を奪え! 」


「はい!」


「ヤー!」


「任せてなのです! 『ロリータソング』! ――♪ ――♪」


「スウゥゥゥッ、ウオォォォォォン!!」


 全員が最初に決められていたとおり動き、それが完了するのと〈バトルウルフ(第四形態)〉が天井に向けて闇属性と氷属性のブレスを吐いたのは同時だった。


 ユニークスキル『バトルウルフ流・闇氷柱豪雨ダークネスアイスピアレイン』。

 闇属性と氷属性の槍の雨を降らし部屋全体を攻撃するスキルだ。


 ブレスが天井に当たった瞬間雲のようなものが天井を伝って広がり、そこから氷の槍が降り注ぐ。

 しかし、その時にはすでに俺たちの対処は完了している。


 この全体攻撃は雨のように降らせる関係上、連続攻撃に分類される。

 トータルでは結構なダメージを与えてくるスキルだが1発1発はそこまで大きなダメージではない。

 つまり、回復の差し込みが可能なのだ。


 俺は『エリアヒーリング』を発動、その中にシェリアとカルアを入れたことにより、2人は「ダメージを受ける」のと「回復する」の二つの効力を受ける事になった。

 要は擬似的なダメージの減少だ。さすがに俺の『エリアヒーリング』はユニーク級では無いためダメージを相殺するには全然足りないが、これでダメージをかなり減らせる。これを後衛に配置し、カルアにはダッシュしてもらった。


 これにより、ダメージを受けながらも回復を受けた2人は、HPを半分に減らしながらも、無事に切り抜けることに成功する。

 ルルの歌デバフをその身に浴びてなお、しかも全体攻撃というダメージが低くなるスキル系統でこの威力。

 普通の後衛でなんの対処もしていないなら速攻で戦闘不能になるな。


 相変わらず恐ろしいスキルだ。これだからレアボスのユニークスキルは馬鹿に出来ないんだ。


 俺はゲーム〈ダン活〉時代、かなり有利に戦況を進めていたのにこのユニークスキルのみで状況をひっくり返されて敗北したことが数え切れないほどある。

 レアボスのユニークスキルはそれほど脅威であり、『対処しまくって警戒しすぎということは全く無い』というのが俺の持論だ。


 と、そうこうしているうちに攻撃の雨が止む。

 俺は瞬時に味方の状況を確認。ダウンしている人は、皆無!


 俺は盾で防御姿勢してやり過ごし、リカも刀で防御、ルルは『ヒーローだもの、へっちゃらなのですLV10』の効果でダウンもノックバックもしないので、ずっとユニークスキル発動中で動けない〈バトルウルフ(第四形態)〉を攻撃し続けていたらしい。さすがルルだ。

 その代わりルルのHPはすでに20%以下の危険域に達していた。他のメンバーならすぐに回復を放っているところだが、【ロリータヒーロー】は別だ。

【ロリータヒーロー】は、HPが減ってこそ真価を発揮する。


「ルル! 奥義使っていいぞ!」


「ふおー! ヒーローの奥義を受けてみるのです! 『ヒーローは負けないんだもん』!」


 俺が指示を出すと興奮した様子のルルが一歩バックステップして〈バトルウルフ〉から離れ、剣を真上に掲げるポーズをシャキンと決めてスキルを発動する。


『ヒーローは負けないんだもんLV10』。

 HPが残り20%以下の時のみ発動可能で攻撃力が3倍に、被ダメージが80%減少するという超破格のスキルだ。

 ヒーロー特有の火事場の力。ヒーローがピンチな時に何か強力な力を発揮する例のアレだ。つまり、


 ―――ルル、覚醒。


 クールタイムが長く、またHPを回復して20%以上にしてしまうとスキルが自動で解除されてしまうが、逆に言えばHPを20%以下に調整していれば永続に覚醒ヒーローを維持できるスキルでもある。強いぞ。


 ルルがスキルを発動した瞬間、金色のオーラがルルの回りに発生する。見た目もカッコイイ。


 ここからルルの怒涛の攻撃が始まる。


 さらに俺はルルに指示を出した後すぐにリカにも指示を出していた。


「リカ! 〈六雷刀ろくらいとう獣封けものふうじ〉をバンバン使って攻撃しろ!」


「はっ! 『雷閃斬り』! 『飛鳥落とし』!」


「グウォン!?」


 リカの二刀のうちの一刀〈六雷刀ろくらいとう獣封けものふうじ〉には『ビーストキラーLV6』が付いてる。

 それを用いればリカの攻撃だってそれなりのダメージになるのだ。

 リカは普段左手に装備していたそれを両手で持ち、〈バトルウルフ(第四形態)〉に斬りかかった。


 ユニークスキル後の硬直中に大ダメージを与えられるとダウンする。

 ルルがダメージを蓄積させておいてくれたおかげで、無事、リカの攻撃で再び〈バトルウルフ(第四形態)〉のダウンを取る事に成功した。

 ここでルルを投入する。


「総攻撃! ルル、今だ!」


「とうー! 『ジャスティスヒーローソード』! 『ヒーロースペシャルインパクト』! 『セイクリッドエクスプロード』! 『ロリータオブヒーロー・スマッシュ』!」


 おお! ルルが攻撃する度にがっくんがっくん面白いように〈バトルウルフ〉のHPが削れていく!

 しかし、俺も負けてはいない。『勇気ブレイブハート』で攻撃力を2.8倍にした【勇者】の総攻撃でもがっくんがっくん削ってやった。


 そこへリカ、カルア、シェリアの攻撃も加わり、大きなダメージが入ったな。


「グオォォォン!!」


 ダウンが終わり、仕切り直し。


 ダウン後でヘイトが若干乱れてルルが狙われたが、すぐにリカが割り込んでヘイトを奪っていき、また戦況は安定しだす。


 俺はヒーラーに回って全体を回復をしながら指示を出し、〈バトルウルフ(第四形態)〉を相手に有利に事を進めていった。

 範囲攻撃のブレスも放たれたがカルアは全てを回避。シェリアには届かず。

 俺、リカとルルは食らっても耐久値的にへっちゃらなので、回復が足りない分は〈ハイポーション〉で回復しながらやりすごした。


 ルルはHPが20%以上にならないよう調整、維持させた。

『エリアヒーリング』内でHPが20%ギリギリになるまで回復させたり、普通の〈ポーション〉でちょこっと回復させたりして前線に送ってあげた。


 最後の怒りモードもリカのユニークスキル『双・燕桜』で粉砕されて総攻撃が見事に決まり、〈バトルウルフ(第四形態)〉はエフェクトの海に沈んで消えたのだった。


 さすがの中級上位チュウジョウ〈ランク7〉相当のボスだったが、LVカンストしたメンバーたちはほとんど苦戦はしなかったな。

 レベルが足りていなかった〈猫ダン〉より遥かに楽だったと感じた。


 準備は出来た、と判断する。

 期末試験が終わり、落ち着いたら中級上位ダンジョンの攻略に乗り出すとしよう。


 しかし、その前に、まずは目の前の〈銀箱〉を開けようか。


 ドロップした〈銀箱〉は4つ。

 久々の〈ビューティフォー現象〉だ!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る