第416話 Dランク試験最終戦。後悔と涙がほろり。




 ブォォン―――!


「残り10分! ここからは〈敗者復活〉が無しになる、本格的に気をつけろよ」


 スクリーンから残り時間10分を切ったブザーが鳴り響いた。

 俺はすぐに全員に注意を促す。


 ちょうどシズが最後の1人を撃ち抜き、〈敗者のお部屋〉へ送った所だった。


「ゼフィルス殿、掃討完了しました。次の指示を」


「ああ。俺たちはこのまま逆侵攻を仕掛ける。と言いたい所だが、本拠地に戻るぞ。改めて部隊を編成し直す」


「了解した」


「ん、行く」


 シズの報告に次の指示を出すとリカとカルアもなんの反論もなく頷いた。

 素直に指示を受け入れてくれて嬉しいけど、もう少しどうしてか聞いてくれても良いんだぞ?


 一応説明するとだ、本当ならこのまま俺たちも東側から南に回り込み、逆侵攻で攻め、他の2チームと連携して三方向からの攻勢を掛ければ赤本拠地の落城も可能だと思う。

 しかし、通信が無いので東と西で戦っているメンバーに指示が出せないのが辛いところ。


 スクリーンには赤チームのメンバーが3人退場した事を知らせる〈残り人数:赤6人〉の文字が点灯していた。

 おそらく陽動役の6人も気がついているはずだ。本命部隊がやられたことに。


 この場合、赤の6人は一度撤退するはずだ。

 ここから攻めに転じたとして、〈エデン〉のメンバーを抜く事が出来ないだろうからな。

 赤本拠地が無人というのも心配の一つだろう。


 そうなると、ここで俺たちが逆侵攻した時、6人の防衛部隊が赤本拠地に構えていることになる。

 これを抜いて本拠地の落城を目指すのは難しい。

 他のメンバーが応援に駆けつけてくれるのなら話は別だが、通信が無いためその指示が出せないためだな。


 となれば、逆侵攻は悪手。有利だからって調子に乗って攻めていたら逆にやられるパターンだな。

 相手が万が一にも〈エデン〉メンバーを抜いて本拠地を攻撃しているとも限らないので、俺たちはまず白本拠地に戻るのが正解だろう。


 白本拠地へ戻るとすでに東へ行ってもらっていたシエラ、ルル、シェリアが本拠地に戻ってきていた。


「ゼフィルス、お疲れ様。作戦は成功したみたいね」


「ああ。シエラたちもお疲れ様。早かったな」


「ええ、スクリーンから残り10分の知らせが届いたとほとんど同時に赤チームの人数が減ったじゃない? それで慌てて相手は撤退していったのよ。西の方もそろそろ戻ってくるのではないかしら」


 シエラがそう言ったところで西側を任せていたラナ、パメラ、エステルが戻ってきた。


「今戻ったわ!」


「おう。ラナもお疲れ様。追撃もせずちゃんと戻って来られて偉いな」


「ちょっとゼフィルス、子ども扱いしてない!?」


 いやあ。

 だってラナのイメージってそのまま追撃戦で敵を追いかけて、掃討するまで帰らないとか普通にしそうだったし。

 あそこで追撃に出ていたら相手は東側の部隊と合流して逆にラナたちが撃破されていた可能性もあった。

 よく我慢して帰って来られたと、そう思ってしまう。


「実際ラナ様はちゃんと帰還を宣言されましたよ。私たちはそれに付いてきただけです」


「ラナ様の指示は的確だったのデス!」


 エステルとパメラが援護するように言う。彼女たちがたしなめた訳でもないようだ。

 なるほど。ラナも成長しているのだ。イメージで決めつけて悪かったな。


「すまんすまん。しかし、これで完全に優勢は取れたな」


「ゼフィルス、これからどうする気?」


 シエラの問いに俺は一度思考に没頭する。

 うーむ、勝敗だけを見るなら、正直言えばこのまま防衛しているだけで勝てる。


 相手が6人、いや、10分前に〈敗者のお部屋〉へ出発した人が戻ってきた様子で今は残り7人。

 相手が勝つ手段は白本拠地を落とすか、巨城を3つ落とすかの2択しかない。


 俺たちは白が持つ巨城を落とされないよう、中央観客席の東と西にメンバーを割り振り、相手の攻勢を時間まで止めれば勝てるのだ。


 故に俺たちは〈残り時間7分32秒〉、重点的に守っているだけで勝ててしまうわけだが、それでは会場の盛り上がりに欠ける。


 できれば華々しく行きたいところだ。


 と、そこまで考えたところでカルアの探知ソニャーに感あり。報告が舞い込んできた。お互いの本拠地が近いので、この距離だと相手の動きはカルアに筒抜けなんだ。


「ん、ゼフィルス。東から4人、西から3人、来てる」


「あくまで攻めに出るか……。まあ、それしかないよな。よし、割り振ろう。西には3人、シエラ、ラナ、エステル、行ってくれ。相手は本気だろう、抑えてくれ」


「了解したわ」


「任せてよ!」


「承りました」


 相手は本拠地をゼロとし、全てを攻めに回してきたようだ。

 今回は陽動の時のように気を引くだけの戦法とは違い、全力で攻勢に出てくるはずだ。もしくは引きつけ役かもしれない。

 いずれにせよ対処できるよう、こっちも初期メンバーであり、LV70前後と高レベルの頼れる3人に任せる。

 そして、


「ゼフィルスはどうするの?」


 ラナが出撃の準備をしつつ首を傾げて聞いてきたので不敵に笑いながら答えた。


「俺は、残りの全員を指揮して東側を食い破る。東側に送るのは7人、残りメンバー全員だ」


 守りに入るだけじゃ盛り上がりに欠ける。

 相手の4人を破り、そのまま本拠地を落として勝つぞ!


 それを聞いたラナが「ずるい! 私も東に参加するわ!」と少々揉めたが「西を守れるのは頼れるヒーラーのラナだけなんだ。頼むよ」と巧みな話術で言いくるめて西へと送り出し、俺も東へ向かった。


「悪いシズ、パメラ、待たせた」


「問題ありません。先にリカさん、カルアさん、ルルさん、シェリアさんが先行しています」


「私たちは回り込まなくても良いのデース? 今なら赤本拠地は隙だらけなのデス」


「ああ。今回は東の4人を破って侵攻しよう」


 全体に指示を出しているとどうしても遅れる。

 東の部は先にリカたち4人に先行してもらい、足止めをお願いしていた。

 俺も待たせていたシズとパメラと合流し、そのまま東を目指す。


 途中でパメラが提案してきたのは、さっき〈はな閃華せんか〉ギルドがやってきた戦法をお返ししようという作戦だった。

 まあ、今から障害物を回り込めば赤本拠地はガラ空きだよな。だけど、それだと二番煎じだしイマイチだ。


 ここは会場の盛り上がりのためにも4人を撃破するぜ。


 東の合流地点では、すでに戦闘が始まっていた。


「とうー! 『セイクリッドエクスプロード』!」


「『ラージエッジ』! くうう、強いこの子! でも!」


「く、この巨大な大精霊が邪魔で進めない」


「みんな! 上級生の意地を見せるのよ! 『ギガ・ソード』!」


「ヒーローにはそんな攻撃効かないの! 『ジャスティスヒーローソード』!」


「きゃああぁぁぁ!」


 現場にたどり着いてみたらルルが3人を相手に大立ち回りをしていた。

 シェリアが全力でルルを援護しており、囲まれないよう気をつけながらもルルが思いっきり暴れている。

 リカとカルアも3年生と思われる女子を2対1に持ち込んで大きく削っていた。


 これ、俺たちが来なくても勝ってたっぽいな。いや無理か、ルルのダメージがそろそろ危険域だった。このままではルルが戦闘不能になる。

 とりあえず、むっちゃダメージを受けているルルを回復しよう。


「『オーラヒール』! 『エリアヒーリング』!」


「ええ!? ちょっと、ここでヒーラー!?」


「嘘でしょ!」


「みんな落ち着いて! ヒーラーをまず狙うのよ!」


「了解ギルマス!」


 あの指示を出しているのは、さっき2度〈敗者のお部屋〉へ直行した人だ。

 的確な指示だな。


 ヒーラーは大体の場合、攻撃力も防御力も低い、でも一番厄介だ。

 故に、一番狙われるのがヒーラーだな。


 ギルドバトルで前線に出ようものなら即行で狙われて退場するのが常である。

 故に、大体のヒーラーは本拠地に構えていたり、そもそもヒーラーを参加させずポーション系で乗り切ろうとするものだが……。


 このタイミングでヒーラーの登場は〈はな閃華せんか〉ギルドにとってかなり苦しいだろう。人数差的にも。


「え、嘘、勇者君! 勇者君が現れたわ!」


「ギルマス! ヒーラーは勇者君よ!」


「な、なんですって!? ちゃ、チャンスよ! 最後のビッグチャン――」


「よそ見は厳禁なのです! 『ロリータオブヒーロー・スマッシュ』!」


「ほびゃあぁぁぁ!?」


「ギルマスーー!?」


 ああ。大剣使いの女子がルルの最強攻撃『ロリータオブヒーロー・スマッシュ』の直撃を受けてきりもみ回転しながら吹っ飛んだ。たしか、ギルマスと呼ばれていた子だ。

 あれはボスですら吹っ飛ばす効果があるからな。あ、〈敗者のお部屋〉の招待状が。

 確かあの子って3度目……。


「残りは3人なのです!」


「いや、2人だ。こっちも片付いた」


 そう言って現れたのは3年生を相手にしていたはずのリカとカルア。

 どうやらもう1人の3年生も〈敗者のお部屋〉に向かったらしい。


「やば、先輩方がやられた!? 撤退、てったーい!」


「させませんよ。『バインドショット』! 『攪乱かくらん』!」


「『忍法・影縫い』! 『暗闇の術』デース!」


「わわわ!」


 相手がこっちの人数を見て撤退を試みようとするが、それを見逃すシズとパメラでは無かった。

 状態異常を放ちまくり行動阻害を狙う。

 シズの『バインドショット』は〈拘束〉に、『攪乱かくらん』は〈混乱〉の状態異常を引き起こす。

 パメラの『忍法・影縫い』は〈束縛〉、そして『暗闇の術』は文字通り〈暗闇〉状態になる。


 いくつかレジストされたが、2名はそれぞれ〈拘束〉と〈束縛〉の状態異常を被り、逃げ足を封じられてしまった。


「チャンスなの!」


「デース!」


「くっころーー!」


「やーん、良いとこ無しー」


 全身白の鎧を着たタンク女子と着流しの軽装女子が叫びながら〈敗者のお部屋〉へ飛んでいった。これで阻む者は居なくなったな。


 残り時間も4分を切った。


 俺たちはそのまま赤の本拠地までコマを進め、総攻撃を開始。やり方は巨城を落とす時と変わらない。

 西に向かっていた〈はな閃華せんか〉ギルドの3人がラナたちを振り切って慌てて戻ってきたがもう遅い。


 ―――〈残り時間2分25秒〉赤の本拠地落城。

 赤の巨城だった2つ、〈南東巨城〉と〈南西巨城〉が〈エデン〉の所有物になった。


 ギルドバトルではどちらかの本拠地が落とされた時点で仕切り直し、お互いが自陣本拠地へ一旦戻り、保護期間の明ける2分後にギルドバトルが再開となる。

 もちろんロスタイムなんてものは無いので、〈残り時間0分25秒〉からの再開だ。

 もう、赤チームに出来ることは無い。




   ◇ ◇ ◇




「こ、こんなはずではー」


 私はその圧倒的大差のついたポイントが映し出されているスクリーンを見てそう嘆いていた。

 どこで計画が狂ったの。


 今回のDランク昇格試験は〈はな閃華せんか〉ギルドにとっても、いや、私にとってとても大事なギルドバトルだったのに……。

 絶対に負けられない、いや、圧倒的に勝たなければならなかった。なのに、


「こんな、はずではーー」


 どうしてー。

 私は思わず心の中で叫んだ。


 私、ギルドマスターなのに……、なぜか一番〈敗者のお部屋〉へ来る回数が多かった。


 再びスクリーンを見る。

 すでに残っている〈はな閃華せんか〉ギルドのメンバーはサブマスを入れてたったの3人だ。

 残りはすでに〈敗者のお部屋〉に送られ、復活することもできない。


「こんなはず、では……」


 三度、私の口から漏れる。

 まさか、まさかだった。

 ギルド〈エデン〉がここまで強いだなんて予想外だ。


〈エデン〉はEランクギルド。しかも中級中位ダンジョンをクリアしたばかりである。

 Dランクでもなかなかの位置にいる〈はな閃華せんか〉ギルドがどうしてこうも一方的に負けるのか。あと、なんで自分だけ3度も〈敗者のお部屋〉に来ているのか。


 運もあったと思うけど、それだけではない。

 真っ向から勝負し、打ち負かされたのである。

 巨城の先取でも先を取られ、対人戦の作戦でも上を取られた。

 完全に読み負けたと言っていい。


「うう、せっかくの、大チャンスがぁぁぁ……」


 もう、今からでは何もかも遅すぎた。

 私の希望は、粉々に打ち砕かれてしまった。

 できるならば、このギルドバトルを行なう前の私に知らせたい。


〈エデン〉、凄く強いよ、と……。

 あと、初めて3度も〈敗者のお部屋〉へ送られたんだけどって……。




 ―――ブザーが鳴り響き、ギルドバトルが終了した。


 ポイント〈『白14,230P』対『赤5,520P』〉〈ポイント差:8,710P〉。

 〈巨城保有:白6城・赤0城〉

 〈残り時間00分00秒〉〈残り人数:白10人・赤3人〉


 勝者:白チーム〈エデン〉。




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