第415話 終盤戦突入。3回目の侵攻は三方向からの攻撃。




 会場は結構盛り上がっている様子だ。


 2回目の対人戦は見応えあったからな。1回目は出会い頭ですぐ終わってしまったので会場の盛り上がりはいまいちだった。

 王女のラナが活躍したのも拍車を掛けているのかもしれない。なんか一部の黒装束集団で固まっているエリアから「「「王女ラナ様ーー!!」」」と歓声が聞こえてきた。

 なんだろうあの集団。わりとよく見かけるのだが……、正体は分からない。


 現在のポイント〈『白9,920P』対『赤5,220P』〉〈ポイント差:4,700P〉。

 〈巨城保有:白4城・赤2城〉

 〈残り時間18分13秒〉〈残り人数:白10人・赤9人〉


 スクリーンに映し出されているポイントは白チーム〈エデン〉が大きくリードしている。

 その差は4,700Pだ。ここで注目するべきは小城Pで70マスのリードをしている点だ。

 この小城P差を今からひっくり返すのは、残り時間的に見て難しい。


はな閃華せんか〉ギルドはもう小城Pを取る意義は無いとみなしたのだろう。マスを広げなくなった。

 となれば、〈はな閃華せんか〉ギルドが勝つためには白の巨城を3つ(6,000P)ひっくり返すか、白の本拠地を落とし全ての巨城(8,000P)を奪うかしかない。

 つまり対人戦だな。


「ゼフィルス殿、これ以上マスを広げなくてもいいのですか?」


 相手のPポイントの動きを見て俺たちもマスを広げるのをやめると、エステルが首を傾げて聞いてきた。


「ああ。ここからは対人戦がメインになる。小城Pはこれ以上リードを広げる必要は無いさ。それより部隊を編成し直そう。また攻めてくるぞ」


 俺は確信を持って答える。


 終盤戦が始まる。

 まだ時間タイム的には折り返したばかりだが、小城Pを取らなくなれば終盤戦というのがギルドバトルでの考え方だ。

 相手の動きに合わせ臨機応変に行動しなければあっと言う間に戦況がひっくり返される。

 攻められているのにのんきに小城Pを取っている場合では無いということだな。

『相手が小城Pを取るのを止めたら警戒せよ』。これ、〈ダン活〉の常識。


「さすがDランク昇格試験。対人戦が多いですね」


 近くに居たシズも俺の言うことに納得するように頷く。


「Eランク昇格試験の時はむしろ格上との対人戦は避けろ、が試験内容だったけどな。今回は積極的に攻めてきた相手に対する対応が求められているんだろう」


「さすが、学園はよく考えていますね」


「それを忠実に実行する〈はな閃華せんか〉ギルドもたいしたもんだよ。戦術的にも良い塩梅なんだ。良い指揮者もいるみたいだしな」


 シズが学園を評価する発言に俺も同意する。

 Dランク昇格試験を行なううえで相手の戦闘力や戦術が絶妙だ。

 さすが〈迷宮学園・本校〉。強すぎず弱すぎず、良い相手をチョイスしてくれる。



 そこからマスを有利に取ったり、相手マスをひっくり返したりして防衛を意識し、残り時間12分というところで相手から3回目の侵攻があった。


 もうすぐ〈敗者復活〉ルールが無しになる。正確には10分後、復活した時にはすでに勝負は着いている状態になるのだ。

 つまりここで〈敗者のお部屋〉に行ったが最後、戻って来たら、終わってる。


 本当に本気、ドキドキの対人戦だ。

 会場もどことなく緊張感が増している気がする。


 今回は二手に分かれた侵攻だった。

 東から3人、西から3人が攻めてくる。

 これで相手は残り3人、復帰待ち1人だ。


〈エデン〉はこれに対し、東に3人、西に3人を振り分けた。同数による防衛だ。

 なぜ同数なのか、4人ずつ送ればいいじゃないかと思うだろう。

 しかし、これには訳があった。


「ん。『ソニャー』! 東、障害物の後ろから接近中、数3」


「やっぱりか。本命はそっちだな」


「むう。ゼフィルスの言ったとおりだったな」


 カルアの探知ソニャーに敵影有り。

 俺にとっては予想通り、〈はな閃華せんか〉ギルドは本拠地に残しておいたはずの防衛戦力まで攻めに回し、東側の観客席障害物の裏から回りこませて北側から挟撃を狙う心算らしい。


 ゲーム〈ダン活〉時代から使い古された手だな。

 東と西を攻めているのは、攻めていると見せかけて赤本拠地へ来させないための壁であり敵の引きつけ役でもある、つまり攻めと守りをこなす陽動だ。本命は回り込んだ部隊による挟み撃ちである。


 これを警戒するために4人が本拠地近くに待機していたのだ。


 せっかく障害物のあるフィールドなんだからこれくらいあるだろうと思っていたらやっぱりだった。

 障害物を利用した回り込み戦法。残念だが俺には効かないな。


「まず本命の手を潰す。後は煮るなり焼くなりだ。行くぜ」


「うむ。参ろうか」


「ん、行く」


「援護いたします」


 本命の部隊を潰すのは、俺、リカ、カルア、シズの4人メンバーだ。

 今回のポイントはシズである。


「今回は逃がさないようにな。シズは『バインドショット』や『地雷罠設置』、『攪乱かくらん』『閃光弾』を使って逃げられないようにしてくれ。もし逃げられたら『追跡』と『索敵』を。それと『痕跡発見』や『罠発見』も忘れずに頼む、撤退するうえで罠を仕掛けるなんて当然だからな」


「了解いたしました」


 相手にとって最も潰されたくない本命。それを潰してしまえば相手はもう何もすることができない。

 相手も必死だ。そのためにこちらはシズと、それにカルアも連れてきた。


 シズは今言ったように、相手を逃がさない、逃げても追跡可能、隠れることも許さない、に非常に特化している。さすが【戦場メイド】。戦場対人戦では敵にしたくない相手だ。


 カルアは単純にその足の速さで逃がさない。

『罠突破』や『罠爆破』も有るため罠系は効かないしな。

 そして2人を守るのがリカと俺の役目だ。


 ここで相手3人を退場させればもう勝ったも同然だろう。

 今東と西でバトっている6人も一度撤退するしか無いだろうが、撤退したところで攻め手が欠けた状態ではどうしようもないからな。


 と、考えているうちに相手が北東側の観客席障害物を回り込んだようだ。

 俺たちも障害物の角付近で待機し、出会い頭の奇襲を狙うが。


「ん、『ソニャー』! 相手、慌ててる」


 カルアの探知ソニャーによれば、相手側に俺たちが潜伏していることがバレているらしい。角から出るに出られず立ち止まって慌てているようだ。

 相手側からしたら陽動に引っかからず、待ち伏せされている時点で作戦が失敗したようなものだ。そりゃあ慌てるだろう。


 リカが一つ頷いて俺に聞く。


「ふむ、探知系持ちが居たか。ゼフィルス、どうする?」


「シズ、『閃光弾』発射」


「了解しました。『閃光弾』!」


「みんな顔を伏せろ! 閃光が切れた瞬間飛び出る」


 ここで相手の本命部隊を仕留められればギルドバトルに勝ったも同然。逃がす気は無い。

 俺は無慈悲にシズへ指示を出す。


 シズの銃口からバキュンと飛び出た一発の銃弾は角を超えたところで地面に着弾。

 おそらく相手はなんだなんだとその地面に注目しているだろう。

 グッバイ!


「キャアァァ!」


「目が、目がーー!」


 瞬間、フラッシュが瞬いた。

 聞こえた叫び声から察するに見事ヒットしたようだな。

 これで〈盲目〉状態が付着したはずだ。


 光りが収まったところで攻めに出た。


 こちらに接近を気づかれないよう、マスを取らずに来たのは失敗だったな。

 保護期間のマスも無いため、俺たちは容易に接触できる。


 角を超えた瞬間、巨大火球が飛んできた。上級魔法『フレアバースト』だ。

 聞こえてきた悲鳴は2人分、無事だった1人が放ったらしい。しかし、


「効かん! 『二刀払い』! 覚悟――!」


「うえ!? 上級魔法が弾かれた!?」


 彼女の渾身の『フレアバースト』だったのだろうが、リカの『二刀払い』はクールタイムが長い代わりに上級魔法すら払うポテンシャルがある。

 まさかの展開に〈盲目〉を回避できた上級生が狼狽えてしまった。致命的だな。


「『バインドショット』!」


「はぐっ! うそ、〈拘束〉状態!? 『キュア――」


「遅い! はあっ! 『光一閃』! 『凍砕斬』! 『雷閃斬り』!」


「ん、『32スターストーム』!」


「きゃあぁぁぁ!」


 流れるようにシズの『バインドショット』が決まり、〈拘束〉状態を『キュア』で回復しようとするも時すでに遅し、攻勢に出たリカとカルアによってその魔法使い上級生は〈敗者のお部屋〉へ飛んでいった。


 さらに〈盲目〉の状態異常でもなんとか逃げようと試みた残りの2人だったが、1人は俺とカルアが追いついて斬って退場、もう1人も遠距離からシズに狙撃されて退場した。




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 作者から後書き失礼します。

 近況ノートに〈四角形(障害物)〉フィールドのイメージ図を添付しました。

 よろしければ見てみてください。

 タイトル:『〈ダン活〉第415話 進行状況イメージ図』

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16816700428048572810

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