第407話 初級下位ボスってこんなに弱かったか?不思議。




 4チームに分かれ、その内3チームは〈道場〉に向かい、残りの1チーム、Aチームだけはそのまま〈初ダン〉へと足を進め、まずは初級ダンジョンの入門とも言われる〈熱帯の森林ダンジョン〉に入ダンした。

 サポート要員は俺とシエラが担当する。


 馬車は無いが、最短ルートは俺の頭に入っているため放課後でも日帰りは十分可能だ。

 10層しか無いしな。


 そして現在ここのボス、クマのような分類上アリクイの〈クマアリクイ〉を屠ったところである。


「ガアァ……」


「うわ、激強やん」


 戦闘開始からたった十数秒で〈クマアリクイ〉がエフェクトに消え、少し訛り口調のアルルが両手槌を肩に担いだままおったまげたとでもいいそうな顔をして言う。


「ま、これくらい朝飯前だな」


「もうLVもカンスト間近だものね」


 以前はそれなりに時間の掛かったボスだったが、さすがに今の俺たちのLVに掛かれば秒殺だ。

 さすがに自慢するのもなんなので普通に告げ、シエラも少し苦笑しながら応える。


 多分シエラも以前〈クマアリクイ〉と戦った時と比べているのだろう。なんか複雑そうだった。分からなくもない。

 苦戦した思い出深いボスが弱っちく感じてしまうと、なんか切ない気持ちになるんだよな。

 苦戦した記憶は無いけど。


 しかし、アルルたちにとってはかなりの強敵で、攻撃スキル無しでは厳しいボスである。

 激弱ボスの〈クマアリクイ〉といえど立派なボス。

 俺とシエラに向けるアルルの視線が輝いていて、俺とシエラはさらに苦笑せざるを得ない。


 ちなみにだが、アルルは例の作業着装備だ。一部頭装備だけはレザー系のタレ耳のような顔の側面を守るガードの付いた帽子を被っていたが、それ以外は昨日の親睦会の時と同じ装備だな。

 本人曰く。


「この装備にはな、職人の魂が宿ってんねん」


 とのことだ。ドワーフの魂ならハンマーとかに宿るんじゃない? と思ったが口には出さなかった。


「ふむ。ドロップは〈木箱〉か、残念だね」


「まあ仕方ないさニーコ君。探索は始まったばかりだ、これからいろんな出会いがあるだろうさ」


「うむ。楽しみだよ。ぼくも早くレベルを上げたいね」


〈支援課〉の2人ニーコとカイリはすでにボスは眼中に無く宝箱に目が行っていた。

 さすが、彼女たちは宝箱なんかが専門だ。戦闘のことはあまり興味がないらしい。

【コレクター】のニーコや【シーカー】のカイリは正直初級下位ショッカーではあまり役に立たない。


【コレクター】は〈初ツリ〉だと道中モンスターのドロップ量を上げるくらいしか出来ないからだ。ボスのドロップを増加したりレアドロップをゲットするには〈二ツリ〉や〈三ツリ〉のスキルが必要になってくる。


【シーカー】はそもそも初級ダンジョンに罠が無い。無いわけではないが初級上位ショッコーから本格的に出始めるので罠に関しては活躍できない。道中の宝箱、隠し扉も同様だ。

 最初にできることといったら採集量のアップと地図作成、索敵などだろうが、今はあまり必要ないな。【シーカー】が活躍するのはまさに中級からだ。


 よって、彼女たちは一言で言えば暇なのだ。ただ付いてくるだけだしな。

 ただ、戦闘中被弾するとあっという間に戦闘不能になるため、その辺の注意事項なんかは口頭で伝授している。

 これにはしっかり聞いてくれるので後は自由にさせていた。


 また、彼女たちの装備だが、ニーコは研究者らしく学生用の初心者装備に白色のローブの上着を着て、頭に紺のベレー帽を被っているスタイルだった。うーむ研究者っぽい。

 武器は〈アイスロッド〉という『アイスボールLV2』が付与された〈銀箱〉武器。なんか昔のハンナを思い出すな。


 しかし、ニーコの装備は完全に初級下位ショッカー装備だな。この先通用しないので近々換装させるとしよう。


 カイリは軽装だ。動きやすさをメインにしたレザー系の冒険者風服装備で二の腕が出ているタイプ。短いスカートにショートパンツ、大きめの黒のニーソを履いていた。靴はブーツでとても動きやすそうに見える。


 これなら初級中位ショッチューまではいけるだろうが、カイリも近々換装だな。




「さて、シエラ今の時間は?」


「まだ17時過ぎね。道中一時間半くらいでここまで来たから」


「道中の敵は全部瞬殺やったかんなぁ。これで同い年なんやもんなぁ」


 アルルがシエラの答えに何か思い出すみたいに変顔をしていた。何を思い出したのだろうか。

 しかし、17時ならまだ時間はあるな。


「よし、じゃあこのまま〈石橋の廃鉱ダンジョン〉まで行くか!」


「了解よ」


「え? 2つ目のダンジョン行くん? これから?」


「時間がまだ余ってるからな」


「え~。さ、さすがトップギルドや。そりゃこのペースで攻略しないとトップは取れんのか」


 俺の答えにアルルがちょっと引いていた。

 そういえばこの世界の人はダンジョンに1日1回しか行かないんだったな。

 勿体無い。時間は有限だ。2箇所行けるだけの時間があるなら2箇所行くべし。それが〈ダン活〉プレイヤーである。


 ちなみに3人とも初めての〈攻略者の証〉に結構興奮していたため、よっしゃこのまま2つ目も行くかー、見たいなノリで2箇所目のダンジョンに向かうことに異論はないようだ。


〈木箱〉の中身、〈青銅の斧〉とボスドロップを回収してそのまま転移陣で帰還し、その足で〈石橋の廃鉱ダンジョン〉に潜る。


 道中の動石ゴーレムたちをシエラが『シールドバッシュ』だけで全部倒していく姿は、あのニーコとカイリすらポカンとさせた。

 動石ゴーレムは防御力は高いが打撃系に弱いのだ。シエラのSTRは意外に高いので余裕でワンパンできる。

 そして、また哀れな動石ゴーレムがシエラの攻撃の餌食になった。


「こんなものね」


「さすがシエラだ」


「なんか、自分がこのギルドにいていいのか心配になってきたわ。タンクでこの戦闘力とか」


 アルルの弱気な発言を背に、俺たち一行は最下層のボス部屋に到着し、


「『シールドバッシュ』! 『シールドスマイト』! 来なさい、『カウンターバースト』!」


「――――!?」


 なんか転ばせるハメ技をする前に、シエラがボスを屠って終了した。


『シールドバッシュ』で先制し、『シールドスマイト』でヘイトを稼ぎつつ攻撃して、ヘイトが貯まったボスが思わず手を出してきたところを『カウンターバースト』でドカンだ。

 見事なコンボだったな。


 サブメンバーの3人もそうだが、救済場所セーフティエリアで俺たちの戦闘を見学するつもりだった同期一年生たちもポカンとしていたよ。

 シエラのSTRは200。初級下位ショッカーボスでは太刀打ちできないのだ。


 二つ目の〈攻略者の証〉も手に入り、いい時間だったので今日はここで終了。

 転移陣で帰還し解散した。


 明日は〈静水の地下ダンジョン〉だな。




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