第408話 良い意味でと付いているのだ、褒め言葉だろ?




「いやはや、ぼくの目に狂いは無かったよ。と言いたかったが、別の意味で狂いまくりだったよ。まさか2日で初級下位ショッカー全てをクリアしてさらに全員二段階目ツリーまで解放してしまうだなんてね。〈エデン〉は本当に規格外だ。もちろん、良い意味でだよ?」


 シエラと共にサブメンバー3人のキャリーを始めた翌日、締めの〈道場〉を終えたところでニーコがそう言った。


 口調はのんびりとした冷静クールな発言だが、内心はかなり驚いているらしい。

 そしてそう思っているのはニーコだけではないようで、となりにいるカイリも大きく頷きながら言う。


「ニーコ君の言うとおりだね。〈エデン〉が1年生トップギルドだというのはもちろん承知していたよ、だけど聞いていた話と実際に見るでは印象がまったく異なるね。もちろん良い意味でだ」


「うちは驚きすぎて疲れたわ。マリー姉の言うとおり、いやそれ以上にとんでもないギルドやったわ〈エデン〉って。もちろん良い意味でや」


 良い意味とは?

 最後に良い意味と付けるのが流行っているのか?

 まあ、良い意味でと言うのならきっととても良いということなのだろう。(?)


 俺たちは今日、昨日の続きとして初級下位ショッカーの最後のダンジョン〈静水の地下ダンジョン〉を速攻で攻略し、初級下位ショッカーの〈攻略者の証〉を3つ揃えたところで〈道場〉へ出発。ランク2(LV10~LV20)をクリアして全員のLVを20に揃えて二段階目ツリーを解放した。

 中々ハードなスケジュールだったが〈エデン〉では結構普通の出来事だ。しかし、彼女たちにとってはハードどころの話ではなかったらしい。


 そういえばサターンたちも〈エデン〉の普通は絶対普通じゃないとか言っていたが、アレは冗談じゃ無かったのか。


 まあ、それはともかく。

 サブメンバーたちが〈エデン〉の普通を受けて出た感想がさっきの言葉だ。


 言葉から察するにみんな〈エデン〉についてそれなりに噂を聞いていたようだが、思った以上だったらしい。


 想像を遙かに超える(良い意味で)ギルドか。なんかいい響きだ。


「なんで笑顔なのよ」


 サブメンバーたちの感想に思わず顔がニヤけていたらシエラからジト目をもらった。

 おお。今日は良い日だ。


「褒め言葉を貰ったからな」


「褒めていたのかしら、あれは。私にはもっと別の意味に聞こえるのだけど」


 シエラは微妙な表情だ。

 何を言っているのか。「良い意味で」と付いているのだから褒め言葉だろう。

 素直に受け取るが良いのだ。



 そんなやり取りをしつつ今日のダンジョンを終える。

 これで支援と生産の3人は〈二ツリ〉が解放されたからな。

 支援課の2人はまだまだダンジョン潜ってレベル上げが必要だが、生産のアルルはひとまず必要なスキルは揃った。

 後は生産設備を整えてあげれば生産でレベルを上げることができるだろう。



 時間も時間なのでダンジョン攻略はここまでとし、今日はそのまま素材を売りに行くことになった。

 行く場所はもちろん〈エデン〉が常連となりつつあるギルド〈ワッペンシールステッカー〉だ。


 中に入ると、いつも通りツインテールがこれ以上ないと言えるほど似合うロリ、もとい上級生。

 マリー先輩が店番をしていた。


「マリー姉!」


「おお、アルルやないか。元気しとったか?」


 店に入った瞬間、アルルがマリー先輩に抱きついた。

 アルルはマリー先輩のことを姉のように慕っていると言っていたが、抱きつくくらい仲が良い様子だ。

 ただ気になるのはマリー先輩の身長がドワーフのアルルと変わらない、げふんげふん。

 危ない、今一瞬『直感』が発動しかけたぞ。俺は何もやましいことは考えていません!


「アルル、〈エデン〉の下部組織ギルドはどうやった? やっていけそうかぁ?」


「もちや! いや、多少……というかかなりビックリしたけどな。マリー姉からとんでもビックリギルドや言われてたけど想像を遙かに超えてたで」


「そうやろ~」


 アルルの言葉にマリー先輩がケラケラ笑う。


「マリーさん、買い取りしていただいていいかしら?」


「おお。悪いなぁシエラはん。買い取り万々歳や! ……ちなみに量はどれくらいなん?」


 マリー先輩がアルルを引き剥がして素材を入れるデカ皿を持ってくるが、なぜか後半は恐る恐ると言った感じで聞いてくる。なぜだろうな?

 とりあえず俺が答える。


「初級ボス3体分とザコモンスターがちょこっとって所かな。カイリ、出してあげて」


「了解だよ」


 俺の言葉にマリー先輩がホッとした顔をしていた気がするが、きっと気のせいだろう。

 ちなみにドロップは全てカイリが持っている〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:中)〉に入れてある。

 この〈空間収納鞄アイテムバッグ〉は下部組織ギルドを作るに当たって必要だと思ったので、QPと引き換えに〈交換所〉で購入していた物だ。


 これを計3つ、〈アークアルカディア〉に預けてある。

空間収納鞄アイテムバッグ〉はギルドが成長するうえで必要不可欠なものだ。

 無いでは話にならないので〈エデン〉からは最優先支援物資として貸与してあった。


「ほ~。〈エデン〉にしては慎ましい量やな」


「マリー姉、うちら結構ドロップ集めたと思うんやけど、これで少ないほうなん?」


「せや。まあそのうち分かるやろうけどな~」


 なぜかマリー先輩の横目が俺を射貫くが、何も身に覚えは無いのできっと気のせいだろう。


 ついでに数日前に依頼しておいた〈ダッシュブーツ〉の受領も済ませ、マリー先輩と〈アークアルカディア〉の顔合わせも終わってこれにて〈ワッペンシールステッカー〉での用事も完了だ。


 今回の買い取り額だが、〈アークアルカディア〉はほぼ完全なキャリーだったし、攻略優先で採集はしなかったのでほとんど〈エデン〉が受け取る事になっている。

 ただニーコの【コレクター】の能力で少しドロップ量は増えているため、その分は〈アークアルカディア〉が受け取る形で話が付いた。


 他の〈アークアルカディア〉のサブメンバーの育成とキャリーもこの2日間で予定通り進み、大幅に強化できたと報告が来たためとりあえずは下部組織ギルドの育成はここまでだな。


 サブメンバーたちには〈最強育成論〉のメモも渡してあるので、明日からは各自でダンジョンに潜ったり、練習場で新しい〈スキル〉〈魔法〉の練習を行なう形になるだろう。


 そして明日は〈エデン〉にとって待ちに待った重要なイベント、Dランク昇格試験が待っている。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る