第390話 デブ猫の〈猫キング〉現る。でも強いぞ。
「フッフッフッフ、ニャ」
「無理矢理語尾にニャをつけている感が半端無い猫。あれが〈猫王のキングニャー〉、通称:〈猫キング〉だ」
「……太ってる。怠惰」
最奥のさらに奥、ボス部屋で待っていたのは、黒猫と白猫の2匹を左右にはべらせ、ドデカい猫の顔が掲げられた玉座に腰掛けたデブ猫だった。お供の2匹は標準体型の二足歩行、シュッとした気品ある猫なのに対し、玉座に腰掛ける〈猫キング〉は完全にデブ猫だ。大きさは俺たちと同じくらいのはずだが、玉座に腰掛、いやだらしなく身体を預けているため小さく見える。
ゲーム時代の頃から変わらないな。デブなのに猫の可愛さがある。なんでデブってる猫ってあんなに可愛いんだろうな。そのうち『デブなほど可愛い』なんて猫語が生まれそうである。
しかし、カルアからみてあの体型はダメらしい。ぼそりと呟いた言葉が辛らつだった。
他のメンバーは油断せずに武器を構えなおす。
「ああ見えて結構俊敏に動くから気をつけろ。特に範囲攻撃は対処が難しい。リカは無理だと思ったらすぐに言ってくれ、俺かルルがタンクをスイッチする」
「うむ。その時は頼む。なるべくスイッチせずにすませたいが」
今回のボス戦、リカは相性が悪い。それは〈猫キング〉が範囲攻撃をよく使うからだ。〈猫キング〉の攻撃方法は範囲攻撃とその後に素早く繰り出される単発攻撃のコンビネーション。これが中々に対処が難しい。特にリカは。
リカは相殺することでヘイトを稼ぐ。しかし、範囲攻撃には相殺ができないものが多いのだ。タンクがヘイトを集められないとアタッカーにタゲが移る。シェリアに移るのだけは気をつけねばならない。
難しそうなら俺が入るか、ルルに任せる予定だ。俺はヒーラーの役割があるので出来ればルルに任せたいが。
さて、向こうもお待ちかねだ。そろそろボス戦を始めよう。
玉座から〈猫キング〉がゆっくりと立ち上がり、2m有りそうな大剣を掴んで持ち上げる。
こっちも準備をしなければ。
「まずは打ち合わせどおりお供を引き剥がそう。ルル、行けるか?」
「まっかせるのです! ルルがお供を連れてくるのです!」
「ルル、前回のようにスキルを使ってはダメですよ」
「分かってるのですよ! シェリアお姉ちゃん、行ってくるのです!」
お供の引き剥がし役はルルに任せた。
俺とシェリアに見送られ、ルルが前に出る。
ボスたちが動き出し、ボス戦が始まった。
「私も行く」
ルルに続く形でリカも前に出る。
まずお供2体が、〈猫キング〉を守るためルルを迎撃する構えを見せた。
黒猫は右手に『魚の骨ソード』、左手に『魚の鱗盾』、足に『猫長靴』を装備している。
白猫は両手に一本ずつ、『魚の骨ソード』を持つ二刀流だ。足には『猫下駄』を履いている。
お供とルル、両方小さい。小さきもののバトルだ。ヤバイな、注目度マックスだ。
前に出ようとしたリカの足が止まりそうになってるぞ。
リカ、見たいのは分かるが我慢してくれ、リカの担当はボスだろ。
ちなみにシェリアはすでに止まっている。
「とう! そんな攻撃は効かないのです!」
ルルのキメ台詞炸裂。
黒猫がスキル『三連ニャ切り』を、白猫が『連続ニャ切り』を繰り出すが、ノックバックに強い耐性のあるルルは効いているようには見えない。斬られたルルはピンピンしている。
「お返しなのです!」
「ニャフ!」
「クニャ!」
ルルの通常攻撃がお供たちのHPを削る。
ルルの時とは違い、お供たちには効いているようだ。実際には痛み分けだが。
とそこでルルは背中を見せて逃げる姿勢を見せる。
「追いかけてくるのですよー! こっちこっちなのです!」
「ニャフ!!」
「クニャ!」
それに付いて行くお供、ヘイトをルルが稼いだためタゲがルルに向いたのだ。
しかし、ボスは動かない。タゲはボス部屋に最初に入ったリカに固定されていた。
そのためお供を分断することに成功する。
なぜボスのヘイトがルルに向かわないのか、それはルルがスキルを使っていないためだ。
〈スキル〉や〈魔法〉は使うだけでも全体のヘイトを上げてしまう。
別にボスに向かってスキルを使ったわけでもないのにボスのヘイトを稼いでしまうわけだ。お供に向かってルルがスキルを使っていれば、ボスのタゲはルルに向いていただろう。
リカはまだボスのヘイトが稼げていないのだ。
そのためルルが選択したのは通常攻撃。
通常攻撃を繰り出しただけではヘイトは上がらない。ただダメージを負えばその分のヘイトは溜まる。故に黒猫と白猫はダメージを受けた分、ルルはヘイトを稼げた形だ。
前回の30層ボス〈親猫のハハニャ〉の時はスキルを使ってお供を分断しようとしたので失敗した。〈ハハニャ〉もお供と一緒に付いて来てしまったのだ。
しかし、今回はその失敗が生きている。ちゃんと反省できているな。
「さすがルルだ。私も負けていられないな。『横文字二線』!」
ここでリカがボスに畳み掛けるよう動く。お供を引き剥がしたとはいえ、ここで『名乗り』をすればお供もその範囲に入ってしまうのでスキル攻撃のダメージでヘイトを稼ぐ狙いだ。
「フン、ニャ」
そんなリカの攻撃スキルを〈猫キング〉はゆっくりとした動作で剣を水平に振るった。スキル『横猫斬り』だ。範囲攻撃。
「くっ!」
大振りのくせに剣が2m近くもあるため範囲が大きくリカが弾かれる、スキルがキャンセルされてしまう。続いて〈猫キング〉の単発攻撃スキルが光る。上段に構えられた剣から振り下ろされるのは〈ニャブシ〉も使っていたスキル。『武士猫上段斬り』。〈猫キング〉の見た目、全然武士では無いが。
「『受け払い』!」
「ブムム、ニャ」
しかしこれは一度は防いだことのあるスキルだ。
防御スキル『受け払い』でしっかり相殺する。ヘイトを稼げたな。
ルルの方は、お供に少しずつスキルを使ってヘイトを溜め始めており、最初の分断工作は成功したといえるだろう。
ルルが十分お供を引きつけたと判断し、リカは『名乗り』『影武者』と挑発スキルを使いさらにヘイトを稼ぐことに成功する。
さて、やっとアタッカーの出番だ。
「〈氷精霊〉様お願いいたします『精霊召喚』! リカをお守りください、『エレメントリース』!」
シェリアの〈エレメントリース〉は精霊を貸し出すことで、味方の特定のステータスを、ずっと1.3倍にするという破格の魔法だ。今回選択したのはVITが上昇する〈氷精霊〉だ。
それをリカに付与する。
「『オーラヒール』! シェリアはまずお供の方を倒してくれ。俺とカルアはボス狙いだ。側面から回り込んで斬るぞ。カルア、付いてきてくれ、手本を見せる」
「ん。行く」
ルルの方を見てHPを回復し、問題ないと判断した俺はヒーラーからポジションを一時的に変え、アタッカーに転向する。
そしてリカの側面から飛び出る形で〈猫キング〉に迫った。相手の剣の間合いに入ったところでスキルを発動する。
「ここでスキルを発動する! 選択するのは『ソニック』系だ、『ソニックソード』!」
「フン、ニャ」
相手の剣の間合いに入ってスキル発動。これをした瞬間〈猫キング〉は再び『横猫斬り』を使い、俺を弾かんとした。これはゲームのときと同じ動作だ。〈猫キング〉は間合いを詰めようとされるとカウンター気味に『横猫斬り』を発動する。
これは範囲攻撃。タンクだけではなくアタッカーにも有効な攻撃。食らえばそれなりにダメージを受けるし、下手をすれば一度下がって回復してやり直しになる。
このまま進めば直撃だろうがここで活躍するのが『ソニック』系スキル。
『ソニック』系のスキルは『素早い移動からの攻撃』だ。
これをこのタイミングで使うと。
「おっしゃ後ろががら空きだっしゃー!」
「グブシ、ニャ!?」
正面に出された範囲攻撃を迂回し、真後ろから斬る事が可能なんだ。
〈猫キング〉は大剣使い。振り終わりに隙が出来る。うまくいけばクリティカルもありうる素晴らしい一撃が決まる。
しかし、今回はクリティカルは取れず、残念。
だが、〈猫キング〉は後ろを向いているため普通にチャンスである。
「カルアもこっちに回り込め! 『
「ん、『スルースラッシュ』! 『鱗剥ぎ』!」
「任されよう! 『影武者』! 『戦意高揚』! 『飛鳥落とし』!」
「フグアア、ニャ!!」
俺とカルアが後ろから、リカは正面からの挟み撃ちでガンガン〈猫キング〉のHPを削る。
すると、突然〈猫キング〉が叫び、剣が光る。
こいつは、全体攻撃だ!
「全体攻撃来るぞ!」
「『回避ダッシュ』!」
「『残影』!」
「『ディフェンス』!」
カルアが真っ先にダッシュで離脱し、リカも回避スキルを、俺は防御スキルを発動する。
瞬間、〈猫キング〉がその場で大剣をガンガン振り回した。力強い剣戟の嵐により、猫の顔をした緑色の飛ぶ斬撃的な何かが部屋全体にばら撒かれる。『猫の額の乱れ斬り』だ!
これを何とかやりすごす。
後衛のシェリアも防御姿勢でやり過ごしたようだ。
ちなみにルルは平常運行。
「グフ、ニャ」
「リカ、油断するな。狙われてるぞ!」
全体攻撃から続いて、追撃を打ちに出た〈猫キング〉。肩に大剣を担いだ格好のまま素早い動きでリカに接近すると、そのまま単発振り下ろし『ニャ切り』スキルを使う。速い!
リカにとって嫌な攻撃タイミングだ。回避スキルである『残影』も使ったばかりと言うこともあり、防御スキルが間に合わない。直撃する。
「『受け払――あうっ!?」
「『オーラヒール』!」
「グフフ、ニャ」
「させない。『爆速』! 『デルタストリーム』!」
俺はリカに回復を送るが、ダメージを受けたリカへさらに追撃のモーションをする〈猫キング〉。
そこへカルアが飛び出し、後ろから〈猫キング〉へ連続攻撃を繰り出し。妨害することに成功する。
その後、何度かリカがタンクで厳しい場面があった。
主に範囲攻撃の後だ。
リカがこれを耐えるには回避スキルの『残影』しかないわけだが、使ってしまうと次の攻撃に対処できない。防御姿勢も併用してやりすごしていたが、防御姿勢を使うとスキルが使えなくなる。できれば使いたくは無かった。
結果、何度目かの攻防の末、範囲攻撃でノックバックされ、次に使われたスキル『猫怒りスラッシュ』の直撃を受け、リカがついにノックバックダウンを取られた。
「あぐっ!」
「リカ!」
「カルア、ユニーク発動。リカを担いで退避! タンクをスイッチする!」
「! イエッサー! 『ナンバーワン・ソニックスター』!」
カルアのユニークスキルが発動しリカと共に一瞬でボス部屋の角まで移動する。タゲの範囲外だ。
これで〈猫キング〉は追いかけることはできない。
あまり遠くに逃げるとモンスターは追撃を諦めるのだ。
『ナンバーワン・ソニックスター』はタゲをぶった切ることもできる非常に有用なスキルである。
「次は俺が相手だぜ。『アピール』!」
〈猫キング〉のタゲを受け持つため俺は挑発スキルを使う。キメポーズも忘れない。
さて、厳しい展開だ。
そろそろルルもHPが危なさそうだし。
切るか。【勇者】の切り札を。
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