第391話 勇者のユニーク級発動。今が切り札を切る時だ!
リカと〈猫キング〉は相性が悪い。
その影響でリカがノックバックダウンを取られてしまった。
スイッチだ。一瞬のうちにそう判断する。
「『オーラヒール』! ルル、リカたちの方へ、お供の担当をリカとスイッチ! タゲを代わったらボスへアタッカーを頼む!」
「了解なのです!」
回復をルルへと飛ばし回復させ、さらに指示を送る。
要はお供の担当とボスの担当をチェンジする。
ボスを俺とルル、シェリアが担当、お供をリカとカルアに任せる形だ。
お供は物理型なのでリカとの相性は悪くない。
なら最初からリカをお供の担当にしとけば良かったのでは、という話になりそうだがそこはVIT値だな。ルルはタンクではなく本来ならアタッカーだ。タンクはサブでしか無い。
お供程度を受けタンクするならともかく強力な最下層のボスを相手にメインタンクできるかは不安が残った。
俺なんか今回はヒーラーポジション。タンクはできれば遠慮したかった。事故が怖い。
慎重になった結果、VIT値とプレイヤースキルを鑑みてリカにボスを任せたのだが、思いのほかリアル〈猫キング〉の猛攻が強く、リカがノックバックダウンを取られたのでやっぱりチェンジするべきだとの判断に至った形だ。
くっ、
「シェリア! ユニークで援護してくれ!」
「はい! 『古式精霊術』! 氷の大精霊様、力をお貸しくださいませ『大精霊降臨』! 『グラキエース』!」
今までルルと共にお供を相手にしていたシェリアにもボス戦に参加してもらう。
シェリアは〈氷精霊〉を召喚していたため氷の大精霊『グラキエース』を呼び出した形だ。
〈氷精霊〉が金色の神秘的な光に包まれたかと思うと、大きく膨らみ、光の中から『グラキエース』顕現する。
氷の大精霊グラキエース。
イグニスが男性型の人型鎧だったのに対し、グラキエースは全身氷のドレスを纏った神々しい女性型。水色のドレスに身を包み、アップで纏められたドレスと同じ色の髪。同色の瞳。そして片手には、先端が三日月の形をした長い杖を持っている。
『――――』
グラキエースが杖を翳したと思った瞬間、〈猫キング〉が氷に包まれた。
いや、ラナの『光の柱』のような氷の柱が〈猫キング〉を直撃したのだ。
グラキエースはイグニスと違い、遠距離攻撃系の大精霊である。
「ヒャッフシ、ニャ!」
たまらずといった感じで氷の柱から飛び出してくる〈猫キング〉。
〈氷結〉状態にはなっていないようだ。残念。
そのまま距離を詰め、俺を『猫薙ぎ払い』にてかっ飛ばそうとする〈猫キング〉。
そうはいかんな。
「おっと『ソニックソード』!」
相手の攻撃に合わせ、回避しつつ後ろに回り込んで斬る。
俺の得意技だ。
〈エンペラーゴブリン〉戦以降、俺はずっとこのワザを練習し続け、愛用していた。
当然、今回も上手く決まる。
「グオン、ニャ!?」
「おっしゃ追撃行くぜ! 『ハヤブサストライク』! 『ヘイトスラッシュ』! 『ライトニングスラッシュ』!」
ダウンこそ取れなかったものの後ろからの攻撃でノックバックした〈猫キング〉にガンガン攻めていく。
さらに途中グラキエースの攻撃も加わってダメージを稼いでいった。
グラキエースの攻撃は強力だ。シェリアにヘイトが向かわないよう慎重にヘイトを稼いでいく。
「ニャフ、ニャ!」
「ぐはっ!! やったなこんにゃろ、『オーラヒール』!」
ダメージを負えば『オーラヒール』や『エリアヒーリング』で回復。
ルルが到着するまで、俺は回復盾&アタッカーとして〈猫キング〉を受け持った。
「お待たせしたのです!」
「おっしゃ待ってたぜルル! 早速こいつの素早さを下げてくれ!」
「了解なのです! 『キュートアイ』!」
ここでデバフアタッカーのルルが合流した。
早速素早さデバフを使ってもらう。
ルルがキュピーンとキメ、〈猫キング〉の素早さを奪った。
敵が遅くなれば、その分攻撃回数が減る。
攻撃回数が減れば回復も必要最低限で済むんだ。
回復役が厳しい時なんかのテクニックだな。
「俺がメインタンクを受け持つ。ルルは後ろに回ってガンガンデバフと攻撃をしていってくれ」
「分かったのです! 『ロリータマインド』! 『チャームポイントソード』! 『ポイントソード』!」
ルルが〈猫キング〉にじゃんじゃんデバフ攻撃を仕掛け始めた。
そろそろ頃合いだろう。
ここで【勇者】の切り札を使う。
「これが【勇者】の切り札だ!! 『カリスマ』ーー!!」
『アピール』を使ったときと同じくシャキンと剣を掲げるポーズで、俺は【勇者】の切り札と呼ばれたスキル、『カリスマ』を発動した。
【勇者】にはユニーク級と呼ばれるかなり強力なスキルが複数存在する。
普通なら、それユニークスキルじゃないの!? と
例えば『身体強化』なんかがそれに当たるな。
普通、高位職でも1種類のステータスしか上げることはできない。カルアの『素早さブースト』だってAGIしか上昇しない。
それに対し、『身体強化』は驚異の6種類。しかも上昇値は一緒、1.6倍という破格さ。
正直、「へ……?」ってなる、意味の分からないスキルである。
知ってるか? これユニークスキルじゃ無いんだぜ?
〈ダン活〉では、こんな破格なスキルをユニーク級と呼んでいた。
そして『カリスマ』もその一つ。
その効果は〈周囲大挑発、全体攻撃力バフ〉だ。一見普通に見える。
しかし、クールタイムが10秒と非常に少ないのだ。
しかも三度までバフは重ね掛けできる。これがどういうことか分かるだろうか?
「もういっちょ『カリスマ』! 『エリアヒーリング』! 『ディフェンス』!」
10秒ちょうど、クールタイムが終わった瞬間また『カリスマ』を発動する。
〈猫キング〉のタゲが俺に固定され、ルルや、お供を相手にしているリカ、カルアの攻撃力も上がったはずだ。お供猫の方のヘイトはスキル範囲外で上がらないはず。
さらに10秒経過。
「まだまだーーっ! 『カリスマ』ーーっ!」
さらに大挑発が〈猫キング〉に叩き込まれる。
ヘイトが大きく加算され、〈猫キング〉のタゲが俺以外に移ることはもうさせない。
これが勇者のとっておきの切り札。
別名:「
確かに、「仲間がボスを引きつけているうちに倒すのが本当の勇者なの?」と言われれば、ぐぅの音も出ない訳で、そんな意見に開発陣が真っ向から向き合った、「勇者が仲間を引き連れて、ボスを真っ向から打倒する!」を体現したスキルとなっている。
それ故か、それはそれは強力で、ユニーク級な強さを持ってしまったのだ。
タゲが移らないイコール、攻撃し放題である。
「とう! 『ロリータタックル』!」
「グオ!? ニャ……」
ここでルルが〈猫キング〉のダウンを取る事に成功する。
〈猫キング〉の腹にルルのおでこが直撃したのだ。威力もバフで底上げされており、クリティカルヒットは避けられない。
白目をむいた〈猫キング〉がひっくり返る。大チャンスだ!
「っしゃルルナイス! 『
「やったのです! 『チャームポイントソード』! 『ジャスティスヒーローソード』! 『ヒーロースペシャルインパクト』! 『セイクリッドエクスプロード』!」
「グラキエース様、お願いいたします! 『ゾーン』!」
3人の総攻撃が〈猫キング〉を襲う。
おお! 『カリスマ』三発プラス『
ルルの攻撃でもガンガンHPが減っていく。
これが『カリスマ』の効力だ! もうダメージが半端ないことになっているぞ。
しかもだ、
「グニャアアアア!!」
「おっとレッドゾーンに入った! 気を引き締めろ!」
「『キュートアイ』! 素早さを下げちゃうのですよ!」
攻撃力、素早さが1.5倍に上がる怒りモード。
ダウン後にこれに突入すると事故が起こりやすい。ダウンの原因を作った者へヘイトが集中してタゲが代わることが多いからだ。
しかし、今回その心配は無用。タゲは俺のままだからだ。
「『カリスマ』ーー!! 『ガードラッシュ』! せい! せい、せい! 『エリアヒーリング』!」
大挑発スキルの『カリスマ』をたった10秒でガンガン掛けていくのだ。
つまり、ヘイト管理が
何それ、である。
ヘイト稼ぎに苦労している他のメインタンクから言わせれば、ふざけんなと
『カリスマ』はメインタンクするなら超が付くほど有用なスキルだった。
ただMP消費が非常に高いし、連発使用がほぼ決定しているので燃費がすこぶる悪い。四発発動しただけでMP320も使うのだ。なので毎回は使っていられなかったりするが。(アイテムを湯水のように贅沢に使えば別)
故に、『カリスマ』は【勇者】の切り札とされている。戦線が崩れそうなときとか大活躍するぞ。逆に言えば、そういうとき以外はあまり使いたくない。
と、俺がタンク&ヒーラーをしているうちにシェリアとルルが〈猫キング〉に仕掛けた。
「グラキエース様、特大の一撃を!」
「ルルも特大で行くのです! 『ロリータオブヒーロー・スマッシュ』!」
「グハァ、ニャ……」
ヘイトを気にせずガンガンアタックできるというのは本当に楽で、シェリアとルルの強魔法、強スキルの連打により、残り数%のHPが吹き飛んだ〈猫キング〉が倒れた。
膨大なエフェクトの海に沈んでいく〈猫キング〉を見て、ちょっとその丸々と太った腹をなで回したいと思ったのは内緒だ。
そしてエフェクトの後には金に光る宝箱が2つ鎮座していた。
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