第383話 フィールドボス〈猫侍のニャブシ〉編!




 Aチーム。俺、リカ、カルア、ルル、シェリアが前に出る。

 相手は〈猫ダン〉の10層を守護するフィールドボス、〈ニャブシ〉だ。


「〈ニャブシ〉は猫侍というだけあって刀使いの猫だ。二刀流で、リカと同じく防御に秀でている。うかつに攻め込みすぎるとカウンターを食らうから気をつけろ。カルアはヒット&アウェイを意識してくれ」


「ん。わかった。斬ったら逃げる」


「私と同じか。ならば弱点も近いのか?」


 戦闘スタイルが近いと聞いてリカが問うてくるのに頷く。


「お、リカはいいところに気が付くな。そのとおりだ。近接攻撃なら連続攻撃が有効だし――」


「遠距離攻撃は非常に有効ということか。なるほど、シェリア」


「任せてください。ヘイトを頼みますよ」


 Aチームで遠距離攻撃が得意なのはシェリアだ。

 基本的にリカがタンクで防ぎつつ、シェリアが遠距離からダメージを稼ぐ戦術になるだろう。


 そう、ここのボスは道中の通常モンスターには遠距離攻撃が相性悪いのに対し、Fボスには遠距離攻撃が相性良しという特性を兼ね備えているんだ。近距離系でパーティを組んでいたらボス戦で苦戦するというアンビリーバボー。

 中級中位チュウチュウクラスのダンジョンになるとこういう嫌らしさが増えてくるんだ。


「ルルはどうすればいいのです?」


「ルルはデバフでどんどん弱体化していってくれ。今回は攻撃するよりデバフを中心とした戦術で頼む。無理に攻めると反撃を食らうぞ」


「分かったのです! ルル気をつけるのです!」


 要点だけ説明して作戦を伝えると、それぞれが動き出す。

 もうみんなボス戦は慣れたものだな。


 初手はタンクによるヘイト稼ぎ。

 我らが頼れるタンクのリカが前に出る。


「同じ侍同士で刀を交えるのは初めてだ。我が名はリカ! その道、押し通らせてもらおう! 『名乗り』!」


「グニャウ、ジャッフス!」


「『その意気や良しニャ、我は〈猫侍のニャブシ〉ニャ。来るがいいニャ!』だって」


「頼むカルア、通訳はしないでくれ。力が抜けそうだ」


「ん?」


 語尾のニャさえ付いていなければカッコイイセリフなのに、だんだん〈ニャブシ〉のイメージが変わってきたぞ。ゲームではハードボイルドな声にかみしも姿の立ち絵が超似合うイケ猫だったのに!


「というか本当に話が分かるの?」


「そんな気がする」


「…………」


 あれだ。とりあえず〈ニャブシ〉との戦闘に集中しよう。


 〈ニャブシ〉が二刀の刀を素早く抜く。

 道中の〈チャミセン〉や〈ワイルドニャー〉のような〈魚の骨ソード〉ではなく、ちゃんとした刀だ。カッコイイ。猫と刀の組み合わせって、なんか合うんだよな。不思議。


「む、『影武者』! 『刀撃』!」


「グンニャ」


 掛かって来いとの言葉通り(?)〈ニャブシ〉は受けの構えを見せる。

 リカは基本的にパリィでヘイトを稼ぐため、攻撃してもらえないとヘイトが貯めづらい。

 仕方無しにリカは挑発スキルの『影武者』を使いヘイトをさらに稼ぐ。さらに攻撃スキルの『刀撃』で相手の対応を探らんとした。


 しかし、〈ニャブシ〉は余裕で刀を振るい、そのスキルを相殺した。

 相殺する瞬間、〈ニャブシ〉の刀からスキルエフェクトが漏れていたためリカみたいな防御スキルを使ったものと思われる。完全にリカと同じスタイルだな。


「くっ、まだまだ」


「グニャニャ!」


 単発スキルでは防がれるとみて、リカは通常攻撃での手数の多さで攻める作戦に出る。

 思うようにヘイトが稼げていないな。さすがにボスは強敵か。


「みんなはヘイトを稼ぎすぎないよう注意してくれ。シェリアはまだユニークを出すなよ」


「分かっています。『精霊召喚』! 『エレメントブースト』! 『エレメントアロー』!」


「ルルはデバフで弱らせるのです! 『ハートチャーム』! 『キュートアイ』!」


「グニャ! グニャニャ?」


 俺が指示を出すとアタッカーが動き出した。

 シェリアが召喚したのは〈火精霊〉。猫は火が弱点だ。

 さらに『ブースト』の自己バフで火力を大きく上昇させ、『火アロー』で〈ニャブシ〉にダメージを与える。


 ルルは攻撃力デバフの『ハートチャーム』や素早さデバフの『キュートアイ』をキュピーンとキメ、〈ニャブシ〉の力を削っていった。


「続くよ、『フォースソニック』! 離脱する『スルースラッシュ』!」


「回復行くぞ、『オーラヒール』! そんでもって『ライトニングバースト』だ!」


「グニャ!?」


 カルアが素早い移動からの四連続斬撃スキル『フォースソニック』で側面から切り込み、反撃される前に『スルースラッシュ』で斬りながら立ち去る。

 反撃ダメージを負ったリカに回復を送った俺はアタッカーが全員離れたのを見て『ライトニングバースト』を叩き込んだ。


 良いダメージが入ったはずだ、一気に攻めて行きたいがタンクのヘイトがまだあまり高くないためやりすぎないよう注意が必要だ。

 リカは一度タゲが外れると、タゲを取り戻すのが大変なのだ。


 その後リカが再び挑発スキルを使ってヘイトを稼ぎ、俺たちがそれを超えないようちょこちょこ攻撃する展開が続く。

 〈ニャブシ〉は完全にカウンター狙いだ。攻撃してこないためリカはいつもの戦法が使えずやりづらそうだ。

 ヘイトが稼げず、ちょっと焦っているように見える。

 そしてそれは気のせいではなかった。〈ニャブシ〉の目がギラリと光ったかと思うと、状況が変化する。


「グニャア!」


「ぐっ、かは!」


「リカ! 『オーラヒール』!」


 〈ニャブシ〉のカウンターがリカにクリティカルヒットする。リカの焦った攻撃に合わせ、綺麗にスキルが決まっていた。


 〈ニャブシ〉め、狙っていたな!?

 リカが吹き飛ばされ、クリティカルダウンする。まずい!

 俺は急いで回復魔法を掛け、リカと〈ニャブシ〉の間に入らんとする。

 しかし、それより早く滑り込んだ者がいた。


「リカはやらせない! 『32スターストーム』!」


 カルアも同じことを考えていたらしく側面から大技を使い〈ニャブシ〉の行動を妨げようとした。しかし、その攻撃に反応し〈ニャブシ〉の視線がカルアを捉える。これは『直感』からの『超反応』か!

 〈ニャブシ〉はカウンターを使う関係上、攻撃された時にタゲが近くに居ないとヘイト関係なく襲撃者に一時的にタゲを移すことがあるんだ。

 さっきカルアにも説明しておいたが、リカをフォローすることで頭がいっぱいのようだ。まずいぞ。


「カルア『回避ダッシュ』だ! 逃げろ!」


「ん!」


「グニャア!」


「んきゅ!?」


 さらにカウンター。

 カルアの『32スターストーム』は2秒間に32回の斬撃を叩き込む強力なスキル。

 ただ、攻撃中は無防備になる弱点があった。

 たった2秒間、弱点とも言えないかもしれない隙、しかし〈ニャブシ〉はカウンター特化ボスだ。その隙は逃してくれなかった。

 カルアのスキルが発動中、目に見えないほどの一閃が放たれ、カルアが大きなダメージを負って吹っ飛ばされた。


「カルア! 『エリアヒーリング』! 回復しきるまで待機しろ!」


 カルアのHPが吹っ飛び一気に3分の1にまで減少する。


 あ、あぶな。

 ルルの攻撃力デバフとカルアの新装備が無かったら一撃でやられていたかもしれない。

 新しい装備をオークションで買ってよかった。サンクスマリー先輩!

 すぐにエリア回復魔法を放ち、カルアを回復する。


「ルル、攻撃力を下げてくれ! シェリア!」


「分かっています。『精霊召喚』! 『エレメントリース』!」


「任せてなのです! 『ハートチャーム』! 『チャームソード』!」


「『ガードラッシュ』!」


 指示を出し、俺はダウン中のリカにアタックをかけようとする〈ニャブシ〉に立ちはだかった。

 シェリアが『精霊召喚』で〈氷精霊〉を召喚し、『エレメントリース』によって俺に貸し出してくれる。〈氷精霊〉はVITを上昇の効果があり、俺のVITが3割も上昇した。

 さらにルルが攻撃力デバフスキルを使い、〈ニャブシ〉を弱体化してくれる。


 そこで俺は『ガードラッシュ』を発動。これは防御しながら三連撃を放てるスキル。

 対カウンターに非常に有効なスキルである。


「おりゃあ!」


「ニャフシ!?」


「効かん効かん! 効かんわー!」


 盾を構えて剣を振るう。

 そのたびに相殺、もしくはカウンターが飛んでくるが、これだけ備えた俺のダメージは微々たるものだ。勇者にカウンターを決めようなんて100年早い!


 スキルが終わる。


「まだまだ! 『ライトニングバースト』! 『シャインライトニング』!」


「グニャア!」


 魔法攻撃で追撃! バックステップで距離をとれば〈ニャブシ〉のカウンターは届かない。

 しかし、通じないと判断したのか〈ニャブシ〉はカウンター戦法を捨て、攻撃に転じて俺に迫った。


「おお!? 『ディフェンス』!」


「ヌフシ!」


 〈ニャブシ〉のスキル、『クロス猫カッシュ』。二刀のバッテン斬りを慌てて防御する。

 これは成功。

 しかし、続く二撃目、『武士猫上段斬り』の構えを見せる〈ニャブシ〉。

 うおおお! 防御スキルはもう使い切った! 緊急回避だ!


 だがその時、俺が『ソニックソード』を使おうとしたところで後ろから頼もしい声が届いた。


「ゼフィルス、替わってくれ。ここで決める!」


「任せた! 『ソニックソード』!」


「ユニークスキル『双・燕桜』!」


 〈ニャブシ〉から放たれた『武士猫上段斬り』、上からの力強い一撃を、ジャストタイミングでスイッチしたリカが完璧にそれに合わせてユニークスキルを決めた。


「ガフッ!?」


「大チャンス!」


 リカの『双・燕桜』によって攻撃を跳ね返され大ダメージを負い、さらに特大ノックバックを食らって刀を振り上げたポーズで固まる〈ニャブシ〉。

 ここだ、ここで攻めるぞ!


「ユニーク食らえ! 『勇者の剣ブレイブスラァァッシュ』!」


 ズドンッと強烈な一撃、ノックバック中の〈ニャブシ〉をバッサリと斬り、ノックバックダウンを奪い取った。


「よっしゃ全員総攻撃だーー!」


「行くのです! 『ジャスティスヒーローソード』! 『ヒーロースペシャルインパクト』! 『セイクリッドエクスプロード』! 『ロリータオブヒーロー・スマッシュ』!」


「『古式精霊術』! 『大精霊降臨』! お願いします『イグニス』!」


「倍返しする。『鱗剝ぎ』! 『デルタストリーム』! 『スターブーストトルネード』! 『スターバースト・レインエッジ』! 『二刀山猫斬り』!」


「先ほどのお返しだ! 『飛鳥落とし』! 『焔斬り』! 『雷閃斬り』! 『凍砕斬』! 『光一閃』! 『闇払い』!


「グニャッフ!?」


「行くぜ『勇気ブレイブハート』! 『ハヤブサストライク』! 『ライトニングスラッシュ』! おりゃーー!!」


 5人がアタッカーとなりダウン中の〈ニャブシ〉に総攻撃を打ち込んだ。

 こりゃかなりのダメージが入ったな。


 そこからは流れが完全にこちら側になり、先ほどの鬱憤を晴らすかのように一方的な展開となった。

 何が起こったのか、リカがカウンターに合わせて防御スキルを発動できるようになったのが大きかったな。リカ、ボス戦で急激な成長を見せやがったぞ。マジか。カウンターに相殺を合わせるってどうやってるんだろう?


 しかし、リカがヘイトを稼げれば遠距離からバンバン攻撃が仕掛けられる。シェリアの攻撃が光る!

 〈ニャブシ〉も遠距離魔法を刀一本で相殺したりと健闘していたが、最後は押し勝った。


「フ、グニャァ」


「『ふ、やるじゃねぇかニャ』だって」


「ニャはいらないんだよなぁ!」


 最後にフッと笑ってそう告げると、〈ニャブシ〉は膨大なエフェクトの海に沈んで消えた。


 残されたのは大量のボスドロップと、銀色に輝く宝箱だった。




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