第378話 猫のモンスターのみ出現する。その名は猫ダン!




「ビバ、〈猫ダン〉!」


 先頭のラナが両手を挙げて喜びを全身で表現していた。

 思わず万歳したかったのだろう。気持ちはすごくよく分かる。

 俺もダンジョンに来て何度か万歳した事があるからな。うむ。


 すると何人かがラナと同じポーズをとった。

 おお! 俺も続かなくては!


「いいから少し離れるわよ、後ろから次が来ているわ。みんな横に一旦避けて」


 万歳しているとシエラに窘められた。

 後ろを向くと、5人組の女子のパーティがいた。

 しまった、変な目で見られている!


「ハハハ、どうぞ先輩方お通りください。あ、足元に注意してくださいね」


「え、ええ。ありがとうね」


 途中から紳士にジョブチェンジしてなんとかやり過ごした。

 ふう。危ない。

 パーティリーダーだろう、先頭のモデルのような高身長の女子がとても動揺して俺を見ていた気がするが、きっと気のせいだろう。


 道を塞いでいたみんなが横に避けると、さささっと先輩女子パーティが去っていった。


「絶対変な集団だと思われたわ」


「気のせいさ」


 シエラがこめかみを押さえているが、大丈夫だ。

 ダンジョンで万歳することなんてよくあることだ。

 きっと先輩たちも経験があるだろう。


「さて、早速攻略に向かいますか!」


「賛成ね!」


 ほら見ろ、ラナは気にしてないぞ。




「ニャッフス!」


「ニャニャ~」


「フニャフニャ~」


「か、可愛い。ゼフィルス、あれは可愛いわ!」


「ああ。そうだな」


 ラナが指を向ける対象に俺も頷く。


 そこに居たのは数十を超えるモンスター。

 小猫型モンスターたちの集団だった。

 白猫、黒猫、茶猫。

 キジトラ、単色、三毛、茶白、靴下などなど。


 色々いる。全て標準猫サイズの猫型モンスターだ。

 デフォルメされており、非常に女子高生にバズる見た目となっている。

 開発陣には絶対猫好きがいたに違いない。

 あまりに力の入ったデフォルメ猫に、もうメンバーたちの目が猫に釘付けだった。


 ちなみにこの猫たちの集団は背景・・である。

 この〈孤高の小猫ダンジョン〉は特殊で、遊園地のアトラクションなんかにあるキャラクターのように、道沿いに大量の猫型モンスターがニャーニャー鳴いているダンジョンなのだ。

 道を歩けば隣でニャーニャー、反対側を向いてもニャーニャーだ。さらに行き止まりにもニャーニャー鳴いているし、たまに宝箱から猫が飛び出してくるギミックなんかもある。(通称:猫罠。ひっかかれてダメージを受ける。ペロンと舐められて回復することもある)


 そして、この集団から1匹の猫が道に出てくると、バトル開始だ。

 道に出てくる猫は背景ではなくアクティブモンスター扱いなんだ。


 今はアクティブモンスターはいないため、思いっきり猫を眺める女子たち。

 まるで柵の無い動物園(猫オンリー)? である。


 説明終了。



「シ、シエラ殿、あれは持って帰れるのでしょうか?」


「テイム能力があれば、いけるはずよ」


「テイム……騎士の能力にテイムのスキルがあったはずです」


「エステル、はやまっちゃだめよ? まずゼフィルスに聞かないと」


「そ、そうですね」


 エステルとシエラの話し声がすぐそばで聞こえてくる。


 いや、だめだろう。

 エステルの【姫騎士】には確かに【ナイト】系のスキルも含まれているので騎乗モンスターをテイムすることが出来る。エステルはあの猫に乗るつもりなのだろうか?


「ゼ、ゼフィルス殿。少々話があるのですが」


「ダメ」


「ま、まだ何も言っていませんが!?」


 エステルは最強のアタッカーに育てるためSPは貴重なんだ。テイム能力なんかに1SPたりとも振ることは許されない。

 どのルートに育てたいか選ばせたときエステルはアタッカー最強を選んだ。

 なら、我慢して欲しい。

 俺はそっとその場を離れた。




「猫たち。可愛い、ね?」


「う、うむ。だが私にはカルアもいるからな、惑わされてないぞ」


「リカ、本当?」


「ほ、本当だ。カルアがたくさんぬいぐるみを作ってくれたし、現状に満足している」


「撫でてみたくならない?」


「な、ならない」


 こっちではカルアとリカが何か心理的なやり取りをしていた。

 なぜかリカが追い詰められているように見えるのは気のせいか?

 そっとしておこう。


 次に行こうか。


「ルルが好きなのは全部なのです! 可愛いに貴賤きせんはないのです! 全て愛します!」


「私もルルと同じデース! 可愛いは正義だと偉い誰かが言っていたのデス!」


「つまりルルは正義と言うことですね。なるほど、深いわ」


「シェリアさんはルルさんのことになるとダメですね。目が濁っています」


 ルルとパメラの、テンション高い声が聞こえた。ついでにシェリアのダメな発言にシズが毒を吐いた。シェリアは気にしていない様子だが。


 この4人は〈エデン〉に加入した日が近かったということもあり、一時期同じパーティで攻略していた。

 シズが毒を吐きシェリアが気にしていないくらいには仲が良い。

 シェリアとシズはこのパーティの司令塔だったからな。自然と仲が深まったのかもしれない。


「シェリアはあの猫が可愛くないと言うのデース?」


「それは信じられない発言なのです!?」


「もちろん可愛いと思っていますよ。それにルルが加われば可愛さ百倍というだけです。ねえ、シズもそう思いますでしょう?」


「こちらに同意を求めないでください。ただ、可愛いのは認めましょう」


 あっちでもこっちでも可愛い談議に花を咲かせているようである。

 〈エデン〉は本当に可愛い好きが多い。


 しかし、見れば周りにも上級生のお姉さま方が猫談議に花を咲かせながら道を歩いている。

 たまにアクティブ化した猫型モンスターが飛び出してくるが、そのたびに悲鳴を上げて逃げていくお姉さま。その悲鳴は、大半が黄色だった。喜んでおられる。

 ちなみに猫型モンスターはしばらく追いかけるが、それでも逃げられると再び道を外れ、背景の一部に戻る。

 誰も猫を倒さないのはなぜだろうな?

 〈エデン〉だけではなく女子全体が可愛い好きの世界なのかもしれない。


 女子に大きな人気を誇る〈孤高の小猫ダンジョン〉。

 そろそろ攻略に動きたいなぁ。




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