第377話 〈中中ダン〉突撃。さわげ学生たち!




「お、おい。あれって」


「まさか……ギルド〈エデン〉か!」


 俺たちは〈ダンジョン門・中級中伝〉通称:〈中中ちゅうちゅうダン〉へやってきていた。

 扉を開けて入場したところで周りから喧騒が聞こえてくる。


 現在〈エデン〉のメンバー11人。

 ちょっと大所帯な数だからだろうか、すごく注目を集めている気がした。


「うっそだろ!? もう1年生がここまで上がってきたっていうのかよ!?」


「お、おい。ここって〈中中ダン〉、だよな? 〈中下ちゅかダン〉じゃないよな?」


「お、俺、もしかしたら〈中下ダン〉に迷い込んだのかもしれない」


「現実逃避してんじゃねぇ! ここは〈中中ダン〉であってるぞ!」


「じゃ、じゃあよう。あの1年生はなんなんだ? まさかもう〈中中ダン〉までやって来たってこと、じゃないよな? 見学か? 〈中中ダン〉って1年生の見学はまだ先じゃなかったか?」


「おお! 〈中中ダン〉監視役のホピマス軍曹が確かめに行ったぞ! これで真偽が分かるな」


「あの人数だ。さすがに見学の類だろう。そうであってくれ」


「〈中中ダン〉の条件はLV50以上、そして中級下位チュカを3つ攻略だ。さ、さすがに無理だよな? 早すぎるよな?」


「もし条件を満たして来たのだとすれば、俺は……」


「お、おいしっかりしておけってそんなはずは、うおおっ!?」


「ホピマス軍曹が許可しただとぉ!?」


「本当にあの人数全員が、〈中中ダン〉条件の達成者だとでもいうのか!?」


「このままだと……俺は……」


「お、おい。こいつやべえぞ。落ち込み具合が半端じゃねぇ!」


「俺、ここまで来るのに2年掛かった」


「お、おいしっかりしろ!」



 〈中下ダン〉にいたゼゼールソンと同じ役職を持っていると思われる、〈中中ダン〉のホピマス軍曹に全員が攻略者の証を見せたところで、周りの喧騒がすごく大きくなった。


 奥に大きな集団がいたが、一斉にOrzしているのは遊びか何かだろうか? 〈敗者のお部屋〉プレイみたいでちょっと面白い。


「ギルド〈エデン〉ようこそ〈ダンジョン門・中級中伝〉通称:〈中中ちゅうちゅうダン〉へ。歓迎するぞい」


「ありがとうございますホピマス軍曹」


 奥ばかり見ていたら監視役&説明役である、白髪が似合うホピマス軍曹から歓迎の言葉を貰ったので再び顔を戻してお礼を口にした。


 歓迎……。周りに意識を向ける。果たしてこの喧騒は歓迎なのかについて……。


「1年生がこの時期に〈中中ダンここ〉へ挑戦しに来るなんて正直聞いた事も無いが、〈エデン〉ならば納得だ。何か聞きたい事があればワシに聞くがいいぞい」


「ありがとうございます。その時は是非相談させていただきます」


「うむうむぞい」


 なんか独特な話し方する人だな~と思いながらホピマス軍曹と別れた。

 どうやら本当に俺たちが条件を満たしているのか確認がしたかっただけみたいだな。


 さて、では俺たちも行きますかね。


「みんなお待たせ。じゃあお待ちかね、ダンジョンに行くぞ!」


「お~」


 乗ってくれたのはハンナだけだった。ちょっと寂しい。

 ハンナは俺の後ろにピタリと張り付いている。距離が近い。

 なぜこんなに近いのかというと、例の〈『ゲスト』の腕輪〉で参加してほしい、という言葉が効いたらしい。


 ハンナは実力的に中級中位ダンジョンのボスは倒せない。でも採取と生産で貢献することはできる。

 〈『ゲスト』の腕輪〉があれば連れて行くのも問題ない。

 戦闘には参加できなくなるが、ハンナもそれを了承してくれた。

 というわけで、ハンナは俺たちとダンジョンに一緒に行くのを続けられることになったわけだが、そしたらなんか、すごく距離が近くなったわけだ。(どんなわけだ?)


 そしてラナやシエラたち女性陣からは、なぜか仕方ないなぁ的な雰囲気が出ている。

 これについて誰も何も言わないのでさっきからこのままだ。なぜだろうか?


 そんなこんなで、ハンナがやたら近いのをスルーして話は進行する。


「ねえゼフィルス、今日はどこのダンジョンに行く気なのよ! まだ私聞いていないわよ!」


 ラナが腰に手を当てテンション高めに聞いてくる。どこって、言っていなかっただろうか?

 あれ?


「そういえば言ってなかった気がする」


「ちょっと!」


「ハハハ」


 笑ってごまかした。


 いや、知らせはしたんだ。俺だってホウレンソウはする。

 ただ、今回のダンジョン週間中に行く3つのダンジョンは全て話したのだが、どれから挑むのかを伝え忘れていただけだ。

 すでにダンジョンについては教えてあるので問題はない。セーフだ。


「今日行くのは〈孤高の小猫ダンジョン〉だな。難易度的にも効率的にもここから攻略した方がいい」


「それって、出てくるモンスターがほぼ単独という珍しいダンジョンだ、ってゼフィルスが言ってたところよね」


「覚えていたか」


「当たり前でしょ! もっと早く言いなさいよね!」


 ラナの顔が満面の笑みだ。

 攻略が楽しみ、という他にもこのダンジョンには実は理由があった。


「みんな聞いたわね! 最初は〈猫ダン・・・〉よ!」


「グッジョブ」


「うむ。良いと思う」


「ええ。同意します」


「わー! ルルも楽しみなのです!」


「ああ、ルルが猫と……、今から楽しみです」


 ラナの発言に、上からカルア、リカ、エステル、ルル、シェリアが歓呼かんこの声を上げる。

 ちなみに〈猫ダン〉とは〈孤高の小猫ダンジョン〉の通称だ。


 このダンジョンは、主に女子に人気のあるダンジョンなんだ。入れば分かる。


「ゼフィルス、早く入りましょ! 扉はどっちにあるの!」


「おう、あっちだあっち」


 俺が指を指すと、女子たちがギルドマスターの俺を差し置いて先に行く。

 待って、置いていかないで?


「ゼフィルス。行きましょ」


「おおお、シエラだけが俺の味方だ」


「そう……」


 俺にも味方はいた!

 シエラだけが取り残された俺に付き添ってくれる。

 なんだか嬉しい。


「あの、私もいるんだけど。ゼフィルス君?」


 いや、ハンナはだってずっとくっ付いてるじゃん。

 シエラのような感動はないというか……。言わないけど。


 こほんこほん!

 しかし他の女子は足が速いな!

 少し急ぎ足で門へ向かう。


「じゃあ入りましょう! みんな、行くわよ!」


「「「「「おー!」」」」」


 いつの間にかギルドマスターである俺のポジションにラナがいた。

 みんなを先導して門へと入っていく。

 それ、俺の役目……。


「ゼフィルス、元気だしなさい。ダンジョン内ではあなたが頼りなのだから」


「し、シエラ~!」


 シエラから嬉しい言葉を貰って少し涙腺が緩んだ気がする。いや気のせいだ。男子は涙腺が緩むことはナイ。

 しかし、俺の元気は戻った。


 さあ、ダンジョンへ行くぞ!


 〈中中ダン〉の喧騒が大きくなる中、俺たちは〈猫ダン〉の門を潜った。




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