第355話 女子の面接開始。ラクリッテとノエルの番!




「う、うちの番です! ラクリッテ、行きます!」


 ついに「狸人」の女の子の出番だ。

 左手を構えて展開すると、手甲のように装着されていた装備が巨大な盾へと展開した。


「おお、あの演出かっこいいな~」


 思わず唸る。

 それを両手で装備すると的へ向かって前へ出る。

 構えるのはでっかいタワーシールドのような盾。さっきタンクを自称していたからな。両手盾である。

 ちなみに両手盾は両手で装備する大盾のことで武器は装備していない状態だ。


 彼女の名前はラクリッテ、職業ジョブは【ラクシル】。

〈ダン活〉オリジナル職業ジョブの高位職で、高の上。ポジションタンクに特化した盾職系の職業ジョブである。

 また、面白いのが【ラクシル】は幻術系の〈魔法〉を多く覚える点だな。


 物理盾の職業ジョブは物理攻撃、つまりSTRとVITを育てるのが一般的だ

 しかし【ラクシル】は物理攻撃の性能が低く、〈魔法〉の方が得意である。

 育てるならVITとINTを育てていくことになる珍しい職業ジョブだ。


「人種」カテゴリー「狸人」自体がINTに特化しており、他には【化け狸】や【癒し狸】、【狸幻想師】といった魔法系を得意とする職業ジョブを持っている。

【ラクシル】は盾が得意な「狸人」の職業ジョブ、というポジションだな。




「『カチカチ』! 『壁盾』! 『イリュージョン』!」


 おお! 俺はラクリッテが使い始めたスキルに驚いた。

『カチカチ』は挑発スキルだ。さっき俺が言った「的を敵に見立てる」という言葉に忠実に従っていた。

 前の男子たちとはえらい違いだ。

『壁盾』は防御スキル。彼女の中では挑発して敵のタゲを奪い、防御するところまでイメージが出来ているのだろう。なかなか慣れている動きだ。

 さらに幻惑系魔法の『イリュージョン』、相手に〈混乱〉や〈盲目〉などを含む状態異常をランダムで与える魔法である。ランダムなので狙った状態異常を付けることはできないが、その分成功率が高い魔法だ。


 それからもラクリッテがかなり慣れた動きでヘイトを稼ぎ、防御スキルを発動し、時々魔法でデバフを掛ける動きを見せて面接は終了した。


 他の男子が的を攻撃しかしていなかったのに対し、ラクリッテは本当に動かない的を敵と想定して動いたのだ。

 的は攻撃するものという固定概念を取り払った素晴らしい動きだった。


 高評価である。



「次は私の番ね。【歌姫】ノエルが行くよ~」


 次は「男爵」「姫」のカテゴリーを持つ女子、名前はノエル。職業ジョブはなんと驚きの【歌姫】だ。名前から察せられるとおり、〈姫職〉の一角である。

 高位職、高の上に位置し、メインは歌によるバッファーであるが、スキルはわりとオールマイティに何でもできる優良職である。さすが〈姫職〉。

 主に〈スキル〉系の歌を使うが、ステータス依存はRESとDEXという、これまた珍しい組み合わせだ。


 しかし、自分の努力のみで〈姫職〉になっている子を初めて見た。

〈姫職〉というのは普通、発現条件がちょっとやそっとじゃ分からないようなものばかりに設定されている。

 ゲーム〈ダン活〉ではクエストなどで発現条件の一部を手に入れて、後は〈ダン活〉プレイヤーの汗と涙と努力とパワーで発見していたが、彼女はそれを自分で紐解いたのだろうか?

 あるいは家に代々【歌姫】の発現方法が伝えられてきたのか。


 いずれにしても〈姫職〉の子である。大注目だ。

〈育成〉はどうなっているのか気になるところである。


【歌姫】はオールマイティ。なんでもできるためにスキルの方向性が散りやすく、浅く広くになりやすい。

 それでも悪くなり難いのが〈姫職〉であるが。

 彼女がどのようにスキルを伸ばしているのか、刮目して見よう。


 ノエルが的の前に出る。装備しているのはマイクだな。

〈ダン活〉には楽器装備系という系統の特殊な装備がある。

 性能をそのままに、様々な楽器装備へ改造して使用ができる装備群のことだ。

〈ダン活〉には様々な職業ジョブがあったが、楽器系を装備する職業ジョブは少なく、そのために多くの種類の楽器装備を製作するのをさすがの開発陣も断念したのだと思われる。


〈ダン活〉ではギターやハーモニカ、笛など様々な楽器があったが、『楽器コンバート』というスキルによって、性能そのままにギターをハーモニカに変えたり、ハーモニカをマイクに変えたり改造することができたのだ。


 たとえば宝箱から〈ハーモニカ〉がドロップしたとして、本来なら【歌姫】は装備出来ないところ『楽器コンバート』で〈マイク〉に改造すれば装備可能になる。といった感じだな。


 ノエルが息を吸い込んだ。行くか。最初はなんのスキルだ?


「『ハートエール』! 『アピールソング』! 私の歌を聴きなさい、『ライブオンインパクトソング』!」


「ってそっちか!?」


「おお? どうしたのゼフィルス君?」


 ノエルのスキルに俺が思わず驚きの声を上げるとビックリした様子のミサトが聞いていた。


「いや、悪い。まさか、そう来るとは思わなかったから驚いたんだ」


 ミサトをビックリさせてしまったことを詫び、またノエルに注視する。


 いや、マジで驚いた。


 まさか、タンク・・・仕様のスキル構成とは。

【歌姫】や【アイドル】などは基本的にバッファーだ。歌による仲間の応援などがメインスキルとなる。

 しかし、歌にはアピール属性が宿っている。つまり挑発スキルも覚えるのだ。挑発スキルを覚えるということは防御スキルなども覚えるということで、ビックリすることに【アイドル】たちはサブタンクとしての活躍も可能だったりする。


 ノエルがまず使った『ハートエール』は防御力の強化バフだった。

 エールを送って全体の強化をするスキル群だな。


 次の『アピールソング』が挑発スキルだ。

 そして『ライブオンインパクトソング』がノックバック付きの強力な防御スキルである。

『ライブオンインパクトソング』が発動中はキャラが歌い、定期的に衝撃波を放つようになる。その衝撃波を食らうとモンスターは小ノックバックをしてしまい近づくことができないのだ。


「~~~~! ~~~~! ~~~~~♪」


 ズドン、ズドン、ズドン、とノエルが歌う度に的が衝撃波にさらされている音が聞こえた。

 ダメージは無いのだ。ただ小ノックバックするだけのスキルだな。いい音しているが。


【歌姫】はここから『耀くソング』コンボと言われる防御スキルの連打で敵を一切近づかせずに完封勝利を狙える戦術があるのだが、それは三段階目ツリーが解放されてからなのでノエルにはまだできない。それに難易度も高い。

 まあ【歌姫】をメインタンクに構成する人はよほどの変態だ。普通はしない。

 そしてノエルも防御スキルを使ったのはただこういうこともできます、という俺へのアピールだろう。


 証拠に、次のスキルはタンク系のスキルでは無かった。


「『ヒールメロディ』! 回復だよー『ラブヒール・ボイス』!」


 今度は回復スキルだな。全体継続小回復の『ヒールメロディ』に全体小回復の『ラブヒール・ボイス』だ。なんとクルリと躍るパフォーマンス付きだ。なんだか心まで回復し癒されそう。


 パーティ回復系のみだが【歌姫】は軽くヒーラーもできる。

 全体攻撃が増えてくるこの先、活躍の機会が多いだろう。


「攻撃行くよ! 負けてください『テラーカーニバル』! 『マイクオンインパクト』!」


 続いては攻撃スキルだな。何やら不穏な音波でダメージが入る『テラーカーニバル』。不可視の衝撃波にさらされる『マイクオンインパクト』だ。

 的がビリビリ揺れている。そこそこのダメージが入っているみたいだ。


 もう少し見ていたかったがとりあえずここまでだな。

 素晴らしいオールマイティだった。チョイスしたスキルも申し分ない。タンク系は予想外だったが、足止め系スキルは結構有用な場合も多いので持っていて損はないだろう。

 俺の〈最強育成論〉にもタンク系が組み込まれているルートはあるしな。

 さすが俺の授業を受けてきただけはある。よく考えられているスキルたちだった。


 これは、早くも決まったかもしれないな。




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