第356話 面接終了。候補が優秀すぎて絞りきれない件。




「いやぁ~。思ったより豊作すぎてヤバい」


「でしょでしょ。あの子たち〈エデン〉に入るんだって気合い入れてたから」


 面接もすでに最終日。木曜日だ。今日も訓練場で面接し、やっと終わったところである。


 明日は俺の臨時講師が入っているので面接は無しにしてもらった。

 おかげでこの4日、合計62人を面接しなければならなかった。


 〈エデン〉に応募してきてくれ、そしてミサトの選抜を勝ち抜いてきたのは62名、そのうち男子18人、女子44人だった。

 女子率がすんごい。

 〈ダン活〉は女子しか就くことができない高位職が多いので仕方ない。が、しかし、それにしても男子が不甲斐ない。


 全て同じような面接で、能力を見させてもらったのだが、その中でも俺の授業を受講していた女子がすんごかった。

 よく、考えている。

 〈スキル〉〈魔法〉を含むステータスの振りも文句が無いほどだ。何度も質問されては答えたからな。

 俺の授業がちゃんと彼女たちの身になっていて、なんだかよく分からないが感動にも似たジーンと来る感情が押し寄せてきた。


 なんだか、教師やって良かったーって感情、というのだろうか。

 なんだろうなこれ。すっごく良いんだけど。〈ダン活〉やっていて得られる楽しいから来る感動とはまた違った感動だった。

 でも嫌いじゃ無い。むしろ良い! よっし、明日も頑張るぞー!


「それで、採用する子は決まったの?」


「…………なあミサト、なんでDランクは20人なんだろうな」


 俺はふと空を見上げてミサトに言った。


 人数制限とは残酷だ。あのすんごい女子全員をなんとか採用出来ないものだろうか?

 マジでこの女子たち、すんごいのだ。(すんごいがゲシュタルト中)

 正直、他のギルドに渡したくないレベルで。もう渡ってるけど。

 他の高位職の人たちも面接に来ていたが、その違いは明らかだった。技量も考え方も全然違う。


 一応今日は上級生も面接には来ていた。数少ない高位職の上級生2人と、〈転職〉希望の中位職の上級生が15人。

 〈転職〉を希望し、〈ダン活〉プレイヤーの英知に掛かれば高位職、高の上まで取れるカテゴリー持ちの人も居た。

 熱意が引くレベルで、脱退や情報漏洩なんかを絶対しなさそうな人も居た。

 だが、俺の授業を受けた女子たちの方が職業ジョブに対する知識と意識が深かった。熱意も大きかった。


 うーむ。上級生はまだ俺の授業を受けた学生は少ないし、日も浅い。

 授業をして1週間しか経っていないのでまだ身についていないのだろう。

 上級生を採用するのはまだ早いか? 早く〈転職〉制度が確立してほしい。


「いや、それは知らないけど。でも早く決めた方が良いよ? あの子たちだって今居るギルドを脱退して来てくれるんだから」


「そうなんだよなぁ」


 俺は改めて手元の資料を見る。

 そこには22人に採用候補と書かれていた。ここからどう絞ればいいのだろうか。


 ちなみにだが、詳細は女子21人、男子が1人だ。男女の差がとても酷い。

 いや、この男子が頑張ったと見るべきだろう。今回の面接で分かったけど、男子って欲しい人材が少ない。だって女子の方が強いし、優秀だし。

 しかし、男子にも採用したいくらい強く優秀な人はいるのだ。この男子なんかがまさにそれに当てはまる。


 男子のプロフィールを見る。

 これは、例のごとくセレスタンがいつの間にか持ってきたプロフィールだ。

 そしてメルトの時と同じく、書類の上に『合格』と書いてある。性格なんかも問題ない。


 唯一の採用候補、男子学生は「人種」カテゴリーは「男爵」である。

 「男爵」には他の「貴人」には無い特別な職業ジョブ系統が存在する。

 男しか就けない高位職、高の上グループが存在するのだ。そのポテンシャルは、なんと〈姫職〉と同格レベル。

 そして、この男子もその「男爵」最高峰の職業ジョブに就いていた。

 さらに言えば、この1年生男子は初回から俺の授業を受けていた数少ない男子の一人でステータスはもちろん考え方もこちら側だ。是非欲しい人材であった。


「とりあえず、この22人までは絞った」


「オーケー。じゃあ私の方で不採用が決まった人たちには知らせておくね」


「頼む。さて、マジでここからどう絞ろうか……」


「うーん、じゃあさ、下部組織ギルドを作っちゃえば?」


「下部組織ギルドか~」


 なるほど。それは〈エデン〉の側からすれば有りだろう。

 下部組織ギルドとは所謂いわゆる補欠メンバー。

 〈ランク戦〉で負けたりして上限人数が減ってしまった時や、補充する人材をキープしたい時に使われるのがこの下部組織ギルドだ。


 ゲーム〈ダン活〉では、この下部組織ギルドを作る際、親ギルドからの援助が必要だった。つまりQPだ。この援助を含む維持費が中々高額だった。

 それに下部組織ギルドは親ギルドよりランクが低くないといけない決まりだ。Dランクまでしかギルドランクを上げることできず、最大20人までしか在籍できない。


 また下部組織ギルドのメンバーは勝手にダンジョンへ行ったり生産なども行うが、親ギルドへ還元してくれる素材やアイテムは非常に少なかった。微々たるものだ。

 メリットらしいメリットが人材のキープくらいしかなかったのだ。

 そのため、俺はゲーム〈ダン活〉時代、あまり下部組織ギルドは使わなかった。

 〈ランク戦〉でもほとんど負け無しだったからな。QPの無駄使いと割り切っていたんだ。


 しかし、なんで下部組織ギルドから還元献上される素材やアイテムが少なかったのか、リアルになった今ならよく分かる。

 さすがに補欠から物品奪うのはダメだろう。下部組織ギルド所属の人たちにも生活があるのだ。当り前だが。


 ちなみに親ギルドがQPを払うのは引き抜き阻止の処置だそうだ。

 そりゃ補欠なのだから、別のギルドから「メインメンバーに加えるよ」と言われればそっちに傾くこともあるだろう。それではせっかくの人材キープが台無しだ。

 それを防ぐためQPを払い、このギルドは親ギルド〈○○〉の下部組織ギルドですよと学園側に認めてもらい、引き抜きにはまず親ギルドに話を持って行くのがルール、としている形だ。

 また、下部組織ギルドのメンバーが自ら脱退したい場合は、親ギルドに脱退料を支払わなければならない。こちらは学園がその額を決めているらしい。


 なるほど、よく出来たシステムだ。

 ゲーム〈ダン活〉時代はそこら辺の説明はなかったからな。QPはただ自分がギルドを複数持つために支払っているものと思っていた。


 さて、話が長くなったが下部組織ギルドを作るか否かの話である。

 QPは潤沢だ。そっちは問題無い。問題なのは、


「今在籍しているギルドを脱退してまで〈エデン〉の下部組織ギルドに参加してくれるか、なんだよなぁ」


 下部組織ギルドは補欠だ。

 レギュラーになれるかも分からない。言い方は悪いが人材をキープしておく場所だ。

 さらにギルドを作るには最低5人必要。

 とても集まるとは思えない。


「う~ん。参加してくれると思うけどなぁ」


 ミサトが首とウサ耳を傾げて言う。


「その心は?」


 そう聞くと、なぜか呆れた目で見られた。

 なぜだろうか?


「騙されたと思ってやってみん? ミサトちゃんからのアドバイスだよ」


「ミサトちゃん……分かった」


 勧誘のプロフェッショナルミサトちゃんのアドバイスだ。

 ミサトちゃんからのアドバイスと言われれば断ることは考えられない(?)。


 俺は、下部組織ギルドを作ってみることに決めたのだった。




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