第329話 ミサトの説得。男子の嫉妬は止まらない。
メルトと非常に熱く【賢者】の〈最強育成論〉について議論を交わした翌日。
今日は火曜日だ。
昨日は凄かった。〈育成論〉の議論なんて久しぶりすぎて目頭が熱くなったもんな。議論も白熱して、俺も新たな発見があり【賢者】の〈最強育成論〉に新たな育成ルートが加わったほどだ。メルトとの話は非常に有意義だった。
メルトはこの後、〈金色ビースト〉の脱退の手続きが済み次第〈エデン〉に加入することになった。
加入が済んだらまた議論を交わしたいな。
同じ貴族舎に住んでいるらしいので部屋に呼ぶのもありだな。
うむ、ワクワクしてきたぜ。
さて、今日も学園だ。
俺がいつも通りハンナと朝ご飯を共にし、いつも通り登校していると、周囲の視線をビシビシ感じた。
昨日の嫉妬に狂いし男子たちの話を聞いて意識してみれば、確かに羨望と嫉妬の視線や、
俺とハンナはわりと注目を集めていたようだ。
「どうしたのゼフィルス君?」
「いいや。ハンナは俺と一緒に登校して大丈夫かと思ってな」
「? どういうこと?」
どうやらハンナの所には何も影響がないらしい。
俺の所だけか!
まあ、そうか。俺も同じ立場ならハンナより俺の方に行くだろう。
いや普通行かないけどさ。
「ゼフィルス君、また放課後にね」
「ああ。ハンナ、くれぐれも気をつけろよ。できるだけ人通りの多いところを歩いたり、1人になる事はないようにな」
「うん? うん。わかったよ? でもなんで突然?」
「ハンナが心配だからだ」
「へ? んんもう、ゼフィルス君は心配性なんだからぁ。えへへ」
なぜか頬を赤くしてチラチラこっちを見ながら生産専攻の校舎へ向かっていくハンナを見送る。
本当に大丈夫だろうか。どう見ても気が抜けているとしか思えない。心配だ。
誰か護衛でも雇うか? 幸いQPはたくさんある。
男子達がやたらハンナ様ハンナ様言っていたのが気になるところだ。
とりあえずサターンたちに話をつけてみるか。
一応あの嫉妬に狂いし男子達のリーダーということになっているんだし、俺は良いがハンナに手を出すつもりなら、ということをキツく言い含めておこう。
そんな事を考えながら〈戦闘課〉の校庭に着くと、なんだか見覚えのある光景があった。
「待っていたぞゼフィルス!」
サターンが代表して発言する。
そしてその後ろには昨日見た男子達が横一列に並んでいた。
マジで昨日見た光景、そのままだった。
おかしいな。
こいつら昨日衛兵にしょっ引かれたはずなのに、何故同じ事を繰り返しているの?
俺が不思議そうに彼らを見つめているとポリス君まで前に出てきて言った。
「俺たちは反省しました。敵にしてはいけない方を敵に回してしまった。王女様を悲しませてはいけないのです! でもそれとは別に勇者が憎い」
「どういうこと?」
思わず口に出た。
しかし、ポリス君の話は止まらない。
「勇者を脱退させる案は、残念だが、本当に残念だが諦めざるを得ない。だが! 俺たちはもう嫉妬を勇者にぶつけなければ収まらないのだ!」
「そうだ! 俺らは止まらない。もう止まれない!」
「勇者が憎くて羨ましい! 勇者が憎くて羨ましい!」
「爆発してしまえ! いやむしろ俺が爆発させてやる!」
「モテる男なんて世界から滅びればいいんだ!」
昨日よりも小さな声で後ろの上級生たちが叫ぶ。小さな声で叫ぶとか、器用なことをするな。
どうやら彼らは衛兵にしょっ引かれた程度では性根が正されなかったらしい。
いや、一部ただされているのか?
「俺たちはさらに同士を受け入れた。ギルド〈エデン〉に勝つために!」
ん? ちょっと聞捨てならないことを言わなかったかこのポリス君。
俺はジトッとした目を送るのをやめ、〈天下一大星〉を数えてみた。
1,2,3,……結果、25人。昨日より3人増えていた。
「なんで増えてんだよ!」
そう叫んだ俺は悪くない。こいつら本当にどうなってんだ?
そんなに嫉妬に狂っちゃった人いるの?
俺はもう何がどうなっているのかよく分からなくなってきた。
とそこへ救いの声が鳴り響く。元気ハツラツとした明るい声、その正体はミサトだった。
「おっはよーゼフィルス君。とポリス君達。何をやってるのかな?」
いや訂正しよう。全然救いは無かった。少なくとも彼らには無かった。
だってミサトが近寄って来たと思ったら
その光景は、まるで男子達から俺を守るようにも見えた。いや、むしろそうとしか見えなかった。
「な、な、な、何をしてらっしゅるのかミシャトさん……?」
そのあまりの光景にポリス君の言葉が崩れまくっていた。まったく力が感じられない。
見れば他の男子達も目が点になっていた。
「みんな。私昨日〈エデン〉に加入したの。一時的な臨時加入だけどね」
「………………」
ミサトの言葉が校庭にやけに鮮明に響いた。
そして彼らは無言、脳が認識を拒否しているようだ。もしくは処理落ちか?
しかし、目の前の事実とミサトの言葉、その両方の事実を彼らは次第に認識し始め、
受け入れ拒否を次第にすり抜け脳に到達。瞬間――、
―――顔面が般若に進化した。
「勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おのれ勇者ぁぁぁぁぁ! おのれ勇者ぁぁぁぁぁ!!」
「ミサトさんを! 俺たちのアイドルをよくもぉぉぉ!!」
「俺たちの姫をぉぉぉ! 絶対に許さねぇぇ!!」
「〈決闘戦〉だ! 勇者を千切れ! 千切って投げろ!」
「ミサトさんを返せぇぇぇ! ミサトさんがいないと俺はダメなんだぁぁ!!」
阿鼻叫喚だった。
うん。絶対こうなると思ったよ。
〈天下一大星〉が狂気に染まっていた。
ミサトはこれからどうするつもりなんだろうか?
「みんなが悪いんだよ! もう、みんな格好悪いよ!」
ピタリ。
ミサトが再び口を開いた瞬間、先ほどの怒声が一瞬で止んだ。え、止んだ? なんで?
まさか冷静を取り戻し―――てないな、顔はまだ般若のままだ。般若顔の集団、凄く怖いんだけど。
「せっかく私が居なくなっても大丈夫なように駆け回ったのに! 人様に迷惑掛けるなんてダメでしょ!」
般若たちは無言でミサトの話を聞いている。
「私が〈エデン〉に加わったのはね、みんなを止めたかったからなんだよ。確かにその、女子は〈天下一大星〉に入りたがらないから男子ばっかりになっちゃったけどね、でもだからって人に迷惑を掛けるのはダメでしょ? このままだと私、力尽くでみんなを止めなくちゃいけないんだよ?」
どこからかすすり泣くような声が聞こえた。
おそらく「男子ばっかり」というところに反応したと思われる。
「みんな……。分かってくれたんだね」
しかしミサトは話が通じたと思ってしまったようだ。
違うんだミサト。そんな説得では男子の嫉妬を抑えることはできないんだ。
その証拠にサターンと思われる般若がこちらを向いた。
「ゼフィルス。我らは絶対に貴様に勝つ!」
「ああ。そうだな……。じゃあギルドバトルしよっか」
「あれ?」
この場でまったく意味が分かっていないのはミサトだけだった。
やはり〈天下一大星〉と〈エデン〉のギルドバトルは避けられないらしい。
仕方ない。へし折ろう。
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