第321話 校庭での一幕。こいつら、狂ってやがる。




 〈15人戦〉。

 つまり15人ずつギルドがメンバーを出し合ってギルドバトルするというルールだ。


 15人、それはEランクギルドの上限人数と同じであり、本来なら〈15人戦〉というのはDランク以上のギルドで行われるのが常道だ。

 これはEランクギルドは上限人数が15人なので総力戦になるためだ。

 戦闘課同士のギルドバトルならば、まず戦闘ができるメンバーの人数の多い方が勝つと決まっている。

 生産職に普通攻撃力なんて無いからな。うん、普通は無いんだよ。


 城も落とせず、防衛も出来ず、対人戦もできないとなれば、ただの足手まといにしかならないのだ。普通の生産職は。

 つまり人数が生産職の数だけ欠けていると言っていい。ギルドに生産職が3人在籍していたならば、実質12人でギルドバトルをすることになる。

 故に、〈総力戦〉は戦闘職が多いギルドが勝つ。そう決まっている。


 俺はチラリとサターンの後ろに並ぶ人たちを見る。

 全員制服姿なのでよく分からないが、ここにいるということは戦闘課所属の学生達なのだろうか。

 一年生の校舎のはずなのに二年生や三年生の姿も見えるぞ? 全員男子のようだ。


 はて?

 先ほどのサターンの言葉を反芻はんすうしてみる。確か結束したとか言っただろうか?

 なぜこの男子たちはサターンに協力しているのだろう?

 不思議だ、実に不思議である。ギルドバトルをする前にまずそっちが気になって仕方がない。


「そこの男子達はなんでサターンたちに協力しているんだ?」


 ということで聞いてみた。だって気になってこの先絶対集中できないと思うから。

 なんで上級生がサターン側に付いてるの?


「おーいゼフィルス! 我を、我らを無視するな! ギルドバトルを申し込むと言っているのだ!」


「ふふ、トマは腕の筋肉中心ですか。よく育ってきてますね」


「そうだろう? これで攻撃力も増すというものよ。今日はまだ戦斧を振り回してないからな、昨日からどれだけ育ったのか、試すのが楽しみなんだ」


「俺様の腹筋もだいぶ割れてきたと思わないか? ガッチガチに割れれば防御力も城塞並になるぜ」


 俺に無視されたサターンが吠えるが、我らと言っているわりには他の3人は筋肉談義に花を咲かせているようだ。空回っている感が半端ない。

 あのサターン以外の3人、いつの間にかプライドが筋肉に置き換わってしまったようだ。

 …………逆に良い傾向な気がするのは気のせいだろうか?


 とりあえずサターンは話の邪魔なので放っておく。


「良いだろう。我らの総意を伝える」


 そう言って端に居た男子の1人が前へ出てきた。彼が代表かな?

 あれ? でもこの人は確か。


「【ホーリー】の人か?」


「……覚えていたのか。そうだミサトさんの紹介で〈天下一大星〉に席を置いた。〈戦闘課1年7組〉、名をポリスという」


 一度しか会ったことはなかったが、【ホーリー】、つまり回復職だったためよく覚えている。

 うちにも欲しいと思ってしまった人材だ。


 それともう1人、確か【密偵】の人が居たはずだが、彼は残念ながら顔をよく覚えていない。フード被ってたし、無口だったからな。あ、でもフード被っている人が居るな。あれが【密偵】の人か? 出てくる気は無さそうなので【ホーリー】のポリス君が代表ということでいいみたいだ。


 十数日前、この2人が加入したことにより〈天下一大星〉はミサトが抜けても存続できるようになった。ハイめでたしめでたし、となったわけなのだが。

 え? ということはもしかして、このメンバー全員〈天下一大星〉のメンバーなのか?

 サターンたちを入れて20人近くいるぞ?


「彼らが気になるか。彼らはこころざしを共にする勇士だ。俺たちは同じ思いで集まったのだ。〈天下一大星〉はダンジョン週間中にEランクに昇格し、さらに下部組織ギルドを結成。最終的に22人の同志が集まってくれた」


「集まったのは分かった。それでなんで〈天下一大星〉に結束したんだ?」


 言ってはなんだが、サターン達にそんな人望があるとは、とても思えないのだが……。

 するとポリス君は語り始めた。何故か悔しそうな顔をして。


サターンらは正直、強い。おそらく〈エデン〉、〈マッチョーズ〉、そして〈天下一大星〉こそが、1年生ギルドの三強だと、思う」


 なんとか言い切ったポリス君。


 反対にサターンは口には出さないが鼻が伸びまくっているのを幻視するほど自慢そうにしていた。何だあれ、鼻がどんどん伸びていくぞ。


「ふ、それほどでもある」


 ついにサターンが口に出し始めた!

 ポリス君が言いたくなさそうにするわけである。


「ということはつまり、強いから彼らのギルドに集まった、いや結束した、ということか?」


「そう言うことに、なるな」


 ポリス君が頷く。サターンの鼻が伸びる。

 おおうサターンの鼻が……、へし折ってやりたくなるな。


 サターンを見ていると本当に折ってしまいそうなのでポリス君の話に集中する。


「改めて俺からも言おう! 下部組織ギルドも合わせて22人。〈エデン〉に〈決闘戦〉を申し込む! 逃げることは許さないぞ!」


「その心は?」


 ギルドバトルを受けるか否かは置いといてとりあえず理由が気になった。

 さっき総意を述べるとか言っていたからな。

 話の流れからすると、1年生のトップギルドになりたいとかその辺りだろうか?

 いや、またミサトの事かもしれない。


 他は、ちょっと思い浮かばないな。サターンたちのようにプライドが高すぎて下に見られるのが耐えられないということでもなさそうだし。というかサターンのような人が22人もいたら堪らない。違うよな? もしそうだったら〈マッチョーズ〉に応援を頼もう。


 しかし、そんな俺の心境とは、まったく予想外な事が彼の口から放たれる。


「俺たちは、勇者が羨ましい!」


「…………どういうこと?」


 おかしいな、予想の範囲外すぎてよく理解できなかったぞ?


「羨ましいと言ったのだ! なんだ〈エデン〉は、ほとんどハーレムギルドではないか! しかもその中でギルドマスターが勇者だと? 俺は見た、何度も見た! 勇者が女子4人を引き連れてダンジョンに潜るのを!」


 ポリス君が吠えた!


 続いて我慢できないというように他の男子たちからも声が上がる。


「俺は見たんだ! 勇者がハンナ様と一緒に部屋から出てきたんだ! 俺は自分の目を初めて疑った!」


「俺もだ! ハンナ様と2人、仲睦まじい姿で登校しているのを見た! 血を吐きそうだった!」


「毎朝だ! 毎朝ハンナ様が勇者の部屋に行くのを見るんだ。俺は早朝ランニングの度に目撃した! 最初は幻覚を見たのかと疑ったくらいだ!」


「ま、毎朝ハンナ様が迎えに行く生活に、ハーレムギルドのギルドマスターだと……、―――俺はもう我慢できない!」


「そうだ! 勇者が羨ま憎い!!」


「「「「勇者が憎い! 勇者が憎い!」」」」


「「「羨ましい! 男の敵め!」」」


「「俺と立場を交換しろ!」」


 叫ぶ叫ぶ。さっきまで黙っていたのが嘘のように血走った目をした上級生たちが校庭でギャンギャン吠えていた。こんな往来でそんな事を叫ぶとか、正気か?


 …………なるほど。


 理由は、分かった。なるほど。分かった。

 要するにあれだ。


 ――こいつら、嫉妬に狂ってる。




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