第320話 学園再開の前に波乱の予感!
「今日からまた学園か。嬉しいような、残念なような」
「ふふ、ゼフィルス君、ダンジョン週間中張り切っていたもんね」
ダンジョン週間が明け、今日は月曜日だ。
いつもと同じくハンナが手料理を持って部屋に来たので一緒に朝食を取り、そのまま一緒に登校する。
正直ハンナに負担になっていないか心配なのだが、
「いいんだよ。私は好きでゼフィルス君と一緒に居たいんだもん」
そんな事を言われてしまえば、よろしくお願いしますと頭が下がるわけで。
もうがっちりハンナに胃袋を押さえられてるなぁ。朝食、美味しいです。いつでもウェルカムです。
通学路に出ると、また多くの視線がこちらを向くのを感じた。
しかし、この世界に来てからは見られるのも日常の一部と化しているので今更気にならない。慣れって怖い。
ただ、いつもは女子の視線の方が圧倒的に多いのに、最近はやたらと男子の視線を集めているのが少し気になった。とはいえ少しなので特に気にならない。
「今日から中級ダンジョンはしばらくお預けだと思うとな。ちょっとだけ残念に思うんだ。いや、学園の授業も面白いとは思うんだけどな」
「ゼフィルス君がダンジョン大好きなのは知っているよ。少し残念になる気持ちも分かるなぁ。私も名残惜しいもん。大変だったけど」
「それだけ濃いダンジョン週間だったというわけだな。ハンナは楽しかったか?」
「もちろんだよ。特にエクストラダンジョン、凄かったよね~。あんなに高級食材がたくさんあって、帰ってからお値段調べてみてびっくりしちゃったよ。もっとたくさん料理の練習しなくっちゃ。それにね―――」
これ以上料理の腕を磨くつもりなのか? すでに胃袋を捕まれている俺は今後も逃げられないのではなかろうか…。逃げる気は今のところないけれど。
しかし、ハンナはこのダンジョン週間、楽しんでもらえたようでよかった。
自分がいかにダンジョンを楽しめたのかを語るハンナは耀いていた。とても楽しかったのだと、本気で感じる。
俺もダンジョン週間を振り返った。楽しかったなぁ。
やっぱり終わってしまったのは寂しい。次はまた1ヶ月、いや3週間後だな。
長いような、短いような。
先週は1年生にとって初となるダンジョン週間だった。
スタダを決め、他のライバル達との差を広げる大チャンスということもあってとてもダンジョンが活気づいていた。
まあ、ここでおサボりしたら落ちこぼれに転落コースだからな。それが分かっている学生はしっかりダンジョンで
たまにクラスの子とも会ったがみんな頑張っていたな。……あれ? 何か忘れているような。……なんだっけ?
まあ、いいか。
俺たちもダンジョン週間中はギルド全体のLVアップに努めた。
しかし、それに伴い問題点や改善点が結構出てきた。特に装備。
〈姫職組〉はまだ初期装備でもやっていけるが、カルアやハンナ、シズ、パメラなどのメンバーはやはり装備が足りていない。
ダンジョン週間中にマリー先輩のところに依頼して〈雷光の
素材はまだあるので、ミールをギルドに入れるのなら素材を使って良いとしたが、今度は装備を作るためのミールが足りないらしい。
無い無い尽くしである。次はミール稼ぎに行くか?
「QPはあるから、次はエクストラダンジョン〈鉱石と貴金ダンジョン〉に…、いやあそこの下層に行くにはまだLVが足りないんだよなぁ。でも上層なら…、うーむ」
「ゼフィルス君、考え事?」
「ああ、悪い。せっかくQPがたんまり手に入ったことだしその使い道を考えてた」
上目遣いで見てくる幼馴染みに慌てて答える。
だが、ミールを稼ぐ手段を考えていたとそのまま言うのは、ちょっと品に欠けるので少し方向性を変えて伝える。
先日、予定通り〈最高級からくり馬車〉の納品が終わったのだ。
学園長クエスト達成である。
報酬は78万QPだ。もうがっぽがっぽである。
〈エデン〉の残りクエストポイントは129万QP……。
ミールに換算すると12億9千万ミールだ。やっべぇな!
もうちょっとメンバーに還元してあげたいと……。
さすがに〈食材と畜産ダンジョン〉だけだと足りないよな。
「エクストラダンジョンの1つに〈鉱石と貴金ダンジョン〉というのがあってな。下層は格上だからまだ入れないが、上層くらいなら俺たちでも問題無い。そこで〈発掘〉できた物は加工して良し、売って良しな資源ばかり、入るためのクエストポイントは5万QPと高額だが、それに見合うリターンがある。今度またギルドメンバー全員で行こうかと思うんだが」
要はギルド全体でミールを稼ぎに行きたいと
「それいいね! また皆でエクストラダンジョン行くの楽しみだなぁ」
ハンナは一見、純粋にまたギルドメンバー全員でエクストラダンジョンに遠征するのが楽しみな様子に見える。しかし、その目がミールのマークになるのを、俺は見逃さない。
よし、喜んでるな。
後でシエラにも相談してみよう。
そんな事を考えていると、いつの間にかいつもの分かれ道に着いた。
ハンナとは校舎が違うのでここでお別れだ。
「またねゼフィルス君~」
「ああ。ハンナも気をつけてな」
なんだか幼馴染というより家族みたいなやりとりだな、と頭の片隅でそう思いつつハンナと分かれて戦闘課へと足を進めた。
しかし、俺の足は戦闘課の校庭に入ったところで止まることになった。
複数の、それも20人近い男子たちに行く手を阻まれたことによって。
「時は来た」
その中で1人、前に出てくる男子。
とても覚えのある顔だ。というかサターンだった。
「えっと? これはなんのまねだ?」
サターンに問いつつ俺は20人近い男子たちを見渡した。
なんだか、無駄に迫力のある連中だ。
全員が血走った目をしている。あと、なんだか筋肉が……。
そう思っていると、くわっと目を見開いたサターンが吠えた。
「とぼけるなゼフィルス! 我らをあんな脳まで筋肉に汚染された連中に押しつけ、さらにそのことを忘れただろう! 見ろ、この後ろの3人を!」
サターンが横に退くと、後ろには見覚えのある3人が。
「ふふ、やあゼフィルス。今日はどこの筋肉を痛めつけるんだい?」
「今日は上腕二頭筋がオススメだ。筋肉が膨らんで行くのを実感できるぜ。おっと、今日
「俺様の筋肉も忘れてもらっては困るな。最近、日に日に腹筋が綺麗に割れていくんだ。見るか?」
「いや見ないけど……」
上からジーロン、トマと続き、何故か腹筋を見るかと誘うヘルク。
断った俺は悪くない。
俺は困惑を隠せずサターンを見る。サターンはワナワナと震えながら言った。
「こいつらは、変わっちまった。先週までまともだったのに!」
「まとも……」
そこで思い出した。そういえば先週、ダンジョン週間中は面倒見られないからと、サターンたちを〈マッチョーズ〉に預けていたんだった。
さっきからなんか忘れているような気がしていた正体はこれだったのか。ちょっとスッキリした。
あれ? じゃあこれは俺が原因なのか? いや、きっと気のせいだろう。まだわからない。
そんなことを考えているとサターンは再び、ワナワナと震え出す。
「それだけでは無い! き、聞いたぞゼフィルス貴様! み、ミサトを。我らのミサトを〈天下一大星〉から引き抜いたな! 三日前だ! ミサトが〈天下一大星〉を脱退したんだぞ!」
そういえばミサトは5月末で〈天下一大星〉を脱退すると言っていたが、無事脱退できたようだ。
しかし、それと俺は無関係である。〈エデン〉に誘いはしたけど引き抜いてはいない。あとでミサトをスカウトしに行かないと!
「ゆ、許せん! それをバネに我らは結束した! 打倒勇者のために! ここに集う者たちは何かしらの目的で打倒勇者を誓った者たちだ! 今こそ〈エデン〉にギルドバトル〈決闘戦〉を申し込む! 地形は〈六芒星〉フィールド、参加人数は、〈15人戦〉だ!」
前より若干迫力が増したサターンが、そう高らかに宣言した。
それは、〈エデン〉にとって〈総力戦〉ギルドバトルの申し込みだった。
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