第292話 当たりがすごい。説明しよう〈金箱〉アイテム!




 今回の〈パーフェクトビューティフォー現象〉はマジですさまじい当たり率だった。


 これが日本にいた頃なら間違いなく攻略サイトの掲示板にアップしているレベル。


 そして嫉妬と羨望のビンタをたくさん貰うのだ。

 ビンタ50回は堅いな。

 50回分のビンタレスがダーっと並ぶのだ、さぞ壮観だっただろう。


 俺がそれを想像してニヤけていると、我慢の限界になったラナが前のめりになって言う。


「ちょっとゼフィルス! 何ニヤけてるのよしっかりしなさい! さっさと説明してもらうわよ、これは何かしら?」


 そう言って突き出されたのは、ラナが開けた〈金箱〉に入っていた銀の鍵だ。

 もう察しがついているかと思うが、これは例の隠し扉を開ける万能キー、


 ――その名も、〈隠し扉の万能鍵(銀)〉だ。


 通称:〈扉の銀鍵〉。


 前にラナがツモった〈隠し扉の万能鍵(鉄)〉の上位互換の鍵だな。


 この中級ダンジョンでは隠し扉が出てくるようになるが、その一部に、〈扉の鉄鍵〉では開けられない類の隠し扉が登場することがある。

 その時使うのがこの〈扉の銀鍵〉だ。

 とはいえ、使うのは中級上位ちゅうじょう以降の話だ。

 中級中位ちゅうちゅうまでは全ての隠し扉を〈扉の鉄鍵〉で開けられる。


 これが上級ダンジョンになってくると、ほぼ全ての隠し扉は〈扉の銀鍵〉でしか開けられなくなるので注意だ。

 Dランクギルドになっても〈扉の銀鍵〉を持っていなければ、オークションで入手することがゲーム攻略サイトで推奨されていたほどだ。


 リアルだと壁はぶっ壊すことが出来るため手に入らなくても問題はなかったりするが、それは言わないお約束だ。


「そいつは隠し扉を開けるための万能鍵だ。主に上級ダンジョンで使うことになるぞ」


「上級で!?」


 俺が要約して説明するとラナが頓狂とんきょうな声をあげた。

 リカも後ろから興味深そうに鍵を覗き込む。


「――ゼフィルスは、これを使う機会があると思うか?」


 その質問は上級ダンジョンの攻略を目指すのかと暗に言っていた。


「もちろんだ。俺たち〈エデン〉はSランクを目指すギルド。間違いなくこれを使う機会はあるだろう。むしろ使う!」


 当然だと、当たり前だと頷く俺にリカは一瞬目を見開いた。


「ゼフィルスがそう言うと本当に出来てしまいそうだから怖いな」


「まったくね! でも楽しみだわ! お兄様だってほとんど攻略できていないと言っていた上級ダンジョンを私たちがクリアしちゃうのよ! 絶対気持ち良いわ!」


「だな! こいつは俺たちにさっさと上級ダンジョンに行けと告げているに違いないぞ」


「ふふ、そうだな」


 さっきと違いラナとリカは、銀色に輝く鍵を見つめる目が変わっていた。

 いいね。良い目してるよ君たち。きっと上級の隠し扉に出会わせてあげるから楽しみにしていてくれ。


「次はカルアとリカの宝箱に入っていたこのミニチュアね!」


「〈竜の箱庭〉だな」


 〈扉の銀鍵〉をラナが大切にしまい、続いてはいよいよ真打の出番だ。

 ちなみに俺のとエステルのは軽い説明で終了だ。特に俺の〈上級転職チケット〉は今更説明はいらんだろう。


「ミニと言うには、大きな模型ですね」


「5mくらいはあるな。よく宝箱に入っていたものだ」


 エステルとリカがその大きさに感心したように感想を漏らす。


 彼女たちが言ったように、この〈竜の箱庭〉はデカイ。

 今までゲットしてきたドロップの中でもダントツの大きさだろう。

 六角形の基盤の大きさは、軽く5mを超えている。


 本当に、何でこれが宝箱サイズに入っているのか不思議だな。


「ゼフィルス、これって何に使うの?」


「説明しよう。まずこいつの名称だが〈竜の箱庭〉という。【地図屋】や【マッピングマン】、【調査士】なんかの商売道具だが、効果は『自動マッピング』『立体化』『随時反映』などを持っている、端的に言うなら立体化するデカイ地図といったところだ」


 自動で紙にマッピングされるアイテムがあるのなら、自動でミニチュアが出来上がってもいいじゃない? というコンセプトの元、作製されたアイテムだと開発陣は語っていた。


 一瞬、へーっと、肩透かしを受けたような気の抜けた声がラナとカルアから漏れた。


「ふふふ、微妙な反応だな、だがこの〈竜の箱庭〉の真価は使ってみたらよく分かるぞ」


「大きすぎて使えないじゃない!」


 もっともなツッコミ!

 さすがラナだ。良い腕している。切れのあるツッコミだ。

 だが心配ご無用。


「大丈夫だ。これは自動マッピングだからな。たとえ〈空間収納鞄アイテムバッグ〉に入れていたとしても、取り出した瞬間自動で歩いた経路が立体化されて表示されるんだ」


 いちいち取り出す必要はあるが、立体的にマッピングされたミニチュアはかなり詳細な情報を教えてくれるぞ。

 そして当然ながら〈馬車〉に置く設置型アイテムとしても使える。


「ま、百聞は一見にしかず。起動してみよう」


「わ! 町並みが崩れていくわ!」


「森になっちゃった」


「これは、このダンジョンですか?」


「その通りだ」


 起動すると、それまであった白亜の町並みが一瞬で崩れて消え、続いて中央付近にだけ森が出来上がった。中心が長方形に開けている。

 あれが俺たちが今いる場所、最下層のボス部屋とその周囲だな。


「ここから移動すると、次々道と森が出来上がっていくぞ。カルア、試しに29層へ行ってすぐ戻ってきてくれないか?」


「ん。分かった」


 カルアは頷くと、『爆速』を使って超スピードで29層へ消えていった。そこまで急がなくても良いが、その効果は大きかったようだ。


「すごいわ! 森がどんどん生えていくわね!」


「思っていたよりすぐに出来上がるのですね」


「カルアには悪いが、これはすごいな」


 上からラナ、エステル、リカの順に感想を言う。

 カルアの足はすさまじく速いので、森がどんどん出来上がっていく。

 階層が移ると、一段上に地面が生まれ、その上にまた森が出来上がった。29層に到達したようだな。

 しかし、それ以上は生えず、言われたとおりカルアは29層に到着した時点で引き返しているのだろう。あ、ほら、ちょうど帰ってきた。


「ん。ただいま」


「カルア、見てみなさい! カルアが今走っていったところがミニチュアになっているわよ!」


「ん。……ん、ほんとだ」


「見てもらったように、こうしてパーティメンバーの誰かが移動したところが立体化してミニチュアが出来上がる仕組みだ。すんごいだろ?」


「確かにすごいが、これだけならレアボス〈金箱〉産のアイテムとしては弱い気がするな」


「ほう、リカ、鋭いな」


 確かに、これは所謂ただ3次元にしただけのマッピングだ。

 それはそれですごいが、ちょっと他のアイテムに見劣りすることも事実。


 しかし、リカの感想は正しい。〈竜の箱庭〉の真価はこれではない。

 俺が使用できるのは『自動マッピング』と『立体化』、『随時反映』まで。ここまではまだアイテムの力として誰でも使用が可能だ。

 だが、さっきも言ったとおり、これは【マッピングマン】などの専門の職業ジョブが使用した時こそ、その真価を発揮する。そしてそれは、この出来上がるだけの3次元の地図を、さらに何倍も昇華させてしまう。


「スキル『モンスターウォッチング』、『人間観察』、『観測の目』。これらを使用したとき、〈竜の箱庭〉は真の意味で箱庭になる」


 この〈竜の箱庭〉は建物だけではない。生き物やモンスターも反映させることが可能なのだ。


 ――〈竜の箱庭〉。今後のギルドバトルに必須な、超重要激レアアイテムである。


 そしてこれらのスキルは、【姫軍師】も使用可能だ。




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