第293話 いつもの周回、そして回復〈爆師〉ギルド!




 〈ビリビリクマリス〉の周回を開始した。

 〈パーフェクトビューティフォー現象〉のおかげで皆のテンションとやる気が高くって凄まじい。


 しかし、1つ懸念事項があった。


 俺が持っている〈笛〉は8つ、そのうち3つはまだラナたちに見せてはいなかった。

 〈エンペラーゴブリン〉から追加でドロップした分だな。学園からの貸与品はもう連絡済であるのだが、こちらはまだだった。

 とうとうお披露目する時が来てしまったか。

 また、「〈笛〉、使いなさいよ」と促される未来がチラチラ見えたが、仕方ない。


 俺はスッと懐から3本の〈笛〉を出す。


「実は、追加で3本ある」


「なんですって!? もうゼフィルスなんでそんなたくさん持っているのよ! 私にも1本寄越しなさい!」


「ダメ」


 ラナの言動が爆発したがなんとか〈笛〉を死守しきった。危なく取られるところだったぜ。

 まあラナもテンションが上限を飛び越えているからのじゃれあいだ。きっと取ったところで後で返してくれただろう。返してくれるよな?



 〈ビリビリクマリス〉の素材は、その後順調に集まっていった。


 〈笛〉は計32回分使用可能だったが、そのうちレアボスがツモれたのは22回だった。


 10回は普通のボス〈電撃に悩むリス〉。

 正直レアボスを倒せる俺たちにとってあまり脅威にならなかった。


 ちなみに〈金箱〉はあれから出ていない。

 全部〈銀箱〉ではあったが、そのうち〈ビューティフォー現象〉が一回あった。素晴らしい。


 途中お昼ご飯を挟み、ラナが顔を綻ばせながらハンナ特製お弁当を食べる姿に萌え、32回全ての〈笛〉を使い切った。


 そして最後の〈ビリビリクマリス〉がエフェクトに消えたところで俺は帰還を宣言する。


「予定通り進んでるな。よし、一度帰るぞ」


「了解よ! 今日は終わりね!」


 俺の宣言に全員が頷くのを確認して転移陣に乗り込んだ。


 これから俺は一仕事ある。


「じゃ、俺は〈私と一緒に爆師しよう〉ギルドに行ってくるから、しばらく待っていてくれ」


「なるべく早く帰ってきなさいよ?」


「わかってるさ」


 〈中下ダン〉でラナたちと別れて俺は〈セグ改〉を取り出すと、それに乗って〈私と一緒に爆師しよう〉ギルドまで走らせた。


 〈セグ改〉は一人乗り用のアイテムなので全員は乗せられないのが残念だ。エステルの馬車はさすがに大きすぎて学園で走らせるには怖い。

 そのため俺一人で向かうことになった。


 これから、俺たちは〈笛〉の回数を全回復させ明日に備える予定だ。


 現在の時刻は18時、さすがに今日はもう終わりだな。明日は期限なので入念に準備をしておこう。

 今後の計画を頭の中で再確認しているとすぐに〈私と一緒に爆師しよう〉ギルドに到着した。


「おやおやおやおや勇者君。君が予想した通りの時間だったね。いらっしゃいいらっしゃい」


 中に入ると商品棚を整理していたお姉さん風の先輩が気がつき話しかけてくる。


「こんにちはレンカ先輩。早速だけど〈笛〉の回復頼めるか?」


「もちろんさ! 君は数少ないお得意様だからね。ちょっぱやで仕上げるよ。事前に言っておいてくれたおかげで準備も出来ているしね」


 この方、2年生のレンカ先輩といい、毎回〈笛〉の回復を担当してくれている方だ。

 【爆師】の職業ジョブに就いていて、ここのギルド〈私と一緒に爆師しよう〉のサブマスターでもある。

 マリー先輩とは結構仲が良いみたいだ。

 商売をしているだけあって話し上手で、俺も数回会っただけで口調が砕けたものになった。今では軽口も言い合える仲である。

 なんとなくラナたちを連れてくるとトラブルになりそうと『直感』が囁くので、〈笛〉については俺かセレスタンでこうして依頼している。


「君は商品でも見ていてくれ、そして気に入ったら買ってくれ。うちのギルドはいつもすかんぴんだからさ」


「毎回数百万ミール支払っているのにすかんぴんなわけ無いでしょうが」


 俺は〈笛〉を預け、言われたとおり商品棚を見て少しの間待った。

 相変わらず爆弾系アイテムばっかり並んでいる。というかそのまま爆弾が商品棚にあるって凄いな。本物じゃないよな? まさか爆発するなんてことは…。


 チラリとレンカ先輩を見ると、魔法陣に〈笛〉を置き、いくつかの素材やアイテムを使って回数を回復させているところだった。その表情は真剣だ。なんとなく聞くのが躊躇われる。


 また、先輩が使っているアレがアイテムの回数を回復させる〈魔具回復セット〉である。

 〈魔具回復セット〉にアイテムを設置していくつかの素材を使い、【爆師】や【魔道具師】などのスキルを発動すればアイテムの回数が回復する仕組みだ。

 素材は回復させるアイテムによって異なり、〈笛〉の回復には結構高いボス素材が使われている。

 〈笛〉1回復に50万ミールも掛かるというお高いお値段の理由だな。


「『魔具回数回復』! ふう、これで全部終わったよ。超特急でやったんだから何かご褒美が欲しいね」


「また明日も依頼しに来るから、1日1600万ミールの売り上げだぜ? 大もうけ出来るだろ?」


「それとは別に何か欲しいところだね。聞けばマリーとはダンスを踊ったそうじゃないか?」


 ダンス? ああ、あのクルクル回ったあれか。いや、あれはテンションが振り切れている時しかできませんて。

 残念ながら〈パーフェクトビューティフォー現象〉の熱は冷めている。


「ま、今度機会があったらな。じゃ〈笛〉は貰っていくぜ。支払いは学園長で」


「つれないなぁ。ほいよ、また明日にね。あと、回復はあまり遅くならないように、お店は21時までしか開けていられないからさ」


「助かる。じゃ、また明日に」


「毎度あり~」


 無駄話中もしっかりと手を動かすレンカ先輩から〈笛〉を受け取り、回数が全回復しているのを確認してバッグに放り込んだ。


 さて、これで明日の準備は完了だな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る