第290話 〈ビリビリクマリス〉中盤戦、設置罠の嵌め技。




「グワアァァァァ!!」


 ダウンから復帰した〈ビリビリクマリス〉の目は怒りに燃えていた。

 タゲは、さすがにリカから移っていないようだな。さすがだぜ。


「グワン!!」


「! 『充電』スキルだ! すぐにめろ! 『ソニックソード』!」


 空に向かって吠える〈ビリビリクマリス〉の身体が発光し、辺り一面から光の玉のような物が吸い込まれていく。

 これが〈ビリビリクマリス〉の自己バフスキル『充電』だ。

 『充電』すると攻撃力と素早さが増し、攻撃に雷属性が乗る。

 身体が常に雷を帯びたようにビリビリしていて、こちらが攻撃する時も低確率でスリップダメージが入るようになるのだ。


 これだけでも強いのに〈ビリビリクマリス〉のさらに厄介なところは、この『充電』を重ね掛けしてくる点だ。合計4回まで『充電』が重ねがけ可能で、重ねるほど強くなる。

 だが、『充電』中は無防備になり、一定以上の攻撃を受けるとスキルがキャンセルされるというデメリットがある。


 ピンチは逆にチャンスでもある。充電中にキャンセルアタックを繰り返す事で完封勝利をすることも可能だ。〈ダン活〉攻略サイトでも、低レベル弱々装備縛りでの完封動画が結構流れていたっけ。たまにミスって攻撃されて負けた動画とかもあって面白かったなぁ。


 と、思い出に浸りたいがそうもいかない。

 『充電』で無防備になるのは数秒だ。この数秒で一定のダメージを出さないといけない。

 時間との勝負だ。


「『獅子の加護』!」


「『ロングスラスト』! 『レギオンスラスト』! 『レギオンチャージ』!」


「『鱗剝ぎ』! 『急所一刺し』! 『スルースラッシュ』! 『投刃』!」


「『横文字二線』! 『十字斬り』! 『刀撃』! 『ツバメ返し』!」


「『シャインライトニング』!」


 全員が余力を出し切っての総攻撃をお見舞いするが、先ほどのダウンの時に3段階目ツリーを使い尽くしてクールタイムなのが痛い。

 皆、攻撃が1段階、または2段階目ツリーのスキルばかりだった。

 ダメージが進行しない。


「グオオオ!!」


「く、ダメか」


 そしてついに『充電』発動を許してしまう。

 〈ビリビリクマリス〉がその名を体現したように身体中をビリビリと発光させ、覚醒する。


 今回はタイミングが悪かった。

 ダウンで総攻撃を掛け終わったタイミングだった。それに皆のLVもさほど高くないというのも起因している。

 何しろ俺のLVは56、ラナとエステルも同様だ。カルアはLV49、リカはLV48である。

 推奨LV59の〈ビリビリクマリス〉を相手にするには少々火力不足が否めない。


「仕方ない。全員、十分に警戒しろ! 俺は今から対策の準備をする! それまで持ちこたえてくれ!」


「わかったわ!」


「了解しました」


「りょ」


 ラナ、エステル、カルアの順に返事が返ってくる。

 リカは正面で静かに刀を構えていた。

 ここからはボスの圧力が増す。タンクが非常に重要になる場面だ。


「リカ、頼むぞ」


「承った」


 頼もしい返しだ。LVはこの中で最も低いが、今は一番頼りになる。


「ウォーン! オン! オン! ウォーン!」


「はあ! 『受け払い』! 『切り払い』! ――」


 ボスの素早い『スキル』の応酬にリカは即座に対応した。


「ラナ! 加護を!」


「『守護の加護』! 『耐魔の加護』! 『回復の祈り』!」


 ラナが即座にバフを掛け、リカを援護する。

 本当ならここで素早さの上がる『迅速の加護』も使いたいところなのだが、自身のスピードが上がるとパリィのタイミングがズレると言い、リカが遠慮した形だ。


「エステルとカルアもリカを援護してくれ!」


「はい! 『ロングスラスト』!」


「ん」


 エステルが勇ましく飛び込んでいき、カルアもクールタイムを待ちながら援護していく。


 俺はその間に準備だ。アイテムバッグの中からいくつかのアイテムを取り出す。


「もし充電が成功してしまったらのためにハンナに作って貰っていたが、早速使う事になるとは」


 俺が持ってきたのは〈ジュラパ〉で回収しておいた採取素材と、とある罠を使い、ルルたちが〈優しいオノ〉と一緒にゲットしてきたもう一つの〈金箱〉産アイテム〈トラップ作製ツール〉で作製したトラップアイテムだ。


 作製はハンナ。『錬金』はレシピさえあれば罠まで作成可能なのが素晴らしい。

 ちなみにこのアイテムはレアボス〈サボテンカウボーイ〉から出た〈銀箱〉産レシピで作製したものだ。


 ――その名も〈毒沼罠〉。


 これを設置すると一定期間、そこが継続スリップダメージを与える毒沼に変わってしまうトラップアイテムだ。

 ここにボスが乗ると、若干脚が沈み動きを阻害する効果もある。ただ、拘束するような強力な罠じゃ無い。

 しかし、ここのボスに限っては別の使い道がある。


「良し。準備出来たぞ! リカ、こっちに移動できるか!?」


「――くっ! 『二刀払い』!」


「ワァァァァン!」


「く、すまない、手一杯だ!」


 リカの秘技『二刀払い』を受けてなお、覚醒した〈ビリビリクマリス〉の猛攻は留まるところを知らない。


 罠に当てるには罠までボスを誘導してくる必要があったが、リカは今手一杯だった。

 しかし、そこに頼れるパートナーが現れる。


「ん。私が運ぶ」


「カルア!?」


「任せて。〈ユニークスキル〉『ナンバーワン・ソニックスター』!」


「わぷっ!?」


「ウォーン!?」


 カルアの【スターキャット】のユニークスキルは超スピード離脱スキルだ。


 一見地味なこのスキルだが、その速さは神速。

 どんなボスでも追いつけない超スピードでもってその場を緊急離脱出来る。

 もしタゲが自分に向いていたとしても、広範囲攻撃の圏内にいたとしても、余裕で範囲外まで逃げることが可能である。

 ボスにはタゲを向ける範囲があり、そこを離れるとタゲは切れてしまう仕様だった。つまり離脱してしまえば狙われることも無くなるのだ。


 さらにこのユニークスキルが有用なのは仲間を一人、キャリーすることが可能な点である。


 もし後衛にタゲが移ってしまった時などの保険として、これほど有用なものはそうは無い。


 それをカルアはリカに使った。

 一瞬のユニークスキル発動のエフェクトが光ったかと思うと、すでにカルアはリカを抱えて俺の隣に居た。ほとんど瞬間移動の域である。

 その証拠に、今まで真正面に居たリカが消えたため〈ビリビリクマリス〉が戸惑っていた。


「ん。大成功」


「う、これは相変わらず目が回るな…」


 カルアに抱えられたリカが少しふらっとしながらそう言った。

 どうやら以前にも食らったことがある様子だ。


「ウォーン!」


「気がついたか」


 元々ボスが居た位置と俺の居る場所はそんなに距離が離れているわけでは無い。

 だからタゲが切れることも無く、リカを見つけ〈ビリビリクマリス〉が吠える。

 そしてそのタイミングで現れるエフェクト。


「ん、赤いエフェクト…」


「このタイミングでユニークスキルか!」


「ゼフィルス、どうする回避行動を取るか!?」


「いや、このままで良い。防御スキルで迎え撃つぞ、カルアは少し離れててくれ」


「ん」


 〈ビリビリクマリス〉のユニークスキル『我破われは大雷おおかみなり』は突進系のスキル。

 俺とリカは罠を挟んで反対側に立つと防御スキルの準備をする。


「エステル、ラナ、追撃を頼むぞ!」


「! 了解!」


「任せてよ! 『守護の加護』! 『聖魔の加護』! 『耐魔の加護』!」


 ラナのバフが俺たちに掛かると同時に、ボスのユニークスキルが発動した。


「ウォォォォォンッ!!(我は狼也!!)」


「思い出せ、お前は狼なんかじゃ無い! 『ディフェンス』!」


「ウオオン!?」


 ゲーム〈ダン活〉時代の定番のツッコミを入れながら俺は防御スキルを発動した。

 何故か〈ビリビリクマリス〉が驚愕の顔をしながら突っ込んで来たのが印象的だった。


「ここで押さえ込む! 秘技『弾き返し』!」


 ドッカンと衝撃。

 俺とリカの2人の防御スキルと〈ビリビリクマリス〉のユニークスキルが衝突した。


 ―――結果、相打ち。


「ぐおっ!」


「くっ――!」


「グウォォォン!!?」


 俺とリカは大きくノックバックして硬直。HPを見ると、約200弱もダメージを受けていた。防御スキルで受けてこれかよ、なんちゅうダメージだ。


 しかしボスはその場でノックバック無しの硬直。

 防御勝ちこそ出来なかったものの、ダブル防御スキルによってユニークスキルを止めることに成功したようだ。


 そして足を止めた場所にあるのは、俺が仕掛けた〈毒沼罠〉。


 瞬間、ボスの背中の電撃が暴走する。


「グォォォォォォンッ!!」


 そう、感電だ。

 〈ダン活〉には弱点属性という項目が有り、それぞれの属性に弱点というものが設定されている。

 特に水系統は〈火属性〉と〈雷属性〉に非常に強力な特効を持ち、〈水罠〉に分類される罠でこの属性のボスをめると、いつもより罠の効果が高くなる仕様だった。

 それはリアルになっても同じ。


 現在〈ビリビリクマリス〉は『充電』スキルで自分に雷属性を纏った状態だ。この状態で〈水罠〉に嵌めると、こうして「身動き15秒~20秒不可」の弱点追加効果が加わる。

 本来の〈毒沼罠〉の効果であるスリップダメージも加わって大きなダメージを与えられるのだ。嵌めれば嵌めるだけ効果は少なくなっていってしまうが、一度感電させると『充電』の効果が解けるため、俺はこれを大量に持って来ていた。


「今、だ、エステル、カルア!」


「『姫騎士覚醒』! ――『ロングスラスト』! 『閃光一閃突き』! 『トリプルシュート』! 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』! 『レギオンチャージ』! 『ロングスラスト』―――」


「『鱗剝ぎ』! 『32スターストーム』! 『デルタストリーム』! 『スターブーストトルネード』! 『スターバースト・レインエッジ』! 『二刀山猫斬り』! 『フォースソニック』!」


「私だってやるわよ! 『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』! 『光の刃』! 『光の柱』!」


「ノックバック終了だ! 『勇気ブレイブハート』! 『ソニックソード』! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』! 『ライトニングスラッシュ』! 『ハヤブサストライク』!」


「出遅れた! 『飛鳥落とし』! 『焔斬り』! 『雷閃斬り』! 『凍砕斬』! 『光一閃』! 『闇払い』!」


「グオオウォォォォン!!」


 渾身の総攻撃が入り、〈ビリビリクマリス〉のHPがガックンガックン削れる。


 やっとの事で〈毒沼罠〉を破壊して脱出した〈ビリビリクマリス〉だったが、スリップダメージも加わり、HPが残り30%まで削れていた。


 その後は『充電』スキルが切れたためリカが完璧にタンクを受け持って戦闘が安定し、2回目以降の『充電』スキルは全てキャンセルに成功。

 HPがレッドゾーンに突入した時は多少危なかったが、なんとかリカが素早い動きに対応しきった。


「ん。これで最後。『スターバースト・レインエッジ』!」


「グオオウォ……ォ…!」


 最後はカルアの雨のように斬り付ける連続攻撃により、〈ビリビリクマリス〉のHPがゼロになった。

 強敵だったボスがエフェクトの海に沈み、


 その後には金色の宝箱が、――4つ、残されていたのだった。




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