第266話 混み合う〈初心者ダンジョン〉。LV10が遠い?




 学園長との話し合いが終了し、その足で初ダンに向かう俺とリーナ。

 だいぶ遅い時間になってしまった。


 リーナもやっと落ち着きを取り戻した。

 道を歩く中、周りに特に誰もいないと確認してからリーナが聞いてくる。


「ゼフィルスさん、先ほどの話ですが〈エデン〉には秘匿している情報があるということでしょうか?」


 ま、〈エデン〉の軍師としては気になるよな。

 それを知らずに先ほどの強気の交渉術である。恐ろしい軍師だ。


「そうだな。リーナにも教えておこうと思ってる。だが、学園長も言っていたが――」


「他言無用、ですわね」


「そうだ。【姫軍師】の発現条件も含めてな」


「〈エデン〉が高位職ばかりなのはそういうことですのね。ということは最近になって急に研究所が高位職の発現条件の一角を発見したと言うのも」


「鋭いな。お察しの通り、俺がリークした」


「まあ…」


 リーナが片手を口に当てる。

 しかし、その様子は驚いているようには見えない。

 結構爆弾情報のはずだが、もしかしたらリーナは最初からある程度予想が付いていたのかもしれないな。軍師だしな。

 いや、ただ単に驚き疲れただけかもしれないが。

 しかし、なぜか視線に熱っぽさが加わったような気がするのは気のせいだろうか?


「もう一度言うが基本的に〈エデン〉で聞いた話は他言無用で頼むな。広めて混乱が起きそうなものは特にな」


「分かっていますわ。学園長からも釘を刺されていましたものね」


 やっぱりあれは釘を刺していたのか。

 ま、逆に言えば学園を混乱に陥れなければ静観を決め込んでくれると言う意味でもある。

 うーん。俺が臨時講師をする件については何も言われていないが、そちらも情報には気をつけておかないといけないな。


 そんなことをリーナと話していると初ダンに到着。

 一緒に中に入り〈初心者ダンジョン〉の門を潜った。


 結局俺の計画や説得もあり、リーナはLV10になるという今日の目的を実行することになった。

 本人はさっきまで「こんなことしている暇は本当にあるのでしょうか」と言っていたが問題無いで押し通した。

 リーナって結構押しに弱いよな。


「リーナは武器を魔砲にしたんだな」


「はい。やはり近接戦闘は苦手でして、遠距離こちらの方がわたくしに合っていますの」


 リーナが持つのは両手で持てる小型の大砲だ。小型なのに大とはこれいかに。


 見たてきには銃をちょっと大きくした感じのデザインだ。とある天空の城で登場する海賊が使っていたアレに似ている。


 【姫軍師】は基本的に味方を指揮するバッファーだ。

 指揮にはデカイ音が使われる関係で武器は魔砲が採用されている。

 上に空砲を撃って味方を鼓舞したり指示したりするアレだ。


 ちなみに〈ダン活〉では魔砲は魔法ダメージを与える銃のカテゴリーでDEX依存である。

 シズが物理射撃ならリーナは魔法射撃だな。シズの物理射撃がDEX依存であるのに対し、リーナの魔法射撃はINTとDEXに依存する形だ。


 しかし、ちょっと気になるのはその魔砲のデザインがあまりよろしくない部分。

 他の〈姫職〉の皆と比べて簡素すぎる気がする。


「実は最初【大尉】に就いた時に大きな戦斧を送ってもらうところだったのですが、すぐに転職してしまったので、これは間に合わせですの」


 そういえばそうだった。

 リーナは実家がかなり遠方にあるらしいから、まだ装備が届いていないのだろう。


 今手に持っている魔砲も初級中位ダンジョンでドロップする物だった。


「ま、大丈夫さ。初級中位ショッチューまではそれで十分通用するし、とりあえず腕前を見せてもらってもいいか?」


「はい!」


 『直感』が囁く通りに目を向けると、モチッコを発見する。まずはアレを狙おう。


「まずはアレだな」


「あの、いつも思うのですが、あれは本当にモンスターなのでしょうか? 撃ってはいけない気がいたしますの」


「マスコットだからなぁ」


 何しろうちのギルドに特大の〈モチッコ〉ぬいぐるみがあるのだ。

 女の子にとってそのマスコットキャラクターを撃つのは大変抵抗があるだろう。

 結構可愛いいしな。


 リカとカルアは問答無用で斬りつけていたらしいが。

 ぬいぐるみと実物の扱いの差よ。


「大丈夫。撃ってもまた湧くから。遠慮なくやっちゃって」


「うぅ。ごめんなさいモチッコさん。これもLVを上げるためですの…。『マジックスフィア』!」


 リーナの魔砲から放たれた丸い魔法の弾が飛んでいきモチッコに着弾。

 一瞬でエフェクトに還ってその後にはもち米が残されていた。もち米ゲットだぜ!


「狙い違わずだな。見事なもんだ」


「ああ。なんでしょう。なぜかいけないことをやってしまった気がします」


 リーナがもち米を見て震えていた。


 この調子で2層のウサギも倒し、3層4層とコマを進めて、途中でリーナがLV9になったので少し経験値稼ぎ。ただゴブリンを後1体倒せばLV10になれるところまで稼いだところで最後の5層に到着する。


「人が多いですわね」


「賑わってるなぁ」


 5層に到着したときの俺たちの反応がこれだった。


 〈初心者ダンジョン〉の最下層は、結構な混雑を見せていた。数えるのも億劫だが、多分50人くらいいる。全部ボス部屋の順番待ちだ。

 まだ5月も半ばでLV10にも至っていない学生は多い。


「はい次の方どうぞー。後ろがつかえていますので、倒したらすぐに転移陣で帰還してくださいねー」


「あら? あなたたち、そんなところにいないでこの後ろに並んでね」


 見ればどこかの教員の方が案内役をしていた。

 まあ、これだけ混在してたら誘導ゆうどうの人員は必要だよなぁ。

 ここはいつからアトラクションになったのだろうか。さすがリアル。ゲームでは順番待ちなんてなかったので新鮮だ。


 案内役の方の指示通り最後尾に並ぶ。

 相手はただゴブリンだしすぐに順番も来るだろう。そう考えていたのだが、俺はどうやら甘かったらしい。


 ここに並んでいる学生たちは全員初心者。

 しかも、5月半ばになるまでLV10も突破できない人たちばかりである。

 要はゴブリン相手でも腰が引けまくって全然戦えないという学生が多かったのだ。


 HPがあるから突っ込んでいけば良いと感じてしまうが、彼らは今までHPが無い人生のほうが長かったのだ、どうも「モンスターに攻撃される」イコール「大怪我」という常識から脱却できないらしい。


 その光景を見てなるほどと思う。

 2年生になっても初ダンに残っているのはそういう人たちなんだな。また俺の知識欲が満たされてしまった。


 結局1時間以上も待たされてようやく俺たちの出番になり、鬱憤を晴らすかのようにめっちゃ撃ちして瞬殺して帰還したのだった。

 俺とリーナの戦闘時間、14秒。

 リーナは無事LV10に至ったのだった。


 これ、道中のモンスターを狩りまくってLV上げたほうが早かったんじゃないか?




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