第265話 納期5日の計画を練る。スケジュールは決まった。




 修正された依頼書、その項目で新たに増えた部分を確認したい。


 ・〈ビリビリクマリス〉の素材納品クエスト。

 報酬40万QP+〈笛〉1個+α(素材過剰分に応じて別途買取)。

 〈笛〉使用料、アイテムの使用料、学園持ち。

 クエスト期間中〈笛〉2つの貸与、〈笛〉回復の技術者協力付き。

 他、支援etc.


 ・〈最上級からくり馬車〉の納品クエスト。

 報酬78万QP。

 〈笛〉使用料、アイテム使用料、学園持ち。

 クエスト期間中〈笛〉2つの貸与、〈笛〉回復の技術者協力付き。

 〈カラクリ馬車〉の作製費、学園持ち。

 他、支援etc.



 おかしいな。

 俺は眉間のしわを揉みほぐし、もう一度見る。

 何も変わらない。


 すでに5度見しているが報酬額がすごくすごいんだ。


 もうね、本当にこんな依頼受けてもいいの? 俺騙されてない? ってレベルで。

 しかし、交渉する前の報酬も見ているし、交渉で釣り上がっていく光景も見ている。


 どうやらこの依頼に嘘は無いらしいし、俺は騙されていないらしい。


 俺はそっと依頼書を仕舞った。

 心の平穏のために。


 ふう。とりあえず、頭を切り替えようか。うん。


「アイテムが学園長持ちになった事ですし、〈きんタ~ル(中級)〉でも買いに行きましょうか?」


「やめてやってくれ」


 隣を歩くリーナがとんでもない事を言い出したのでかさず止める。

 さすがにこれ以上は取らないであげて?

 もう十分だ。これ以上貰うのは、ちょっと罪悪感が凄いんだ。

 むしろ貰いまくりまである。

 リーナに交渉を任せたのは本当によかったのか、悩むところだ。


「冗談ですわ。ゼフィルスさん、難しい顔をされていましたから、和ませようとしましたの」


 それはリーナが原因だと思うのは俺の気のせいなのだろうか? いや気のせいではない。

 しかし、リーナは最大限頑張ってくれたのだ。恨めしげに見るのは筋違いである。とりあえず礼を言おう。うん。


「まあ、なんだ。ありがとうなリーナ。おかげで報酬がっぽりだ」


「お役に立てて良かったですわ。わたくしへの好感度もがっぽりですの」


「ん? 何か言ったか?」


「ほほほ、なんでもありませんわ。それよりクエストのことを早めに始めませんと、残り5日しかありませんわ。すぐに〈エデン〉のメンバー全員に招集を掛けましょう」


「ああ。ちょっと待ってくれ。招集はしなくていい」


「へ?」


 早速と言わんばかりに〈学生手帳スマホ〉を取り出したリーナを止める。

 止められたリーナは俺の行動が分からなくてキョトンとしていた。


 まあ、普通なら今すぐにでも攻略を開始するところだよな。

 しかし、それには及ばない。というか〈笛〉が8個も使えるのだ。むしろ楽勝である。


「ですが、今から準備しても5日ではまず最下層に着くことすら難しいですわよ?」


「うちには〈サンダージャベリン号〉があるからなぁ。最短ルートを爆走すれば数時間で最下層まで行けるぞ。多分2時間くらいで着くんじゃないか?」


「へ?」


 うん。まだリーナにはその辺話してないからなぁ。とてもキョトンと、まったく意味が分からないという顔をしてらっしゃる。


 思い出すのは、初級上位ショッコーの1つであるキノコ満載な〈毒茸の岩洞ダンジョン〉。

 〈きんタ~ル(初級)〉を使ってしまうもレアボスが相手で倒せなかった哀れな2年生の代わりに、俺たちは馬車で最奥を目指し、そして1時間以内に帰還した。という実績がある。


 中級下位チュカの広さは初級上位ショッコーのたかが3倍。

 初級上位ショッコー60層くらいの広さしかない。


 正直2時間でも余裕だと思っている。キノコの時は〈ママレアボス〉を倒し、〈金箱〉にはしゃいでなお、出発から1時間で帰還したからな。

 ドヤァァ。


「ついでに言えば、こちらが持っている〈笛〉は8個、32回のレアボス呼び出しが可能で、おそらく20回は呼び出しに成功するだろう。〈エデン〉には裏技があるから1日で20体狩れる。ショートカット転移陣を稼働していれば2日目からは移動がもっと短縮されるな。そんなわけで余裕で規定数集まると思うぞ」


「………へ? それはいったいどういう……、それに〈笛〉8個? あの、聞き間違えじゃないですの? 〈笛〉というのはレアボスの〈金箱〉からしかドロップしない激レアアイテムで……」


「ああ、俺、元々5個持ってたんだ」


「…………」


 ついに無言になってしまったリーナ。

 うん、分かるよ。ちょっと〈笛〉ゲットしすぎだよな。うん。全部〈エンペラーゴブリン〉が悪い。いや良いボスだよあいつは。うん。


「ですが最短ルートと言っても道が…、一応地図は貰える事になりましたが」


「俺が全部覚えてるからいらないなぁ」


「…ですがボスを倒してしまったら一度帰還しなければいけないルールで」


「裏技があるんだよなぁ。まあ後で教えるよ。わざわざ帰還なんてしなくてもいい方法をさ」


「へ、えええ??」


「とりあえずリーナが思っているほど慌てる必要は無いって事だ。いやあ、でも助かったぜ。リーナが〈笛〉を3つも確保してくれたからスケジュールに余裕ができたよ」


 現在予定にある、『今日リーナと行く〈初心者ダンジョン〉』も、『木曜日にあるギルドバトル』も、『金曜日にある臨時講師』も全部こなしてとなると、ギリギリ達成出来るかなぁとは思っていたのだが、これで安心だ。

 むしろ土日だけで〈ビリビリクマリス〉素材は終わるのでは無かろうか?


 というか、中級下位チュカのレアボスが相手だ。周回するにしても万全の態勢で挑みたいぞ。だって確実に今までで一番強いから。今からすぐ突入しても下手すりゃ誰か戦闘不能になる可能性だってある。周回ができなくなる可能性だってなくはないのだ。

 こりゃ、空いている水曜日はその辺の訓練や対処法を練る時間に充てなくちゃならなそうだな。

 そして土日で、ちょっと本気をだそう。ちょっとしたテクニックでも披露しちゃおうかな。

 それで〈ビリビリクマリス〉の方は片が付くだろう。


 俺はそう計画する。




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